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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房 編集子の“私の本棚”

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第47回 ハーバー・ボッシュ法の光と影を知る

ヘイガー著『大気を変える錬金術』(みすず書房)

『大気を変える錬金術』  編集者のFです。

 書名となっている「大気を変える錬金術」とは、無尽蔵にある空気から、生命が生きていく上で欠かせないアンモニアをつくる方法“ハーバー・ボッシュ法”のことです。20世紀の初めに開発されたこの合成法は、人々を食糧危機から救いました。現代に生きる私たちもこの技術の恩恵を受けています。まさに錬金術のような発明ではありましたが、その一方で戦争にも利用され多くの命を奪いました。
 開発者であるフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュは、第一次、第二次世界大戦下を生きたドイツの科学者です。本書は2人の人生を描いたものですが、ハーバー・ボッシュ法が登場する前史から入り、この技術が世界を一変させたことがよく分かる構成になっています。

 ハーバーとボッシュの名前は高校の教科書にも載っていますが、それこそ教科書程度の知識しか持っていなかった私にとって、彼らの波乱万丈な人生は衝撃的でした。著者はとくに、戦争という時代の中で重要な選択を迫られていくボッシュを丁寧に描いています。ボッシュはナチスに強く抗いながらも、経営者としての自身の立場や、一人のエンジニアとしての欲望を優先させたとき、抗いきれません。結局はずるずると加担していってしまう様には、ぞっとするような恐怖を覚えました。これは科学と軍事が結びついた歴史の一つでもあるのです。

 科学の軍事研究への在り方が話題となる現代において、成果がもたらす二面性がよく見える本書は、読む価値のある一冊だと思います。残念ながら品切れ中のようですので、図書館等でご覧いただければ幸いです。

【今回ご紹介した書籍】
『大気を変える錬金術 −ハーバー、ボッシュと化学の世紀−(新装版)』
  トーマス・ヘイガー 著,渡会圭子 訳,白川英樹 解説/四六判/344頁/
  定価4840円(本体4400円+税10%)/2017年9月発行/みすず書房/978-4-622-08658-1
  https://www.msz.co.jp/book/detail/08658.html
  ※書誌情報は,2017年9月刊行の新装版のものに変更しています.


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2017
Shokabo-News No. 335(2017-5)に掲載 



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