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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房の“古書”探訪(17)

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鮫島實三郎 著 『物理化學實驗法』 [[初版 昭和2年]

 今回紹介するのは,1927年(昭和2年)にたぶん日本で初めて刊行された物理化学の実験本,鮫島實三郎による『物理化學實驗法』です.
 1977年に刊行された本書の「増補版」は,2013年の現在も,いくつかの大学で教科書として採用されているという,裳華房の超ロングセラー書籍です.

 実験に基づいた物理化学の入門書としてきわめて高い評価を得てきた本書ですが,その特徴の一つに,学習者(学生),教育者(教師),そして研究者の,三者それぞれが各自の立場で本書を読みこなせるよう,各節毎に,学生向けの「練習実験」(主として定量的な実験),教師向けの「講義実験」(主として定性的な実験)の項が(複数)記載されていることがあります.

 以下に,目次(章タイトル)を記しておきます.

1.数値の取扱方/2.質量の測定/3.温度の測定/4.圧の測定/5.容量の測定/6.物質精製法と実験上の諸注意/7.密度の測定/8.物質の体積とその変化/9.多相物質の平衡/10.希薄溶液の性質/11.粘度,拡散および界面現象/12.熱化学/13.電気伝導度とイオンの移動/14.電動力/15.水素イオンの濃度/16.光学および光化学的実験/17.膠質/18.反応速度と化学平衡/19.原子量測定/20.液化気体の実験
               (いずれも新字,現代仮名使いに修正)

 現在刊行されている「増補版」の目次は,下記URLをご参照ください.
 http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3008-8.htm

 初版刊行以来,およそ2年に1回ずつ版を重ね,昭和14年には版を少し組み変えた「改訂版」が,昭和30年には字体や仮名遣い,文体などに大きく手を入れた「新訂版」が刊行されています.
 そして昭和43年(1968年)には,記述や構成を時代に合ったように改めるべく,赤松秀雄博士(東京大学における鮫島の後任)を中心に7名の執筆陣[*1]が加わり,各章を分担して新しく書き直した「新版」が刊行されました.
 その後,初版刊行からちょうど50年目の昭和52年(1977年)に,特に単位について増補した「増補版」が刊行され,これが現在も流通している版です.

 物理化学の進歩を考えると,85年以上にわたって読み継がれているのは,非常に驚くべきことと言えるでしょう.「新版」編纂の中心者であった赤松博士は,「第50版の刊行にあたって」(「増補版」に所載)の中で,次のように述べておられます.

本書は物理化学の最も基本的な事項を実験者が直接自己の体験として理解することができるように書かれている.最近の実験機器の進歩と情報技術の発達は化学研究の方法さえ変えるほどである.しかし一方において,このことから,ややもすると実験者が現象の本質を見失うおそれさえ生ずるようになった.現象の真の理解も,また独創の芽も「手づくりの実験研究」によってもたらされることを忘れてはならない.いわば,クルマで走る代りに足で歩くことに相当する.このことは,教育過程にある学生には特に大切である.本書が永く世に行われている理由もここにあると思う.
http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1927Sameshima-exp/50th-intro.pdf

 その意味では,いまなお物理化学の教育・研究に関わる人に必携の書ではないかと思います.

 著者の鮫島實三郎(さめしまじつさぶろう)は,明治23年(1890年)7月3日生まれ.大正3年に東京帝国大学理科大学化学科を卒業し,アメリカ,イギリス,フランス等の各国に留学した後,東北帝国大学の助教授,教授を経て,大正12年(1923年)に東京帝国大学化学第一講座(現在の物性化学研究室)の教授に就任しました.混合液体の蒸気圧,木炭や鉱物類などによる気体の収着,油滑性などの研究を行い,昭和26年に東京大学名誉教授になられています.
 また大正15年(1926年)には日本化学会の欧文誌を創刊し,また同会の会長を2回(昭和10年と昭和30年)務めるなど化学界の発展に貢献.昭和27年には「膠質学に関する研究」で日本学士院賞を受賞しています.昭和48年(1973年)4月30日死去,享年82歳でした.
 裳華房からは『物理化學實驗法』のほかに, 『膠質学 上巻・下巻』『物理化学教本』などの著書を刊行しています.

 なお本書は,国立国会図書館のデジタルアーカイブで公開(館内閲覧限定)されています.
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1146220

[脚注]

 *1 「増補版」の協力者;赤松秀雄,井口洋夫,佐々木恒孝,立花太郎,田丸謙二,中垣正幸,吉岡甲子郎の七名.


『物理化學實驗法』
    鮫島實三郎 著/菊判上製/508頁/裳華房/初版 昭和2年[1927年]


☆記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで御連絡ください.


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