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第11回 「『わかる』って何だろう?」『畑村式「わかる」技術』(畑村洋太郎 著,講談社現代新書)編集者のEです.今回は『失敗学』(講談社から2005年に刊行)の著者として有名な畑村洋太郎先生の本を紹介したいと思います. 私は物理学の教科書の編集を主に担当しているのですが,著者の先生から頂いた原稿を拝読する際には,「この説明で読者が『わかる』だろうか?」ということを念頭に置いて編集作業にあたるようにしています. さて,この「わかる」という言葉,これは具体的にどういう状態を指す言葉なのでしょうか? 普段良く使う言葉ではありますが,具体的に説明しようとするとなかなか難しいのではないでしょうか.本書は,この「わかるとは何か」という問いを考える上で,たくさんのヒントを与えてくれます. 畑村先生によれば,人は,見たり聞いたりした物事と,自分の知識や過去の経験に基づいて自らの頭の中に構築した「テンプレート」を無意識のうちに比較しているそうです. たとえば,りんごを見たときを考えてみましょう.大雑把に言うと,りんごは「赤い」,「丸い」という特徴を持っています.そして私たちは,そのようなものを「りんご」として認識しており,「赤い」,「丸い」といったような特徴を,りんごの要素のテンプレートとして頭の中に持っています.細かく分けると他にも要素はありますが,その二つの要素を持っている物体を見ると,「頭の中のりんごの要素のテンプレート」とかなりの確率で一致し,私たちは「りんごである」と認識する,ということになります. 本書では,上記のりんごの例を「要素の一致」といい,他にも「構造の一致」,「頭の中で新たにテンプレートを作る」ことが,物事を「わかる」状態の例として挙げられています. さらに,上述のようなことを踏まえ,学習者の頭の中に新たにテンプレートを作ることができない既存の教科書の限界や,ある一定の枠組みでしか成り立たない「形式論理」へと話が発展します. 形式論理の具体例として,物理学の熱力学,統計力学が挙げられており,粒子の集団を巨視的に捉え,一つ一つの粒子の動きは無視する熱力学の限界に触れています.熱力学など,ある一定の範囲で成り立つ理論体系のテンプレートを頭の中に入れても,どの範囲で成り立つのかを把握していないと「わかっているつもり」になってしまう危険があるそうです. メルマガ購読者の皆様であれば,自然科学などを「わかる」ことに関心が高い方が多いかと思います.ぜひこの機会に,本書を読んで「わかる」とは何なのか考えてみませんか?
【今回ご紹介した書籍】 「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2014 ※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください. |
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