第60回 「本当にあったことを、小説で読む・知る」
『パンプキン!』(令丈ヒロ子 著,講談社青い鳥文庫)
今回ご紹介するのは,「若おかみは小学生!」シリーズなどで大ヒットを飛ばす令丈ヒロ子による児童書です.
書名にある「パンプキン」という言葉から,みなさんは何を連想されるだろうか.
・文字通り,かぼちゃ(の英語名)
・ハロウィン
・さまざまなお菓子(ケーキなど)
・雑誌の名称(潮出版社)
・1980年代後半に活躍したアイドル・グループ名
etc…….
見出しの書名にはあえて記さなかったが,本書には「模擬原爆の夏」という副題がついている.書名のパンプキンとは,模擬原爆の通称である.
……ということで,みなさんは模擬原爆をご存知だろうか.
私(筆者)の誕生日が広島の「原爆の日」であったりするので,中学・高校・大学と,たぶん他の人よりは原爆関連資料により多く目を通してきたつもりでいたが,恥ずかしながら,私は本書を手に取るまで,模擬原爆の存在を知らなかった.
多少言い訳めいたことを記すと,模擬原爆の存在が(一般に)知られるようになったのは,「春日井の戦争を記録する会」が1991年に国立国会図書館所蔵のアメリカ軍資料から,模擬原爆の投下場所の一覧表や地図を見つけたことに始まるので,中学から大学を過ごした1970〜80年代の書籍などには,まず記載されていなかった,ということではある.
その模擬原爆とは,原爆投下のための練習用爆弾のこと.長崎に投下された原子爆弾「ファットマン」を,正確に目的の場所に落として爆発させるためのデータ収集と練習を目的に開発されたもので,形状・重量は「ファットマン」とほぼ同じに作られている.
1945年7月20日から8月14日まで,福島,茨城,東京,静岡,愛知,新潟,富山,岐阜,福井,三重,滋賀,大阪,兵庫,和歌山,徳島,愛媛,山口など,30都市に合計49発落とされ,全国で400人以上が亡くなり,1200名以上が負傷したという.
前置きがかなり長くなってしまったが,簡単にあらすじを記すと──.
大阪・田辺に住む小学5年生の主人公ヒロカは,夏休みの自由研究のために来阪してきた同い年のいとこ・たくみから,自分の住んでいる町が,かつて原爆投下の練習台になって7名が死亡し,多数の罹災者が出ていたことを知る.
ヒロカはたくみ,そして元教師の祖父とともに,身近にありながら見過ごしていた戦争の大きな傷跡について調べていくが…….
ずっしりと重いテーマではあるが,そこはそれ,令丈ヒロ子作品.ヒロカとたくみの軽妙なかけあいも楽しく,すっと読み通せる仕上がりになっている.
機会があれば是非,手に取って読んでみてほしい一冊である.
(B)
追記1 私が読んだのは2011年発行の単行本ですが,ちょうど今月(2019年6月),「青い鳥文庫」から刊行されましたので(加筆修正あり),下記の書誌情報はこの「青い鳥文庫」版にしてあります.
追記2 この原稿のタイトル「本当にあったことを、小説で読む・知る」は,講談社の単行本版紹介ページの文章より流用させていただきました.
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000186840
【今回ご紹介した書籍】
●『パンプキン! −模擬原爆の夏−』
令丈ヒロ子著,宮尾和孝 絵/新書判/128頁/定価726円(本体660円+税10%)/
2019年6月刊行/講談社 青い鳥文庫/ISBN 978-4-06-516373-3
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000323247
「裳華房 編集子の“私の本棚”」 Copyright(c) 裳華房,2019
Shokabo-News No. 355(2019-7)に掲載
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