裳華房のtwitterをフォローする


裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.366;2020年11月号 11月の新刊/松浦晋也の“読書ノート” ほか

禁無断転載 
→ 「メールマガジンのご案内」に戻る

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.366                2020/11/30   裳華房メールマガジン 2020年11月号   https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ★目次★ ─────────────────────────────────── 【1】新刊案内(11月刊行書籍)    『理工系の数理 ベクトル解析』    『力学 I(新装版)−質点・剛体の力学−』    『力学 II(新装版)−解析力学−』    『工学へのアプローチ 量子力学』    『物理学を志す人の 量子力学』    『物質・材料をまなぶ 化学』 【2】連載コラム 松浦晋也の“読書ノート”(48):    『国道16号線』(柳瀬博一 著、新潮社)    『「色のふしぎ」と不思議な社会』(川端裕人 著、筑摩書房) 【3】お知らせ&編集後記 ─────────────────────────────────── ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】新刊案内(11月刊行書籍) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●『理工系の数理 ベクトル解析』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1589-4.htm 山本有作・石原 卓 共著/A5判/182頁/定価(本体2200円+税)/ 2020年11月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-1589-4 C3041  理学か工学かを問わず、さまざまな分野で必須の数学的素養となっているベ クトル解析を、大学初年級で学ぶ微分積分と線形代数のみを予備知識として、 ていねいに解説する。  とくに、ベクトル解析で現れるさまざまな数学的概念を、読者が具体的にイ メージできるようになることを目指し、流体における例を多くあげて、その物 理的意味についても述べた。  また各章末の練習問題については、巻末におよそ20ページにおよぶ解答を収 めている。 【主要目次】 1.ベクトル代数 2.ベクトルの微分 3.ベクトルの積分 4.積分定理 5.直交曲線座標 ●『力学 I(新装版)−質点・剛体の力学−』  『力学 II(新装版)−解析力学−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2272-4.htm https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2273-1.htm 原島 鮮 著/A5判並製/2020年11月発行/裳華房 (I) 276頁/定価(本体2500円+税)/ISBN 978-4-7853-2272-4 C3042 (II)228頁/定価(本体2300円+税)/ISBN 978-4-7853-2273-1 C3042  あらゆる物理学の基礎であり、出発点であるといえる「力学」を、「行間が 埋め尽くされた」とも評される著者一流の懇切、ていねいな記述でじっくりと 説いていく。その色あせない魅力は、1973年の初版刊行以来、およそ半世紀後 の今日でも、変わらず多くの読者に迎えられ続けていることがよく示している だろう。  このたびの「新装版」では、図版をより魅力的なものにあらためるなど、い っそうの読みやすさへの工夫をほどこした。  (I)では質点の力学、質点系と剛体の力学を、(II)では解析力学、前期 量子論、特殊相対性理論を扱った。 【(I)主要目次】 1.慣性の法則 2.力と加速度 3.簡単な運動 4.強制振動 5.運動方程 式の変換 6.力学的エネルギー 7.角運動量 面積の原理 8.単振り子の運 動と惑星の運動 9.相対運動 10.質点系の運動 11.剛体のつり合いと運 動 12.剛体の平面運動 13.固定点のまわりの剛体の運動 【(II)主要目次】 14.仮想仕事の原理 15.変分法 16.D'Alembertの原理 17.Hamiltonの原 理と最小作用の原理 18.Lagrangeの運動方程式 19.正準方程式 20.正準 変換 21.振動の一般論 22.3体問題 23.前期量子論 24.特殊相対性理 論 ●『工学へのアプローチ 量子力学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2270-0.htm 山本貴博 著/A5判/208頁/定価(本体2400円+税)/2020年11月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-2270-0 C3042  本書は、工学へのアプローチを念頭においた量子力学の入門書である。  量子力学の歴史的な流れにとらわれることなく、早い段階でシュレーディン ガー方程式を導入し、その応用例に触れることで、量子力学的な世界観に慣れ 親しめるように工夫した。また、量子力学の一般論(数学的枠組み)について は、あえて付録にまわすことで、読者の学習スタイルに合わせて本書を使える ようにした。  さらに、大学における半期の講義を想定して、無闇に対象とする系を広げず に、思い切って「1次元系(いわゆる直線上の運動)」に絞ることにし、必要 に応じて2次元系や3次元系への拡張を行うようにした。これによって、数学 的な煩雑さを避けながらも、量子力学の基本的な考え方や本質を学べるように 構成した。そのため、多くの教科書で中心的に書かれている「水素原子」は思 い切って割愛し、一方で、エレクトロニクス分野において重要なテーマとなっ ている「電気伝導の量子論」の基礎を取り扱うことにした。  なお例題や章末問題には、工学系の学習者を意識して、具体的に数値を求め る問題も含めるようにした。 【主要目次】 1.ようこそ! 量子の世界へ 2.量子とは何か? 3.シュレーディンガー方 程式 4.量子力学における測定 5.束縛電子の量子論 6.散乱電子の量子 論 7.周期ポテンシャル中の電子の量子論 8.多粒子系の量子論 9.電気 伝導の量子論 ●『物理学を志す人の 量子力学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2271-7.htm 河辺哲次 著/A5判/328頁/定価(本体3200円+税)/2020年11月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-2271-7 C3042  本書は、基礎からしっかりと学びたいと考えている人向けに執筆された量子 力学のテキストである。  量子力学は、電子などのミクロな粒子がもつ「粒子と波動の二重性」を基礎 にしてつくられており、日常生活の常識が通用しないため、初学者にとっては、 力学や電磁気学を学んだときのような「わかった!」「解けるようになった!」 という“嬉しい”実感がなかなかもてない。  そこで本書では、量子力学が“わかって使える”ようになることを目標に、 数式が表している量子状態の意味や「ここでは何を求めているのか」などの点 についてわかりやすく丁寧に解説し、とくに学習者が戸惑うことの多い「ブラ ・ケットの意味やその扱い方」を懇切丁寧に説明した。また、章末問題の解答 はかなり詳しく記載して、学習の便をはかった。 【主要目次】 1.量子力学のリテラシー 2.前期量子論 3.ミクロな世界を記述する式 4.波動関数 5.量子力学の前提 6.量子力学と古典力学との関係 7.ポテ ンシャル問題 8.調和振動子 9.角運動量と固有関数 10.水素原子  11.ディラックのブラ・ケット記法 12.スピン 13.摂動論 14.量子力学 の検証と応用 ●『物質・材料をまなぶ 化学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3518-2.htm 山口佳隆・伊藤 卓 共著/B5判/192頁/2色刷/定価(本体2600円+税) /2020年11月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-3518-2 C3043  身の回りの物質・材料の本質を見極め、現代社会における化学の重要性をあ らためて認識するために編まれた基礎化学教科書。ナノからミクロ、ミクロか らマクロへと視点を広げ、身近な材料や生命体、ひいては生態系や環境問題に 対する化学の役割と可能性を考察する。  最終章では有機金属化学分野でノーベル賞に輝いた先駆的な三つの研究を題 材に、新規材料開発の実際、研究者の挑戦のありさまを活き活きと伝え、また 日本における物質・材料研究の今後をみすえた「元素戦略」についても詳しく 紹介している。 【主要目次】 序章 化学と物質・材料 1.物質の根源:粒子の概念 2.物質の根源:軌道 の概念 3.ナノからミクロへ:原子と原子をつなぐ化学結合 4.ミクロから マクロへ:分子の構造と分子間の相互作用 5.物質の性質 6.物質を作る: 物質合成デザイン 7.物質を作る:化学平衡と反応速度 8.物質の種類 9.物質と材料 10.生命体を構成する物質 11.生態系を構成する物質  12.環境と物質 13.材料の役割と変遷 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【裳華房 新刊一覧】   https://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【裳華房 分野別書籍一覧】https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】https://www.shokabo.co.jp/support/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第48回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司 さんに、お薦め書籍や思い出の1冊、新刊レビュー等をご執筆いただきます。 今回のご担当は松浦晋也さんです。  ・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/ ─────────────────────────────────── ◆ 社会は自然の中にある ◆ ● 『国道16号線 −「日本」を創った道−』    (柳瀬博一 著、新潮社) ● 『「色のふしぎ」と不思議な社会 −2020年代の「色覚」原論−』    (川端裕人 著、筑摩書房)  今回は、私の知己2人がそれぞれに刺激的な本を上梓したのでその2冊を。  『国道16号線』は、神奈川県横須賀市からぐるりと東京を囲むようにして千 葉県木更津市に至る長大な環状国道の16号線を主題とした博物誌といった趣の ある本だ。  国道16号線は、東京湾の海上区間を含む総延長348.4kmという長大さ、ある いはそこにまつわる文化的エピソードの豊富さから、これまでも様々な研究が 行われ、「16号線もの」というべき多数の本が出版されてきた。私は本書をそ れら「16号線もの」の決定版……ではなく、「総集編」と位置付ける。過去の 16号線ものでは取り上げられなかった新たな視点が加わっているからだ。その 視点とは地質学である。この視点を得たことで、本書はただの総集編ではなく、 新たな知識の遠近法の中に16号線を位置付けている。  著者の柳瀬氏は、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。……という 現職よりも私には「日経ビジネス誌記者の柳瀬さん」というかつての職で認識 されている。目から鼻に抜ける明晰な記事を書くビジネス誌記者だった。大学 に転職し、以前からの執念であった国道16号線に関する興味と知識を本書で一 気に爆発させている。  これまで16号線は、いくつかに分割した上で分析を受けてきた。例えば── 東京都八王子市から横浜に至る部分は「絹の道」と呼ばれ、明治以降、内陸の 養蚕業が生産する絹を横浜から輸出するのに使われて栄えた。同時にこの道は、 相模原市の旧日本陸軍相模陸軍造兵廠と軍港としての横浜を結ぶ軍事道路でも あった。敗戦後、陸軍相模陸軍造兵廠は相模総合補給廠となり、ベトナム戦争 時は戦地に向かう、あるいは補給廠で修理を受ける米軍の兵器が行き来した。 米軍が使ったことから、この道は戦後のアメリカ文化流入ルートにもなった。 その象徴が八王子の呉服店の娘で、後にミリオンヒットを連発することになる ユーミンこと松任谷由実だ──というように。  が、柳瀬氏はそのような部分的な分析を受け入れつつも、300km超の長大国 道を一気にひとつの視野に収めようとする。その観点の基礎が、地形だ。長大 でバラエティに富む風景を見せる国道16号線沿いは、実は一つの地形で共通し ている。小さな水系が台地の端に作る谷と湿地──小流域だ。  著者は、国道16号線が通る地域が小流域の連続であることを示す。そして、 小流域は比較的少人数でも開拓可能で、しかも食糧と水に不自由しないという ことを指摘する。つまり巨大な組織や中央集権的権力でなくても開拓できるの だ。縄文以降の遺跡の分布からは、これら小流域に早くから人が住み着いてい たことが分かる。  逆だったのだ。国道16号線が最初にあったのではなく、少人数で回せる生産 性に富む小流域という地形がつながって存在していたからこそ、そこを結んで 道ができたのだ。  では、なぜ小流域が連続する地形が関東平野に存在するのか。ここで著者は、 地球物理学のプレートテクトニクスに踏み込む。関東平野付近では、オホーツ クプレート、アムールプレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートとい う、四つのプレートがぶつかる地球上で唯一の場所だ。このプレートの複雑な 衝突が、隆起と沈降を起こし、そこに海進・海退の浸食が加わる。その結果、 台地の端に多数の小水系があって小流域を形成する、関東の地形ができあがっ た。  複雑なプレートの衝突が形成した地形の上に国道16号線が成立するという、 なんとも壮大なビジョンである。  この基本認識の上に、歴史・経済・文化など様々な人間社会の要素が重ねら れていく。明治以降の軍の基地の分布、ニュータウンの造成状況、家康以前の 江戸の繁栄、米軍の持ち込んだ音楽と日本のポップミュージックの隆盛、黒澤 明「用心棒」が示す絹の道の経済効果、クレヨンしんちゃん一家が春日部に家 を構えた理由──その手つきは、小松左京著『日本沈没』の中で、異変の実態 を調べるために多種多様なデータを重ねていった田所博士を思わせる。浮かび 上がってくるのは、プレートテクトニクスを起点とした、「地球に生かされて いる我々」の姿だ。  ポップなスピード感で駆け抜ける『国道16号線』に対して『「色のふしぎ」 と不思議な社会』はずっと重い。読後、バスケットボールのような重いボール を思いきり投げつけられたような気分になる。  テーマは人間の色覚の多様性──と書いて、すぐに理解できる人は少ないだ ろう。色覚異常と説明しても分からないかも知れない。かつて「色弱」「色盲」 と言った現象だといって、はじめて「ああ、小学校でオレンジや緑の小さな円 が集まった図形を見せられて検査を受けたあれね」と理解する人が多いのでは ないかと思う。日本眼科学会は2005年に用語改定を行い、差別につながりかね ない「色弱」「色盲」という言葉を廃止した。現在は、見え方に応じて「1色 覚」「2色覚」というような呼び方をしている。  著者は言うまでもなく、科学技術と社会の狭間を行く小説を次々に発表する 作家であり、同時にサイエンスライターでもある。自身も子どもの頃に「色盲」 と診断されたことがある当事者だ。  「オレンジや緑の小さな円が集まった図形を見せられる検査」は考案者の名 前をとって石原色覚検査という。21世紀に入って小学校では、差別につながる として石原色覚検査を行わなくなった。が、最近になって「自らの色覚の問題 を自覚することなく就職時期を迎えるのはまずい」と検査の再開を求める声が 眼科医から上がっている。  この主張に社会的差別の復活を危惧する著者は、今現在、人間の色覚はどこ まで医学と科学で解明されているのかという取材を始める。  21世紀に入ってからの遺伝子工学の進歩で、色覚の研究は長足の進歩を遂げ た。その結果分かってきたのは、かつての「色盲」「色弱」は、人間の色覚の ごく一部しか観察していなかった、という事実である。  我々の眼は、3種類の波長の光に反応する3種類のタンパク質をもち、この タンパク質の反応が神経の信号ととなり、脳内で処理されることで色覚が生ま れる。このほか明暗にのみ反応するタンパク質があり、合計4種類のタンパク 質が視覚の基本となる。  実は魚類、鳥類、爬虫類の眼は5種類のタンパク質を使っている。ところが、 哺乳類はこれが3種類に減ってしまっている。色覚に乏しいのだ。初期の哺乳 類は夜行性だったので、色覚よりも暗視を優先してタンパク質を絞り込んで進 化したと推測されている。  では、人間を含む霊長類はというと、進化の過程で1度3種類に減ったタン パク質の中から変異体のタンパク質を作って、色覚を再度拡張している。森の 中で緑の葉っぱの中から、食べ物となる色鮮やかな果実を見分けるように進化 したのではないかという。が、霊長類の行動観察と遺伝子分析を付き合わせる ことから、必ずしも色覚が豊かだから食物採取に有利になるとは限らないこと も分かってきた。  ここに霊長類、そして人類の色覚に多様性が発生する余地が生じる。  最新の生物学と医学が示す色覚の実際は、驚くべきものだ。かつて「色盲・ 色弱は人口の5%程度で男性が多い」とされてきた。ところが実際には、人口 の4割程度が何らかの「色覚の違い」をもっているのだ。遺伝子の違いや変異 によって、違いには様々な程度差がある。つまり「色盲」「色弱」は、異常で ななく、人類という種があたりまえに抱える多様性のスペクトルだったのであ る。最近になって、自閉症は病気ではなく、通常の人も多かれ少なかれ抱えて いる多様性のスペクトルだということが分かってきたが、色覚でも同じ“コペ ルニクス的転回”が起きていたのだ。  欧米ではこの考えに基づいて、航空機パイロット候補者の色覚を調べる検査 が大規模に実用化されている。著者がそれを受けると、ほんの少し緑と赤の識 別が劣る程度ということが分かった。かつての石原式検査は色覚の変異を検出 できても、どの程度の変異かまでは判定できなかったのだった。「自分は色盲 だ」という自覚が人生に落とした影を思い、著者は複雑な気分になる。  著者は最終章で、このような色覚の多様性をどうやって社会が受け止めてい くべきなのかを考察していく。俎上に上るのは、今もなお「色弱」「色盲」と いう言葉に振りまわされる日本社会の後進性である。  科学は新たな知見に基づく新たな認識を提示している。かつてのように「色 盲・色弱は異常だ」として、一部の職業には就けないというような差別を再度 行うべきではない。むしろ色覚の多様性の存在を前提として、社会制度のほう を組み替えていくべきだ。「人の色覚にはけっこうなばらつきがある」という ことから出発して、どんな色覚の持ち主でもハンデを感じることなく、当たり 前に自分の人生を過ごすことができる社会を作っていく必要があるのだ。  『国道16号線』が、プレートテクトニクスという「我々の身体の外にある自 然」から、我々の社会のあり方を考察していくのに対して、『「色のふしぎ」 と不思議な社会』は色覚という「我々の身体の裡にある自然」を通じて社会の 抱える問題点を指摘する。この2冊は、我々の社会が、人間社会の内側の事情 のみで成立しているのではなく、自然の用意した舞台の上という、限定された 環境下でのみ成立している、という事実を指摘する。  何千万年分もの地殻変動の上に国道16号線と、16号線にまつわる人の営みが 成立し、数億年にも渡る生命の進化が育んできた生態の視覚機能のありようが 「色覚の多様性を社会の中でどう扱うか」という形で、人間社会に影響する。 ともに指摘する問題は、自然科学と人文科学との接点・境界面にある。その結 果、両書は「人類社会が自然を支配し、包摂しているのではない。自然が作り 出した限られた舞台の内側でのみ、人類社会は存続を許されている」という、 当たり前の、しかし日頃社会の内側で生活を営み、人と人との関係の中で暮ら していると、なかなか意識しにくい事実を、ずばりと目の前に提示する。  2冊まとめて一気に通読することをお勧めする。  ところで──2020年11月27日現在、日本は新型コロナ肺炎パンデミックの第 三波の中にある。感染者は指数関数的な顕著な増加を示しており、一部では医 療が追いつかなくなる医療崩壊が起きる可能性が危惧されている。  5月末には第一波をなんとか押さえ込んだのに、なぜ今こんな状態に陥って いるのか。  どうも、今回取り上げた2冊の指摘するところ──人類社会が自然を包摂し ているのではなく、自然が人類社会の存続を許しているのだ──という認識が 関係しているように思える。  第一波nの押さえ込みに力があったのは、北海道大学(現京都大学)の西浦博 教授に代表されるパンデミック研究の専門家たちだった。彼らはウイルス、す なわち自然の性質を探り、それに社会を対応させることで第一波を押さえ込ん だ。  が、その後、政治が表に出て来た。政治は「パンデミックに対応していたら 経済が回らない」とばかりに、経済を回す方向で政策を打ち出した。  その結果がこの第三波ではなかろうか。  ウイルスはウイルスの論理で動く。人間になんの斟酌もしてくれない。しか し、日本の政治はウイルスが、政敵や国民と同じように自分らに対して斟酌な り忖度なりをしてくれると勘違いしてしまったのではなかろうか。人の都合で ウイルスを動かすことができると思い込んでしまったのではなかろうか。  そうではないのだ。繰り返しておこう。人類社会が自然を包摂しているので はなく、自然が人類社会の存続を許しているのだ。人の都合でウイルスは動か ない。人間がウイルスに対応していくしかないのである。  私の危惧が正しいかどうかは、年末には判明するだろう。阿鼻叫喚の巷と化 していないことを切に祈る。 【今回紹介した書籍】 ●『国道16号線 −「日本」を創った道−』 柳瀬博一 著/新潮社/四六判変型/230頁/定価(本体1450円+税)/ 2020年11月/ISBN 978-4-10-353771-7 https://www.shinchosha.co.jp/book/353771/ ●『「色のふしぎ」と不思議な社会 −2020年代の「色覚」原論−』 川端裕人 著/筑摩書房/四六判/360頁/定価(本体1900円+税)/ 2020年10月/ISBN 978-4-480-86091-0 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480860910/ 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター。1962年東京都出身。現在、日経ビジネスオンラ イン「Viwes」「テクノトレンド」などに不定期出稿中。近著に『母さん、ご めん。−50代独身男の介護奮闘記−』(日経BP社)がある.その他、『小惑星 探査機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶさ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』 『われらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』 『のりもの進化論』など著書多数。 Twitterアカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2020 ※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します。 https://www.shokabo.co.jp/column/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【電子書籍のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html 【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】お知らせ&編集後記 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇お知らせ ─────────────────────────────────── 1.オンライン講義における弊社出版物のご利用について   https://www.shokabo.co.jp/information/used-online-ed200420.html 2.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」   https://www.shokabo.co.jp/support/index.html 3.裳華房 総合図書目録   https://www.shokabo.co.jp/mokuroku.html 4.電子書籍等についての不審・違法なサイトにご注意ください。   https://www.shokabo.co.jp/stopdownload.html ◎12月7日から明年2月末まで、上智大学の紀伊國屋書店様にて「裳華房フェア」  が開催されます。  お得なこの機会を是非ご利用ください>上智大学の関係者の皆様 ─────────────────────────────────── ◇編集後記 ───────────────────────────────────  激動というか静謐というか、かつて例のなかった2020年も残すところ1か月 となりました。寒さ厳しい時節柄、どうかご自愛ください。                                (TK) ─────────────────────────────────── 次号は2020年12月中旬の配信予定です。どうぞお楽しみに! \\(^o^)// ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★ Shokabo-Newsの配信停止・アドレス変更は下記URLよりお願いします ★ https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html メールマガジンのご意見・ご感想は m-list@shokabo.co.jp まで. ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 自然科学書出版 (株)裳華房 〒102-0081 東京都千代田区四番町8-1 Tel:03-3262-9166 Fax:03-3262-9130 電子メール:info@shokabo.co.jp URL:https://www.shokabo.co.jp/  Twitterアカウント:@shokabo 【個人情報の取り扱い】 https://www.shokabo.co.jp/policy.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright(c) 裳華房,2020      無断転載を禁じます.



         

自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.