オリオン大星雲 M42 (Orion Nebula M42)



オリオン大星雲

トラペジウム
M42はオリオン座の小三つ星の真ん中の星(トラペジウム)のまわりに広がる散光星雲です. 距離は450pcぐらいと言われています.
トラペジウムの星は生まれたばかりのO型星が4つ集まったもので (4つまとめてθ1Oriと呼ばれています), 非常に高温なため,周囲の空間に強い紫外線を放出しています. この4つの星の中でθ1OriCがオリオン大星雲の励起星で, その紫外線を受けてまわりのガスが電離し, 水素の輝線などで光って見えます.
このような若い星のまわりの電離ガスのかたまりは, 電離した水素をHIIと呼ぶことから, HII領域(HII region)と呼ばれています.

資料提供:田鍋和仁(大阪教育大学)

あすか(SIS)で撮影したM42のX線像
あすか(GIS)で撮影したX線像
M42は,大質量星生成領域です. あすか で観測して得られた画像が上図と左図です.

上図は,あすか のSIS検出器で得られた画像で,左上の可視光の画像中に, 青い線で囲まれたところがSIS検出器で観測した場所です. 右上が拡大画像です. その対応をみると,X線で最も明るい部分が, 中心のトラペジウムにあたっています.
また,あすか で検出できたX線天体の多くは, G-M 型星に対応していることが分かりました.

左図は あすか のGIS検出器で得られた画像です.

資料提供:山内茂雄(岩手大学),濱口健二(京都大学)


M42のX線スペクトル
上のスペクトル図は,トラペジウムの中心から1.5分角の場所のスペクトルです. 6.7keV付近に鉄のK輝線が見えていることなどから, 高温プラズマからの熱放射であることがわかります. スペクトル解析の結果, 温度が1000万度と4000万度のプラズマからの熱放射の足し合わせで 説明できることがわかりました. しかし,その2種類のプラズマの起源については, まだわかっていません.

資料提供:山内茂雄(岩手大学),濱口健二(京都大学)

プリズムで撮影したM42
左上の画像は,オリオン大星雲の可視光の星野写真, 右上の画像は, ほぼ同じ範囲をスリットなし分光器で見たときの, スペクトルに分解された画像です. 天体の中には,オリオン大星雲やリング星雲のように, 何本かの輝線で強く光り,連続スペクトルがほとんど見えないものがあります.
このような天体をスリットを付けていない分光器で観測すると, 各々の輝線で光っている天体の姿そのものを, スペクトルの上で見ることができます.

資料提供:国立天文台 岡山天体物理観測所

 
M42の可視光スペクトル
オリオン大星雲のスペクトルは,恒星と異なり, 連続スペクトルは弱く,明るい輝線がめだっています. 図の上で大括弧 [ ] で囲まれたイオンの名前がありますが, それらは禁制線と呼ばれる特殊な線を表しています. 水素のバルマー系列(Hα,Hβ,Hγ,Hδ) や中性ヘリウムの線(HeI)は再結合線と呼ばれます. オリオン星雲の中にある若いO型星(θ1Ori)は,表面温度が非常に高く, 遠紫外線を多量に放射しています.星雲の中のガスはこの紫外線を受けて電離し, イオンになっています.原子から離れた電子は,再び原子と結合して, 基底状態にもどりますが,その途中で高いエネルギー準位から低い準位へと, 順に落ちていきます.その時に放射される光が輝線として観測されます. それが再結合線です.

一方,波長4959や5007Åに見られる強い輝線は,禁制線です. 星からの紫外線で2回電離した酸素イオンの基底準位にある電子が, 星雲の中の自由電子と衝突して準安定状態と呼ばれる準位へと励起されます. この準位からもとの準位へ光を放射してもどる確率はきわめて低く, 地上の実験室などでは衝突によってもどされてしまいます. ところが,星雲の中は密度が極端に低いので,衝突の頻度が低く, 光を放射することになります.ですから,このような禁制線が見えるということは, ガスの密度が非常に低いことを意味しています.

資料提供:国立天文台 岡山天体物理観測所


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