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第10回 レイチェル・カーソンが最後に伝えたかったこと『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン 著,新潮社)
編集者のDです. 海洋生物学者であったカーソンは1958年,友人からの手紙をきっかけに『沈黙の春』の執筆に取りかかります.ガンと闘いながらも1962年に『沈黙の春』を完成させ,残された時間で,1956年に雑誌に掲載されたエッセイをふくらませて単行本にしようと考えていたそうです.しかし,病に打ち勝つことはできず,1964年にこの世を去ります.その後友人達の手によってこのエッセイに自然の風景の写真が加えられ,彼女の遺作として出版されたのが『センス・オブ・ワンダー』です. 本書では,カーソンが姪の息子のロジャーと共に自然を探索した体験が詩のような文章で綴られ,子供たちに「センス・オブ・ワンダー…神秘さや不思議さに目を見はる感性」を育むことの大切さが語られています.カーソンがもつ自然への豊かなまなざしはそのままに,『沈黙の春』とはまた違った彼女の一面を見ることができます. 先述のような経緯で世に出た本書は,「最後の仕事」としてカーソンが伝えたかったことに対しては不完全なものなのかもしれません.しかし,多くの人の手を経てもなお残る「行間」とでもいうべきものに,私は強く心惹かれました.コンパクトなページ数の中に込められた想いをじっくり味わっていただきたい一冊です. なお,原書と翻訳版はそれぞれ異なる写真で構成されており,どちらもとても美しいものです.入手しやすい翻訳版はもちろん,現在は原書も電子書籍版が簡単に入手できるので,ぜひご一読をおすすめします.
【今回ご紹介した書籍】 「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2014 ※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください. |
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