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第34回 数学者による数学の学び方小平邦彦 編『新・数学の学び方』(岩波書店)
こんにちは,編集者のπです.
私が数学を学び始めたばかりの頃,数学書からとても無機質な印象を受けていました.定義(definition),命題(proposition),定理(theorem),系(corollary),補題(lemma),注意(remark)――こういったものがまるで条文のように理路整然と配置されており,「法律の本みたいだな」というのが第一感です.情報が極めてコンパクトに整理・凝縮されており,無駄がない.その無駄のなさにちょっと途方にくれつつも,なぜかこれを読み解くことが大変魅力的に映りました.さて,どうやったらこの奥にある世界を深くわかるようになれるのだろう,と.
そのような問いかけに対する,ひとつの指針ともいえる書籍が今回ご紹介する『新・数学の学び方』です.
題名に“新”とある通り,この本には旧版があります.私が学生時代に出会ったのは旧版(1987年刊)で,書名は『数学の学び方』でした.2015年に,新たな執筆者(上記の * 印)を加え,装幀も新しい新版となりました.
数学科の学生だった頃,先生方(数学者)が鮮やかに講義され,また,数学の問題を発見したり,解かれるご様子を間近で見ていて,ちょうど上記のように思案したものでした.まるで私の心の声を代弁してくれているかのような一節です.
私にこの本の存在を教えてくれたのは,4年生のときのセミナーの指導教員でした.定義を覚えていなくて先生の質問に答えられなかったことがあり,「岩波から出ている本(注:『数学の学び方』のことです)の中に,小松彦三郎先生が暗記について書いておられるけど,知っていますか?」とのお言葉とともに本書を紹介していただきました.
不出来な私にとっては,衝撃的な“すすめ”でした.セミナーできっちりと精読するにはわずか数ページ進むことも大変だ(!)と実感していたため,それを丸々1冊覚えてしまうレベルに達するというのは――少し気が遠くなりました.しかし,同時に大いに励まされました.数学なので単なる丸暗記ではなく,完全なる理解があるからこそなせる業だと思います.
今回は上記のような思い出もあって,同書中の小松彦三郎先生のエッセイのみを取り上げましたが,他に収録されている作品も本当に素晴らしいものばかりです.数学を勉強している人は励まされること間違いなしの一冊です.
【今回ご紹介した書籍】 「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2016 ※「裳華房 編集子の“私の本棚”」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください. |
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