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第3回 ゴジラをめぐる研究者たちの“熱い”想い『ゴジラ生物学序説』(SUPER STRINGS サーフライダー21 編著,ネスコ)
編集者のCです. 書籍の内容は,大学の医歯薬系学部,化学系メーカーなどに勤める若手の研究者が,怪獣ゴジラが本当にこの地上に存在していることを“前提”として,彼らの生物学の知識をフルに用いてゴジラを論ずるという,一種の思考実験の趣のあるものです.私の知る限り,架空の事象を対象として真面目に科学的な議論を行っている書籍というのは,当時では珍しい部類に入るのではないかと思われます. では,私の独断で印象に残った内容をかいつまんでご紹介しましょう. 本書の考察によれば,まずゴジラには,頭部の他に腰の部分に脳がある(文中では神経組織のコブと表現)と見ているようです.これは,なにもその場のコジツケではなく,ステゴザウルスやダチョウといった事例を元に推測しています(実際に1993年公開の『ゴジラVSメカゴジラ』では,ゴジラの腰部に“第二の脳”が存在する描写があります). 次に,ゴジラといえば放射能火炎ですが,俗に「放射能溜り」から吐き出しているのではなく,骨に蓄えていると見ています.具体的には,原発を襲うことで骨に主にストロンチウム90を蓄積して(1984年公開の『ゴジラ』では,井浜原子力発電所(架空)を襲撃し,破壊した原子炉格納容器より放射性物質を吸収する描写があります), 副甲状腺ホルモン(PTH)に似たホルモンにより血中にストロンチウム90を放出することで,火炎を吐き出していると結論づけています.これもコジツケではなく,陸上脊椎動物での骨の吸収と形成において, PTHの働きにより血中カルシウム濃度が変化する事例を元に推測しています. また本書は,ゴジラを系統分類上,竜盤目・獣脚亜目・カルノサウルス下目に二足歩行で陸上・水中共に活動できる新設の「ゴジラサウルス科」への分類を提言しています(1991年公開の『ゴジラVSキングギドラ』では,第二次世界大戦当時のマーシャル諸島・ラゴス島(架空)でゴジラの前身となった生物の描写があります).しかし,これには異論があって,雑誌「科学朝日」(1994年1月号,現在は休刊)では,対向する指とベタ足で直立二足歩行する様子から,脊椎動物門直下に「霊竜綱」の新設を提案しています. 著者たちの熱い想いが感じられませんか? 柳田理科雄氏とは違った視点からの論考ですが,私にとって印象に残る一冊となっています.1998年には扶桑社から文庫版が刊行されましたが,単行本・文庫本どちらも品切れとなっており,入手が難しくなっています.
【今回ご紹介した書籍】 「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2013 ※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください. |
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