第59回 受験数学の“ラスボス”?
『チャート式シリーズ 数学難問集100』(チャート研究所 編著,数研出版)
「チャート式」といえば,数研出版が刊行する高等学校用の参考書シリーズとして有名であり,高校時代に「赤チャート」や「青チャート」の問題と格闘した経験をおもちの方も多いのではないだろうか.
数多ある「チャート式」シリーズの中でも本書は,難関大受験を強く意識した問題集であり,整数問題・一次変換など,受験生が顔をしかめるような“いやらしい”問題がずらりと並んでいる.読者への配慮として,一応は「入門の部」「試練の部」の2部構成になっているものの,問題のレベルが高すぎて,文字通り“狭き門”になってしまっている.おそらく,その存在すら知らずに高校を卒業する方がほとんどであろうと思う.
じつは私が本書を入手したのは,受験生のときではなく,大学入学後のことである.
当時私は,時間ができれば数学の問題を作成し,自信作ができる度に友人に解かせ,困り果てる姿を見物するという,少しばかりおかしな趣味をもっていた.つまりは本書を“ネタ本”として利用し,これまで以上に趣向を凝らした面白い問題をつくり,友人に見せびらかそう,などと企んでいたわけである.
ある日,数学科の1年先輩であるYさんが私の部屋を訪ねてきた.Yさんは本書を手にとってぱらぱらとめくり,数列の証明問題を一瞥して首を傾げた.
「これは,当たり前のことでは……?」
当然ながら,問題そのものは受験数学ではとても「当たり前」とはいえない代物である.大学受験の数学しか知らなかった私は,難問を前にして「当たり前」と言ってのけるYさんの姿に暫し唖然とした.それ以来,何となく自分が受験数学の殻に閉じこもっているように感じ,いつしか問題作成もやめてしまい,本書をあまり開かなくなった.
後に大学の数学に触れ,自分の想像する以上に数学が広く奥深いものであることを知ったとき,かの「当たり前」発言を思い起こし,その真意を理解すると,改めてYさんの秀才ぶりに感動したものである.今になってその問題を見返すと,さすがに「当たり前だ」とまでは思わないが,「なるほど,大学はこういう力を要求しているのだな」等と,出題者の意図するところが何となく読めるようになり,「私も成長したな」などと自画自賛してみたりする.
ちなみに本書は旧版であり,現在は新学習指導要領への移行に伴って「黒チャート」としてリニューアルしたそうである.「黒」という“ラスボス感”が見事にイメージ通りである.
(編集者Y)
【今回ご紹介した書籍】
●『チャート式シリーズ 新課程入試対応 数学難問集100』
チャート研究所 編著/A5判/152頁〔別冊解答編 48頁〕/定価1320円(本体1200円+税10%)/
2015年10月刊行/数研出版/ISBN 978-4-410-14282-6
https://www.chart.co.jp/goods/item/sugaku/16475.php
「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2019
Shokabo-News No. 352(2019-4)に掲載
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