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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房の“古書”探訪(6)

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トムソン 著『化學と電子』(初版 昭和3年)

 本書は,電子の発見(1897年)や同位体の発見(1913年),また質量分析器の発明などで著名なイギリスの物理学者,J.J.トムソン(Sir Joseph John Thomson)[*1]が著した“The Electron in Chemistry”(1923年)の全訳です.

 原著のサブタイトルに“Being Five Lectures Delivered at the Franklin Institute, Philadelphia”とあるように,トムソンがフランクリン・メダルを受賞した(1922年)ことをきっかけとして,1922〜23年にかけてアメリカのフランクリン協会で行われた5つの講演をまとめたものです(訳者によれば,講演内容を寄稿論文として同協会の会誌に連載した5つの原稿を単行本化したもののようです).

 具体的な内容は,目次[*2]をご参照ください.
  http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1928thomson-denshi/mokuji.pdf

 また,第一章(序論)の全ページ(計29頁)を下記に掲載しました.
  http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1928thomson-denshi/chapter1.pdf

 物理学者であったトムソンは,なぜ“化学”を主題に選んだのでしょうか.著者の序文には次のようにあります.

今世紀二十幾年間の科學の進歩に於て物理學者は此の未到の領域を開拓し始め原子及び分子の概念を明かにし遂に異種の原子相互の差違と如何にして原子が分子に組立てられるかといふ根本的の疑問とを討議する迄に到つたのである。此の問題こそは實に化學者の主題とせる所であるが故に若し近世原子概念にして誤りなしとせば従來永く隔てられて來た物理と化學との障壁は全く取り除かれたと申すべきである。今後新しい物理學の素晴らしい發展は寧ろ化學の方面であらうと思はれる多くの理由がある。……
http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1928thomson-denshi/intro.pdf

 トムソンが元々化学に興味をもっていたこともあります.1903〜1904年に発表されたトムソンの原子モデルは,元素の化学的性質の説明に力を入れ,原子構造に基づいて原子価を説明し,原子価と周期律の関係を明確に指摘するものでした.
 また講演が行われた当時は,その数年前にルイスやコッセルによって提出された原子価論(ともに1916年)によって,原子価の概念の基礎がほぼ確立し,化学結合における電子の役割が注目されていた時期でした.
 その意味で本書は,訳者の序文(上記URL参照)にあるように,“動的な(Dynamical)”原子論ではなく “静的な(Statical)”原子論であり,また当時大いに発展しつつあった量子力学にはほとんど触れていませんが,当時の読者が化学的な知識を整理するのに役立ったものと思われます.

 なお巻末には,「著者の人と為りを偲ぶ消息が大部ある」ことから,1922年に行われたトムソンに対するフランクリン・メダル授与式においてのエームス博士(J. S. Ames)の講演が訳出されています.
  http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1928thomson-denshi/append.pdf


[脚注]

 *1 著者名の書籍表示は,当時の“読み方”でしょうか,「ゼ・ゼ・トムソン」となっています.
    http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1928thomson-denshi/tobira.pdf

 *2 書籍に掲載された目次は,各章内の内容を抜粋した形での表記のため,参考まで,本文中から抜き出した見出を下記に掲載しておきます.
    http://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1928thomson-denshi/mokuji2.pdf


『化學と電子』
  ゼ・ゼ・トムソン 著/北岡 馨・菅沼忠大 共訳/柴田雄次 校閲/
  菊判/182頁/昭和3年(1928年)10月発行/裳華房
  原著:Sir J. J. Thomson, O.M., F.R.S.(1923)“The Electron in Chemistry: Being Five Lectures Delivered at the Franklin Institute, Philadelphia”,The Franklin Institute

☆記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで御連絡ください.


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