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第31回 「わかったつもりと,わかること」その違いを教えてくれた一冊中野董夫著『物理入門コース 相対性理論』(岩波書店)
編集者のAです.
あらためて考えてみると,物理学の中で相対性理論ほど,一般の方から専門家まで幅広い層に親しまれ,多くの人たちを魅了している分野はないのではないでしょうか.それを示すかのように,高校生くらいからでも読める啓蒙書から大学院生レベルの専門書まで,さまざまな読者を対象として本が出版されています.かく言う私も,高校生のときに学校の図書室で相対性理論についての縦書きの啓蒙書を読み,その魅力に引き込まれた一人です.
なぜ相対性理論は,これほどまでに多くの人たちを魅了するのでしょうか.それはたぶん,相対性理論が語る世界が“非”日常的なこともあるかもしれませんが,他の物理学の分野とは異なり,力学や電磁気学など,いわゆる物理学の基礎知識をあまり知っていなくても,想像力を豊かにすれば,何となく,その内容が理解できるということがあるのではないでしょうか.そして,何と言っても,アインシュタインという人物そのものが,不思議な魅力を持っているからだと思います.
私自身は,物理学科の3年生の前期に「相対性理論」の講義を受けました.この科目のときだけは,教室の前列付近に陣取って,真剣に講義を聴きながら板書をノートに書きとっていたことをよく覚えています.そして,そのときに先生から指定された教科書が,中野‐西島‐ゲルマンの法則を提唱した中野董夫先生が執筆された『物理入門コース 相対性理論』でした.
この本は,「物理入門コース」の一冊ということで,啓蒙書の次のステップの本として,当時の私も何とか最後まで読み終えることはできたようです.“できたようです”というのは,20数年ぶりに自宅の本棚から本を引っ張り出して開いてみたところ,最終章の一般相対性理論の最後のページに至るまで,鉛筆で検算をしたような書き込みがしてありましたので.若かりし頃の自分の手書きの文字を見て,「相対性理論は結構真面目に勉強していたんだな」と,我ながら感心しました.
ロングセラーとして今でも多くの学生に読まれていると思うのですが,特殊相対性理論の解説に重きを置いた構成で,一般相対性理論については,最後の第9章でその概要が解説されています.このような構成(章立て)の本が多い理由は,学部生レベルの講義では特殊相対性理論の理解を重視して,重力場の中での運動まで扱える一般相対性理論は,素粒子や原子核,宇宙物理学など,さらに専門の分野を学ぼうとする学部4年生や大学院生ぐらいを対象とした講義で扱うことが多いからではないかと思います.
今考えると全くお恥ずかしい話なのですが,高校生の頃から相対性理論に関する数多くの啓蒙書を読んできたこともあって,相対性理論をすっかりわかった気になっていた私は,講義を受講する前から,「相対性理論というのは,これこれこういうものだよ」と,周囲の友人たちに得意げに話をしていました.
また,本は最後まで読み終えたようですが,ローレンツ変換の4次元定式化で上付き・下付きの数字が出てきたあたりから戸惑い始め,テンソルや4元ベクトルが登場してくるとかなり怪しくなり,最後の一般相対性理論の章ではリーマン計量や曲率が登場し,数式をフォローするだけで精一杯の状態になってしまったような.だから,一般相対性理論の章だけ,やたらと式の計算の書き込みが多かったのか…….
当たり前でしょうと言われそうですが,「相対性理論って,真面目に勉強すると難しいんだな」と思った私は,「わかったつもりと,わかること.この両者の間には雲泥の差がある」ということを,講義と本書での学びを通して実感した次第です.
なお,実は中野先生は小社ともご縁があり,上記の本を執筆されるずっと以前に,山内恭彦先生・内山龍雄先生との3名の共著で,
【今回ご紹介した書籍】 「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2015 ※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください. |
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