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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.409;2026-05 最近の新刊/松浦晋也の“読書ノート” ほか)

禁無断転載 ※価格表記は配信当時のままです。
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.409                2026/5/28   裳華房メールマガジン 2026年5月号   https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ※前回の配信からかなり間があいてしまいましたことをお詫び申し上げます。 ★目次★ ─────────────────────────────────── 【1】4月・5月の新刊   『数学のとびら 線形空間』   『見てまなぶ 大学の確率・統計』   『物理学レクチャーコース 振動・波動』   『応援ブック 手を動かしてまなぶ 集合と位相     −「行間を埋める」ために+詳細解答−』   『応援ブック 手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換     −「行間を埋める」ために+詳細解答−』   『きちんとわかる くらしを支える化学12講』 【2】6月の近刊   『応援ブック 手を動かしてまなぶ 群論     −「行間を埋める」ために+詳細解答−』   『物理のとびら −力学入門−』 【3】連載コラム 松浦晋也の“読書ノート”(70):   『最後の30秒』(山名正夫 著、朝日新聞社) 【4】裳華房の売上げランキング(2026年1〜3月) 【5】[YouTube]新規公開中! 【6】お知らせ&編集後記 ─────────────────────────────────── ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】4月・5月の新刊 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■『数学のとびら 線形空間』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1211-4.htm 川上 裕 著/304頁/定価3520円(税込み)/2026年4月1日発行/ ISBN 978-4-7853-1211-4 C3041/裳華房  数学を志す学部2年生以上を対象に、1年生で学ぶ線形代数学の続論として、 より抽象的・理論的な視点から、ジョルダン標準形の理論をはじめとした線形 空間論の標準的内容を解説した入門書。  本書ではまず、線形空間の定義と「部分空間」「直和」などの基本概念を説 明し、線形写像の基本的性質、とくに線形写像とその行列表現との関係につい て詳しく述べる。そのうえで、表現行列を簡単にする「標準化」の理論として、 線形変換の対角化、そしてジョルダン標準形を、具体的な計算例とともに丁寧 に解説する。最終章では計量線形空間を扱い、正規直交基底の構成や正規変換 の対角化などを紹介する。  理論の構造や意味を明確に理解してもらえるよう、本書全体を通して丁寧か つ段階的な記述を行い、理解を確認するための「発展問題」を精選して各章末 に収録、すべてに詳しい解答を与えた。線形代数学を改めて体系的に学びたい 人や大学院の数学専攻を目指す人にはとくにおすすめの好著である。 【主要目次】 1.線形空間 2.線形写像 3.線形変換の対角化 4.ジョルダン標準形 5.計量線形空間 ■『見てまなぶ 大学の確率・統計』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1616-7.htm 町田拓也 著/192頁/定価2420円(税込み)/2026年4月1日発行/ ISBN 978-4-7853-1616-7 C3041/裳華房  理系・文系を問わず工学部に進学した初年次学生、特に数学に苦手意識をも つ学生を想定し、確率・統計の基本的な計算ができるようになることを目標に 編まれたテキスト。  例題を解きながら基礎知識が身につけられるような構成とし、計算を進める ために必要な基本事項や公式は、なるべく解説の中で丁寧に紹介した。図によ る説明も多く取り入れ、数学が得意でない方でも取り組みやすい工夫がなされ ている。  全13章のうち、まず第1章と第2章で、データの平均値や分散など、基本的 な統計量の計算を学ぶ。第3章から第12章までは確率論に関する章で、確率の 基本公式、事象の独立性、条件付き確率、そして、よく知られた確率分布に対 する確率の計算を扱う。最後の第13章で、確率論の理論を統計学に応用した例 として、母集団の平均値に対する区間推定を紹介する。 【主要目次】 1.1変量データの基本統計量を求めよう 2.2変量データの基本統計量を求めよう 3.確率の基本公式を覚えよう 4.独立性を理解しよう 5.条件付き確率を求めよう 6.離散一様分布 7.二項分布 8.ポアソン分布 9.幾何分布 10.一様分布 11.指数分布 12.正規分布 13.推定をしてみよう ■『物理学レクチャーコース 振動・波動』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2417-9.htm 加藤雄介 著/A5判/228頁/定価2530円(税込み)/2026年4月20日発行/ ISBN 978-4-7853-2417-9 C3042/裳華房  「振動・波動」は様々な物理現象に共通する重要なテーマである。おもりや 振り子、弦の振動などの力学、電磁波や音波などの電磁気学や熱力学に関連し たり、エネルギーや情報を遠くまで伝えるために利用されたり、さらには、見 えないものを測る上でも重要な役割を担っている。本書では、その振動・波動 の基礎的な知識をまとめた。  とくに、1次元の波動方程式の一般解を与える「ダランベールの解法」につ いて丁寧に解説した。式の形が抽象的に見える(波をイメージしにくい)かも しれないが、一般解を表しているが故に、具体的な関数で考える時にも解法の 方針が立てやすいだろう。あわせて具体的な関数の場合についても解説した。 【主要目次】 1.単振動とそれと等価な振動 2.減衰振動と強制振動 3.2つの質点から成る振動 〜基準振動をマスターしよう!〜 4.多数の質点から成る振動 〜基準振動をもっと増やそう!〜 5.連続体の振動・波動(I)〜波動方程式の導出と解法〜 6.連続体の振動・波動(II)〜初期値問題・固定端・自由端・両端固定〜 7.弦の振動とフーリエ級数展開 8.様々な波 ■『応援ブック 手を動かしてまなぶ 集合と位相    −「行間を埋める」ために+詳細解答−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1610-5.htm 藤岡 敦 著/A5判/62頁/定価550円(税込み)/2026年4月1日発行/ ISBN 978-4-7853-1610-5 C3041/裳華房  現在、好評発売中の『手を動かしてまなぶ 集合と位相』(以下「親本」) のサポート情報(PDFファイル)として無料公開している補助教材「『行間を 埋める』ために」と、書籍に収録している「(節末問題の)詳細解答」を小冊 子としてまとめた。   これらの教材は相当の分量に及び、学習の際に手元で参照できる形にまとめ てほしいとの要望も多かったため、本書を刊行した。親本の理解をいっそう深 めるための補助教材として、あわせて活用していただきたい。 【親本】『手を動かしてまなぶ 集合と位相』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1587-0.htm ■『応援ブック 手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換    −「行間を埋める」ために+詳細解答−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1611-2.htm 山根英司 著/A5判/108頁/定価770円(税込み)/2026年4月1日発行/ ISBN 978-4-7853-1611-2 C3041/裳華房  現在、好評発売中の『手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』 (以下「親本」)のサポート情報(PDFファイル)として無料公開している補 足資料と、補助教材「『行間を埋める』ために」および「(節末問題の)詳細 解答」を小冊子としてまとめた。   これらのウェブ教材は相当の分量に及び、学習の際に手元で参照できる形に まとめてほしいとのご要望も多かったため、本書を刊行した。親本の理解をい っそう深めるための補助教材として、あわせて活用していただきたい。 【親本】『手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1594-8.htm ■『きちんとわかる くらしを支える化学12講』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3534-2.htm 井上正之 著/B5判/204頁/2色刷/定価2970円(税込み)/ 2026年5月25日発行/ISBN 978-4-7853-3534-2 C3043/裳華房  化学の基礎を解説するとともに、くらしの中で利用されている化学を平易に 紹介する教科書。人間の生活に欠かせない衣・食・住、そして健康を維持する ための医薬品は、化学の成果によって支えられている。本書ではこれらに着目 した解説を豊富に加え、人間生活と化学の関連をきちんと理解できる一冊とし た。 【主要目次】 1.原子と分子 2.物質量と化学反応 3.化学反応とエネルギー 4.セラミックス材料 5.電池と電気分解 6.金属材料 7.化石原料からつくられるもの 8.栄養素となる化合物 9.肥料と農薬 10.医薬品 11.繊維と紙 12.合成樹脂とゴム 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【裳華房 新刊一覧】   https://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【裳華房 分野別書籍一覧】https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】https://www.shokabo.co.jp/support/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】6月の近刊 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■『応援ブック 手を動かしてまなぶ 群論    −「行間を埋める」ために+詳細解答−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1613-6.htm 原  隆 著/A5判/202頁/定価1320円(税込み)/2026年5月30日発行/ ISBN 978-4-7853-1613-6 C3041/裳華房  現在、好評発売中の『手を動かしてまなぶ 群論』(以下「親本」)のサポ ート情報(PDFファイル)として無料公開している補助教材「『行間を埋める』 ために」および「(節末問題の)詳細解答」を小冊子としてまとめた。   これらのウェブ教材は相当の分量に及び、学習の際に手元で参照できる形に まとめてほしいとのご要望も多かったため、本書を刊行した。親本の理解をい っそう深めるための補助教材として、あわせて活用していただきたい。 【親本】『手を動かしてまなぶ 群論』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1603-7.htm ■『物理のとびら −力学入門−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2280-9.htm 小鍋 哲 著/B5変形判/128頁/定価2420円(税込み)/ 2026年6月20日発行/ISBN 978-4-7853-2280-9 C3042/裳華房  本書は、物理学の中でも特に「力学」の入門的なことを学びながら、「シン プルな法則に基づいて論理を積み重ねることで、複雑な自然現象を理解する」 という、物理学の基本的な考え方に触れてもらうことを目指したテキストであ る。  物理学の基本姿勢・方法論は、これから物理学を専門としない方々にも、 「理系の教養」としてぜひ身に付けてもらいたい。そのため、本書は、力学の 入門的な内容を一歩ずつ学べるように構成している。高等学校で物理を学んで いない人や、苦手意識があるという人も、安心してほしい。  知識やテクニックの単なる詰め込みではなく、原理的な理解を出発点に、一 つ一つ筋道を立てて思考する──本書が、そんな姿勢を皆さんの中に育む一助 となれば幸いである。 【主要目次】 1.運動学 2.運動を支配する法則 3.力と運動1 −重力と自由落下− 4.力と運動2 −いろいろな運動− 5.仕事とエネルギー 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【電子書籍のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html 【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第70回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんに、お薦 め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます。  ・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/ ─────────────────────────────────── ◆ 日本はアメリカとどうつき合ってきたか、つき合っていくのか ◆ ●『最後の30秒 −羽田沖全日空機墜落事故の調査と研究−』    (山名正夫 著、朝日新聞社)  1966年(昭和41年)2月4日、北海道・千歳空港を出発した全日空が運行す るボーイング727-100型旅客機が羽田空港に着陸する途中で、東京湾に墜落す る事故が発生した。乗組員と乗客を合わせて133人が死亡。日本における大型 ジェット旅客機初の墜落事故であり、当時、単独機の事故としては、史上もっ とも多い犠牲者を出した墜落事故であった。  事故発生の翌日、2月5日に運輸省(現国土交通省)内に全日空機羽田沖事 故技術調査団が設置され、団長に日本大学教授を務めていた木村秀政(1904〜 1986)が選ばれた。木村は日本航空界の大御所であり、昭和初年から敗戦まで の間に長距離飛行の世界記録を樹立した「航研機」の設計に参加したり、日本 ・ニューヨーク間飛行を目指した長距離機「A-26」の主任設計者を務めた経験 をもっていた。敗戦後は日本大学教授として、1952年の航空解禁に合わせて軽 飛行機「N-52」「N-58」「N-62」などを開発したり、国産旅客機「YS-11」開 発にあたっては技術委員長を務めたりと、多彩な活躍をした。  事故調査は難航した。当時の旅客機は操縦席の音声や機体の挙動などを記録 するブラックボックスを搭載していなかった。このため、事故調査は、地上側 に残された交信記録、海底から引き上げられた機体全体の約90%に相当する残 骸などを頼りに進められた。  それでもはっきりした原因は分からず、事故から4年8か月後の1970年9月 29日に、「事故原因は不明」とする最終報告書が運輸大臣に提出され、事故調 査は終了した。  が、ここまでには波乱があった。  事故調査に参加した、東京大学教授の山名正夫(1905〜1976)が、緻密な調 査と実験から「727の機体に欠陥があったことが事故原因だ」と主張したので ある。山名は戦争中、海軍航空廠に技術士官として勤務し、数多の軍用機の開 発に参加した実績をもつ、練達の航空機設計者だった。  調査団長の木村と山名は鋭く対立し、結局、山名は事故調査委員を辞任した。  しかし、山名は諦めたわけではなかった。彼は1972年になって、自らの事故 調査結果を一冊の本にまとめ、出版した。それが今回取り上げる『最後の30秒』 である。  本書で山名が実践していく事故調査の手法は、航空機に限らずすべての事故 調査の手本というべき緻密なものだ。  残された情報は限られている。主要な手掛かりは、回収された残骸だ。残骸 の回収された位置と残骸の様子を緻密に観察し、仮説を立てて、その仮説を適 切と思われる模型実験を構成して証明していく。これを繰り返すことで、題名 にある全日空ボーイング727機が墜落に至るまでの“最後の30秒”に何が起き たかを時系列で整理していくのである。  事故の翌日に事故調査委員に任命された山名は、まず海底からの残骸引き揚 げにあたって、各残骸の発見された位置を可能な限り正確に記録するよう要求 した。衛星測位が存在しない当時、これはかなりの難事だったが、引き揚げ業 者は、かなりのところまで山名の意向に沿って引き揚げを実施した。これによ り、機体のどの部分がどの位置に沈没したかが分かり、そこから機体の破壊が どのように進行したかを定量的に分析することが可能になった。  山名の注目を引いたのは、機体を上から見た場合に右側後部胴体に装備して いた第3エンジン関連の残骸だった。全日空727機は東から西に向けて飛行し つつ海面に接触して墜落した。まず、第3エンジンの上側覆いは機体の進行方 向から見て一番最初に脱落していた。しかも第3エンジン本体は機体の主要な 残骸よりも右方向、つまり北側にずれた位置に沈んでいた。さらに第3エンジ ンの破損は、左側の第2エンジンの破損よりもひどかった。山名はここで、第 3エンジンから機体の破壊が始まった可能性に気がつく。実際残骸は、機体右 後方、つまり第3エンジンの装着された付近が激しく破損していた。また、第 3エンジンの噴射を行うテイルパイプという部位が第2エンジンのテイルパイ プよりも激しくゆがみ、損傷していた。  エンジンは、エンジン前方2本、後方1本の合計3本のボルトで機体に固定 される設計だった。エンジン周辺の残骸についた傷から、これらのボルトのう ち前上のボルトが一番早く破断したことがわかる。では、なぜそうなったのか。 しかもボルトが破断して外れた第3エンジンは、なぜ大きく北側にずれた位置 で見つかったのか。  ここから山名は定量的な考察を行い、さらには模型実験を繰り返して墜落の 状況を再現しようとする。その結果、第3エンジンで異常燃焼が発生してテイ ルパイプが変形し、異常な負荷がエンジン固定ボルトにかかって、前上のボル トが切断、エンジンが脱落したという事故シナリオに到達する。  では、なぜ異常燃焼が発生したのか。  ボーイング727は機体後方に3機のエンジンを装備している。機体が上向き の姿勢を取ると、エンジンには主翼の上下を通過した気流が当たる。そこで主 翼の装備、特にエンジン前方の主翼面に装備している、地上でのみ動作する設 計のグラウンド・スポイラーという速度を下げる装備を調べると、墜落時に開 いていたと判断できる傷の状況であった。ここから、飛行中は開いてはならな いグラウンド・スポイラーが開いてしまったという可能性が出てきた。開いた グラウンド・スポイラーで機体姿勢が乱れ、乱れた気流がエンジンを直撃して (いくつかのプロセスを経て)異常燃焼が発生し、エンジンが脱落したという 事故シナリオが浮上したのだ。  この時期、新型のジェット機を導入した民間航空各社は、飛行時間の短縮に よる高速の旅行サービスを競っており、上空でスピード・ブレーキという装備 を動作させて急速に高度を落として空港に着陸するという、今から考えると信 じられないほど荒っぽい運用を行っていた。ここから、上空でスピード・ブレ ーキを開いたら、誤動作でグラウンド・スポイラーも開いてしまい、第3エン ジンの異常燃焼を誘発してエンジンが脱落というシナリオを描くことが可能に なる。  727はスピード・ブレーキとグラウンド・スポイラーは同じ操作系で開く仕 組みになっていて、空中ではロックがかかってグラウンド・スポイラーだけが 開かない仕組みになっていた。しかし、空中でグラウンド・スポイラーを動作 させない機構の中に使われているクランクは、事故の少し前に「強度が足りな い」という整備情報が出て新型のクランクに交換するようにとボーイングは指 示していた。つまりクランクの強度不足が起点となって、事故が発生した可能 性がある。  しかし、グラウンド・スポイラー動作機構はその全部を回収できなかったの で、山名の調査を物的証拠で裏付けることができなかった。  事故から60年以上を経て、『最後の30秒』を読むと、当時の限られた調査手 法で、山名が実に緻密な事故調査を行っていることに感嘆する。調査途中で山 名は東京大学を定年退官し、明治大学に移った。この変化で、山名の使える研 究資金はかなり減ったと想像される。それでも山名は工夫し、低コストかつ効 果的な実験を考え出し、明治大学の学生たちとともに事故原因へと迫っていく。 その山名が到達した推定事故原因は無理がなく、少なくとも事故の経緯や残骸 などの物証との矛盾もない。  このような山名の主張は、事故調査団団長の木村秀政とは相容れないものだ った。結局、山名は事故調査団委員を辞任し、最終報告書に関わることはなか った。  ボーイング727は、この事故の前年1965年に世界で3件の墜落事故を起こし ていた。本書で山名も触れているが、その設計は性能優先で、旅客機として必 須の安定性とか安全性を確保するための余裕が小さかったのは間違いない。  しかし、全日空機の墜落事故の後、民間航空機の安全対策は飛躍的に進んだ。 機体にはブラックボックスが搭載されるようになったし、機長が一存でその操 縦技量をふるって、ライバル各社と飛行時間の短縮を競うということもなくな った。その意味では、「原因不明」が結論であっても、時間をかけて事故調査 を行った意義は小さくなかったと考えられる。  実のところ、今のタイミングで『最後の30秒』を取り上げた理由は、古手の 航空関係者から次のようなことを聞いたからである。   山名先生は航空技術者としての良心に従い、行動した。しかしあの時、   日本側からボーイングの機体に欠陥があるなどと言い出せば、アメリカ   がせっかく再起動した日本の航空産業を潰しにかかってくる可能性があ   った。だから木村先生は全てを飲み込んで政治的に振る舞うという選択   をし、原因不明という報告書を出して、日本の航空を守ったのだ。  えええっ、そうなのか?!である。が、これまでアメリカがどのようにして 日本を便利使いして動かそうとしたかを考えると、陰謀論としてむげに排除す るわけにもいかない意見である。  サンフランシスコ講和条約以降の日本の政治の中には明らかに、アメリカに 権力を支えてもらって政権に居座るという発想がある。その始祖は、岸信介 (1896〜1987)であろう。岸は1960年の日米安全保障条約改定で、より条約を 双務的にしたが、それは日本をアメリカにとってより便利な道具として使える ようにするということを意味していた。昨今、日本国内における米兵犯罪の扱 いで不平等とされる日米地位協定も、その一部である。  岸の政治資金には今なお謎の部分が多いが、その一部はアメリカからのもの であった。米政府→日本政府に軍用機などを売り込む米メーカー→日本側代理 人→岸、という資金の流れがあったことは複数の筋が証言している。それとは 別に、米公文書の公開状況からも、米政府から岸への資金提供があったことは 確実視されている。規定の年限を過ぎても公開されない岸関連の公文書が少な からず存在するのだ。  私個人としては、1989年から1990年にかけての日米通商交渉での日本の衛星 市場開放が記憶に鮮明である。それまで日本は、護送船団方式の随意契約で日 本メーカーに官需衛星を発注して宇宙産業の育成を図ってきた。が、このとき アメリカから市場開放を要求され、日本政府はあっさりと屈した。日本の衛星 各社の技術は世界一線級とは言いがたく、国際公開調達となった官需衛星市場 は米メーカー製衛星に席巻され、日本の衛星産業は20年以上の後退を余儀なく された。当時私は、宇宙分野を取材する二十代の駆け出し記者だったが、政治 があれよあれよという間に日本の産業を一つ見捨てる様を唖然呆然で見ていた。  その後の「年次改革要望書」に代表される市場開放の美名を借りたアメリカ への譲歩は、そのまま高市早苗現首相の「トランプ大統領の横でピョンコピョ ンコはねてはしゃぐ」までつながっている。  今、明らかに、世界史のフェイズが変化しつつある。米トランプ第二期政権 は、過去一世紀以上にわたってアメリカの外交が世界に積み上げてきた信頼を 破壊しつつある。一度毀損された信頼を取り戻すのは容易なことではない。ア メリカは世界の中心から滑り落ちつつある。  その時、太平洋を挟んだ島国──しかも長年アメリカに依存する政治勢力が メジャーであった国は、未来に向けてどう振る舞うべきなのか。  本書は、60年前の航空機の事故調査のまとめでしかない。しかし、内包する 問題は航空機事故調査を超えて、大変に巨大である。 【今回紹介した書籍】 ●『最後の30秒 −羽田沖全日空機墜落事故の調査と研究−』 山名正夫 著/四六判/428頁/1972年2月発行/朝日新聞社(版元品切れ中) 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター。1962年東京都出身。日経ビジネスオンラインに て足かけ4年にわたって連載してきた「チガサキから世間を眺めて」が今年3 月に終了。近著に『ロケットサバイバル2030』(日経BP社)、『日本の宇宙開 発最前線』(扶桑社)がある。その他、『母さん、ごめん。2』『小惑星探査 機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶさ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』『わ れらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『の りもの進化論』など著書多数。 X(旧Twitter)アカウント https://x.com/ShinyaMatsuura       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2026 ※本コラムは本メール配信後、なるべく早い時期にWebサイトに掲載する予定  です。 https://www.shokabo.co.jp/column/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【4】裳華房の売上げランキング ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  2026年1〜3月(3か月間)ベスト10です。各分野別ランキングは下記サイト をご参照ください。  https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking2026-1.html  なお、いずれも新刊刊行時の書店配本分や、大学等での採用品(教科書)と しての注文分は除いております。 ───────────────────────────────────  ◆◆◆【2026年1〜3月(3か月間)ベスト10】◆◆◆ https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking-best10.html 1.『一歩進んだ物理数学』 橋爪洋一郎 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2832-0.htm 2.『手を動かしてまなぶ トポロジー《基本群》』 古宇田悠哉 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1614-3.htm 3.『みつけよう化学』 山ア友紀 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3527-4.htm 4.『物理学レクチャーコース 物理数学』 橋爪洋一郎 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2410-0.htm 5.『手を動かしてまなぶ 線形代数』 藤岡 敦 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1564-1.htm 6.『手を動かしてまなぶ 集合と位相』 藤岡 敦 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1587-0.htm 7.『手を動かしてまなぶ 微分積分』 藤岡 敦 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1581-8.htm 8.『物理学レクチャーコース 解析力学』 河辺哲次 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2416-2.htm 9.『手を動かしてまなぶ 群論』 原  隆 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1603-7.htm 10.『物理学レクチャーコース 電磁気学入門』 加藤岳生 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2411-7.htm https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking-best10.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【5】[YouTube]新規公開中! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・【龍孫江の数学日誌 in YouTube × 裳華房のコラボ動画 第3弾】    小野孝『数論序説』(2026/4/28) https://www.youtube.com/watch?v=-nYFLzIGLZ0 ・【CM】川上裕『数学のとびら 線形空間』(2026/4/21) https://www.youtube.com/watch?v=lD0_CRa4Ooc ・【手を動かしてまなぶ】対称性としての基本群〜被覆空間のガロア理論〜    【古宇田悠哉先生『手を動かしてまなぶ トポロジー《基本群》』    特別講義《後編》】(2026/4/9) https://www.youtube.com/watch?v=8DneDCtFakk ・【手を動かしてまなぶ】基本群とは何か〜定義から簡単な計算まで〜    【古宇田悠哉先生『手を動かしてまなぶ トポロジー《基本群》』    特別講義《前編》】(2026/4/2) https://www.youtube.com/watch?v=9e9i25fWhXQ ・【手を動かしてまなぶ】行間、埋めてますか?(2026/4/2) https://www.youtube.com/watch?v=5y3123oc2PU ・【手を動かしてまなぶ】こんなシリーズです(2026/4/2) https://www.youtube.com/watch?v=RpQHY6AanD8 ・【書籍紹介】山根英司『手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』   【梅子】(2026/3/17) https://www.youtube.com/watch?v=e7aDEGMnXkM ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【6】お知らせ&編集後記 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇お知らせ ─────────────────────────────────── 1.2026年度 裳華房フェア https://www.shokabo.co.jp/fair/2026fair.html #6〜7月は(東日本にある店舗を中心に)17店の大学生協・書店様にて開催。 2.裳華房のマスコットキャラクター「梅子」 https://www.youtube.com/watch?v=e4jqu4HSIfE 3.「2026-27年度 裳華房 総合図書目録」 【New!】 https://www.shokabo.co.jp/catalogue/ 4.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」 https://www.shokabo.co.jp/support/index.html 5.書店・生協様のページ(注文書、ポップなどがご利用いただけます) https://www.shokabo.co.jp/sales/index.html ─────────────────────────────────── ◇編集後記 ───────────────────────────────────  松浦さんの「読書ノート」で取り上げている1966年の「全日空羽田沖墜落事 故」はじつは弊社にも大きく関係していて、札幌で開催されていた『さっぽろ 雪まつり』に参加された出版業界関係者の多数(『出版百年史年表』によれば 24名)がこの事故に巻き込まれ、弊社の当時の社長(現社長の伯父)もその一 人でした。  改めて事故犠牲者の方々のご冥福をお祈り申し上げます。    (TK) ─────────────────────────────────── 次号は2026年7月の配信予定です。 どうぞお楽しみに!\\(^o^)// ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★ Shokabo-Newsの配信停止・アドレス変更は下記URLよりお願いします ★ https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html メールマガジンのご意見・ご感想は m-list@shokabo.co.jp まで. ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 自然科学書出版 (株)裳華房 〒102-0081 東京都千代田区四番町8-1 Tel:03-3262-9166 Fax:03-3262-9130 電子メール:info@shokabo.co.jp URL:https://www.shokabo.co.jp/  Twitterアカウント:@shokabo 【個人情報の取り扱い】 https://www.shokabo.co.jp/policy.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright(c) 裳華房,2026      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