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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房 編集子の“私の本棚”

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第14回 右手にビール,左手に電卓!?
統計学的見地から野球を観るススメ

『メジャーリーグの数理科学 上・下』(アルバート&ベネット共著,丸善出版)

 日本のプロ野球ではセ・パ交流戦真っ只中.普段打席に立たないパシフィックリーグの投手が打撃を行ったり,普段は控えのセントラルリーグの打者が指名打者としてスタメンに名を連ねたりと,ファンにとっては見所があり楽しみですよね!

 おっと,失礼いたしました.前口上が長くなってしまいました.編集者のCです.今回は,統計学の啓蒙書をご紹介します.そのテーマは“セイバーメトリクス”に関する内容です.

 本書は,“シュプリンガー数学リーディングス”のシリーズの一環として刊行されたもので,本シリーズの本書以外の書籍を見ると,数学者の黒川重信先生,砂田利一先生等が執筆を担当されています.その中で異彩を放つこの2冊は,訳者が慶應大学野球部で主将を務めた方,監修者が元野球日本代表監督で,現在,社会人野球・西濃運輸の監督を務めている等,野球色の濃い本となっています.多分,日本で“セイバーメトリクス”が紹介された最初期のものでしょう.

 セイバーメトリクスとは,現在まで蓄積された膨大なデータ(いわゆるビッグデータの範疇に入ると思います)を基に,さまざまな指標で数値化して統計学的に解析することで,選手やチームの評価や戦略を考える分析です.これらは,ドラフトやトレードといったチーム編成等に活かされます.例えば,トレードをしたところ,部外者からは「相手チームから獲得した選手は,自チームから放出した選手よりも打率が低くて失敗した」と評価されていても,上記の解析によって四死球をも含んだ出塁率は上であったので,実は,こちら側が得をしていた,というような見方があります(多少,単純化しすぎてしまいましたが).

 さらに言えば,実際のさまざまな戦況に応じた最適な戦術も提供してくれます.無死1塁で走者を盗塁させるときに,得点数を最大にさせる場合(試合序盤〜中盤において,相手よりも多くの点を取って試合を有利に進めたいときに相当するでしょう)と,得点機会を最大にしたい場合(試合終盤で,なんとしても1点を取り同点やサヨナラゲームとしたいときに相当します)では,起用するべき選手の盗塁成功率の下限に違いが出てくるため,単に俊足だけではなく,盗塁成功率も考慮して起用しなくてはなりません.

 という具合に,野球を観戦する上で全く違った新たな視点を与えてくれます.ただ,残念なことに,本書に出てくるデータはすべてメジャーリーグのもので,そのまま数値をプロ野球に当てはめることはできませんが,大まかな考え方は同じです.ですので,データ好きの野球ファンの琴線に触れることは確実です.

 さて,日本で初めて組織的に“セイバーメトリクス”を導入した球団といえば,私が記憶する限りでは北海道日本ハムファイターズではないでしょうか? 確か2005年頃ですから,本拠地を札幌に改めて,監督にトレイ・ヒルマン氏,GMに高田繁氏の布陣の頃です.その結果,2006,2007,2009,2012年のリーグ制覇(2006年は日本一も達成)に繋がったとも考えられます.エースピッチャー,四番打者集めができる資金力豊富な球団は限られていますし,この経済情勢も鑑みると,限られた資金力で効率よく戦力を整えやすく,なおかつ確率の高い作戦が立てやすいデータ解析法は,日本球界でもじわじわと広まっていく感じがします.

 本書は,数学が全くの不得手の方には多少厳しい面は否めませんが,本文中に出てくるメジャーの名選手の簡単な経歴を側注に掲載,下巻冒頭の長嶋茂雄氏によるスペシャルコラム,下巻巻末には,日本が生んだ不世出の2大スターであるイチロー選手と松井秀喜選手をセイバーメトリクスから見比べてみる等,一度は読んでみたい内容が盛り込まれています.

 なお本書は,元々はシュプリンガー・ジャパン株式会社より出版されていましたが,発行元の和書撤退によって,現在は丸善出版から刊行されています.


【今回ご紹介した書籍】 

シュプリンガー数学リーディングス第2巻 メジャーリーグの数理科学 上 
  J.アルバート,J.ベネット 共著/加藤貴昭 訳/後藤寿彦 監修/
  248頁/定価(本体2700円+税)/2004年8月発行/丸善出版/
  ISBN978-4-621-06310-1
  http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621063101.html

シュプリンガー数学リーディングス第3巻 メジャーリーグの数理科学 下 
  J.アルバート,J.ベネット 共著/加藤貴昭 訳/後藤寿彦 監修/
  241頁/定価(本体2700円+税)/2004年9月発行/丸善出版/
  ISBN978-4-621-06216-6
  http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621062166.html


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2014
Shokabo-News No. 300(2014-6)に掲載 



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