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第13回 原始重力波の観測が正しいことを期待して『インフレーション宇宙論』(佐藤勝彦 著,講談社ブルーバックス)
編集者のAです。今年3月に(原始)重力波の痕跡となる電波が初めて観測されたというニュースに、「ついに見つかったか」と心躍った方も多かったのではないでしょうか。私も、まさにその一人です。 そんな興奮もあって、以前に読んだ本書を自宅の本棚から見つけ出し、改めて読み直しました。「はじめに」に書かれているのですが、本書は佐藤先生が初めてインフレーション理論を中心にして書いたもので、数式や難しい表現をほとんど用いていないため、一般の方でも親しめるようになっています。 佐藤先生ご自身は、この理論を「指数関数的膨張モデル」と名付けていたこと、そして、先生とは独立に、およそ半年後にアラン・グース氏が同様の理論を提唱し、それを「インフレーション」と名付け、その後、この呼び名が一般的になったことが本書の冒頭に書かれています。私は、本書で初めてそうした経緯があったことを知りました。 本書は、インフレーション宇宙論とはどういう理論なのかということを単に解説しているのではなく、この理論が誕生するまでの宇宙論の変遷、従来の宇宙論が抱えていた課題、インフレーション宇宙論が誕生した背景、インフレーション宇宙論の証拠となる観測結果や新たな謎、この理論が予測する未来の宇宙像について書かれていて、全体のストーリー展開もとても興味を抱かせるものとなっています。
私自身が特に興味をもって読んだのは、次のような点でした。 また佐藤先生は、第4章の「インフレーションが予測する宇宙の未来」の冒頭において、この章の内容を読むに当たっての注意として、次のように記しています。 ……確かめられなければ、それは科学ではなく単なるお話にすぎませんから、論文としての価値は認められないのです。ですからこれから説明することも、単なるお話であって、科学ではないということを踏まえて読み進めてください。 本書が専門家向けの本ではなく一般の方々を対象とした本であるからこそ、誤解を与えないようにとの佐藤先生のご配慮もあって、この章の冒頭にはあえてこのように記したのだと感じました。 そして、私が最も魅かれた一文(東京大学を定年で退官する際におっしゃったという一言)を以下に記します。 いま、宇宙論は初めて軌道に乗ったところであり、これからどんどんやるべきことがあるのだ なぜ佐藤先生がこの言葉をおっしゃったのか、その背景にある先生のお考えについては、ぜひ本書を読んでみてください。
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