第21回 12年ぶりの新作は科学“名著”のガイドブック!
『ドミトリーともきんす』(高野文子 著,中央公論新社)
編集者のDです.
非常に寡作ながらコアな読者の支持を集め,新作が発表されるたびにニュースになる,そんな作家さんたちがいます.その中のひとり,漫画家・高野文子氏の待望の新刊が昨秋に発売されました.前作から数えて12年ぶり(!)となるその作品は,なんと科学者の著書のブックガイドとなっています.これは手に取らないわけにはいきません.
というわけで,今回は高野文子『ドミトリーともきんす』をご紹介します.
本書では,学生寮「ドミトリーともきんす」を舞台に,寮母のとも子さんと娘のきん子ちゃん,そしてまだ学生であったころの名だたる科学者たちの交流が描かれています.登場人物たちのキャラクターは彼ら自身の著書から生み出されたものだそうで,それぞれの著書からの引用や書籍の解説文も充実しています.
なにやら苦悩している朝永振一郎,ロマンチストな中谷宇吉郎,ひょうひょうとした湯川秀樹と,どちらかというと物静かに描かれる科学者たちの中で,植物学者・牧野富太郎の小粋でいきいきとした描写が印象に残りました.自らの足で数多くの新種を発見し,それ以上にたくさんの植物画を残した牧野博士が,高野氏の目には近しい存在に映ったのでしょうか.
さらに,最終話が圧巻です.湯川博士の「詩と科学」−いずれも自然を観察するところから始まり,その後は違う方向に向かうけれど,行き着く先は同じなのではないか−という詩が,技法を凝らした高野氏の漫画で見事に表現されています.
高野氏が描いた科学の世界,詩と科学が行き着いた先を,ぜひご覧いただきたく思います.
【今回ご紹介した書籍】
『ドミトリーともきんす』
高野文子 著/B5判/並製/128頁/定価1320円(本体1200円+税10%)
中央公論新社/2014年9月発行/ISBN978-4-12-004657-5
http://matogrosso.jp/tomokins/tomokins-12.html
http://www.chuko.co.jp/zenshu/2014/09/004657.html
「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2015
Shokabo-News No. 307(2015-1)に掲載
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