第55回 失敗から何を学ぶか
戸部良一 ほか共著『失敗の本質』(中公文庫)
こんにちは,編集者のπです.
仕事には失敗がつきものです.私もよく上司に“お目玉”をくらいます.もっとも,失敗は仕事に限った話ではありませんね.人生のいろいろなことにあてはまります.小さな失敗が積み重なっていき,結果として大きな「敗け」になっていたということもあるでしょうし,コツコツ勝っていても最後の大きな失敗でドカンとやられてしまい,やはり「敗け」になってしまったというパターンもあるでしょう.
野球の試合と同じです.失敗することもあるけれど,9回裏まで試合はあります.いかに軌道修正し,形勢を立て直し,トータルで「勝ち」に持っていくかが大切と感じています.また,はじめから勝てないとわかっていて,やむを得ず挑んだ場合でも「戦い方」や「敗け方」の分析は欠かせません.退場しない限り,試合は次もあるのですから.
前置きが長くなりました.今回は「日本軍の組織論的研究」という副題のついた『失敗の本質』という文庫を取り上げます.以前から版数をかさねていたロングセラーでしたが,小池百合子都知事が2016年の記者会見で「座右の書」として取り上げてから,ブームに火がつきました.文庫のカバー裏には下記のような紹介文が添えられています.
大東亜戦争における諸作戦の失敗を,組織としての日本軍の失敗ととらえ直し,これを現代の組織一般にとっての教訓あるいは反面教師として活用することをねらいとした本書は,学際的な協同作業による,戦史の初の社会科学的分析である.
本をひらき,下記の目次をみた瞬間に「この本は名著だ」という直感がありました.
序章 日本軍の失敗から何を学ぶか
一章 失敗の事例研究
1. ノモンハン事件──失敗の序曲
2. ミッドウェー作戦──海戦のターニング・ポイント
3. ガダルカナル作戦──陸戦のターニング・ポイント
4. インパール作戦──賭の失敗
5. レイテ開戦──自己認識の失敗
6. 沖縄戦──終局段階での失敗
二章 失敗の本質──戦略・組織における日本軍の失敗の分析
三章 失敗の教訓──日本軍の失敗の本質と今日的課題
第一章では,各事例ごとに作戦の概要や戦況・経過などが詳細に語られ,各節末に“アナリシス”がまとめられています.自分自身が日本軍側の司令長官や少将,あるいは米軍側の指揮官に実際になったつもりで,第一章を読んでみました.このような読みかたはかなり疲れたのですが,その分,つづく第二章と第三章が圧倒的に生きてきます.第二章と第三章が本書を読むうえでの醍醐味と思いますので,ここで詳しく書くのはやめておきましょう.興味のある方は,実際に本を手に取り,ご自身の事例に当てはめながら読まれることをお勧めします.
あなたなら,各局面でどのように判断し,どのように行動するでしょうか.人生は日々の小さな判断と大きな決断の積み重ねで形作られていきます.歴史を題材にして,そこから得られる教訓を集団あるいは個人のレベルに落とし込み,深く考える機会を作ってみてはいかがでしょうか.
【今回ご紹介した書籍】
『失敗の本質 −日本軍の組織論的研究−』
戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎 共著/
文庫判/415頁/定価838円(本体762円+税10%)/1991年8月刊行/中央公論新社/
ISBN 978-4-12-201833-4
https://www.chuko.co.jp/bunko/1991/08/201833.html
※本書の初版は1984年にダイヤモンド社から刊行されました.
「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2018
Shokabo-News No. 344(2018-5)に掲載
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