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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房 編集子の“私の本棚”

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第35回 小学生がみせる本格的な研究とは……

森見登美彦 著『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫)

『ペンギン・ハイウェイ』  編集者のFです.
 子どもの頃,学校のまわりを探検したり,秘密基地をつくったりした経験はありますか? 今回はちょっと趣向を変えて,そんな子どもたちの世界を舞台にした小説をご紹介したいと思います.

 主人公のアオヤマ君は小学校の四年生.
 とてもかしこくて素直な少年ですが,どことなく気取っていてナマイキ(笑).なにしろ彼は,自称“たくさんの研究を抱える多忙な小学生”なのです.
 そんなアオヤマ君が住む街に,突然,たくさんのペンギン(アデリー・ペンギン)が出現します.南極に生息しているはずのペンギンたちはいったいどこから来たのか.当然のことながら,住宅地には生息していません.

ペンギンたちが海から陸に上がるときに決まってたどるルートを「ペンギン・ハイウェイ」と呼ぶのだと本に書いてあった。その言葉がすてきだと思ったので、ぼくはペンギンの出現について研究することを、「ペンギン・ハイウェイ研究」と名付けた。(本書p.24)

 ここからアオヤマ君の「ペンギン・ハイウェイ研究」は始まり,クラスの友人も仲間に加わって物語は展開していきます.

 研究対象こそ「ペンギン出現の謎」というフィクションなのですが,彼らの研究手法はとても科学的です.ペンギンたちの様子を観察してノートに記録する.いろいろな実験を試し,その結果から考察する.仲間と議論しながら仮説を立てていく…….これぞまさに研究のお手本!といった感じで,読了当時,大学院生だった私は彼らに脱帽しました.
 この,フィクションと科学的方法とのギャップがとても面白く,現実世界に非現実を絶妙に織り交ぜる,森見氏らしい作風がよく表れている部分でもあります.

 また,冒頭で紹介したような子どもならではの行動や視点が随所にちりばめられているのも本書の魅力の一つ.共感できるものが多々あり,じんわりと懐かしさを感じました.作者自身,「自分が幼かった頃に考えていた根源的な疑問や、欲望や夢を一つ残らず詰め込みました。」[*1]と語っており,きっと読者のみなさまの琴線に触れるものもたくさんあると思います.

*1 http://hatenanews.com/articles/201005/1203 からの引用

 さらに,アオヤマ君を「ナマイキ」とからかいながらも可愛がってくれる“お姉さん”をはじめ,彼らの成長を見守る大人たちの温かさもステキです.アオヤマ君とお姉さんの会話にクスクス笑いつつ,『ペンギン・ハイウェイ』の不思議な世界を堪能していただきたく思います.


【今回ご紹介した書籍】
『ペンギン・ハイウェイ』
  森見登美彦 著/文庫判/388頁/定価691円(税込み)/2012年11月刊行
  KADOKAWA(角川文庫)/ISBN 978-4-04-100561-3
  http://www.kadokawa.co.jp/product/201203000135/
[電子書籍]
  http://bookwalker.jp/de552479e8-f785-4f16-944c-8c2bedf12f04/


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2016
Shokabo-News No. 322(2016-3)に掲載 



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