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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房 編集子の“私の本棚”

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第48回 「自己発見」への「旅人」

   湯川秀樹 著『自己発見』(講談社文庫)
   湯川秀樹 著『旅人−ある物理学者の回想−』(角川ソフィア文庫)

 めずらしく,そのなかのフレーズを諳んじられるという一篇がある.湯川秀樹による「自己発見」というエッセイが,それだ.
 この作品,かつては講談社文庫の一冊『自己発見』に収められていたが,それよりもなによりもある時期,これを載せた国語の高校教科書があったので,それでひょっとしたら記憶しているという方があるかもしれない.
 さて.
 じつは私にとってはこれ,物理学の魅力をあらためて訴えられた一篇ということにもなっている.
 終わり近く,美について湯川が語る.「もちろん数学の場合には,論理的整合性という条件が満たされていなければ,話にならない.さらに理論物理学ともなれば,事実の世界との一致ないし密接な対応が決定的な条件になる.」
 当時16歳(!)の私は,この後半のフレーズに完全にやられてしまった.実際,何年かのち数学か物理学かを選ばなければならなくなったとき,その決め手となったのはここにいう「事実の世界との一致ないし密接な対応」であった.そこに醍醐味のひとつを見たのである.
『旅人』  ところで,湯川の著書でもっとも読者の多いものといえば,おそらく自伝『旅人−ある物理学者の回想−』であろう.現在は角川ソフィア文庫で読むことができるが,このなかにも「理論物理学者として,理想と現実の間の矛盾に悩むのが,私の性に合っているようにも思われる.」という似たような記述があり,また,数学ファンという義兄と「数学と物理学の優劣論」を交わすようすなども描かれている.私にとっては「そうだ,そうだ!」の内容であるが,ワケあってこれは大きな声ではいえない.
 私が物理学を学ぶことになったのは,中学時代の担任にだまされた結果とこれまでずっと嘆いてきたが,どうやら今回この一文を草しながら,じつは湯川の影響もあったようだと思えてきた.それなら好いんじゃね?──まったくもって,ダメダメなつぶやきである.

【今回ご紹介した書籍】
『自己発見』
  湯川秀樹 著/文庫判/320頁/品切れ中/1979年8月刊行
  講談社/ISBN 978-4-06-134113-5

『旅人−ある物理学者の回想−
  湯川秀樹 著/文庫判/304頁/定価(本体590円+税)/2011年1月刊行
  角川学芸出版/ISBN 978-4-04-409430-0
  https://www.kadokawa.co.jp/product/201008000371/


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2017
Shokabo-News No. 336(2017-6)に掲載 



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