第37回 「すイエんサー式「グルグル思考」が世界を変える!」
村松 秀 著『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』
(講談社現代新書)
久しぶり登板のBです.
NHKで放送されている,かなりゆるめの科学(?)エンターテインメント番組「すイエんサー」[*1]をご存知だろうか.日常生活で感じた素朴な疑問や毎日のくらしの中で気になったテーマなどの“難題”に,トライアンドエラーで必死に挑んでいく,そんな番組だ.
その“難題”に挑戦するのが「すイエんサーガールズ」──女優・アイドル・モデル等としても活躍中の女子高生たちだ.初年度には(当時)AKB48の前田敦子,指原莉乃,高橋みなみ等も活躍していたそうだ(私は未見).
*1 http://www4.nhk.or.jp/suiensaa/
そんな彼女たちが,現役の東大生や京大生等の名門国立大生に
・A4の紙を使って,25cmを越える,より強度の強い「橋」を作る.
・A4の紙を使い,途中途中におもりを入れた,より高いタワーを作る.
・A4の紙を1枚だけ使い,より滞空時間の長い構造物を作る.
などのテーマで挑んだ「知力の格闘技!」においてまずは3連勝し,通算でも5勝4敗と勝ち越しているという.
書名の通り,すイエんサーガールズたちは,なぜ知的バトルで圧勝することができたのか,その勝負の様子と,勝利に至った思考法──「グルグル思考」を紹介したのが本書である.
著者は,『論文捏造』(中公新書ラクレ)で科学ジャーナリスト大賞を受賞され,「すイエんサー」を立ち上げられたプロデューサーの村松秀氏.
番組では,台本も事前の打ち合わせもなく,唐突に与えられた無理難題を彼女たちが解決するまで収録は延々と続き,家にも帰れない.ヒントもなく誰かが導くこともないので,「きわめて無駄に思えるような膨大な思考をグルグルとめぐらせていく」しかない.しかし,このグルグル思考が「知力」を身につけることに繋がっていると著者はいう.
具体的には,番組で採り上げた19の“難題”(茶柱をいつでも立てられるようにしたい,針の穴に糸をスーッと簡単に通したい,サッカーのリフティングをばっちり決めたい等々)を通して,グルグル思考を支える七つの力──「疑う力」「ずらす力」「つなげる力」「寄り道する力」「あさっての方向を向く力」「広げる力」「笑う力」の鍛え方を紹介していく.
すイエんサーガールズと京大生との勝負に立ち会った山極寿一・京都大学理学部長(現総長)が書かれた「講評で、私はすイガールの、まとまる力、勝利への意欲、こだわりを捨てるいさぎよさ、が京大生に勝っていたことをたたえた。京大生の敗因は、サイエンスへのこだわりをもっていたからだと私は思う」(毎日新聞記事から引用)という言葉が印象的であった.
子どもの教育に悩んでいる親御さんや先生から,会社での人材育成に取り組むビジネスマンまで,幅広い方々の参考になる1冊としてお薦めです.
※本稿のタイトルは,本書の帯に記載されているキャッチコピーからもってきました.
【今回ご紹介した書籍】
『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』
村松 秀 著/新書判/320頁/定価924円(本体840円+税10%)/2016年3月刊行
講談社(講談社現代新書)/ISBN 978-4-06-288360-3
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062883603
(電子書籍あり)
「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2016
Shokabo-News No. 324(2016-5)に掲載
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