裳華房のtwitterをフォローする


【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房 編集子の“私の本棚”

禁無断転載 → 裳華房メールマガジン「Shokabo-News」

第13回 原始重力波の観測が正しいことを期待して

『インフレーション宇宙論』(佐藤勝彦 著,講談社ブルーバックス)

 編集者のAです。今年3月に(原始)重力波の痕跡となる電波が初めて観測されたというニュースに、「ついに見つかったか」と心躍った方も多かったのではないでしょうか。私も、まさにその一人です。
 原始重力波は、宇宙が誕生直後に急激に膨張したならば、“その証として存在するはず”と考えられていたものであるため、今回、この痕跡が見つかったことが正しいとなれば、およそ30年ほど前に佐藤勝彦先生が提唱した「指数関数的膨張モデル」(ここでは、あえてそのように記しておきます)が裏付けられることになるわけです。

 そんな興奮もあって、以前に読んだ本書を自宅の本棚から見つけ出し、改めて読み直しました。「はじめに」に書かれているのですが、本書は佐藤先生が初めてインフレーション理論を中心にして書いたもので、数式や難しい表現をほとんど用いていないため、一般の方でも親しめるようになっています。

 佐藤先生ご自身は、この理論を「指数関数的膨張モデル」と名付けていたこと、そして、先生とは独立に、およそ半年後にアラン・グース氏が同様の理論を提唱し、それを「インフレーション」と名付け、その後、この呼び名が一般的になったことが本書の冒頭に書かれています。私は、本書で初めてそうした経緯があったことを知りました。

 本書は、インフレーション宇宙論とはどういう理論なのかということを単に解説しているのではなく、この理論が誕生するまでの宇宙論の変遷、従来の宇宙論が抱えていた課題、インフレーション宇宙論が誕生した背景、インフレーション宇宙論の証拠となる観測結果や新たな謎、この理論が予測する未来の宇宙像について書かれていて、全体のストーリー展開もとても興味を抱かせるものとなっています。

 私自身が特に興味をもって読んだのは、次のような点でした。
・1929年(わずか85年前)にハッブルによって宇宙が膨張していることが発見されるまで、宇宙は永遠不変であると考えられていたこと(アインシュタインも、永遠不変の宇宙を確信していたこと)<BR> ・アインシュタインが導いた方程式は宇宙が膨張することを予言していたにも かかわらず、彼自身、それを受け入れようとしなかったこと
・インフレーション理論は、「力の統一理論から導かれる宇宙像」と「現実の観測によって正しいとされているビッグバン理論が描く宇宙像」との矛盾を解決するために考えたものであったこと
・佐藤先生が1981年に考え出した「元祖インフレーション理論」と、この理論が描き出した宇宙のはじまりのシナリオについて(なぜ“元祖”という表現をしているのかは、本書を読めば、その意図がわかると思います。)
・この理論が予言したことと観測結果との見事なまでの一致について

 また佐藤先生は、第4章の「インフレーションが予測する宇宙の未来」の冒頭において、この章の内容を読むに当たっての注意として、次のように記しています。

……確かめられなければ、それは科学ではなく単なるお話にすぎませんから、論文としての価値は認められないのです。ですからこれから説明することも、単なるお話であって、科学ではないということを踏まえて読み進めてください。

 本書が専門家向けの本ではなく一般の方々を対象とした本であるからこそ、誤解を与えないようにとの佐藤先生のご配慮もあって、この章の冒頭にはあえてこのように記したのだと感じました。

 そして、私が最も魅かれた一文(東京大学を定年で退官する際におっしゃったという一言)を以下に記します。

いま、宇宙論は初めて軌道に乗ったところであり、これからどんどんやるべきことがあるのだ

 なぜ佐藤先生がこの言葉をおっしゃったのか、その背景にある先生のお考えについては、ぜひ本書を読んでみてください。


【今回ご紹介した書籍】 
インフレーション宇宙論 −ビッグバンの前に何が起こったのか− 
  佐藤勝彦 著/新書判/190頁/定価(本体800円+税)/2010年9月発行/
  講談社(講談社ブルーバックス)/ISBN 978-4-06-257697-0
  http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=257697X


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2014
Shokabo-News No. 299(2014-5)に掲載 



※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください.
   Shokabo-Newsの登録・停止・アドレス変更



         

自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.