第20回 著者の空想世界で闊歩する,5000万年後の異形の動物たち
『アフターマン −人類滅亡後の地球を支配する動物世界−』 (ドゥーガル・ディクソン 著,ダイヤモンド社)
編集者のCです.
突然ですが,皆さんは「人類が絶滅した後にどういった生物が地球を支配するのか」とお考えになったことはございませんか? 「いやいや,そんなこと分かるわけがない!」とおっしゃる方が大半ではないでしょうか.今回は,そんな空想科学にチャレンジした『アフターマン−人類滅亡後の地球を支配する動物世界−』という書籍をご紹介します.
まず目を引くのは,表紙カバーの奇抜な(!)動物です.ネズミなのか何なのか,絵からは耳が三つあるようにも見えますが,これは,本書によると“ナイトストーカー”といってコウモリの子孫とのことらしいです.目は既に退化し,超音波を受ける耳と鼻葉(耳ではなかったんですね)が異様に発達しています.夜になると甲高い金切り声を上げて森の中を歩き回り,動物を見境なく歯と鉤爪で襲い捕食するそうです.
この他にも,草食動物をハサミのような臼歯で襲うイヌによく似たネズミの子孫や,獲物を鎌のような鉤爪で一撃する捕食動物と化したヒヒの子孫,顔面を色鮮やかな花に擬態して昆虫を捕食する渡りの習性をなくしたコウモリの子孫など,奇抜なデザインの動物たちがフルカラーの精緻な図で描かれています.
これらの動物たちは,人類すべてが死に絶えた今から5000万年後の地球に生息しているであろうという設定でして,祖先にあたる種と比べると似ても似つかぬ異形の怪物のようにも見えてきます.しかし,当てずっぽうの妄想ではありません.生物学の基本原理である,適応,特殊化,収斂,放散をもとに再現されています.
凄いと思うのは,よくもまあ何種類もの“未来の”動物たちを創造することができるものだなぁ,ということです.これらの動物を創造するためには,生物学の知識だけでは足りません.地質学やプレートテクトニクス理論なども援用しないといけません.膨大な時間と手間がかかったと思われます.だからこそ,読む者にとって説得力のある魅力的な書籍が出来上がったのではないでしょうか.著者ひとりの空想だけでここまで構築してしまった能力には,ただただ感嘆せざるを得ません.
生物学に詳しくない方でも,著者の空想世界が創り上げた異形の動物たちを眺めているだけでも楽しむことができます.そんな空想に浸りたい方に是非お勧めの一冊ですが,残念ながら1982年(旺文社)と1990年(太田出版)に刊行された大型本も2004年に出版された単行本(ダイヤモンド社)も,いずれも在庫切れとなっています(下記の書誌データはダイヤモンド社版).中古本が売られているネット書店などがあるようですので,ご興味を持たれた方はそちらでご購入いただくか,または図書館等でお探しいただければ幸いです.
【今回ご紹介した書籍】
『アフターマン −人類滅亡後の地球を支配する動物世界−』
ドゥーガル・ディクソン 著/今泉吉典 監訳/264頁/
定価2640円(本体2400円+税10%)/2004年7月発行/ダイヤモンド社/
ISBN978-4-478-86046-5(品切れ中)
https://www.diamond.co.jp/digital/q5hod50000004t4u.html
※上記URLは電子書籍版です。
「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2014
Shokabo-News No. 306(2014-12)に掲載
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