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雑誌 「生物の科学 遺伝」 別冊17号

別冊『地球温暖化』刊行にあたって

 

大政謙次・原沢英男

 地球は,太陽からの可視・近中間赤外線放射エネルギー(短波放射)と宇宙空間へ放出する遠赤外線放射エネルギー(長波放射)の微妙な熱的均衡によって,その環境が保たれている.地球の大気には,地上からの遠赤外線放射を吸収し,地球の温度を上昇させる効果がある.現在の地球の平均地上気温は+15℃であるが,もし,大気がないと仮定すると−18℃になる.このように,大気は地球を温暖にする役割を果たしているが,この大気の遠赤外線放射を吸収する成分(温室効果ガス)が増加すると地球の温度はさらに上昇する.これが地球温暖化であり,温暖化により生じるさまざまな問題が地球温暖化問題である.

 化石燃料の大量消費や森林伐採,フロン類の大気への放出,農業活動などによって,大気中の温室効果ガスが増加し,地球温暖化が促進される.地球温暖化は,1980年代の半ば以降,国際的な問題になりはじめたが,その科学的知見は不足していた.このため,1988年,温暖化に関する科学的知見をまとめるために,国連の世界気象機関と国連環境計画によって,地球の気候変動に関する政府間パネルIPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)が設立された.その後,この政府間パネルにより,精力的に科学的知見がとりまとめられた.2001年の第三次評価報告書では,人間活動によって排出される温室効果ガスにより温暖化が進んでおり,世界各国で温暖化の影響が顕在化していることが科学的に明らかにされた.

 一方,IPCCの成果に基づいて,1994年の気候変動枠組条約の発効や第3回の締約国会議(COP3)における京都議定書の採択など,温暖化の防止に向けた国際的な協力体制が整いつつある.しかし,温暖化の防止の問題は,各国の経済活動と密接に関係しているため,京都議定書からの米国の離脱や,先進国間だけでなく,先進国と開発途上国との間にも思惑の違いがあり,政治問題化している.しかし,2008年からの京都議定書の第一約束期間に向けて,温室効果ガス削減や森林の吸収源に関係した問題の解決,京都メカニズムクリーン開発メカニズム共同実施排出権取引)への対応などが積極的に行われている.

 この別冊では,地球温暖化に関係するさまざまな問題をこの1冊で理解していただくために,国際的な動き(第 I 編),温暖化のメカニズムとモデル予測(第 II 編),測定技術とモニタリング(第 III 編),温暖化の影響と対策(第 IV 編),温暖化対策の技術(第 V 編)という幅広い分野について,それぞれの分野で最先端の研究を行っている先生方に執筆していただいた.とくに,「生物の科学 遺伝」の別冊ということで,生物分野の問題についての記事を充実させた.読者の皆さんには,最近の地球温暖化問題を理解するための一助となれば幸いである.

(おおまさ けんじ,東京大学 大学院農学生命科学研究科
 はらさわ ひでお,国立環境研究所 環境計画研究室



         

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