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第26回 “アホ”と“バカ”が辿ったはるかなる旅路松本修 著『全国アホ・バカ分布考』(新潮文庫)
編集者のCです. ことの発端は,大阪・朝日放送の『探偵!ナイトスクープ』というテレビ番組において,“アホとバカの境界線はどこか?”という視聴者から寄せられた素朴な疑問から始まったものでした.すると,反響がすごく追加報告が作られていき,ついには“アホ・バカ分布図”の作成,そして学会発表にまで行き着くことになるのです. 本書は,基本的に「方言周圏論」という,京の都を中心にして言葉が同心円状に広がっていくという説に立っています.この説を提唱したのは民俗学者の柳田國男で,『蝸牛考』(刀江書院→創元社→岩波書店)で事細かに解説されています.しかし,彼は晩年,その自身の説に懐疑的になっていました. ところが,実際に番組が大規模な調査を行ったところ,“アホ”・“バカ”方言の分布は「方言周圏論」を補強する形として得られたのです.すなわち,地方で話されている“アホ”・“バカ”方言は,それはそれは大昔に京の都で話されていたのではないか,ということがわかってきたのです.いいかえれば,柳田國男が提唱した説を,関西のいちバラエティー番組が実証してしまったのです(なお,「方言周圏論」自体は,柳田の死後6年後に国立国語研究所の調査によって,有効な理論であることは証明されていました). ついには日本の古典文学,中国やインドの文献を漁りつつ,“アホ”と“バカ”の語源を探る旅に読者をいざなうくだりは,まさにミステリー小説といわずして何と言えばいいでしょうか! 何よりもすごいのは,文献の膨大さです.参考文献の多さは学術論文並みといってもよいでしょう.さらには,47都道府県の“アホ”・“バカ”方言の語彙一覧は圧巻です! 本書は,エンタテインメント書でもあるし,地道な実地調査に基づく一級の言語学の研究報告書でもあります(表紙カバー裏には,集大成の“全国アホ・バカ分布図”が描かれています). 興味をもたれましたか? みなさんも“はるかなる言葉の旅路”へ出かけられてはいかがでしょうか?
【今回ご紹介した書籍】 「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2015 ※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください. |
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