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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
鹿野 司の“読書ノート”

禁無断転載 → 裳華房メールマガジン「Shokabo-News」


第15回 細分化された人工知能分野を再統合する試み

新井紀子 著『ロボットは東大に入れるか』(イースト・プレス)

 2011年より、国立情報学研究所の新井紀子さんを中心に、「ロボットは東大に入れるか」(東ロボ)というプロジェクトが行われている。このテーマ設定は、一見、誰でも解りやすく、ニュースなどでも広く取り上げられてきたので、耳にしたことのある方も多いだろう。
 しかし、僕はこの話について、今ひとつ興味を持てなかった。
 人工知能というテーマは、科学ライターという肩書きで、限りなくフィクション部分を減らしたSFをやっているつもりの僕にとって、もっとも興味をひかれる分野の一つだ。
 しかし、「東大に入る」という言葉のダサい感じとか、同じようなことはすでにIBMのワトソンがやってるんじゃないのかという誤解があった上に、あちこちで見かける報道内容も、センター試験でどの程度の成績だったかというものがほとんどで、このプロジェクトの真の面白さに気づけていなかった。
 ところがある講演会で、新井さんの話を直に聞いて、それは偏見にすぎず、東ロボプロジェクトの狙いが極めて意欲的かつ独創的なものだということを知らされた。それで改めて読んでみたのが、この『ロボットは東大に入れるか』(新井紀子著、イースト・プレス)だ。
 世間は今、第三次AIブームに沸いていて、そう遠くない将来、人工知能は人間の知性を越えるとか、非常に多くの職業が人工知能で置き換えられる、なんて話をあちこちで耳にするようになった。しかし、これはブームにありがちな、少し見当違いの空騒ぎに過ぎない。
 人工知能はこれからの社会に大きな影響を及ぼすテクノロジーではあるけれど、それは多くの人が漠然と思い描く、人間のような知能が実現することとはかなり違っている。でも、何がどう違っているかは、人工知能という分野がどんな研究なのかを、ある程度整理して理解しなければ考えようがない。
 東ロボプロジェクトの真の狙いは、東大入試を突破することではなくて、これまで細分化されながら発展してきた人工知能という分野を、ある程度統合することにある。これは実は可能かどうかさえ不明なテーマで、AIブームといわれている今でも、これに取り組んでいるのは世界でも数か所しかない。
 新井さんにいわせると『いま自分たちが研究していることが、「人工知能」という大きなパズルの中でどのピースになるのか、はっきりとわかっている人は、じつはいないのです。……本当を言うと、それが大きな一つのパズルなのかさえ、よくわからない。』とのことだ。実に面白い。
 ワトソンのような、素人目にはどんな質問でも答えられそうなAIも、問題がある特定のものに限定されているからできているに過ぎない。そういうAIのしかけを読み解いて教えてくれるのも、この本の面白さだ。
 ブームの今、AIをブラックボックス的な神託マシンとして崇めてしまわないためにも、この本は一読の価値があると思う。

 

◆『ロボットは東大に入れるか
  新井紀子 著/264頁/定価(本体1400円+税)/2014年8月発行/イースト・プレス
  ISBN 978-4-7816-9064-3
  http://eastpress.co.jp/shosai.php?serial=2125

「鹿野 司の“読書ノート”」 Copyright(c) 鹿野 司,2014
Shokabo-News No. 306(2014-12)に掲載 


鹿野 司(しかのつかさ)さんのプロフィール】 
サイエンスライター.1959年愛知県出身.「SFマガジン」等でコラムを連載中.主著に『サはサイエンスのサ』(早川書房),『巨大ロボット誕生』(秀和システム),『教養』(小松左京・高千穂遙と共著,徳間書店)などがある.ブログ「くねくね科学探検日記


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