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【裳華房】 メールマガジン「Shokabo-News」連載コラム 
裳華房 編集子の“私の本棚”

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第58回 ノーベル賞受賞者による大人に向けた絵本

『ざっそう』(ロアルド・ホフマン原作,吉澤みか絵,きむらゆういち構成・訳,今人舎)

 構成・訳「きむらゆういち」といっても,チコちゃんの中の人ではないのである.こちら,かの『あらしのよるに』(講談社)の作者である(!).
 一方,原作「ロアルド・ホフマン」──これはそう.まちがいない.化学に縁のある方ならすでにピンときているはず.まさしく福井謙一先生とともに1981年,ノーベル化学賞を受賞したロアルド・ホフマン(Roald Hoffmann)博士,その人である.(でなければここでとりあげること,叱られる!)
 ホフマン博士は1937年,ポーランドのユダヤ人家庭に生まれ,第二次世界大戦中の1941年にはナチスによって強制収容所へ送られるが,母とともにそこを脱出.ある家族にかくまわれ生き延びるが,収容所に残った実父は殺されてしまう.
 そうした博士が,「生き残ろうとする,その力の大きさ」をメッセージに生みだしたのが,この一篇『ざっそう』(原題:weeds)なのだ.
 ハンパない説得力をもつ一冊,である.
 なお『ざっそう』誕生の経緯,このコラボがいかに生まれたかについて興味をひかれる方も多いと思うが,これは本書に収められている「編集後記」を読めば,納得である.吉澤みか氏のプロフィールに,思わず「ああ。」と声をもらす.
 また,博士の名が冠されたウッドワード・ホフマン則(Woodward-Hoffmann則)については,たとえば弊社刊行の,杉森彰・時田澄男著『光化学−光反応から光機能性まで−』(2012)[*1],加納航治・西郷和彦著『有機反応機構』(2008)[*2],廣田穰著『分子軌道法』(1999)[*3]などで解説されている.あわせてご覧いただければ幸いである.

追記
 この雑文を草しているタイミングで,日本文学者ドナルド・キーン氏の訃報に接した.ホフマン博士はコロンビア大学時代,当時助教授だったキーン氏の講義を聴き,『源氏物語』さえ読んだことがあるということだ.

(編集者Z) 

【今回ご紹介した書籍】
『ざっそう』
  ロアルド・ホフマン原作,吉澤みか絵,きむらゆういち構成・訳/B5判/
  32頁/定価1728円/2018年10月刊行/今人舎/ISBN 978-4-905530-75-6
  https://www.kimura-yuuichi.com/archives/j0675-201810.html

*1 『光化学 −光反応から光機能性まで−
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3089-7.htm
*2 『化学の指針シリーズ 有機反応機構』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3221-1.htm
*3 『化学新シリーズ 分子軌道法』 (在庫僅少)
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3207-5.htm


「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2019
Shokabo-News No. 351(2019-3)に掲載 



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