第28回 読みつがれる一冊
佐武一郎 著『線型代数学』(裳華房)
こんにちは,編集者のπです.
今回は佐武一郎著『線型代数学』(小社刊,1958年)をご紹介します.
学生の頃,教科書の演習問題でどうしても解けない問題があり,数学の先生の部屋に質問に行ったことがあります.
先生の部屋は本棚が壁面いっぱいに据え付けられており,黄色や緑などカラフルな背表紙の本で埋まっていました.和書だけでなく洋書もズラリと並んでいました.
懸案の質問が解決し,かねてからの問いを切り出してみました.「僕でも読めそうな数学の本はありますか?」と.すると先生は白紙に達筆な字で本のリストを作って下さいました(書名などは当時のままとしました).
・ 佐武一郎 著『数学選書1 線型代数学』裳華房,1958年
・ 高木貞治 著『解析概論』(改訂第3版 軽装版)岩波書店,1983年
・ L. V. アールフォルス 著・笠原乾吉 訳『複素解析』現代数学社,1982年
・ 木村俊房 著『新数学シリーズ12 常微分方程式の解法』培風館,1958年
そしてリストをこしらえたあと,先生はこうおっしゃったのです.
「これらの本は何度読んでも,新たな発見があります」
数学書の深淵に触れたのは,その言葉がはじまりだったのかもしれません.
是が非でも手に入れなければと感じ,なかでも真っ先に買ったのが佐武一郎先生の『線型代数学』でした.初めは分からない部分がかなり多く,漆を重ね塗りするように何度も読むことで,少しずつ分かる部分が増えていきました.
他の本にあまり載っていないような事項が扱われており,とくにテンソル代数の章は重宝しました.また,厳格な定義や定理の合間に現れる,佐武先生独特の語り口が読者を惹きつけてやまない魅力なのでしょう.
あれから15年間.今でも私の中の「読みつがれる一冊」として,大切に手元に置いています.
なお本書は,2015年6月に本文を全面的に組み直した新装版が刊行されました.ご興味のある方は是非お手に取ってごらんください.
最後になりましたが,昨年10月に佐武一郎先生が逝去されました.亡くなられる数か月前に,アメリカに一時的に滞在していた先生から編集部にお電話とメールをいただいていたので,突然の訃報に驚きを隠せませんでした.先生のご冥福を深くお祈りいたします.
【今回ご紹介した書籍】(書誌情報は2015年6月刊行の新装版)
『数学選書1 線型代数学』
佐武一郎 著/A5判/354頁/定価3740円(本体3400円+税10%)/2015年6月刊行
裳華房/ISBN 978-4-7853-1316-9
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1316-6.htm
「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2015
Shokabo-News No. 314(2015-8)に掲載
※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください.
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