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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.289;2013年6月号)

禁無断転載 
→ 「メールマガジンのご案内」に戻る



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  Shokabo-News No.289                2013/6/28
  裳華房メールマガジン 2013年6月号
  http://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回のご案内 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ◇ 新刊
   高木正道 監修/池田友久 編集代表『新 バイオの扉』

 ◇ 最近の話題
   「アインシュタイン記念日」

 ◇ 松浦晋也の“読書ノート”(8)
   歴史を左右するパンデミック

 ◇ 裳華房の“古書”探訪 (15)
   一戸直蔵 著『月』[明治42年]

 ◇ 裳華房 編集子の“私の本棚”(3)
   ゴジラをめぐる研究者たちの“熱い”想い

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Shokabo-News 会員の皆様 こんにちは m(_ _)m

 Shokabo-News 2013年6月号をお届けいたします.

 先月号でもご案内した通り,下記の大学生協書籍部にて裳華房フェアが開催
中です.北海道大学生協北部店,東北大学生協工学部店,山形大学生協小白川
店,東京理科大学生協神楽坂店・葛飾店,大阪府立大学生協中百舌鳥店.
(いずれも7/31まで)
 また秋に開催を予定している大学生協もございます.今後の予定などについ
ては下記サイトをご参照ください.
http://www.shokabo.co.jp/fair/index.html

 さて今回のShokabo-Newsでは,新刊としてバイオテクノロジーの入門書をご
紹介するほか,好評連載「松浦晋也の“読書ノート”」ではクロスビー著『史
上最悪のインフルエンザ』(みすず書房),「裳華房の“古書”探訪」では一
戸直蔵著『月』(明治42年), 「裳華房 編集子の“私の本棚”」では『ゴジ
ラ生物学序説』(ネスコ)を取り上げます.

 ご意見・ご感想を m-list@shokabo.co.jp までお寄せいただければ幸いです.
(Twitterをお使いの方はアカウント @shokabo まで)


 ★ お知らせ ★

1.7/3より第20回東京国際ブックフェア 自然科学書フェアが開催!(〜7/6)
  http://www.bookfair.jp/

2.7/12より本の学校今井ブックセンター(鳥取県米子市)にて,科学と技術
  図書フェア2013が開催されます(〜8/18).
  http://gakkou.imaibooks.co.jp/

3.自然科学書協会講演会2013のご案内(7月21日,日本出版クラブ会館)
    芳沢光雄「生きた題材で数学を楽しもう」 
    山根一眞「地球温暖化と自然エネルギー − 環業革命の現在」
  http://www.nspa.or.jp/subscription2013.html

4.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」.
  http://www.shokabo.co.jp/support/index.html


★★★★★★★★★★★★★★ 新 刊 案 内 ★★★★★★★★★★★★★★★

◆ 『新 バイオの扉 −未来を拓く生物工学の世界−』

http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5225-7.htm
高木正道 監修/池田友久 編集代表
A5判/270頁/定価2730円(税込)/裳華房/ISBN978-4-7853-5225-7

 医薬品や診断薬,化粧品から,遺伝子組換え作物,生物農薬,機能性食品,
バイオ燃料,バイオプラスチック,果ては環境浄化技術まで.
 レッドバイオ(医療・健康のためのバイオ),グリーンバイオ(植物・食糧
生産のためのバイオ),ホワイトバイオ(バイオ製品の工業生産)等,暮らし
に役立つバイオ技術の最新の話題を,第一線の現場で活躍する日本技術士会生
物工学部会の会員がわかりやすく解説します.
 大学でのバイオ関連講義の副読本としても好適な一冊.

【主要目次】第I編 レッドバイオ/第II編 グリーンバイオ/第III編 ホワ
イトバイオ/第IV編 バイオ・ア・ラ・カルト


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【裳華房 新刊一覧】 http://www.shokabo.co.jp/book_news.html
【ご購入のご案内】  http://www.shokabo.co.jp/order.html
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★★★★★★★★★★★★★★ 最近の話題 ★★★★★★★★★★★★★★★

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 折々の科学的なトピックスや記念日,季節的なテーマなどについて,簡単な
解説と関連書籍,Webサイトなどを紹介します(不定期掲載).
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◆ 「アインシュタイン記念日」 ◆

 1905年6月30日,スイス連邦特許局に勤めていたアルベルト・アインシュタ
インは,物理学雑誌「Annalen der Physik」に,特殊相対性理論についての論
文“Zur Elektrodynamik bewegter Korper”(運動する物体の電気力学)を投
稿しました.そのことにちなみ,6月30日は「アインシュタイン記念日」とさ
れています.

【原著】“Zur Elektrodynamik bewegter Korper”(Wiley社)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/andp.19053221004/pdf

【翻訳】『アインシュタイン論文選 ─「奇跡の年」の5論文』
アルベルト・アインシュタイン 著, 青木 薫 翻訳/ちくま学芸文庫
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480094032/

 この1905年は,アインシュタインが光量子仮説,ブラウン運動の理論,特殊
相対性理論に関連する5つの重要な論文を立て続けに発表したことから,「奇
跡の年」と呼ばれています.

 ここでは,裳華房の特殊相対性理論に関する書籍をご紹介します.

◇『基礎物理学選書27 相対性理論』(江沢 洋 著)
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2139-0.htm

特殊相対性理論について,最初は簡単に,そしてより深くと,2回繰り返して
学ぶ構成になっているので,基礎からしっかり丁寧に勉強したい方々に最適.

◇『特殊相対性理論の数学的基礎』(河合俊治 著)
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2913-6.htm

一般相対性理論の視点から特殊相対性理論を捉え直したい方,あるいは特殊相
対性理論の数学的構造に関心がある学生や研究者を対象とした解説書.


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【裳華房 分野別書籍一覧】 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html
【正誤表などサポート情報】 http://www.shokabo.co.jp/support/
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★★★★★ 【連載コラム】松浦晋也の“読書ノート” (第8回) ★★★★★

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 ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司
さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます.
今月号のご担当は松浦晋也さんです.
 ・バックナンバーはこちら→ http://www.shokabo.co.jp/column/
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◇ 歴史を左右するパンデミック ◇

◆『史上最悪のインフルエンザ −忘れられたパンデミック−』
 (アルフレッド・W・クロスビー著、みすず書房)

 人類はこれまでに随分色々な病気を克服してきた。が、それでも新しい病気
は次々とやってくる。エイズが世間一般に認知されたのは1980年代のことだ。
1997年には香港で強い毒性を持つH5N1型の鳥インフルエンザによる鶏の大量死
が発生。H5N1は人間にも感染し、死者を出した。2002年には中国広東省でSARS
(重症急性呼吸器症候群)が、あわや世界的規模の爆発的感染拡大(パンデミ
ック)かという事態を引き起こした。
 パンデミックは人類の社会と歴史にぬぐい去ることのできない大きな影響を
与える。中世欧州を襲ったペストの大流行は、人口の減少を招き国力のバラン
スを変動させ、さらには宗教や文芸にまで影響を及ぼした。人間社会の栄枯盛
衰はパンデミックと共にあると言ってもいい。
 そこで、今回は20世紀の事例を見てみたい。1918年から19年にかけて世界的
大流行となった「スペイン風邪」、スペイン・インフルエンザのパンデミック
である。世界人口が20億人ほどだった当時、少なくとも5億人以上が感染した
と推定されている。死者数は世界保健機関(WHO)の推計で4000万人。 ただし
諸説あって、死者1億人とする説もある。
 当時、欧州では世界史上初の総力戦であった第一次世界大戦の真っ最中だっ
たが、こちらの戦死者数は確認できるだけで約1000万人。他に未確認の行方不
明者が800万人ほどあるので、最大1800万人が死んだことになる。 近代兵器を
投入した4年を超える戦争の死者の2倍以上もの命を、スペイン・インフルエ
ンザは1918年春から翌1919年秋にかけての1年半であっさりと刈り取っていっ
たのである。

 『史上最悪のインフルエンザ』はスペイン・インフルエンザに初めて歴史学
の光を当てた本である。原著出版が1976年で、翻訳は1989年の改訂版に依って
いる。このためインフルエンザ・ウイルスに対する科学的な解説は古くなって
いるが、それ以外の部分では今なお読むに値する。感染拡大の様子から世界各
地における状況の推移、社会への影響など、パンデミックが持つ多面的な様相
を可能な限り網羅した力作だ。今回は、その中から、パンデミックが起きたこ
とによる“歴史のif”をピックアップしてみよう。

 スペイン・インフルエンザは、その名称とは異なり、1918年3月に最初の流
行が北米大陸で発生した。4月には敵側のドイツ軍でもインフルエンザが蔓延
する事態となる。この時、参戦していなかったスペインのみが、病気に関する
報道規制を行わなかったために、スペイン由来と誤解されて「スパニッシュ・
インフルエンザ」という名前が付いた。
 感染拡大の段階で、すでにスペイン・インフルエンザは人類の歴史と絡まり
合っている。1918年3月は、第一次世界大戦の最終段階だった。当初欧州での
戦争に対してモンロー主義に基づく中立を保っていたアメリカは、ドイツが潜
水艦による無差別な商船攻撃を開始したことで態度を変えて1917年4月に参戦
した。1918年初頭は動員体制が整い、欧州に大量の兵士を送り込むべく国中が
大騒ぎになっていた。全米各地で募兵が行われ、大量の志願者が集まってきた。
新兵訓練のためのキャンプは拡充されたが、施設が間に合わず、兵士たちは兵
舎に詰め込まれて寝起きした。戦時公債を売りさばくためのキャンペーンが全
米を巡回し、各地でお祭り騒ぎを繰り広げていた。
 募兵も、キャンプも、公債購入キャンペーンも、すべて大量の人々が一ヵ所
に集まる。第一次世界大戦は、インフルエンザ・ウイルスに、格好の感染拡大
の場所を提供していたのだった。米国内で感染した兵士は、そのまま欧州に送
られる。最前線では、死と隣り合わせの極限のストレスと、極度の疲労に晒さ
れた兵士の免疫が衰弱していたことは間違いない。かくして、あっという間に
欧州戦線の各所でインフルエンザは猛威を振るうようになった。
 もうひとつ、考慮しなくてはならないことがある。総力戦では、国家がその
能力の限りを尽くして衝突する。そのためには、大量の物資を輸送し、国家経
済を回転させねばならない。物資の輸送に伴い、人が動く。
 日本では1918年9月に、最初の集団感染が確認されている。アメリカで発生
した流行が、戦争を通じて欧州に渡り、おそらくは物流に伴う人の交流に乗っ
て、日本にやってきたのだ。アメリカでの発生から6ヵ月ということになる。

 実はインフルエンザは、ペストなどと違い、20世紀以前には世界的規模のパ
ンデミックを引き起こした形跡がない。欧州では、古くは冬になると流行する
季節病と思われていた。インフルエンザの語源はイタリア語の「影響」を意味
するインフルエンツァ(influenza)であり、英語圏に入って読みが「インフル
エンザ」となった。日本では平安時代以降、何回かの全国的流行の記録が残っ
ており、幕末に蘭方医がインフルエンザの概念を持ち込み「流行性感冒」(流
感)と翻訳した。
 インフルエンザ・ウイルスは突然変異を非常に起こしやすい。その生態をご
く大ざっぱに説明するなら、通常は鳥や豚の体内に潜んで突然変異を繰り返し
ており、その中から人間への感染性を獲得したものが、冬の流行を引き起こす。
人に適応した株の出現には、鶏や豚と人が常時接触している場所、つまり養鶏
や養豚が関係してくる。
 そして時折、大きな突然変異で多くの人々が免疫を持たない株が出現し、パ
ンデミックとなる。感染経路は主に、せきやくしゃみなどによる飛沫感染。つ
まり人が高密度で活動していることが大規模な感染拡大の条件となる。
 これでわかるように、インフルエンザによる世界規模のパンデミックには3
つの人為的条件が必要になる。まず、養鶏・養豚の普及、次に都市における高
密度の居住環境の出現。19世紀までにこの2つの条件は揃い、局所的な流行を
引き起こしていたのだろう。社会を構成する人々に免疫が行き渡れば、流行は
終息する。おそらくは世界に拡がる前に地域社会の中に免疫が行き渡っていた
ので、世界的パンデミックにはならなかったのだろう。
 20世紀に入って、最後の条件が揃った。すなわち、世界規模での高密度な人
の移動である。突然変異株の出現と、物流を促す第一次世界大戦がぶつかった
ことで、スペイン・インフルエンザは、一気に世界中に拡がったのだろう。も
しも、1918年春の段階で第一次世界大戦が起きていなかったら、あるいはその
前に終わっていたなら、パンデミックの様相はかなり違ったもの――おそらく
はもっとゆるやかで1年半というような急速なものではなく、数年にわたるも
のになっていたのではないだろうか。

 本書が描き出すもっとも劇的な“歴史のif”は、パリ講和会議に関するもの
だ。第一次世界大戦は1918年11月11日に休戦協定が発効、同年12月から6ヶ月
もの長丁場のパリ講和会議が開催され、1919年6月28日に、戦後の世界体制の
枠組みを定めたベルサイユ条約が調印された。
 会議の舞台となったパリは、まさにパンデミックの真っ最中だった。あらゆ
る関係者がインフルエンザに感染し、体力を消耗していった。
 1919年4月3日、ついに会議のためにパリに滞在していたウッドロウ・ウィル
ソン米大統領(1856〜1924)がインフルエンザを発症してしまう。ウィルソン
は急進的な平和主義者で、世界平和のために敗戦国に過酷な賠償責任を課すべ
きではないと考えていた。一方、交渉に参加したイギリスのデビット・ロイド
・ジョージ首相(1863〜1945)やフランスのジョルジュ・クレマンソー首相
(1841〜1929)は、長期にわたった戦争で疲弊した自国の経済を建て直すため、
敗戦国のドイツに対して可能な限り高い賠償金を求めるつもりだった。
 ウィルソンがインフルエンザに倒れたこの時期、議論は大きく進展し、ウィ
ルソンはドイツに賠償金を課することを受け入れた。条約には具体的な金額が
記入されておらず、後に破滅的なまでに高額の賠償金をドイツに負わせる根拠
となった。やがて経済危機に陥ったドイツでは、アドルフ・ヒトラー(1889〜
1945)率いるナチスが「ヴェルサイユ体制の打破」を主張して勢力を伸ばして
いった。ヒトラーは国家元首となり、世界を第二次世界大戦へと巻き込んでい
くことになる。
 もしもウィルソンがインフルエンザで倒れず、気力体力ともに充実した状態
で交渉に参加していたら――言っても詮無いことではあるが、ヒトラーが台頭
せず、第二次世界大戦がなかった世界もありえたかも知れないのだ。

 本書の著者クロスビーは、もう一つ、はっきりしたスペイン・インフルエン
ザの影響を指摘している。パンデミックが猛威を振るっていた1918年秋、アメ
リカでは議会の選挙があった。ニューメキシコ州の上院議員選挙では、共和党
の有力者であるアルバート・フォール(1861〜1944)が立候補していた。ウィ
ルソンは、フォールに個人攻撃を加えて落選させようとするが、ちょうどフォ
ールの息子と娘が相次いでスペイン・インフルエンザのために亡くなってしま
う。選挙民の同情を集めたフォールはわずかな票差で当選した。
 フォールの当選により、上院は民主党と共和党が同数となり、外交委員会の
委員長を共和党が獲得した。これは、ウィルソン大統領の外交政策を大きく妨
げることとなった。
 第一次世界大戦後、ウィルソンの平和構想に基づき、国際連盟が発足する。
しかしアメリカは、まさにフォールの当選によって米上院外交委員長に就任し
た共和党のヘンリー・カボット・ロッジ(1850〜1924)が強硬な反対運動を展
開したため、結局国際連盟に加盟しなかった。
 これももう運命としかいいようのない展開だ。アメリカが国際連盟に加盟し
ていたならば、国際連盟の影響力はかなり強化されていただろう。その後の第
二次世界大戦への道筋はかなり違ったものになっていたかも知れない。
	
 ここで紹介した事例は、本書のごく一部だけだ。クロスビーは、ウィルソン
の交渉相手であったロイド・ジョージやクレマンソーが、インフルエンザに罹
った前後でどのように態度を変えたかも論証していくし、アメリカ交渉団スタ
ッフの発病にも注意を払っている。有能なスタッフがインフルエンザで長期間
活動不能になったり、肺炎を併発して死去したことは、ウィルソンの交渉力低
下に大きな影響があったとしている。

 この手の“歴史のif”は、えてして粗雑な想像に終わることが多い。ウィル
ソンが万全の体調でパリ講和会議に臨んでいたとしても、結局はドイツに巨額
の賠償金が課せられたかも知れない。アメリカが国際連盟に加盟していても、
第二次世界大戦は避け得なかったかも知れない。
 それでも、スペイン・インフルエンザの事例は、滔々たる歴史の流れが小さ
な微生物やウイルスによって左右されている可能性を教えてくれるのである。


◆『史上最悪のインフルエンザ −忘れられたパンデミック−』
  アルフレッド・W・クロスビー 著 西村秀一 訳/
  A5判/496頁/定価4620円(税込み)/2009年1月発行/みすず書房/
  ISBN978-4-622-07452-6
  http://www.msz.co.jp/book/detail/07452.html


【松浦晋也さんのプロフィール】
ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online に「人と
技術と情報の界面を探る」を連載中.主著に『われらの有人宇宙船』『増補 
スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『コダワリ人のおもちゃ箱』『の
りもの進化論』などがある.
ブログ「松浦晋也のL/D」 http://smatsu.air-nifty.com/

      「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2013


 次号は鹿野 司さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに!


※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
http://www.shokabo.co.jp/column/


───【裳華房のお役立ちサイト】───────────────────

◎ 研究所等の一般公開(6/28更新)
http://www.shokabo.co.jp/keyword/openday.html

◎ 学会主催 一般講演会・公開シンポジウム(6/28更新)
http://www.shokabo.co.jp/keyword/openlecture.html

◎ 若手 春・夏・秋・冬の学校(6/28更新)
http://www.shokabo.co.jp/keyword/wakateschool.html
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★★★★★★ 【連載コラム】裳華房の“古書”探訪(第15回)★★★★★★★

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 弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」
に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた大正時代から昭和時代
に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします.
【バックナンバー】 http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html
【裳華房の歴史】  http://www.shokabo.co.jp/history.html
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◆ 一戸直蔵 著『月』 [初版 明治42年]

 今回は天文学の書籍を取り上げます.“忘れられた”科学者,一戸直蔵執筆
の『月』です.たぶん「月」をテーマにした日本で最初の本であるとともに,
科学の専門家自らが啓蒙書を執筆した,おそらく日本で最初の書籍です[*1].

 一戸直蔵(いちのへなおぞう)は,明治11年(1878年)青森県の生まれ.明
治36年に東京帝国大学理科大学星学科を卒業して大学院に進学するとともに,
当時麻布にあった東京天文台(現在の国立天文台)に助手として着任.明治38
年(1905年)には,アメリカのシカゴ大学附属ヤーキス記念天文台[*2]に私
費で留学.そこで変光星観測を行いながら,大口径望遠鏡の威力を身をもって
体感し,日本にも大望遠鏡を備えた天文台の建設を説くために,2年で留学を
切り上げて帰国します.

 この2年間の留学期間中には,裳華房からサイモン・ニューカム著(書籍表
記はニューコンム)『星辰天文学・宇宙研究』を翻訳出版しています(明治39
年11月).これがたぶん裳華房から最初に出版された本格的な天文学書です.

 帰国後,一戸は東京帝国大学の講師,東京天文台の観測主任になるとともに,
日本天文学会の設立(明治41年)に奔走し,また『天文月報』を創刊して編集
主任として健筆を振るいます.ちょうどその脂が乗った時期に書かれたのが,
『月』です.

 『月』の目次は以下の通りです.

  緒論/月の運動(其一)/月の運動(其二)/月世界探檢(其一)/
  月世界探檢(其二)/月の地球に及ぼす影響/地球と月との歴史

 4章と5章では“探検”と銘打っているように,当時としてはかなりの数の月
面写真を掲載して,観光案内のように月の地形やその生成等を紹介しています.
 また本書の序文で,

  余茲(ここ)に説かんとする月は、これと同様な詩的魔力を有する自然
  の文學書で、余は之を繙(ひもと)く毎に一種の霊光に打たるヽ様な氣
  がする.

と述べているように,単に月に関する科学的な解説だけでなく,随所に『万葉
集』等の和歌や『源氏物語』等の古典,『和漢三才図会』や頼山陽による漢詩,
はてはヤングの英詩などの文学作品を縦横無尽に引用し,また太陽熱や潮汐エ
ネルギーの話を挿入したりする等,自由気ままに執筆しています.そういう意
味では,現在の目で見ても,かなりユニークな科学解説書と言えるでしょう.

 大正元年(1912年)11月には大幅に増補改訂した第二版を発行.また,本書
の翌年(明治43年)には同じスタイルの『星』を裳華房から出版しています. 

 余談になりますが,この『月』が出版されたころから,東京天文台の移転問
題がもちあがり,アメリカでの体験から都市から離れた山頂への移転を強く主
張した一戸は,三鷹(現在の国立天文台のある所)への移転を主張する天文台
台長ほか関係者と激しく対立し,明治44年(1911年)11月に天文台を退職して
野に下ります.
 アカデミズムのしがらみから自由になった一戸は,Nature誌や Science誌に
比肩する雑誌を日本にも,との想いから,大正2年(1913年)1月に月刊誌『現
代之科學』を創刊[*3].その発行に協力したのが,裳華房の吉野兵作(社長)
と野口健吉(編集長)です[*4].
 しかし,読者層が研究者や知識人に限られた『現代之科學』の売れ行きは芳
しくなく,第1巻第6号の発行をもって裳華房は編集・発行から手を引き,7
号以降は裳華房は大売捌(現在の取次店)の一社に留まったようです[*5].

 アメリカ留学中から健康を害していた一戸は,大正5年に肺結核を発病し,
『現代之科學』発行の苦労がさらに健康をむしばんで,大正9年(1920年)11
月27日に帰らぬ人となります.享年42歳.
 1960年以降に国内に建設された大型望遠鏡施設や,1980〜90年代の科学雑誌
の隆盛をふりかえってみると,一戸直蔵は,生まれてくるのが50年以上早かっ
たのかも知れません.

 なお『月』をはじめ,一戸直蔵の著作のほとんどは国立国会図書館のデジタ
ルアーカイブで公開されています.

『月[増補改訂第二版]』(国立国会図書館)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/935846


[脚注]

 *1 科学史家の中山茂氏は「こうした天文学の啓蒙書はそれまでもしばしば
   出版されていたが、すべて専門家でない、科学書の著述家によるもので
   あった。レッキとした天文学の専門家が啓蒙書の筆を執ったのは、本邦
   では一戸直蔵をもって嚆矢とする」と述べている(『一戸直蔵』より).

 *2 ヤーキス天文台をはじめとするアメリカでの巨大望遠鏡の建設について
   は,Shokabo-News  No.282(2012年12月配信号)に掲載の,「松浦晋也
   の“読書”ノート 第5回 ジョージ・エラリー・ヘールの「大きいこと
   はいいことだ!」」を参照.
   http://www.shokabo.co.jp/column/matsu-05.html

 *3 昭和6年(1931年)創刊の岩波書店の雑誌『科学』の「創刊の辞」の中
   で石原純は,『現代之科學』を先達とする旨,述べている.

 *3 『現代之科學』創刊号の奥付には「発行所現代之科學社、発売所裳華房、
   編輯者野口健吉、発行者吉野兵作」とある.

 *4 『現代之科學』はその後,一戸直蔵,大鐙閣,日本図書出版と発行元を
   変えながら第10巻まで続いたが,大正11年(1922年)に廃刊した.


※本稿執筆にあたり,下記の文献等を参考にさせていただきました.記して感
 謝申し上げます.

・中山 茂『一戸直蔵 −野におりた志の人−』リブロポート,1989年

・原 恵「東京天文台移転事件 ── 一戸直蔵」(「科学朝日」編『スキャン
 ダルの科学史』朝日新聞社,1997年 所載)


◆『月』
  一戸直蔵 著/菊判/210頁/裳華房/初版 明治42年[1909年]6月


※記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで
 御連絡ください.


───【裳華房のお役立ちサイト】───────────────────

◎ 自然科学系の雑誌一覧 −最新号の特集等タイトルとリンク−(6/27更新)
http://www.shokabo.co.jp/magazine/ 

◎ 大学・研究所・学協会の住所録とリンク
http://www.shokabo.co.jp/address.html
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★★★★ 【連載コラム】裳華房 編集子の“私の本棚”(第3回) ★★★★★

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 編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります.
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◇ ゴジラをめぐる研究者たちの“熱い”想い 

◆『ゴジラ生物学序説』(SUPER STRINGS サーフライダー21 編著,ネスコ)

 編集者のCです.
 今回は,一風変わった生物学関連の書籍をご紹介します.

 書籍の内容は,大学の医歯薬系学部,化学系メーカーなどに勤める若手の研
究者が,怪獣ゴジラが本当にこの地上に存在していることを“前提”として,
彼らの生物学の知識をフルに用いてゴジラを論ずるという,一種の思考実験の
趣のあるものです.私の知る限り,架空の事象を対象として真面目に科学的な
議論を行っている書籍というのは,当時では珍しい部類に入るのではないかと
思われます.

 では,私の独断で印象に残った内容をかいつまんでご紹介しましょう.

 本書の考察によれば,まずゴジラには,頭部の他に腰の部分に脳がある(文
中では神経組織のコブと表現)と見ているようです.これは,なにもその場の
コジツケではなく,ステゴザウルスやダチョウといった事例を元に推測してい
ます(実際に1993年公開の『ゴジラVSメカゴジラ』では,ゴジラの腰部に“第
二の脳”が存在する描写があります).

 次に,ゴジラといえば放射能火炎ですが,俗に「放射能溜り」から吐き出し
ているのではなく,骨に蓄えていると見ています.具体的には,原発を襲うこ
とで骨に主にストロンチウム90を蓄積して(1984年公開の『ゴジラ』では,井
浜原子力発電所(架空)を襲撃し,破壊した原子炉格納容器より放射性物質を
吸収する描写があります), 副甲状腺ホルモン(PTH)に似たホルモンにより
血中にストロンチウム90を放出することで,火炎を吐き出していると結論づけ
ています.これもコジツケではなく,陸上脊椎動物での骨の吸収と形成におい
て, PTHの働きにより血中カルシウム濃度が変化する事例を元に推測していま
す.

 また本書は,ゴジラを系統分類上,竜盤目・獣脚亜目・カルノサウルス下目
に二足歩行で陸上・水中共に活動できる新設の「ゴジラサウルス科」への分類
を提言しています(1991年公開の『ゴジラVSキングギドラ』では,第二次世界
大戦当時のマーシャル諸島・ラゴス島(架空)でゴジラの前身となった生物の
描写があります).しかし,これには異論があって,雑誌「科学朝日」(1994
年1月号,現在は休刊)では,対向する指とベタ足で直立二足歩行する様子か
ら,脊椎動物門直下に「霊竜綱」の新設を提案しています.

 著者たちの熱い想いが感じられませんか? 柳田理科雄氏とは違った視点か
らの論考ですが,私にとって印象に残る一冊となっています.1998年には扶桑
社から文庫版が刊行されましたが,単行本・文庫本どちらも品切れとなってお
り,入手が難しくなっています. 


◆『ゴジラ生物学序説 −妄想から科学へ−』
  SUPER STRINGS サーフライダー21 編著/A5判/255頁/定価1400円/
  1992年/ネスコ発行・文藝春秋発売/ISBN4-89036-843-4 (品切れ中)
  http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784890368433


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次号は2013年7月29日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)//


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