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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.364;2020年9月号 9〜10月の新刊・近刊/松浦晋也の読書ノート ほか

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.364                2020/9/30   裳華房メールマガジン 2020年9月号   https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ★目次★ ─────────────────────────────────── 【1】新刊・近刊案内(9〜10月刊行書籍)    『量子力学選書 場の量子論(II)』    『つながりの物理学』    『数理モデル入門 −モデリングから解法・定性解析まで−』    『光合成細菌 −酸素を出さない光合成−』 【2】連載コラム 松浦晋也の“読書ノート”(47):    『宇宙・肉体・悪魔』(J・D・バナール著、みすず書房) 【3】お知らせ&編集後記 ─────────────────────────────────── ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】新刊・近刊案内(9〜10月刊行書籍) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●『量子力学選書 場の量子論(II)    −ファインマン・グラフとくりこみを中心にして−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2512-1.htm 坂本眞人 著/A5判/592頁/定価(本体6500円+税)/2020年9月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-2512-1 C3042  好評既刊『場の量子論−不変性と自由場を中心にして−』の続刊として、本 書ではファインマン・グラフを駆使しつつ、場の量子論において相互作用をど のように取り扱うかをできる限りわかり易く説明し、くりこみなどの理論的枠 組みを理解してもらうよう努めた。  論理の飛躍をなくして、議論の流れを一歩一歩着実に追えるよう、他書では 省かれているようなことがらにも紙面を割き、特に、すべての式を読者が確実 に導けるよう導出過程を省略することなく丁寧に解説した。さらに重要な式に 対してはその物理的な意味を詳しく述べた。 ※本書は、弊社の図書目録などで『場の量子論 −ゲージ場と摂動論を中心に  して−(仮)』とご案内していたものです(サブタイトルを変更しました)。 【主要目次】 1.場の量子論への招待 −自然法則を記述する基本言語− 2.散乱行列と漸 近場 3.スペクトル表示 4.散乱行列の一般的性質とLSZ簡約公式 5.散乱 断面積 6.ガウス積分とフレネル積分 7.経路積分 −量子力学− 8.経路 積分 −場の量子論− 9.摂動論におけるウィックの定理 10.摂動計算とフ ァインマン・グラフ 11.ファインマン則 12.生成汎関数と連結グリーン関 数 13.有効作用と有効ポテンシャル 14.対称性の自発的破れ 15.対称性 の自発的破れから見た標準模型 16.くりこみ 17.裸の量とくりこまれた量 18.くりこみ条件 19.1ループのくりこみ 20.2ループのくりこみ 21.正 則化 22.くりこみ可能性 ●『つながりの物理学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2925-9.htm 小田垣 孝 著/A5判/176頁/定価(本体3200円+税)/2020年9月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-2925-9 C3042  クラスター、集団免疫、スモールワールド、電気伝導、スケールフリーネッ トワーク、電力網の連鎖破壊、……。自然界や社会現象には、系を構成する要 素の“つながり”に着目することにより、統一的にその現象の特徴を理解でき るものが多い。そのため、“つながり”は一つのパラダイムとして、現代物理 学において必須の基本的知識となっている。  本書は、この“つながり”に焦点を当て、「パーコレーション理論」と「複 雑ネットワーク理論」の基礎的事項およびそれらの応用について、物理的視点 から統一的に解説したものである。 【主要目次】 1.つながりとネットワーク 2.パーコレーションの基礎 3.パーコレ―シ ョンの発展 4.パーコレ―ションの応用 5.複雑ネットワークの基礎  6.複雑ネットワークの特徴とその構築 7.複雑ネットワーク上の物理過程 ●『数理モデル入門 −モデリングから解法・定性解析まで−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1588-7.htm 齋藤誠慈 著/A5判/224頁/定価(本体2400円+税)/2020年10月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-1588-7 C3041  振動、熱拡散などの物理現象や、捕食・被捕食関係、感染症などの数理生物 学の問題は、微分方程式と差分方程式を用いて定式化(モデリング)される。  本書では、モデリングにより得られた方程式の解法を、常微分方程式の理論 やフーリエ級数などを用いて示すとともに、定性解析により解の漸近挙動につ いて議論する。 【主要目次】 1.指数的現象 2.機械・電気振動 3.高階線形常微分方程式の解法 4.連 立線形常微分方程式の解法 5.常微分方程式の定性解析 6.数理生物学のモ デリングI 7.差分方程式の解法 8.差分方程式の定性解析 9.数理生物学 のモデリングII 10.2階線形偏微分方程式の型 11.拡散現象 12.振動現 象 13.定常状態現象 ●『光合成細菌 −酸素を出さない光合成−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5870-9.htm 嶋田敬三・高市真一 編集/A5判/320頁/定価(本体4500円+税)/ 2020年10月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-5870-9 C3045  「光合成」というと、植物が行う“酸素を発生し、炭酸ガスから有機物を合 成する働き”を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、酸素を発生しない光合 成を行う生物も古くから知られており、これらは「光合成細菌」と呼ばれてき た。植物型光合成と同様の原理で光エネルギーを変換するが、そのシステムは 簡素で、以前から光合成機能解明の研究材料として用いられてきた。  本書では、近年の進展を含めた光合成細菌に関する幅広い知識を紹介・解説 する。光合成の機構とともに、光合成細菌が生態学的にも進化学的にも興味深 い研究対象であること、取り扱いやすい将来性豊かな素材であることも認識し てもらえれば幸いである。 【主要目次】 1.光合成と光合成細菌 2.種類と系統分類 3.生態と培養法 4.反応中心 と光合成電子伝達系 5.物質代謝 6.光合成色素および脂質、キノン  7.光捕集系 8.光合成遺伝子と発現調節 9.光合成の誕生と進化 10.光 合成細菌の利用 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【裳華房 新刊一覧】   https://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【裳華房 分野別書籍一覧】https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】https://www.shokabo.co.jp/support/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第47回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司 さんに、お薦め書籍や思い出の1冊、新刊レビュー等をご執筆いただきます。 今回のご担当は松浦晋也さんです。  ・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/ ─────────────────────────────────── ◆ 1929年の恐るべき想像力 ◆ ● 『宇宙・肉体・悪魔 −理性的精神の敵について−』    (J・D・バナール 著、鎮目恭夫 訳/みすず書房)  科学的思考で未来の途轍もないビジョンを描いた予言の書。そのビジョンは 現実世界だけではなく、SFの分野にも大きな影響を与えた??。  今回取り上げる『宇宙・肉体・悪魔』は、イギリスの生物・物理学者のジョ ン・デスモンド・バナール(1901〜1971)が、1929年、27歳の時に著した未来 を考察する書である。邦訳は、1972年に出版されたが長らく絶版状態で、今年 2020年7月に新たに作家の瀬名秀明氏の解説を加えて新版として復刊した。  タイトルにある『宇宙・肉体・悪魔』とは、人類が未来に向けて立ち向かっ ていく世界とそこに存在する障壁を意味する。外的環境としての「宇宙」、自 らの限界を規定する「肉体」──最後の「悪魔」は分かりづらいかも知れない が人間精神・人間社会の中にある「変化よりも今の状態が続くほうがいい」と いう退嬰的傾向を意味する。  「理性的精神の敵について」という副題も分かりにくいが、原題では“An Enquiry into the Future of the Three Enemies of the Rational Soul”。 直訳すると「理性的精神に対する三つの敵の未来に関する調査」だ。人類とい う理性的存在が未来に向けて立ち向かわねばならない三つの環境に関する考察 と意訳できようか。  バナールは、長年ケンブリッジ大学でX線を使った結晶解析の研究を行い、 その分野で業績を挙げた科学者だ。同時に左翼思想家・運動家でもあり、第二 次世界大戦では英軍に協力して連合軍の勝利に貢献した。  私は本書の存在を40年以上前から知っていた。確か「SFマガジン」誌の誰だ ったか(石原藤夫氏だったと思うが、記憶が不鮮明である)のエッセイで紹介 されていたのだ。しかし、今まで読んだことはなかった。今回、復刊を知り、 それっとばかりに購入したのだが、その薄さに驚いた。内容ではなく、本が物 理的に薄いのだ。全123ページ。バナール自身が執筆した本文はちょうど100ペ ージしかない。しかも文字が小さいわけでもない。むしろ本文レイアウトはす かすかで、老眼でも非常に読みやすい。  反対に内容は濃い。異常なまでに濃密と言っていい。1929年とは思えない先 進的な考察が次々に展開していき、精神を宇宙の彼方に持っていかれるのであ る。  本書は全6章構成で、それぞれ「未来」「宇宙」「肉体」「悪魔」「総合」 「可能性」という題を持つ。第1章「未来」では、科学的思考で未来は予測で きるという主張が展開される。続く「宇宙」「肉体」「悪魔」では、タイトル にあるように、人類の向かうべき未来とそこにある障壁を考察する。「総合」 では、前の三つの章の考察をひとつに束ねて未来を考察し、最後の「可能性」 で、さらにその先を垣間見ようとする。  やはりというべきか、一番面白く、また予見的なのは「宇宙」である。材料 とエネルギーから説き始め、この二つの面での科学的進歩が豊かな社会を実現 するが、人間はそれに満足することなく宇宙を目指すだろうとする。そして、 こう書くのだ。   宇宙の征服という問題は、あらゆる困難がその最初の段階に集中してい   る問題である。ひとたび地球の重力場からの脱出が達成されれば、それ   以後の発展はものすごく急速に進むに違いない。                      (本書p.16〜17)  「嘘だ。スプートニク1号の打ち上げから63年、アポロ11号月着陸から51年 も経ったが、まだ人類は地球の近傍をうろうろしているだけじゃないか」と思 う方もいるだろう。でも、バナールのこの考えは正しいのだ。  地上から地球を周回する軌道に入るために必要な速度は7.9km/秒。第一宇宙 速度というやつだ。実際のロケットは地球の重力に逆らって上に昇ったり、空 気抵抗に打ち勝つ必要があるので、もっと大きな加速が必要になる。一声10km /秒だ。衛星打ち上げロケットは、約10km/秒ぐらいの速度が出せるように設計 されている。  ところで、もしも地球周回軌道に10km/秒の加速ができるロケットがあった とすると、一体どこまでいけるのか。答えは「太陽系を飛び出してどこまでも 飛んでいける」だ。  つまり、現状はなんとかかんとか地球を巡る軌道に手が届いて、そこでバテ てしまっているという状況なのである。バナールの書くように、「地球の重力 場からの脱出が達成」できれば、今の技術でも太陽系を飛び回り、さらに遠く へ行くことが可能なのだ。  この前提からバナールは、様々な可能性を演繹していく。その思考の手順に 大きな飛躍はない。ひとつひとつは確実にそうなるというステップしか踏んで いない。しかし、その結果得られるビジョンは、時代を超越している。  彼は考える。宇宙旅行ができたとして、他の星を探検したり利用したりする ことだけが有意義なのか。否、せっかく地球から脱出したのに、別の星に降り るのは無駄が多い。宇宙に人工的な住む場所を建設すべきである。こうして彼 は、ジェラルド・オニール(1927〜1997)よりも40年早く、スペースコロニー の概念に行き着いた。そんなスペースコロニーは、長く使う以上は老朽化した 部分は破棄し、新たに建築する、成長する生物のようなものであるべきだ。か くしてバナールは、黒川紀章(1934?2007)より30年早く、メタポリズム建築 の概念に行き着く。  宇宙空間で成長し続けるスペースコロニーは、それ自身が巨大な宇宙船でも ある。ならば巨大化したコロニーが別の恒星に向かって飛行しても構わないだ ろう。このような道筋で彼は、恒星間植民という概念にも到達するのである。  「肉体」の章でも、彼は同様の思考を展開する。進化の産物である人体は必 ずしも合理的な設計になっていない。であるなら、合理的な設計で置き換えて も構わないのではないか──とサイボーグの概念に行き着き、人間の本質は脳 と感覚器と運動器官を接続したものである、という認識に至る。ならば、複数 の個人の脳を直接接続してもいいではないか、と、脳へのダイレクトアクセス と集団知性の可能性へと思考を発展させる……あれ? その集団知性ってSF 作家アーサー・C・クラークの畢生の傑作『幼年期の終わり』(1953年)に登 場する「オーバーマインド」そのものではないか。  それだけではなくバナールは、脳を含む人体のあらゆる部分が交換・修理可 能になるなら、寿命は事実上無限大になると考える。そうなると、別に精神は 物質ではなく、電波や光のネットワークに保存されてもいいのではないか…… 士郎政宗『攻殻機動隊』(1989年)にそんな話が出て来たような。  科学技術がもたらす変化と社会との関わりを考察する「悪魔」の章は、前の 二つの章ほど予言的ではなく、彼の生きた時代の思潮にかなり規定されている。 彼は、前2章で示したような変化が、変化へと進む者と旧来の社会に留まる者 との分離・分裂を起こす可能性を指摘する。その上で宇宙開発が進むにつれて、 旧来の社会に留まる者は地球に残り、変化へと前進する者は宇宙に散っていく という未来像を提示する。……あれ、随分とステロタイプじゃないか。SFで 散々そんな未来像を読んだ記憶があるぞ。アニメでも『ターンAガンダム』 (富野由悠季監督:1999年)は、そんな世界の地球の話ではなかったか。  違う! こういう未来像を初めて提示したのは、1929年刊の本書なのだ。し かもバナールは、このような未来像はあまりにきれいに問題を解決するのでか えって「なにか弱点がある」と言い切っている(p.99)。  あきれるほど少ない文字数で、驚きの未来を合理的に演繹した本である。そ の影響は世界のあちこちに飛び火したが、それについては本書附属の瀬名秀明 氏の解説が丁寧に追っているので、そちらを参照されたい。  瀬名氏の解説は、バナールの思考が、彼以前のどんな思想に影響されて出現 したものかについても触れている。20世紀の時代思潮の中で、バナールの思考 がどのあたりに位置付けられるかは、この解説を読めば一通りの理解は得られ るだろう。彼は左翼の活動家でもあったし、同時に愛国者でもあり、生きた時 代が課する思考の軛から完全に自由というわけではなかった。むしろマルクス ・エンゲルスに始まる社会主義や、革命ではなく改革で社会主義を実現しよう としたフェビアン協会の運動などがあり、そのような社会思想と19世紀から20 世紀にかけても長足の科学技術の発展との相乗効果があって、初めて驚きのビ ジョンに到達できたのである。  ──というわけで、ここでは瀬名解説とはちょっと違った話を書くことにす る。  本書で展開するバナールの思考を追っていくほどに、「こういう思考をする 人物をもうひとり知っているぞ」という気分になった。イーロン・マスク (1971〜)だ。電気自動車・太陽電池・蓄電池機器のテスラ、宇宙開発のスペ ースXのCEOを務める、2020年現在もっとも注目を集めている経営者といっ ていいだろう。  経営者でありながら、彼の思考は、「これが有望市場だ」とか「大きく市場 が拡大する」とか「ライバルは、国はなにを考えているか」というような普通 の経営のありかたとはほど遠い。常に物理学的な原理や、現実世界の有り様か ら出発する。  地球温暖化が進んでいる → なぜなら温室効果ガスを人類が排出しているか らだ → 人類の持続的生存には温室効果ガス排出抑制が必須である → 温室効 果ガス排出を抑制するにはどうしたらいいか → 太陽電池による発電でエネル ギーを得れば良い → 太陽電池は太陽光を得られる晴れた日中しか使えない → 蓄電池を組み合わせればよい → だから太陽電池と蓄電池の技術開発を進 めて大量生産で価格破壊を行い、一気に普及させる → 一気の普及にはどんな 製品を押し立てればいいか──ここで初めて市場に関する考察が入って「狙う は電気自動車だ」ということになる。  そこには「既存のガソリンやディーゼルの自動車を、電気自動車で置き換え るとして、商品として成立する市場環境は……」というような従来型の思考は 一切入ってこない。  第1段を逆噴射で着陸させて再利用するスペースXの「ファルコン9」ロケ ットも同様だ。  ロケットは高い → 打ち上げ価格を安くすべきである → 使い捨てロケット の価格の内訳はほとんどが本体で、推進剤はごくわずかだ → 本体を再利用す れば良い → 一番回収しやすく再利用の効果が大きいのはどの部位か → 大き くて製造コストがかかり、しかも遠くに飛んでいかずに落ちてくる第1段だ → 回収にはどんな方法がいいか → 付加する重量物が脚だけで済み、しかも 陸上や船上に軟着陸可能で、再打ち上げの整備が容易な逆噴射だ──といった 具合である。  マスクの執念である火星移民も、同様の思考から導き出される。巨大小惑星 の地球衝突のような人類が絶滅する災害は実際にあり得る → 人類が永続的に 生存・発展するためにはどうしたらいいか → 文明のバックアップを宇宙に作 ればいい → 宇宙のどこに作るか → 1日はほぼ24時間、人が住めないほど暑 くも寒くもなく、一応大気があり、ロケット推進剤のメタンと酸素を現地供給 可能な火星だ──というわけである。  だから彼のスペースXは今、火星に行くための巨大ロケット「スターシップ」 を本気で開発している。そこに市場があるとかないとかは関係ない。物事を進 めるために市場が必要なら、市場を作るところから始めてしまう。  どうもイーロン・マスクからは、バナールから70年遅れた「考えるだけでな く行動するバナール」であるような雰囲気が漂ってくる。興味の対象がエネル ギー、宇宙というのも似ている。それだけではなく、彼は脳直結インタフェー スの開発にもかなりの投資をしている。『宇宙・肉体・悪魔』のうち、宇宙と 肉体に関しては具体的アクションを起こしているわけだ。  とするなら、イーロン・マスクに関する次の注目点は、いつ彼が「悪魔」に 手をだすか、ということになるのかも知れない。彼が、彼の会社が開発した技 術に基づいて「社会はどうあるべきか」と言い始めたら、それが次のステップ の始まりなのかもしれない。  おそらく、イーロン・マスクは、バナールの『宇宙・肉体・悪魔』を読んで いるであろう。その上で彼は、「悪魔」の章でバナールが述べる、「変化を受 け入れる者が宇宙に拡散し、旧来の慣習を好む者が地球に残るという未来ビジ ョンにはなにか弱点がある」という指摘に、どのような解を出してくるであろ うか。  年初より始まったコロナウイルスのパンデミックは終息の気配を見せず、そ れどころかアゼルバイジャンとアルメニアが本格的な武力衝突を起こし──世 界情勢は混沌としている。  しかし、今この瞬間も世界のどこかで、人類は確実に前に進んでいる──そ う思わせてくれる一冊である。 【今回紹介した書籍】 ●『宇宙・肉体・悪魔【新版】 −理性的精神の敵について−』 J・D・バナール 著、鎮目恭夫 訳、瀬名秀明 解説/四六判/136頁/ 定価(本体2700円+税)/2020年7月/ISBN 978-4-622-08923-0 https://www.msz.co.jp/book/detail/08923.html 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター。1962年東京都出身。現在、日経ビジネスオンラ イン「Viwes」「テクノトレンド」などに不定期出稿中。近著に『母さん、ご めん。−50代独身男の介護奮闘記−』(日経BP社)がある.その他、『小惑星 探査機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶさ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』 『われらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』 『のりもの進化論』など著書多数。 Twitterアカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2020 ※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します。 https://www.shokabo.co.jp/column/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【電子書籍のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html 【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】お知らせ&編集後記 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇お知らせ ─────────────────────────────────── 1.オンライン講義における弊社出版物のご利用について   https://www.shokabo.co.jp/information/used-online-ed200420.html 2.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」   https://www.shokabo.co.jp/support/index.html 3.裳華房 総合図書目録   https://www.shokabo.co.jp/mokuroku.html 4.電子書籍等についての不審・違法なサイトにご注意ください。   https://www.shokabo.co.jp/stopdownload.html ─────────────────────────────────── ◇編集後記 ───────────────────────────────────  東京は猛暑が続いていたと思ったら、一気に冷え込んできました。くれぐれ も健康にご留意してご自愛くださいませ。                                (TK) ─────────────────────────────────── 次号は2020年11月上旬の配信予定です。どうぞお楽しみに! \\(^o^)// ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★ Shokabo-Newsの配信停止・アドレス変更は下記URLよりお願いします ★ https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html メールマガジンのご意見・ご感想は m-list@shokabo.co.jp まで. ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 自然科学書出版 (株)裳華房 〒102-0081 東京都千代田区四番町8-1 Tel:03-3262-9166 Fax:03-3262-9130 電子メール:info@shokabo.co.jp URL:https://www.shokabo.co.jp/  Twitterアカウント:@shokabo 【個人情報の取り扱い】 https://www.shokabo.co.jp/policy.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright(c) 裳華房,2020      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