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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
松浦晋也の“読書ノート”

禁無断転載 → 裳華房メールマガジン「Shokabo-News」


第64回 1980年時点における旧統一教と政治権力との関わり

『仮面のKCIA −国際勝共連合=統一教会−』(「赤旗」社会部 著、新日本出版社)

◇注記◇
・この本は現在、版元品切れ中だが、国会図書館の利用者登録と利用規約への同意をすればオンラインで読むことができる。
 https://dl.ndl.go.jp/pid/12090170/
・没後2年近くを経て、歴史的人物として評価する時期が始まったと考えるので、以下「安倍晋三」と表記する。


 ずっと本連載では、大日本帝国と阿片との関係を追って読書を続けてきた。そこからキーパーソンとして岸信介(1896〜1987)が浮かび上がり、岸の政治資金と阿片という問題意識で読み進めていくうちに、岸と安倍寛(1894〜1946)という祖父世代、安倍晋太郎(1924〜1991)という父の世代、そして安倍晋三(1954〜2022)という政治家三代の系譜が見えてきた。
 この三代の系譜のうち、岸信介→安倍晋太郎→安倍晋三という流れには、旧統一教会(現在は、名前を変えて世界平和統一家庭連合)およびその政治フロント団体としての国際勝共連合との関係が張り付いている。
 2022年7月、遊説中の安倍晋三が「旧統一教会に家庭を破壊された」とする山上哲也被告に殺害された。この事件の背景にあるのは、旧統一教会の強烈な反社会性、そして旧統一教会と長年日本の政治に君臨してきた最大与党である自由民主党との癒着であった。しかも、事件から2年近くを経た現在も、その関係は清算されず、継続している。

 はっきり異常事態だ。

 このあたりの関係を書き込んだ本はないものか、と探していって見つけたのが、今回取り上げる『仮面のKCIA −国際勝共連合=統一教会−』だ。著者が「赤旗」社会部となっていることから分かるように、日本共産党の機関紙「赤旗」での連載を単行本化したものである。「赤旗」は単なる共産党のプロパガンダ紙ではなく、共産党の主要資金源でもある。つまり共産党員および共産党支持者層のみならず、一般にも販売していかねばならないという性格も持つ。でなければ、十分な資金を集めることができないからだ。
 そのため「赤旗」は、日本のどの全国紙にも負けない非常に高い調査能力を持ち、過去にいくつものスクープをものにしている。
 本書は、今から44年も前の1980年に出版されているのだが、読んで驚いた。現在問題になっている旧統一教会関連の問題が、1980年の時点で大変正確に描き出されているのである。

 『仮面のKCIA』というタイトルではあるが、大韓民国中央情報部(KCIA)に関する記述は比較的薄い。旧統一教会の海外進出に、KCIAが強く関わったということに限定されている。KCIAについて知りたければ、別途書籍を探さねばならないだろう。
 その一方で、旧統一教会の出自、教義、その組織の性格、1970年代後半時点での日本における活動、そして日本の政治、なかでも日本の右翼との関係に焦点を当てて解説していく。その記述は精密で、なぜ旧統一教会のようなカルト宗教が成立し、しかも国際政治と結びついて世界進出したかがはっきりと分かる。
 本書前半は、1970年代の日本における旧統一教会の活動についての詳細な調査だ。どのような手段で一般人を勧誘し、強力な洗脳で熱烈な信者に仕立て上げるか。信者をどのようにして過酷な労働に従事させて、収益を上げるか。また労働の実態はどのようなものか。集団結婚式はどのようなものか。儀式の実際はどのようなものか。その内実は、実際に結婚した者の生活はどんなものなのか──半世紀近く前に、これだけ調べられて明らかになっていたのか、と驚くばかりだ。

 しかし、2024年現在、本書を読む価値は、旧統一教会と当時の世界情勢の中における政治権力との関わりの記述だ。
 旧統一教会は、KCIAのフロント組織になることで勢力を拡大した。つまりは韓国外におけるKCIAの活動の隠れ蓑である。その過程で、セックスを基本とするカルト宗教から、反共産主義を掲げる政治カルトとしての性格を強め、日本の政治と癒着していったのである。

 旧統一教会のルーツは1930年代の日本植民地時代に、李龍道と黄国柱という2人の宗教指導者が朝鮮半島で興したキリスト教系カルト宗教にある。李と黄は、キリストの化身と自称し、自らと交わると原罪が浄化されるとして女性信徒を集めて性交にふけった。
 ここまでは歴史に度々登場するセックス系カルトの一つでしかない。セックス系カルトは決して珍しいものではない。生殖を律すれば、宗教は法による権力とは別の形で世俗的権力を得ることになるからだ。既存宗教が婚姻の儀式を司るということの極端な延長線の先に、セックス系カルトは位置している。
 信者を集めて性的儀式を行うというだけでは、教祖の性欲を満足させる私利私欲としてのカルトでしかない。ここに金百文という理論家が加わって、後の旧統一教会につながる体系的な教義ができあがる。
 金は、エデンの園の最初の人間、アダムとイブが悪魔の化身である蛇の誘惑に負けて知恵の実を食べ、楽園を追放されるという聖書の記述を、悪魔が人間と淫行にふけり、その結果、悪魔の“不潔な血”が人間の身体に入り込んで堕落してしまったことを象徴的に記述したもの、と読み替えた。その子孫たる今の人間も穢れて堕落しているので、宗教的に浄化しなくてはいけない。すなわち、キリストの化身たる教祖との“血分け”、はやい話が性交だ。教祖と性交した女性は浄化されているので、さらに別の男性と性交することで、男性をも浄化することができる。つまりセックスを通じて教団を拡大できる論理である。これが後の統一教会による集団結婚式を正当化する論理として拡大していく。

 そこに朴泰善という詐欺師的素質の持ち主が加わる。朴は「東方の義人」「救世主」と自称し、信徒を限界まで働かせて搾取し、富を得るテクニックを開発した。
 これらの人物に学んだ文鮮明(1920〜2012)が1954年にソウルで立ち上げたのが、「世界基督教統一神霊教会」、すなわち統一教会である。
 セックスを“血分け”というあたかも聖なる行為であるかのような印象の言葉で置き換えたところに、混淫・血分け運動の独創性がある。血分けという特有の言葉からは、家族の絆を異常なまでに強調する家族主義が発生する。旧統一教会の家族主義は、家長たる教祖への絶対的な帰依へと昇華する。さらには、血分けという文字面から教祖の血液や体液を酒などに混入して教徒に服用させるという異常行為が正当化され、常態化していく。

 世界基督教統一神霊教会は翌1955年には早くも2つのスキャンダルを引き起こす。ひとつは梨花女子大学の女学生多数を信徒に引き込んだ梨花女子大事件、もうひとつは教団内で行われている性的儀式の実際が東亜日報紙で暴露された混淫事件だ。この結果、文鮮明以下教団幹部は逮捕された。
 が、この逮捕がどうも旧統一教会と権力との接点になったようだ。事件の後、世界基督教統一神霊教会に軍の諜報関係者が入信しているのである。つまり、権力がなんらかの謀略の道具に使えると考えて、世界基督教統一神霊教会を拾ったのだ。
 その直後、1958年から、旧統一教会は日本進出を開始する。

 軍の諜報機関がカルト宗教を拾い上げた理由は、ほぼ間違いなく諜報活動を隠蔽するフロント組織として使えると考えてのことだろう。
 李承晩政権下で、韓国軍は対敵諜報部隊(CIC)という諜報組織を持っていた。1961年5月に朴正熙(1907〜1979)が軍事クーデターに成功して独裁政権を樹立すると、すぐにCICメンバーを中心としたより強力な諜報機関の大韓民国中央情報部(KCIA)が設立される。KCIAは対外インテリジェンスだけではなく、韓国国内の反政府勢力の監視・弾圧から一般市民の動向監視までを担当する組織として活動を開始した。
 このKCIA初代部長に就任した金鍾泌(1926〜2018)が、統一教会を対外諜報活動のフロント組織として活用すべく組織化する。文鮮明もまた、その要求に積極的に答えていくことで、組織を拡大しようとした。
 KCIAのフロント組織としての旧統一教会のキーワードが「反共」であり「勝共」だ。アメリカとソ連が冷戦で対峙していた1950年代から1980年代にかけて、西側社会における共産主義への恐怖はかなり強いものだった。KCIAとの関係を持ったことで、旧統一教会の活動の核は、「セックスと搾取」に加えて「反共・勝共を掲げて政治と癒着する」が大きな意味を持つようになる。文鮮明は反共・勝共の一方で、北朝鮮との関係も構築していく。主義主張よりも、文鮮明の「他人を自分の前にひざまづかせたい」という支配欲が優越していたとみるベきだろう。

 旧統一教会は日本進出で、岸信介との関係を構築した。進出当時の日本本部は、東京都渋谷区南平台町の岸邸の隣にあった。資料により偶然とも、最初から反共姿勢の岸との関係構築を目指してその場所に本部を構えたとも言われているのだが、ともあれ岸との関係構築に成功したことで、1964年に旧統一教会は宗教法人としての認証を得る。岸は旧満洲国の要人であり、一方、朴正熙は満洲国陸軍軍官学校を卒業した満洲国軍人出身。この関係が、なにか旧統一教会と岸との関係に影響しているかどうかは、はっきりしていないが、気になるところではある。
 文鮮明にとって日本は、第一に金蔓であった。高度経済成長期に入った日本で信者を獲得して搾取したほうが、韓国で同じ活動をするより儲かったのである。教義的にも、かつて植民地支配で朝鮮を苦しめた日本は、朝鮮に贖罪すべきとして、日本での搾取を正当化し、一層の信者獲得に注力する。

 本書後半のハイライトは、1967年7月15日〜16日に行われた、文鮮明と日本の右翼の大立者・笹川良一(1899〜1995)との会談だ。議題は、国際的な反共産主義組織の立ち上げについて。翌1968年に設立される国際勝共連合のことである。場所は、富士の裾野・本栖湖畔の本栖厚生施設・水上スポーツセンター。ここには、笹川が仕切っていた公営ボートレースの選手を養成する訓練校があった。本書は緻密な取材で、会議に誰が出席し、なにが話し合われたかを明らかにしていく。
 笹川に話をもちかけたのは文鮮明のほうだった。背後には、日本の政治に食い込みたい朴正熙政権およびKCIAからの指令があった模様だ。ところが反共産主義といっても、日本の右翼と旧統一教会は同床異夢もいいところだった。
 旧統一教会は、日本の天皇を朝鮮に贖罪すべき存在ととらえていた。それは日本の右翼と到底相容れるものではない。その一方で笹川には、国際的な反共組織を立ち上げることで自分のステータスを上げて、ライバルの児玉誉士夫(1911〜1984)に対抗したいという思惑もあった。
 その結果、1968年4月に、主に旧統一教会側のメンバーを中心に、笹川を名誉会長とした国際勝共連合が結成される。国際勝共連合は、政治団体として、日本の与党である自由民主党の右派に食い込んでいく。
 そのための資金は、日本での信者獲得と、その日本人信者を有名な開運の壺販売や高麗人参エキス販売などのインチキビジネスに動員することで賄われた。カネだけではない。言うがままに働く旧統一教会信者は、政治家にとって大変便利な運動員だったのである。同じ反共という理念を共有するなら、自民党右派の議員にすれば、宗教カルトと関わっているという罪悪感は薄れ、政治理念を同じくする同志という意識になる。そして、身近に政治秘書などのポジションで旧統一教会の信者がいて、日常的に会話をしていれば、政治家もまた旧統一教会の思想から影響を受ける道理だ。軽度の洗脳といってもいい。
 つまり、KCIAのフロント組織が旧統一教会であり、旧統一教会の日本の政治を攻略するためのフロント組織が、国際勝共連合であった。

 第二次世界大戦と朝鮮戦争という混乱の時期を経て、朝鮮半島に誕生したセックス系宗教カルトは、韓国の朴正熙独裁政権に道具として拾われ、さらに冷戦がもたらした反共というキーワードを利用して、怪物と化していった。そして、日本の一般社会に浸透して経済的に搾取するのみならず、政界にまで浸透し、日本の政治を歪めてきたのである。

 ここで、日本の側から旧統一教会の日本進出を考えてみよう。岸信介が、旧統一教会を反共産主義という観点から自分の持ち駒として使えると考えたことは想像に難くない。岸は大変頭が良く、そして没倫理だ。自分に火の粉が降りかかることには絶対に手を出さない。「自分の能力ならこの危険な奴らを御せる」という判断であったと思われる。判断の根拠に、岸と朴正熙の関係があったとしても不思議ではない。
 岸と旧統一教会の関係がなければ、笹川良一も文鮮明のもってきた国際勝共連合の構想に手を出さなかったのではなかろうか。なにしろ天皇に対する態度がまったく正反対だ。旧統一教会と組んだことで、笹川が右翼のテロに遭うという可能性だって考えられたであろう。
 かくして旧統一教会は、高度経済成長で経済大国になった日本から、洗脳と搾取で利益を吸い上げることに成功する。
 が、岸信介とて不死身ではなく1987年に没する。コネクションが、安倍晋太郎に引き継がれたことは間違いない。安倍晋太郎はコネクションを維持したが、それ以上に積極的に利用したかといえば、よく分からない。岸の娘・晋太郎の妻であった洋子夫人は、息子の安倍晋三に「旧統一教会とあまり関わるな」と言っていたという話もある。それは、抜群の頭脳を持つ父でもなければ、とても利用できるものではなく、逆に利用されるという判断ではなかったろうか。

 安倍晋太郎は1991年に死去し、後を安倍晋三が継ぐ。オウム真理教の事件の後、捜査当局は旧統一教会の摘発を目指していたが、政治の介入で挫折したという話がある。ここで安倍晋三が動いたかどうかは分からない。母の教えを忠実に守っていたとも考えられる。いずれにせよ、国際勝共連合の活動で築いてきた自民党との関係が、捜査当局に圧力を掛けるにあたって役立ったとは言えそうだ。
 安倍晋三と旧統一教会との関係は、2012年の第46回衆議院選挙での自民党圧勝と、その後の自民党総裁選、第二次安倍内閣組閣のあたりから急速に復活したらしい。再度の総裁挑戦にためらう安倍晋三を、安倍派長老たちが叱咤した後だ。ここから、「総裁が癒着するなら」と、自民党議員と旧統一教会との癒着が一気に進行する。そして、安倍晋三には、祖父の持っていた抜群の頭脳も、韓国政界中枢とのコネクションもない──。

 以上、私の推論でしかないことに注意してほしい。あくまで、本書を読んだ上での感想でしかない。が、そう大きくはずれているわけでもないのでは、という気がしている。

 2024年現在、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)には解散命令請求が出ている。が、手続きはなかなか進んでいない。癒着が指摘された自民党、あるいは自民党以外の議員も、関係を断ち切るとは明言していない。
 大きな動きがないので、メディアに旧統一教会関連ニュースが出ることも減っている。政治の側としては、このまま忘却されるがままにしたいという感触である。問題発覚後、旧統一教会関係のホームページはすべて消えたが、なぜか国際勝共連合のページは消えず、今も活発に更新している。32年以上昔の1991年12月にソ連は崩壊したというのに、今も勝共という名称はそのままだ。

 しかし、事は政権党と外国諜報機関の後ろ盾を持つ(あるいは持っていた)宗教カルトとの癒着という、大問題である。
 私は、このまま、はっきりと決別できない状態が続くのなら、この問題は、1955年以来の自民党という大政党を終焉に導くのではないかという気がしている。


【今回ご紹介した書籍】 

●『仮面のKCIA −国際勝共連合=統一教会−
「赤旗」社会部 著/四六判/298頁/1980年5月15日刊/新日本出版社

※国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/12090170/

「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(c) 松浦晋也,2024
Shokabo-News No. 393(2024-2)に掲載 

松浦晋也(まつうらしんや)さんのプロフィール】 
ノンフィクション・ライター。1962年東京都出身。現在、日経ビジネスオンラインにて「チガサキから世間を眺めて」を連載の他、「Modern Times」「Viwes」「テクノトレンド」などに不定期出稿中。近著に『母さん、ごめん。2──50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』(日経BP社)がある。その他、『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶさ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』『われらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『のりもの進化論』など著書多数。
Twitterアカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura


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