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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
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第56回 ロボットに「カレーパン買ってきて」.その一歩目は…?

   川添 愛著『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』(朝日出版社)
   川添 愛著『自動人形の城』(東京大学出版会) 

 最近気になる製品と言えば,やはりスマートスピーカー(AIスピーカー)ではないだろうか.「アレクサ,音楽かけて」「OK Google,今日の天気は?」など,CMでもおなじみの,話しかけるといろいろやってくれるアレである.先日も,あるラジオ番組を聴いていたら,こんなやり取りがあった.

A:だからね,スマートスピーカーで今後,どんどんできるんじゃないかなって思ったわけ.「OK Google,回覧板まわしてきて」とか言ったらやってくれるわけよ.
B:いやー,できないでしょ.回覧板はできないだろ.
A:「OK Google,カレーパン買ってきて」.
B:いやいや.できないよ,カレーパン.
A:「辛口な!」って言ったら(笑).
B:いや,もうパシリじゃないか(笑).

『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』カバー  この会話を聴いていたら,まさにこんなパシリ型ロボットを作ろうとするイタチの物語を,最近読んだことを思い出した.川添愛氏の『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』である.
 ロボットをパシらせるためには,まずはロボットにこちらの言うことを理解してもらわねばならない.この本は,イタチが言葉のわかるロボットを作るというストーリーを辿りながら,そもそも言葉とは何か,機械に言葉を理解させる(自然言語処理)とはどういうことなのかを解説していく.

 物語や会話形式を用いて平易に解説する啓蒙書は多くあるが,このタイプのものは無理やりな感じがして苦手という方もいらっしゃるだろう.じつは私もそうなのだが,本作は物語の完成度が高く,自然なストーリー展開で楽しめた.むしろ“物語”にすることで,言語の“曖昧な部分”をより理解しやすくなっているように思う.川添氏の他の作品でも,この物語形式が効果的に使用されている.言語学者という文系のバックグラウンドを持ちながら,理系の研究にたずさわってきた著者だからできる芸当なのかもしれない.

『自動人形の城』カバー  スマートスピーカーのさらに先に,言葉がわかるロボットがある.実現にはどのくらい遠いのだろうか.例えば「回覧板を回す」の「回す」という動詞は,いくつかの意味を持つ多義語であり,機械はこのような曖昧性の高い言葉は得意ではないらしい.川添氏は次の作品である『自動人形の城』で,そのことについて書いている.『働きたくないイタチ〜』がロボットを“作る”話であったのに対し,『自動人形の城』は,現代よりも高度な自然言語処理のできるロボットが既にある世界が舞台の物語になっており,こちらはロボットを“使うこと”に着眼点がある.

 いまブームのAI関連の本という理由で手にとった書籍だったが,思いのほか,人間が普段,無意識のうちに使用している言語についても考えさせられた.アレクサに,気軽にカレーパンを頼める未来を少しだけ想像できた.

(編集者F)

【今回ご紹介した書籍】
『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット −人工知能から考える「人と言葉」−
  川添 愛著/A5判/272頁/定価1870円(本体1700円+税10%)/2017年6月刊行/
  朝日出版社/ISBN 978-4-255-01003-8
  https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010038/
『自動人形の城 −人工知能の意図理解をめぐる物語−
  川添 愛著/A5判/304頁/定価2420円(本体2200円+税10%)/2017年12月刊行/
  東京大学出版会/ISBN 978-4-13-063368-0
  http://www.utp.or.jp/book/b324623.html


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2018
Shokabo-News No. 345(2018-6)に掲載 



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