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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.299;2014年5月号)

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.299                2014/5/8   裳華房メールマガジン 2014年5月号   http://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回のご案内 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  ◇ 新刊    中村栄子・酒井忠雄・本水昌二・手嶋紀雄 共著『環境分析化学』    干鯛眞信 著『窒素固定の科学』  ◇ 松浦晋也の“読書ノート”(13)    竹内正美 著『テルミン』(岳陽社)  ◇ 裳華房の“古書”探訪 (19)     富士川游 著『日本醫學史』[初版 明治37年]  ◇ 裳華房 編集子の“私の本棚”(13)    佐藤勝彦 著『インフレーション宇宙論』(講談社ブルーバックス) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ Shokabo-News 会員の皆様  新緑の季節となりました.Shokabo-News 2014年5月号をお届けいたします.  今月のShokabo-Newsでは,化学分野の新刊2点のほか,連載13回目となる 「松浦晋也の読書ノート」では電子音楽の話その3として『テルミン』(竹内 正美著,岳陽社)を,「裳華房編集子の“私の本棚”」では佐藤勝彦著『イン フレーション宇宙論』(講談社ブルーバックス)をご紹介します.また,連載 再開「裳華房の“古書”探訪」では,富士川游著『日本醫學史』(初版明治37 年)を取り上げます.  ご意見・ご感想を m-list@shokabo.co.jp までお寄せいただければ幸いです. (Twitterをお使いの方はアカウント @shokabo まで)  ※書籍の価格は,定価(税込)ではなく本体価格表示にしています.  ★ お知らせ ★ 1.「大学・短大・高専用教科書のご案内」   http://www.shokabo.co.jp/text.html 2.【講義担当の先生方へ】講義用 教授資料のご案内   http://www.shokabo.co.jp/textbook/text-tm.html 3.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」.   http://www.shokabo.co.jp/support/index.html 4.工学書協会フェアを開催!  ・京都産業大学 紀伊國屋書店BC(5/6〜6/30)  ・大阪大学生協 工学部店(6/1〜6/30)  ・大阪大学生協 豊中店(6/1〜6/30) ─────────────────────────────────── 【裳華房 新刊一覧】 http://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【ご購入のご案内】  http://www.shokabo.co.jp/order.html ─────────────────────────────────── ★★★★★★★★★★★ 新 刊 案 内 (5月刊行)★★★★★★★★★★★ ◆ 『環境分析化学』 中村栄子・酒井忠雄・本水昌二・手嶋紀雄 共著/B5判/224頁/ 定価(本体3000円+税)/2014年5月/裳華房/ISBN978-4-7853-3098-9  今後ますます重要となる環境水や排水の分析法の基本原理を示すとともに,電 気伝導度や各種の吸光度を測定する方法から,HPLCやイオンクロマトグラ フなどを使用した分析法,また種々の化学反応を巧みに用いている方法につい ても多くのページを割いて丁寧に解説.失敗例なども記載し,環境分析を志す 学生や現場で日々苦労を重ねている方々に少しでも役立つことを目指した. 【主要目次】1.環境分析のための公定法 2.化学平衡の原理 3.機器測定 法の原理 4.水試料採取と保存 5.酸・塩基反応を利用する環境分析 6. 沈殿反応を利用する環境分析 7.酸化還元反応を利用する環境分析 8.錯生 成反応を利用する環境分析 9.分配平衡を利用する環境分析 10.電気伝導 度測定法による水質推定 11.吸光光度法を用いる環境分析 12.蛍光光度法 による環境分析 13.原子吸光光度法による環境分析 14.発光分析法による 環境分析 15.高周波誘導結合プラズマ-質量分析法 16.高速液体クロマト グラフ法による環境分析 17.イオンクロマトグラフ法による環境分析 ◆ 『窒素固定の科学 −化学と生物学からの挑戦−』 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3502-1.htm 干鯛眞信 著/A5判/162頁/定価(本体2500円+税)/2014年5月 裳華房/ISBN978-4-7853-3502-1 窒素は生命に必須の元素である.人類は,「大気中に豊富に存在する反応性に 乏しい窒素分子から,いかにしてこの窒素を獲得するか」の難題の克服に向け て,化学と生物学の両面から果敢に挑戦してきた.本書は,化学的窒素固定研 究の第一人者が,この分野の歴史から最先端の研究動向と将来展望までをわか りやすく解説し,進化する「窒素固定の科学」の全容を明らかにした. 【主要目次】1.窒素肥料と農業 2.工業的な空中窒素固定法 3.新しい窒 素固定の化学 4.微生物による窒素固定とその機能解明 5.窒素肥料と環境 への影響 ─────────────────────────────────── 【裳華房 分野別書籍一覧】 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】 http://www.shokabo.co.jp/support/ ─────────────────────────────────── ★★★★★ 【連載コラム】松浦晋也の“読書ノート” (第13回) ★★★★★ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司 さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます. 今月号のご担当は松浦晋也さんです.  ・バックナンバーはこちら→ http://www.shokabo.co.jp/column/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ◇ テルミン、この摩訶不思議な“電気楽器” ◇ ◆ 竹内正美 著『テルミン』(岳陽社)  今回も電気と音楽というネタだ。隔月連載で3回続けるとそれだけで足かけ 5ヶ月ということになってしまうが、これで最後にするのでご容赦願いたい。  前々回は芸術音楽の作曲家と技術者、前回はポピュラー音楽の先駆者という 視点で音楽と技術の関係を見てきたが、今回の主題は楽器製作者だ。  19世紀末、生活の中にじわじわと電気が入り込んできた時、当然楽器製作者 は「電気を使う楽器を作ろう」と考えたのである。実際、楽器製作者という人 種は結構革新的で、楽器の歴史をたどると、楽器製作者の発明により、音楽表 現の幅が広がってきたことが分かる。ピアノは、1825年にアメリカのボイラー 工場経営者アルフェーズ・バブコック (1785〜1842)が、鋳鉄フレームを発明 したことで、強い張力でピアノ線を張ることができるようになり、大きなコン サートホールを満たす大音量を出せるようになった。フルートは、1847年にド イツの音楽家テオバルト・ベーム(1794〜1881)が、複数のキーが連動するベ ーム式フルートを発明し、正確な音程と自在に速いパッセージを演奏できるだ けの運動性を手に入れた。大抵の楽器にはこれと類似した、楽器製作者の発明 で音楽表現が変化したというエピソードが存在する。  史上初の「電気を使った楽器」は、1897年にアメリカの発明家サディウス・ ケイヒル(1967〜1934)が発明したテルハーモニウムだ。これはなかなか壮絶 な楽器で、音源はダイナモ、つまり発電機なのである。交流発電機を可聴周波 数と同じ速度で回転させれば、可聴周波数の正弦波が得られる。というわけで、 テルハーモニウムは145基のダイナモで正弦波を発生させ、 ピアノのような鍵 盤で演奏するという楽器だった。  この時代、まだ増幅回路はない。音は大きな共鳴板を持つスピーカー(とい っても原始的なイヤホンのようなものだ)から出した。このままでは、蒸気機 関が発する騒音でスピーカーからの音がかき消されてしまう。そこでケイヒル は、楽器の出力をそのまま電話回線に流して、遠隔地の電話で音楽を聴くこと を考えた。彼はこの構想をさらに発展させて、電話で音楽を聴かせるサービス 事業を実現しようとしたが失敗した。当時の電話は、音楽が楽しめるほど音が 良くなかったのだ。  ケイヒルは少々時代を先取りしすぎていた。電気を使った楽器が登場するに は基礎技術が足りなかったのである。1904年に真空管が発明され、さらに1911 年に現在と同じ構造のスピーカーが登場することで、初めて電気楽器の登場す る下地ができ上がった。  まず、1920年にロシア人の物理学者レフ・セルゲーエヴィチ・テルミン(1896 〜1993)が、電気楽器テルミンを発明。1924年にドイツのフリードリヒ・トラ ウトバイン(1888〜1956)が、トラウトニウムという楽器を発明。さらに、1928 年になると、フランスの電気技術者モーリス・マルトノがオンド・マルトノを 発明した。どれも発明者の名前にちなんだ名称だが、これは当時のメディアが 「○○氏発明の新楽器」と報じたことから、本人の意志とは無関係に付いたも のらしい。  これらの三つの楽器は、音を作り出す原理はみな同じである。可聴周波数だ け発振周波数をずらした2つの発振回路からの出力を重ねると、可聴周波数の うなりが発生する。これを増幅回路やフィルターを通してスピーカーに導けば、 可聴周波数の音が出てくるわけだ。  それぞれの特徴がはっきり出ているのは、楽器の演奏方法だ。  トラウトニウムは、金属の薄いリボンの上に銅線を張り渡してあった。上か ら指で触れて、リボンと銅線が接触すると、その位置に応じた音が出る。ピア ノの黒鍵と同じ位置には簡単な鍵盤があり、黒鍵の音を出すにはその鍵盤を押 し込み、白鍵の音を出すには鍵盤と鍵盤の間に指を入れて、直接銅線を押し込 んでリボンと接触させる。トラウトニウムには、パウル・ヒンデミット(1895 〜1963)などの作曲家が曲を書いた。一番有名なのはアルフレッド・ヒッチコ ック(1899〜1980)が監督したサスペンス映画「鳥」(1963)の音楽だろう。 「鳥」では、トラウトニウムの開発にも参加した音楽家オスカー・サラ(1910 〜2002)が、鳥の鳴き声やはばたき音もトラウトニウムの演奏でつくっている。 サラは、トラウトバインの死後も生涯にわたってトラウトニウムの改良を続け、 またトラウトニウムを使った映画音楽を書いた。  オンド・マルトノは、ピアノと同等の72鍵の鍵盤を装備すると同時に、リボ ンと呼ばれる演奏機構を備えていた。右手人差し指に指輪型の電極をはめ、鍵 盤手前に張り渡した金属リボンに触れると、その位置に応じた音が出る仕組み だ。リボンを使うと、深く音を揺らすビブラートや、音の高さを連続的に変化 させるポルタメントといった演奏が可能になる。音の長さは左手で操作するト ウッシュという操作盤のキーで指定する。トウッシュからは、音に様々な効果 を付け加えることができた。  オンド・マルトノは、マルトノの一族が何十年にも渡って改良しつつ楽器を 製造・販売し続けたため、電気楽器としてはトラウトニウムよりも成功した。 パリ音楽院にはオンド・マルトノ科があって、今なお新たな演奏家を育ててい る。オンド・マルトノのために書かれた曲も多数存在し、その中にはオリヴィ エ・メシアン(1908〜1992)の「トゥーランガリラ交響曲」のような20世紀を 代表する名曲もある。日本人作曲家の作品では、三善晃(1933〜2013)の「オ ンディーヌ」、西村朗(1953〜)の「アストラル協奏曲・光の鏡」などで、オ ンド・マルトノを使っている。    トラウトニウムもオンド・マルトノも、従来の楽器の演奏法を踏襲している といえるだろう。基本は鍵盤だし、オンド・マルトノのリボンは弦楽器の演奏 法と類似している。が、一番早く発明されたテルミンは違った。テルミンは、 奏者が何にも触れることなく演奏するのだ。本体からは2つのアンテナが突き 出ていて、アンテナと人体との間の静電容量の変化で音の高さと大きさを決定 しているのである。アンテナの周囲で手をひらひらと動かすと音がでてくるわ けで、何も知らずにテルミンの演奏に触れた人は、魔法を見たような気分にな るだろう。  発明者のレフ・テルミンという人物も、その発明品に負けず劣らず、奇妙で エキセントリックな存在だった。以下、楽器と発明者本人を区別するため、本 人をレフないしレフ・テルミン、楽器をテルミンと表記する。  今回紹介する『テルミン』は、そのレフ・テルミンの生涯をまとめた伝記だ。 著者は1990年代にテルミンの存在を知ってのめりこみ、ロシアに渡ってレフの 親戚から直接テルミンの演奏を学んだ経歴の持ち主。実は今の日本で、テルミ ンはかなりメジャーな電気楽器となっているが、それは直接、間接に著者の努 力の賜物でもある。その熱意は本書冒頭から明らかだ。なにしろ13世紀のレフ の祖先から、話を始めるのである。  レフ・テルミンは幼少時から物理学と音楽の才能を発揮、第一次大戦に通信 部隊の技術士官として従軍した後、ペトログラード工業技術大学(現サンクト ペテルブルク大学)の研究員となる。そこで、気体の誘電率を測定する研究に 従事する中、静電容量の変化で発振回路の周波数を変化させるというアイデア を得て、1920年にテルミンを発明した。  ロシア革命直後の、共産主義と科学万能の雰囲気が結合した熱狂の中で、テ ルミンは新たな芸術、あらたなプロパガンダの道具として大きな反響を引き起 こした。共産党の機関紙プラウダに記事が掲載され、レフは、ウラジミール・ イリイチ・レーニンと面会し、その前でテルミンを演奏するまでになった。レ ーニンの指示で、彼はソ連全土を回ってテルミンを演奏した。当時ソ連が進め ていた全土電化計画のプロパガンダのためである。さらに彼は、従来とまった く異なる楽器テルミンで新しい共産国家ソ連を世界に印象付けるため、海外へ の演奏旅行に派遣された。欧州でのデモンストレーションの後、彼は1928年に アメリカに渡り、ニューヨークで音楽活動を開始した。  ニューヨークでのテルミンのデモンストレーションは成功を収め、彼は一躍 社交界の寵児となった。さらに彼は、テルミンの製造販売のために、テレタッ チ・コーポレーションという会社を設立する。電機メーカーのRCAが製造権 を買ったために、レフは大金持ちになった。加えて彼は、ニューヨークで17歳 の少女クララ・ロックモア(1911〜1998)に出会う。ヴァイオリニスト志望だ ったロックモアは、テルミンに魅力を感じ、レフから演奏法をマスター。後に ロックモアは“テルミンの伝道師”として、テルミンの普及に力を注ぐことに なる。  ソビエトから魅力的な楽器と共にやってきた大金持ち――1930年代のレフ・ テルミンは、まさにニューヨークのスターだった。が、1938年、彼は突如失踪 してしまう。失踪の経緯は謎が多く、本書『テルミン』でも記述はあいまいだ。 実はレフは、出国にあたってソ連国家保安委員会(KGB)から諜報活動を要 求されており、それに関連してKGBに拉致されたという説もある。事実だけ を記述すると、彼はスターリンによる大粛正のまっただ中に帰国し、そして反 革命罪で逮捕された。判決は8年の収容所送り。彼はシベリアのコリマ収容所 に送られた。  幸いにして数ヶ月でシベリアからモスクワに戻され、技術者の受刑者ばかり を集めた特殊収容所で研究生活を送ることになる。この時期のソ連はスターリ ンが粛正をやりすぎたために、社会の人材が払底し、かといって受刑者を無罪 放免にすることもできず、必要な人材をまとめて集めて「収容所内で研究所を 運営する」という変な状態に陥っていたのである。彼は同じく逮捕された航空 機設計者のアンドレイ・ツポレフ(1888〜1972)の下で働くことになった。こ の収容所で、時代の水準を突き抜けた高性能のツポレフTu-2双発爆撃機が、ツ ポレフやレフの手によって開発された。  やがて、コリマから引き戻されたひとりの若い技術者が、彼の助手についた。 その名はセルゲイ・パヴロビッチ・コロリョフ(1906〜1966)。後にソユーズ ロケットを開発し、世界初の人工衛星スプートニク1号や、有人宇宙船ボスト ークを打ち上げたソ連宇宙開発の父である。  この調子で、レフ・テルミンの人生は最後の最後まで変転し続ける。本人と してはたまったものではなかったろうが、その様相は非常に興味深い。  彼が西側から見ると行方不明になっていた期間中、アメリカではクララ・ロ ックモアが、テルミンの火を絶やさず演奏活動を続けていた。やがて、第二次 世界大戦後のハリウッドSF映画で、テルミンはこの世ならざる音を出す楽器 として使われるようになる。特にコロリョフらが打ち上げたスプートニク1号 で、西側に宇宙ブームが巻き起こると、テルミンはヒューン、ヒョーンという “宇宙の音”を出す楽器として多用されるようになり、現在に至っている。  ところで――現在日本は、単位人口当たりのテルミンの数では、おそらく世 界一のテルミン普及国になっている。というのも、学研がムック『大人の科学』 vol.17(2007年9月刊行)[*1]で、テルミンを取り上げたからだ。このムッ クでおそらく数万オーダーのテルミンが日本全国にばらまかれたはずである。 もちろんムックの付録だから、ごく簡易なものだが、それでもテルミンである ことには間違いない。  米ソの狭間で数奇な運命をたどったレフ・テルミン、以て瞑すべし。 【脚注】 *1 『大人の科学』Vpl.17 ふろく:テルミンmini http://otonanokagaku.net/magazine/vol17/index.html 【今回紹介した書籍】 ◆『テルミン −エーテル音楽と20世紀ロシアを生きた男−』   竹内正実 著/四六判上製/200頁/定価(本体2000円+税)/   2000年8月発行/岳陽社/ISBN 978-4-907737-15-3   http://www.gakuyosha-p.co.jp/books/detail/hobby/theremin.html 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online で「人と 技術と情報の界面を探る」,日経トレンディネットで「“アレ”って何? 読 めばわかる研究所」を連載中.主著に『われらの有人宇宙船』『飛べ!「はや ぶさ」』『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『コダワリ人の おもちゃ箱』『のりもの進化論』などがある. ブログ「松浦晋也のL/D」 http://smatsu.air-nifty.com/       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2014  次号は鹿野 司さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに! ※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します. http://www.shokabo.co.jp/column/ ───【裳華房のお役立ちサイト】─────────────────── ◎ 研究所等の一般公開(5/2更新) http://www.shokabo.co.jp/keyword/openday.html ◎ 学会主催 一般講演会・公開シンポジウム(5/1更新) http://www.shokabo.co.jp/keyword/openlecture.html ◎ 若手 春・夏・秋・冬の学校(5/7更新) http://www.shokabo.co.jp/keyword/wakateschool.html ─────────────────────────────────── ★★★★★★ 【連載コラム】裳華房の“古書”探訪(第19回)★★★★★★★ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」 に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた明治時代後期代から昭 和時代に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします. 【バックナンバー】 http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html 【裳華房の歴史】  http://www.shokabo.co.jp/history.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ◆ 富士川游 著『日本醫學史』[初版 明治37年]  今回紹介するのは、日本医学史上に燦然と輝く大著『日本醫學史』です。  『日本醫學史』は、有史以前から明治時代まで、日本の医学の発達と変遷を 詳細かつ系統的にまとめたもので、以下に記した全10章構成です。 第一章 太古の医学 第二章 奈良朝以前の医学 第三章 奈良朝の医学 第四章 平安朝の医学 第五章 鎌倉時代の医学 第六章 室町時代の医学 第七章 織豊二氏時代の医学 第八章 徳川時代の医学 第九章 明治時代の医学 第十章 疾病史  著者の富士川游(ふじかわゆう)は、慶應元年(1865)5月11日(旧暦)、 広島県安佐郡に生まれました。明治20年(1887)に広島医学校(現在の広島大 学医学部)を卒業後、上京して明治生命保険の保険医となる一方、中外医事新 報社で編集に従事。翌年には雑誌『中外医事新報』の編集主任として雑誌を主 宰したほか、『普通衛生雑誌』『医談』などの医学関係の雑誌を次々と創刊し ました(生涯にわたって富士川が創刊に関与した雑誌は十数誌に及びます)。  この頃から富士川は、急速に進歩する医学の基礎となる“医道”の確立のた め、日本の医学史の重要性を認識して、自ら取り組み始めました。保険医とし て全国各地をまわる中、各地の先達・先哲の墓や墓碑の発見に努め、また名家 の後裔を尋ねて種々の資料を入手、そして和漢医書や江戸時代における西洋医 学の翻訳書を精力的に収集しました。  前述した雑誌等にも医学史に関する記事を多数発表しています。  明治25年(1892年)には,富士川らが発起人となって私立奨進医会を創立。 同会は昭和2年に日本医史学会[*1]として発足し直し、現在に至っています。  明治31年(1898)に西洋医学を学ぶためドイツに留学し、翌年イエーナ大学 で学位を取得して帰国。この留学の前後に『日本外科史』『日本眼科略史』な どの医学史に関する書籍を著した後に、明治37年(1904)、37歳の時に満を持 して発表したのが『日本醫學史』です。  『日本醫學史』の特徴は、何といっても膨大な資料を元に、各時代における 医学の歴史を(平安期以降は内科、外科、婦人科、児科などの別に)体系的に まとめていることでしょう。  古来の学者が健康な人体や病気について持った知識(広い意味での生理学と 病理学)の歴史と、それらの知識に基づいて立てられた方術(療法)の歴史の 記述に力を注ぎ、といっても単に知識を羅列するのではなく、当時の時代状況 ・社会情勢などに照らし合わせ、医学史を文化史の中に位置づけています。  また、主な医者の伝記や重要な古医書の解題、各時代の医書目録等も随所に 掲載し、主要な疾病の歴史にも1章を割き、巻末には120ページに及ぶ「日本醫 事年表」と30余ページの「索引」(イロハ順)も収録されています。  ページをめくりながら大いに感じたことは、富士川が、(当時の)医学全般 の知識は言うに及ばず、偽書と“真書”の古文書を見分ける鑑識眼、また過去 の時代の政治や経済、文化に関する広範な知識、そして(概して理系の人が苦 手とする)古文・漢文に対する相当な素養など、すべてをあわせもった“偉人” であったということです。  また「データーベース」の無い時代に、膨大な資料を収集し、それを整然と 順序よく分類して体系づける作業は、並大抵ではなかったと思います。  医者であり作家の森林太郎(森鴎外)は、本書に寄せた序文の中で「其機關 的構造ノ燕Iナル譬ヘバ次ヲ逐ヒテ草木ノ芽ヲ抽キ枝葉ヲ茂生シ花ヲ開キ子ヲ 結ブヲ觀ルガ如シ」と述べています。  雑誌『学燈』に掲載された当時の書評によれば、元の原稿で3000ページ以上 あったものを印刷の関係で(本文を)1000ページ強にまとめ直したといいます。 当時は活字によって版面を組んでいましたので、1200ページを越える書籍の製 作は、出版社にとっても相当な“難事業”であったと思われます。  多数の読者より好評[*2]をもって迎えられた本書は、明治45年5月、第2 回の帝国学士院(日本学士院)恩賜賞を受賞しました[*3]。  『日本醫學史』編纂のために富士川が収集した膨大な資料のうち約6000点 (1万5000冊)は、富士川自身によって京都大学附属図書館に寄贈され、富士 川文庫[*4]として一般に公開されています。  また、富士川の没後に手元に残っていた約1700点(約3600冊)の古医書が慶 應大学北里記念医学図書館[*5]に収められ、日本大学医学部図書館(史料室) [*6]にも肖像画などの軸物や古医書が収蔵されています。  本書は初版刊行後、8版(刷)まで刊行されたようですが、大正12年の関東 大震災によって印刷の元となる紙型が焼失し、裳華房版は絶版となりました。  その後、富士川没後の昭和16年(1941年)に日新書院より『日本醫學史 決 定版』が、昭和22年に真理社より『日本醫學史 決定版』が、昭和49年に形成 社より別冊付録を収めた『日本医学史 決定版』が刊行されています。  裳華房版、日新書院版、真理社版はいずれも国立国会図書館のデジタルアー カイブで公開されています。 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/833360 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1046319 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1369435  富士川は、『日本醫學史』を上呈した明治37年の前後に、数多くの学会・研 究会の創立に尽力しています。芸備医学会(後の広島医学会)、日本児童研究 会、日本内科学会、医科器機研究会、癌研究会、看護学会などなど。医学史の みならず、現代医学の勃興期に多大な役割を果たしたといえるでしょう。  昭和15年11月6日、胆石病にて逝去。享年75歳でした。 【脚注】 *1 日本医史学会  http://jsmh.umin.jp/ *2 ただし、実験医学=医学と見なされていた当時の医学界では、必ずしも高  く評価されていたとは限らなかったようです。星新一著『祖父・小金井良精  の記』(河出文庫)には、富士川が『日本醫學史』を主要論文として東京帝  国大学医科大学に医学博士の学位を請求し、教授会であっさりと否決された  様子が記されています。 *3 『日本醫學史』への授賞に関する審査理由は下記サイトで閲覧できます。  http://www.japan-acad.go.jp/pdf/youshi/002/fujikawa.pdf  なお富士川と同時に恩賜賞を平瀬作五郎が「公孫樹の精虫の発見」で、池野  成一郎が「蘇鉄の精虫の発見」で、また帝国学士院賞を高峰譲吉が「アドレ  ナリンの発見」で受賞しています。 *4 京都大学附属図書館 富士川文庫  http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/fuji/index.html *5 慶應大学北里記念医学図書館 富士川文庫  http://www.med.lib.keio.ac.jp/library/collections.htm *6 日本大学医学部史料室  http://www.med.nihon-u.ac.jp/library/shiryositsu.html ◆『日本醫學史』    富士川游 著/菊判/1284頁/裳華房/初版 明治37年[1904年] ※本稿を執筆するにあたり、「日本醫史學雑誌」第37巻1号(富士川游博士没  後五十年特集号)、『富士川游先生を偲んで』(安佐医師会発行)、富士川  英郎著『富士川游』(小澤書店)、富士川先生刊行会編『伝記叢書27 富士  川有先生』(大空社)等を参考にさせていただきました。ありがとうござい  ました。 ※記述の誤りなど、お気づきの点がありましたらm-list@shokabo.co.jp まで  御連絡ください。 ───【裳華房のお役立ちサイト】─────────────────── ◎ 自然科学系の雑誌一覧 −最新号の特集等タイトルとリンク−(4/30更新) http://www.shokabo.co.jp/magazine/ ◎ 大学・研究所・学協会の住所録とリンク http://www.shokabo.co.jp/address.html ─────────────────────────────────── ★★★★【連載コラム】裳華房 編集子の“私の本棚”(第13回) ★★★★★ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります. 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ◇ 原始重力波の観測が正しいことを期待して ◆『インフレーション宇宙論』(佐藤勝彦 著,講談社ブルーバックス)  編集者のAです。今年3月に(原始)重力波の痕跡となる電波が初めて観測 されたというニュースに、「ついに見つかったか」と心躍った方も多かったの ではないでしょうか。私も、まさにその一人です。  原始重力波は、宇宙が誕生直後に急激に膨張したならば、“その証として存 在するはず”と考えられていたものであるため、今回、この痕跡が見つかった ことが正しいとなれば、およそ30年ほど前に佐藤勝彦先生が提唱した「指数関 数的膨張モデル」(ここでは、あえてそのように記しておきます)が裏付けら れることになるわけです。    そんな興奮もあって、以前に読んだ本書を自宅の本棚から見つけ出し、改め て読み直しました。「はじめに」に書かれているのですが、本書は佐藤先生が 初めてインフレーション理論を中心にして書いたもので、数式や難しい表現を ほとんど用いていないため、一般の方でも親しめるようになっています。  佐藤先生ご自身は、この理論を「指数関数的膨張モデル」と名付けていたこ と、そして、先生とは独立に、およそ半年後にアラン・グース氏が同様の理論 を提唱し、それを「インフレーション」と名付け、その後、この呼び名が一般 的になったことが本書の冒頭に書かれています。私は、本書で初めてそうした 経緯があったことを知りました。  本書は、インフレーション宇宙論とはどういう理論なのかということを単に 解説しているのではなく、この理論が誕生するまでの宇宙論の変遷、従来の宇 宙論が抱えていた課題、インフレーション宇宙論が誕生した背景、インフレー ション宇宙論の証拠となる観測結果や新たな謎、この理論が予測する未来の宇 宙像について書かれていて、全体のストーリー展開もとても興味を抱かせるも のとなっています。  私自身が特に興味をもって読んだのは、次のような点でした。 ・1929年(わずか85年前)にハッブルによって宇宙が膨張していることが発見  されるまで、宇宙は永遠不変であると考えられていたこと(アインシュタイ  ンも、永遠不変の宇宙を確信していたこと) ・アインシュタインが導いた方程式は宇宙が膨張することを予言していたにも  かかわらず、彼自身、それを受け入れようとしなかったこと ・インフレーション理論は、「力の統一理論から導かれる宇宙像」と「現実の  観測によって正しいとされているビッグバン理論が描く宇宙像」との矛盾を  解決するために考えたものであったこと ・佐藤先生が1981年に考え出した「元祖インフレーション理論」と、この理論  が描き出した宇宙のはじまりのシナリオについて(なぜ“元祖”という表現  をしているのかは、本書を読めば、その意図がわかると思います。) ・この理論が予言したことと観測結果との見事なまでの一致について    また佐藤先生は、第4章の「インフレーションが予測する宇宙の未来」の冒 頭において、この章の内容を読むに当たっての注意として、次のように記して います。   ……確かめられなければ、それは科学ではなく単なるお話にすぎません   から、論文としての価値は認められないのです。ですからこれから説明   することも、単なるお話であって、科学ではないということを踏まえて   読み進めてください。  本書が専門家向けの本ではなく一般の方々を対象とした本であるからこそ、 誤解を与えないようにとの佐藤先生のご配慮もあって、この章の冒頭にはあえ てこのように記したのだと感じました。  そして、私が最も魅かれた一文(東京大学を定年で退官する際におっしゃっ たという一言)を以下に記します。   いま、宇宙論は初めて軌道に乗ったところであり、これからどんどんや   るべきことがあるのだ  なぜ佐藤先生がこの言葉をおっしゃったのか、その背景にある先生のお考え については、ぜひ本書を読んでみてください。 ◆『インフレーション宇宙論 −ビッグバンの前に何が起こったのか−』   佐藤勝彦 著/新書判/190頁/定価(本体800円+税)/2010年9月発行/   講談社(講談社ブルーバックス)/ISBN 978-4-06-257697-0   http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=257697X ─────────────────────────────────── 次号は2014年6月3日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)// ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ★ Shokabo-Newsの配信停止・アドレス変更は下記URLよりお願いします ★ http://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html メールマガジンのご意見・ご感想はm-list@shokabo.co.jp まで. ─────────────────────────────────── 自然科学書出版 (株)裳華房 〒102-0081 東京都千代田区四番町8-1 Tel:03-3262-9166 Fax:03-3262-9130 電子メール:info@shokabo.co.jp URL:http://www.shokabo.co.jp/  Twitterアカウント:@shokabo 【個人情報の取り扱い】 http://www.shokabo.co.jp/policy.html ─────────────────────────────────── Copyright(c) 裳華房,2014      無断転載を禁じます.



         

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