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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.276)

禁無断転載 
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  Shokabo-News No.276                2012/6/28
  裳華房メールマガジン 6月28日号
  http://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html

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 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回のご案内 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  ◇ 裳華房フェアのご案内

  ◇ 松浦晋也の“読書ノート”(2) 
     「使われている技術はその目的に最適なのか?」

  ◇ 裳華房の“古書”探訪 (3)
     マックス・プランク著『一般力學』(初版 大正15年)

  ◇ 売上げランキング(数学分野,化学分野)

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Shokabo-News 会員の皆様 こんにちは m(_ _)m

 リニューアルした Shokabo-News の第3号をお届けします.

 ノンフィクション・ライターの松浦晋也さんによる「読書ノート」は連載第
2回目.今回は、エンジンの歴史を取り上げた書籍のご紹介です.

 連載コラム「裳華房の“古書”探訪」の3回目は,量子論の創始者の一人で
あるマックス・プランク著『理論物理學汎論 一般力學』をご紹介します.

 また,全国各地の大学生協にて開催中の裳華房フェアについてのご案内を掲
載しました.

 今後も Shokabo-News をご愛読のほど,よろしくお願いいたします.また,
ご意見・ご感想を m-list@shokabo.co.jp までお寄せいただければ幸いです.
(Twitterをお使いの方はアカウント @shokabo まで)


 ★ お知らせ ★

1.裳華房Webサイトの分野別書籍一覧のサイトをリニューアル!
  レイアウト・デザインを大幅に変更して視認性をよくしました。
  http://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html

2.「第19回東京国際ブックフェア 自然科学書フェア2012」に出品します.
  東京ビッグサイト,7/7〜8.招待券(無料)のお申し込みは下記より.
  https://contact.reedexpo.co.jp/expo/BOOK/?lg=jp&tp=inv&ec=TIBF

3.自然科学書協会 講演会2012のご案内(7/22,於:日本出版クラブ会館)
  講師:内田麻理香氏,竹内 薫氏
  http://www.shokabo.co.jp/temp/nspa2012.html

4.「2012科学と技術図書フェア」開催中(ジュンク堂書店仙台本店,〜7/13)
  http://www.junkudo.co.jp/tenpo/shop-sendaihonten.html

5.裳華房 正誤表・訂正表の一覧
  http://www.shokabo.co.jp/support/errata.html

6.裳華房 出版原稿受付窓口
  http://www.shokabo.co.jp/scripts.html


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【裳華房 新刊一覧】 http://www.shokabo.co.jp/book_news.html
【ご購入のご案内】  http://www.shokabo.co.jp/order.html
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★★★★★★★★★★★★ 裳華房フェアのご案内 ★★★★★★★★★★★★★

 以下の大学生協書籍部にて,2012年 裳華房フェアを開催中です.各大学関係
者の皆様,お得なこの機会を是非ご利用ください(終了日にご注意ください).
 すでに終了した店舗,また秋以降に開催予定の店舗(筑波大学ほか)もあり
ます.詳細は,下記サイトに随時掲載していきます.
  http://www.shokabo.co.jp/fair/index.html

【東北】
・弘前大学 生協 文京キャンパス SHAREAシェリア(青森県弘前市,〜7/31)

【関東】
・千葉大学 生協 ブックセンター(千葉県千葉市,〜7/20)
・東京理科大学 生協 野田店書籍部(千葉県野田市,〜7/31)

【東京】
・東京大学 生協 駒場書籍部(東京都目黒区,〜7/31)
・東京工業大学 生協 大岡山購買書籍店(東京都目黒区,〜7/13)
・東京理科大学 生協 神楽坂店書籍部(東京都新宿区,〜7/31)
・早稲田大学 生協 理工店書籍部(東京都新宿区,〜7/31)

【北陸】
・新潟大学 生協 書籍部(新潟県新潟市,〜7/31)
・富山大学 生協 五福店(富山県富山市,〜7/31)
・金沢大学 生協 南福利購買部・角間店書籍部(石川県金沢市,〜7/31)

【関西】
・大阪大学 生協 工学部書籍ショップ(大阪府吹田市,7/1〜7/27)
・神戸大学 生協 学生会館書籍部(兵庫県神戸市,〜7/31)

【中国】
・岡山大学 生協 ブックストア(岡山県岡山市,〜7/31)
・広島大学 生協 北一店・西二店書籍部(広島県東広島市,〜7/6)
・  〃 霞店書籍部(広島県広島市,〜7/6)

【四国】
・徳島大学 生協 常三島SHOP(徳島県徳島市,〜7/31)
・愛媛大学 生協 城北ショップ(愛媛県松山市,〜7/17)


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【裳華房 分野別書籍一覧】 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html
【正誤表などサポート情報】 http://www.shokabo.co.jp/support/
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★★★★★★ 【新連載】松浦晋也の“読書ノート” (第2回) ★★★★★★

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 ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司
さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます.
今月号のご担当は松浦晋也さんです.
 ・バックナンバーはこちら→ http://www.shokabo.co.jp/column/
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◇ 使われている技術はその目的に最適なのか? ◇

◆『20世紀のエンジン史 スリーブバルブと航空ディーゼルの興亡』
  (鈴木 孝 著,三樹書房)

 私たちの生活は、多くの科学と技術の成果によって支えられている。衣食住
のすべて、情報の伝達手段、コミュニケーション手法、天気予報のような自然
の観察と予測、医療などなど、科学技術の成果でないものを探す方が難しい。
 ところで、科学と技術の違いがどこにあるかご存じだろうか。科学は自然に
対する知識の蓄積であり、技術はその応用である。二つは関連しつつも様々な
面で異なるが、一番の違いは「科学の答えは一つであるのに対して、技術の解
は複数存在しうる」ということだ。
 科学による自然現象の把握は、時代によって変化し、深化していく。いくつ
かの説の並立はやがてより現実を的確に説明できる一つの考え方に収斂する。
次により的確に現象を説明できる説が現れれば同じプロセスを経て新しい考え
が古い考えにとって変わる。
 燃焼という現象を例にとろう。古代ギリシャの哲学者アリストテレス(B.C.
384〜B.C.322)は四原質と四性質で世界を説明できると考えた。四原質とは、
土、水、空気、火であり、四性質とは乾、湿、温、冷だ。四原質はそれぞれ四
性質の二つを持つ。土は乾・冷、水は湿・冷、空気は湿・温、火は乾・温とな
る。火は原質として物質的実態があるものとして捉えられている。
 17世紀に入り、錬金術師ヨハン・ベッヒャー(1635〜1682)は、アリストテ
レスのいうような四原質だけではなく、“燃える土”という原質が存在すると
考えた。燃える土は燃える物質すべてに含まれていて燃焼とは燃える土が抜け
ていく過程のことだと考えたのである。ベッヒャーの考えは医師のゲオルク・
エルンスト・シュタール(1660〜1734)に引き継がれた。シュタールは“燃え
る土”に「フロギストン(燃素)」という名前を与えた。
 18世紀前半の欧州ではフロギストン説は主流となった。多くの物質は燃える
と灰になり、体積は縮む。だから燃える物質はすべてフロギストンを含んでい
て、燃焼とはフロギストンが抜けることだ、という説明はきわめて自然に思え
たのである。しかしながら、様々な物質を片っ端から燃やしていくとフロギス
トン説とは矛盾する結果が得られることが分かってきた。特に、金属類を燃や
すと燃やす前よりも重くなるという現象はフロギストン説にとっては都合が悪
かった。フロギストンが抜けるからには残る灰は軽くならねばならないはずな
のだ。
 「燃焼とは何か」という問題に決着をつけたのは、アントワーヌ・ラヴォア
ジエ(1743〜1794)だった。彼は密閉した容器中で金属を燃焼させ、燃焼の前
後で質量が変化しないことを示した。さらに、燃焼後の容器を開けると、外側
から内側に空気が流入することを発見した。つまり、燃焼とは空気中に含まれ
る何らかの物質が金属と結合する反応なのだ。さらに彼は、イギリスの神学者
ジョゼフ・プリーストリー(1733〜1804)から水銀を燃やした後の灰を強く加
熱すると気体が出てくること、その気体は燃焼を激しくする効果があることを
聞いた。ラヴォアジェはプリーストリーの得た気体こそが燃焼のキモであって、
燃焼とはこの気体が様々な物質と結合する反応のことではないかと気がつく。
1779年、ラヴォアジェはこの気体に「酸素」という名前を与えた。プリースト
リーの実験は、水銀を燃やした結果生成した酸化水銀を加熱して、酸素ガスを
得るというものだったわけだ。ラヴォアジェの洞察は、その後の数年で様々な
反論への再反論と補強の実験を経て確たる事実として確立していった。
 このように、科学においては様々な仮説が入り乱れ、自らの正しさを主張す
る中から実験により事実と合わない仮説が淘汰され、最終的に誰もが納得でき
る説が事実として認められる。どんなに確立した定説であっても、さらなる実
験で矛盾が見つかれば、もういちど仮説に戻って再検討を行う。仮説は並立す
るが、事実と認められる説は一つだ。

 が、これが技術となると話は違ってくる。燃焼から有用なエネルギーを取り
出す仕組みひとつをとっても様々な方式が併存しうるし、実際に適材適所で使
い分けられる。答えはひとつではないのだ。
 最初の実用的な蒸気機関、トーマス・ニューコメン(1664〜1729)が発明し
たニューコメン機関がどんなものかご存じだろうか。まずピストンを引いて水
蒸気をシリンダーに吸い込む。ついでシリンダーに水を吹き込む。すると水蒸
気が液化して圧力が下がるのでピストンがぐっと下がる。この動きをピストン
につながったロッドの往復運動として取り出して、つるべ井戸の方法で水をく
み上げる。つまり、私たちの知る「高圧蒸気でピストンを押す」蒸気機関とは
全く正反対の「蒸気の液化で体積が減って負圧が発生する」ことを利用してい
たのだった。材料技術が未発達で、高圧水蒸気を使うとシリンダーが破裂して
しまうので、このような方法を採用したのである。
 ニューコメン機関は高温の水蒸気に直接シリンダー内で水を吹き込んで冷や
している。するとシリンダーそのものも冷えてしまい効率が悪い。そこでジェ
ームズ・ワット(1736〜1819)は水蒸気を別の部屋に導いてから冷却する「復
水器」という仕組みを発明した。ワットはほかにも様々な工夫をこらして近代
的な蒸気機関の基本形を作り上げることに成功する。その後鋼材の技術や溶接
やリベット止めなどの手法が発達したことから、より高温高圧で効率のよい蒸
気機関も作れるようになった。
 が、別にピストン式の蒸気機関だけが燃焼からエネルギーを取り出す仕組み
ではない。
 1816年、スコットランドの牧師ロバート・スターリング(1790〜1878)はス
ターリングエンジンを発明した。蒸気機関と同じく外燃機関、つまり動作流体
の外側で燃焼が起きている機関だが、蒸気機関と全く動作原理が異なり、熱的
な効率が高いという特徴を持つ。また、高圧水蒸気を羽根車にあてて回転させ
る蒸気タービンは、1884年にチャールズ・アルジャーノン・パーソンズ(1854
〜1931)によって発明された。
 動作流体内で燃焼を行う内燃機関は、18世紀から試作が行われていたが、ニ
コラ・カルノー(1796〜1832)が1824年に論文「火の動力」を公表し、熱力学
の基本を定式化したことで理論的検討が可能になり、研究が進展した。1876年
には、ニコラウス・オットー(1832〜1891)が4サイクルエンジンを発明。
1879年にはカール・ベンツ(1844〜1929)が2サイクルエンジンを発明。1893
年にはルドルフ・ディーゼル(1858〜1913)がディーゼルエンジンを発明。本
格的な内燃機関の時代が始まった。
 注目すべきは、内燃機関が出現したからといって蒸気機関をはじめとした外
燃機関が消えたというわけではないことだ。また、それぞれのエンジン形式も
開発者の工夫によって様々な構造の差異が存在する。どの方式がどの分野で生
き残るかは、最終的には経済性の問題に帰着する。
 ダイナミックな論争と適切な観測と実験を経てひとつの説へと収斂していく
科学に対して、技術は適用分野、材料など周辺技術の進捗状況、さらには社会
状況などに影響され、最適解は変化し続ける。たいていの場合は、一つに収斂
することはないし、収斂した場合も、状況が変化すればすぐに様々な新技術が
出現して利便性を競うことになる。
 このため、技術の歴史には、そこには様々な“行き止まり”が存在する。開
発当時は前途洋々に思われたものの、見込み違いや周辺技術の進歩、社会状況
の変化などによって消えてしまった技術が多々あるのだ。が、それらは無駄と
いうわけではない。消えた技術を知り、消えた理由を考えることは、今後の技
術開発を考察するにあたって大変有益な知見をもたらしてくれる。
 「20世紀のエンジン史 スリーブバルブと航空ディーゼルの興亡」は、それ
ら消えた技術の中でも二つのエンジン技術、すなわちスリーブバルブと航空用
ディーゼルエンジンについての解説書だ。内燃機関のそのまたごく一部の技術
の話ということで、まさに重箱の隅をつつくような話が続くが、そのことがか
えって、様々な状況に左右される社会のなかの技術全般のありようをはっきり
と見せてくれる。
 シリンダーとピストンを使う内燃機関ではシリンダー内に空気と燃料を吹き
込み、点火する。発生した燃焼ガスでピストンを押し下げてエネルギーを取り
出し、燃焼の終わったガスはシリンダーから排出する。だから吹き込み口と排
出口は適切なタイミングで開閉を繰り返す必要がある。現在一般に使われてい
るのはポペットバルブ(茸形弁)というものだ。茸のかさのように広がったバ
ルブで、茸の柄にあたる部分(ステム)がカムなどに押されて、かさの縁の部
分がガスの吹き込み口や排出口の縁と密着したり離れたりしてガスの流れを制
御する。ところがこの方式だと、バルブと吸排気口とが、がちがちと高速でぶ
つかるわけで20世紀初頭の段階では気密性や耐久性の確保が大変大きな課題だ
った。
 そこで出現したのがスリーブバルブだ。スリーブ(洋服の袖)の名の通り、
この方式ではピストンとシリンダーの間にもうひとつ、スリーブという薄い金
属の円筒が入る。スリーブはカムによってピストンとは別のタイミングで上下
運動する。スリーブには穴が開いていてシリンダー側に開いた吸排気口とスリ
ーブの穴が重なった時だけ、燃料を含む空気がシリンダーに入ったり燃焼済み
ガスが排出されたりする。
 スリーブバルブは、第二次世界大戦前に、有望な形式として自動車から航空
機に至るまでの幅広い用途で使用された。とはいえ、問題がないわけではなか
った。この形式を採用したエンジンのシリンダー内では、入れ子になったピス
トンとスリーブがそれぞれ異なる上下運動をする。確かにポペットバルブのよ
うにがちがちとぶつかる部分がなくなるが、その一方でこすれ合うピストン、
スリーブとシリンダーの摩擦をどう軽減するかとか、スリーブとシリンダー間
の気密をどうやって保つかとかの、別の問題が浮上する。まして、初期のスリ
ーブバルブ方式は開口と閉口のタイミングを最適化するためにスリーブを二重
にしていた。ピストン、内側スリーブ、外側スリーブという組み合わせがシリ
ンダーの内側でそれぞれ別の上下運動をするわけで、複雑きわまりない。
 本書は、そんなスリーブバルブ方式の発展を、ていねいに追っていく。スリ
ーブは巧妙な工夫で一つだけで済むようになる。やがてイギリスでは、ロイ・
フェッデン(1885〜1973)という技術者が現れ、粘り強い技術開発を何年も継
続して行った結果、ついにスリーブバルブを採用した航空機用エンジンの傑作、
ブリストル・セントラースが完成する。第二次世界大戦後期になって量産体制
が整ったセントラースエンジンは、ホーカー・テンペスト戦闘機に採用されて
航空戦での勝利に貢献することになった。
 本書が解説する、セントラースに込められた工夫の数々には感嘆するしかな
い。ほとんど芸術品だ。ところが、セントラースを最後に、スリーブバルブは
エンジン技術の表舞台から姿を消してしまう。一番大きな理由は、航空機用エ
ンジンの主力がジェットエンジンに移行したことだったが、なぜ自動車用など
でスリーブバルブは生き残れなかったのか。自動車用エンジン技術者の著者は、
スリーブバルブは技術開発の寄り道だったと総括する。フェッデンのような優
れた技術者が長期間にわたって努力した結果、実用レベルに到達したが、それ
は本当に必要な努力だったのか、と。技術的難易度をポペットバルブ方式と比
べるとむしろ難しいぐらいで、得られる利点もそんなに大きくなかったという
のだ。
 本書後半では、第二世界大戦時にドイツが実用化し各国が追従して開発に動
いた航空機用ディーゼルエンジンに話題が移る。こちらもスリーブバルブ同様
消えてしまうのだが、話は鉄道用ディーゼルエンジンや、著者の本業であるト
ラック用ディーゼルエンジンなどにもおよび、燃焼工学や機械構造の解説も含
めて、より幅広く失敗の分析を行っている。

 今回、科学と技術の違いから入って、実用化されたが消えた技術をみてきた。
このようなことを書く理由は、私が原子炉について同様の疑問を持っているか
らだ。福島第一原子力発電所で事故を起こした原子炉は、アメリカが開発した
軽水炉、それも沸騰水型の原子炉だった。では、この軽水炉・沸騰水型という
形式は、本当に民生用・発電用に最適の炉形式だったのだろうか。それともな
にかの弾みでたまたま実用化してしまい、技術的合理性ではなく社会的理由か
ら普及してしまった形式なのだろうか。
 原子炉開発の歴史には2人のキーパーソンが登場する。一人はアメリカ海軍
で原子力潜水艦と原子力空母の開発に執念を燃やしたハイマン・リッコーヴァ
ー(1898〜1986)、もうひとりは原子力工学の研究者で、アメリカの原子炉研
究の中枢であるオークリッジ国立研究所の所長を長年勤めたアルヴィン・ワイ
ンバーグ(1915〜2006)。軽水炉という炉形式は、船舶に最適としてワインバ
ーグがリッコーヴァーに提案したものだった。海軍の資金で軽水炉の開発は進
み、やがてそのままアメリカ初の原子力発電所である、シッピングポート原子
力発電所(ペンシルバニア州)に転用される。ところが、提案者であるワイン
バーグはオークリッジの所長時代に、民間用原子炉としてトリウム溶融塩炉と
いう軽水炉と別の形式の原子炉開発に没頭した。
 トリウム溶融塩炉の開発は途絶し、今、世界ではもともと原子力潜水艦のた
めに開発された軽水炉が大量の電力を供給している。しかし、軽水炉はそもそ
も民間で使うにあたって最適の炉形式だったのか、それとももっと安全で扱い
やすい別の炉形式が存在し得たのか。
 あり得たかもしれないもうひとつの技術――スリーブバルブと航空用ディー
ゼルエンジンの例は興味深い視点を提供してくれている。

◆『20世紀のエンジン史 スリーブバルブと航空ディーゼルの興亡』
  鈴木 孝 著/四六判/468頁/定価2520円(税込み)/2001年12月発行/
  ISBN978-4-89522-283-9/三樹書房
  http://www.mikipress.com/books/2001/12/post-91.html


【松浦晋也さんのプロフィール】
ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online に「人と
技術と情報の界面を探る」を連載中.主著に『われらの有人宇宙船』『増補 
スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『コダワリ人のおもちゃ箱』など
がある.ブログ「松浦晋也のL/D」 http://smatsu.air-nifty.com/


      「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(c) 松浦晋也,2012


 次号は鹿野 司さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに!


※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
http://www.shokabo.co.jp/column/


★★★★★★ 【連載コラム】裳華房の“古書”探訪(第3回)★★★★★★★

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 弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」
に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた大正時代から昭和時代
に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします.
【バックナンバー】 http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html
【裳華房の歴史】  http://www.shokabo.co.jp/history.html
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◆ プランク 著,寺澤寛一・久末啓一郎 共訳
 『理論物理學汎論 一般力學』(初版 大正15年)

 本書は,プランク定数としてその名を残し,量子論の偉大な創始者の一人で
ある,あのマックス・プランク(Max Planck)が執筆した“Einfuhrung in 
die Theoretische Physik”の中の1冊である“Einfuhrung in die Allgemeine
 Mechanik(初版は1916年刊行)の日本語版です.

 肝心な本書の内容の方ですが,旧仮名使いのために読むのに一苦労するのは
仕方ありません.本文だけで320ページもあり,昨今の日本の『力学』の教科
書と比べるとかなり大部と言えるかもしれませんが,記述は非常に丁寧で,
(もちろん数式もそれなりにありますが)文章の量が多いことに気が付きます.
また,索引が日本語・英語・獨逸語と三つの言語で併記されています.

 プランクの『理論物理學汎論』は,

  第一巻 一般力學
  第二巻 變形する物体の力學
  第三巻 理論電氣磁氣學
  第四巻 理論光學
  第五巻 理論熱學

の全5巻から成り,裳華房では1926年(大正15年)〜1932年(昭和7年)の間
に全5巻の日本語版を揃え,出版していたようです.

 出版記録を見ますと,今回ご紹介する『一般力學』について言えば,昭和24
年(1949年)の時点で第13版となっていることから,それなりの部数を発行し
ていたのではないかと思われます.
 
 この『一般力學』ですが,本を開き,書名・著者名・訳者名などが書かれた
扉を捲ると,プランクの右向き上半身の写真(スーツ姿)が入っています.

   http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1926Planck-mecha/tobira.pdf
   ※見本は修正第7版(昭和7年発行)のもの(以下同様).

そして,その次のページには,本書を翻訳した一人の寺澤寛一先生の次のよう
な言葉が入っています.

    譯者は輓近の偉人プランク教授の圓熟せる筆に成れる理論物理
   學汎論を本邦に紹介するの機を得たるを欣ぶ.これによつて我國
   の若き學者が物理學の眞髓を窺ふことを得ば我我の最も滿足する
   所である.唯この拙譯が名著の權威に副はないのを恐れる.
   http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1926Planck-mecha/intro2.pdf

これを読むと,寺澤先生の謙虚なお気持ちが表れていると感じます.裳華房で
は,寺澤先生は『初等力學』(初版 昭和7年)などの著書をご執筆いただいて
おりましたので,また機会を改めて寺澤先生のご紹介をさせていただきたいと
思います.

 プランクは,序文の冒頭に,

    予が長い間教職にあつての經驗に依れば,理論物理學を初めて
   學ばんとする學生が最も困難とする所は,多くその數學的の式で
   はなく,寧ろ提供された考程の物理的内容に存する.即ち方程式
   の計算にあらで,却つて其の構成並びに説明に彼等は最も悩むの
   である.
   http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1926Planck-mecha/intro.pdf

と書いています.(本コラムを書いている,物理学科出身の私は)自分の学生
時代をふと思い出し,「なるほど,確かにそうだ.さすがプランク先生!」と
思う反面,「いや待てよ.私は数式にも同じくらい悩まされたのだけど……」
と,本書の序文を読んで,いかに自分が凡人であるかを改めて悟った次第です.

 余談ですが,基礎物理学や力学,量子力学などの教科書・参考書等で著名な
原島鮮(あきら)先生は,『基礎物理学選書1 質点の力学(改訂版)』(裳華
房)の序文の一節に,

    昔話をすると,大正の終り,著者がまだ一高の学生時代,裳華
   房から寺澤寛一先生・久末啓一郎先生訳のプランクの名著“一般
   力学”が出版されたが,これを本屋で購入し読みふけったときの
   感激はいまも忘れられない. そのようなこともあったためか,著
   者は一生力学と関係を持ってしまった.
   http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1926Planck-mecha/harashima.pdf

と書かれており,原島先生も若かりし時に本書に大きな影響を受けたようです.

 なお,以下のサイトで,Einfuhrung in die Allgemeine Mechanik の電子版
を見ることができます.
   http://archive.org/details/einfhrungindiea01plangoog


◆『理論物理學汎論 一般力學』
  プランク 著/寺澤寛一・久末啓一郎 共訳
  菊判/360頁/大正15年(1926年)2月発行/裳華房

【目次】
一般力學緒言/第一篇 質點の力學(直線上の運動/空間内の運動/中心のあ
る力及びポテンシアル/運動方程式の積分/相對運動/拘束運動)/ 第二篇
 質點系の力學(剛體の靜力學/質點系の靜力學/質點系の動力學/剛體の動
力學)
   http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1926Planck-mecha/mokuji.pdf

【本文(抜粋38頁分)・索引・奥付の内容見本】
   http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1926Planck-mecha/sample.pdf


☆記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで
 御連絡ください.



───【裳華房のお役立ちサイト】───────────────────

◎ 2012年 研究所等の一般公開(6/26 更新)
http://www.shokabo.co.jp/keyword/openday.html

◎ 2012年 学会主催 一般講演会・公開シンポジウム(6/26 更新)
http://www.shokabo.co.jp/keyword/openlecture.html

◎ 2012年 若手 春・夏・秋・冬の学校(6/26 更新)
http://www.shokabo.co.jp/keyword/wakateschool.html
───────────────────────────────────


★★★★★★ 裳華房 売上げランキング(2012年4〜5月) ★★★★★★★★

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 分野別の直近2か月の売上げランキングです(2分野ごとを隔月に掲載).
なお,採用品としての注文分は除いています.
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★ 数学分野 ★

1.『微分積分(改訂版)』 矢野健太郎・石原 繁 編
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1071-4.htm

2.『数学シリーズ 集合と位相』  内田伏一 著
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1401-9.htm

3.『テンソル −科学技術のために−』 石原 繁 著
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1068-4.htm

4.『曲線と曲面の微分幾何(改訂版)』 小林昭七 著
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1091-2.htm

5.『数学シリーズ 微分積分学』 難波 誠 著
  http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1408-8.htm


 ★ 化学分野 ★

1.『暮らしの化学』 国本浩喜 著 
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3050-7.htm

2.『量子化学(上)』 原田義也 著
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3073-6.htm

3.『一般化学(三訂版)』 長島弘三・富田 功 共著 
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3072-9.htm

4.『化学熱力学(修訂版)』 原田義也 著 
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3065-1.htm

5.『ステップアップ 大学の総合化学』 齋藤勝裕 著 
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3075-0.htm

 次号では,物理学分野,生物学分野を掲載する予定です.


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 次号は,7月27日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)//


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