金星探査とALMA
−惑星探査と電波天文学−
(2001.6.14更新,8.10一部修正)
文部科学省 宇宙科学研究所は,5月10日,2007年に金星探査機を打ち上げて,「大気大循環」と呼ばれる金星大気の運動を観測するミッションを進めることを正式に決めました.
国の認可はこれからですが,最大の難関と見られた宇宙科学研究所の理学委員会で承認され,日本初の金星への挑戦へ向けて大きく動き始めました.金星は太陽からの距離が地球にもっとも近く,大きさや重さも同じくらいとよく似た惑星ですが,その大気成分はほとんどが二酸化炭素であり,気温は470度,気圧は約9000kPa(90気圧),そして惑星全体を硫酸の雲が覆うなど,地球の大気環境とは大きく異なっています.
過去,アメリカと旧ソ連によって探査機が何度か送り込まれましたが,その過酷な環境は詳しい調査を阻んできました.金星は243日かけて1回転しています.1日1回転の地球と比べて,金星の大気はどのように惑星全体を循環しているのか? また,金星の大気は毎秒100m(4日で1周)という暴風ともいうべき状態で動く,いわゆる「超回転」をしていますが,そのしくみはどうなっているのか? また,熱く乾いた大気でどのように雷が発生するのか? 活火山はあるのか? 水はどこへ消えたのか? など,非常に興味深い多くの謎に挑戦するのが,今回のミッションです.
そして,赤外線から紫外線まで,さまざまな波長を連続観測するという,過去の米ソの探査機とはまったく異なるアプローチによって,「惑星気象学」という新しい学問分野をつくり出そうという新たな試みでもあります.
一方,文部科学省 国立天文台は,北米(アメリカ国立科学財団)とヨーロッパ(ヨーロッパ南天天文台)と共同で,南米チリ共和国に巨大電波望遠鏡を建設・運用することを目指し,4月6日に代表が決議書に署名しました.
この電波望遠鏡は,「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計 (Atacama Large Millimeter/Submillimeter Array:ALMA)」と呼ばれ,チリ北部のアタカマ砂漠にある標高5000mのアンデス高地に設置される,直径12mのアンテナ64基を中心とした大型の電波望遠鏡です.
これらすべてのアンテナを一つの対象天体に向け,それぞれのアンテナからの信号を超高速でデジタル信号処理することで,ハッブル宇宙望遠鏡をさらに10倍も上回る性能に相当する高い解像力を実現することができます.
ALMAでは,これまで可視光では見ることができなかった“暗黒の”天体を電波(ミリ波・サブミリ波)で観測することで,天体物理学のほぼすべての分野に大きなインパクトをもたらすと期待されています.
具体的には,太陽以外の恒星周囲で惑星が形成される様子や,宇宙の彼方で銀河が形成される様子をとらえることができると思われます.金星探査機,ALMAともにその観測・運用によって,どのような成果があがってくるのか,非常に楽しみなビッグ・プロジェクトです.
ここでは,惑星探査と電波天文学に関連したホームページなどを紹介します.
▼「惑星探査」に関連したホームページ等▼
○ パンフレット(pdfファイル)
○ 計画の目的
○ スケジュール○ 国際金星ワークショップ(10/15〜17,宇宙科学研究所にて)
探査を経済的にも学問的にもさらに効率よく進めるべく,金星計画を世界的にオーガナイズしていこうとの考えによって開催されるシンポジウム.● 火星探査機「のぞみ」 (宇宙科学研究所)
1998年7月4日に打ち上げられた日本初の火星探査機で,当初は1999年10月に火星の周回軌道に到達する予定でしたが,推力不足などのために,2回の地球スイングバイ(惑星の重力を利用して軌道を変更し,加速・減速する航法)を行って,2004年1月に火星に到着するように変更されました.
火星には強い磁場がないために,太陽からのプラズマ・太陽風が直接に火星の大気と相互作用していますが,そのしくみを調べるほか,火星地下の氷の存在を調査する予定です.○ Planet-B(「のぞみ」)ホームページ
○ 「のぞみ」の新軌道計画彗星や小惑星など,惑星や衛星よりはるかに小さな星=「小天体」に,自分たちが考案した宇宙船を10年後に飛ばそう!という夢を持った人が集まった有志団体です.下記にあげたもののほか,小天体と太陽系探査に関するいろいろな有用情報が集められています.
○ 惑星科学・惑星探査を学べる大学・大学院研究室案内
高校生・大学生を対象に,惑星科学・探査に関わっている各大学・研究室の紹介と,その研究室へ入るにはどのようなアプローチが望ましいかを,理学・工学双方の各研究室のアンケート結果に基づいて紹介するものです.(2001年8月 大幅リニューアル!)○ 惑星探査関連用語集
「天文・惑星科学」「科学機器」「観測方法」「工学・航法」の別に,惑星探査に関係する用語の解説集です.故カール・セーガン博士が1980年に設立した“The Planetary Society:TPS”(米国惑星協会)の姉妹団体です.太陽系探査の話から,さまざまなイメージギャラリーや用語辞典,リンク集,また「子ども宇宙教室」など,惑星を中心にした基礎的な情報が満載しています.
○ 太陽系探査の知識
○ YMコラム (日本惑星協会 TPS/Jメール5/16号)
宇宙科学研究所の的川泰宣先生が,今回の金星大気探査計画の意義について,わかりやすく解説したコラムです.●そのほかの「惑星探査」関連サイト
○ 日本惑星科学会
惑星科学の振興を目的に平成4年に設立された学会.年4回発行の学会誌「遊・星・人」は会員外でも1冊単位での購入が可(1部1750円).○ 地球惑星科学関連学会合同大会 (終了しました)
上記の日本惑星科学会をはじめ,地球電磁気・ 地球惑星圏学会や日本地球化学会,日本地震学会など,地球科学と惑星科学に関連する学会による合同大会が毎年開催されています.今年は,6月4日〜8日に国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されます.○ 水星探査機「MESSENGER」 (英語)
NASA(アメリカ航空宇宙局)が,2004年3月に打ち上げる予定の水星探査機.水星の近傍を通過した「マリナー」による部分的観測はありましたが,探査機が水星をめぐる軌道に投入されるのはこれが初めてとなります.○ NSSDC惑星探査機データベース (英語)
NASAのNSSDC(The National Space Science Data Center)によって作成されたもので,世界中の惑星探査機についてのデータと最新情報が集められています.探査機の名前等による検索ページもあります.
▼「電波天文学」に関連したホームページ等▼
○ ALMA計画説明書(2001年7月バージョン)
○ よくある質問○ ALMA公開講演会(10/27,福岡市立少年科学文化会館ホール)
アンデス巨大電波望遠鏡によって期待される成果を,すばる望遠鏡の成果とあわせて分かりやすく話をしていただく予定.参加費無料,先着順.○ 「アンデス巨大電波望遠鏡で銀河の誕生をみる」(国立天文台公開講座)
講演の内容を録画したもの(ご覧になるにはRealPlayerが必要になります).野辺山電波観測所には,世界最高レベルの観測能力をもつ45m電波望遠鏡やミリ波干渉計,電波ヘリオグラフなど,世界的にみても大型の電波天文観測装置が設置され,電波天文学の国際的なセンターとなっています.
(裳華房 今月の話題「最大級の太陽フレア」もご参照ください)○ 45m望遠鏡による画像集
○ 電波ヘリオグラフによる「本日の太陽」○ 電波天文学ガイダンス(7/25〜26) (終了しました) ※対象:大学学部生,大学院生.
電波天文学の研究に興味のある学生や,新しい装置の研究・開発に関心のある大学学部生,大学院生を対象に行われるガイダンスと施設の見学会です.当日のプログラムはこちら.
○ 電波天文観測実習(8/6〜10) (終了しました) ※対象:大学学部学生.○ 特別公開日(8/25) ※例年とは実施時期が異なります.
この水沢観測所にある10m電波望遠鏡は,野辺山電波望遠鏡などと組み合わせることで,VLBI(超長基線電波干渉計)網を構成し,きわめて高い分解能で,赤色巨星や星形成領域が放つメーザー電波を観測したりしています.なお,一般公開が6月23日(土)に行われます.
○ 一般公開日(6/23) (終了しました)
VERA(VLBI Exploration of Radio Astrometry)は,日本列島の4か所(水沢,鹿児島,小笠原,石垣)に建設中の電波望遠鏡を組み合わせることによって(相対VLBI),私たちの銀河系内に分布するメーザー源と電波源を従来の1000倍高い精度で三角測量し,銀河系の精密な三次元地図を作成するプロジェクトです.そして,銀河の歴史やダークマターの分布を調べます.6月22日に水沢局の完成式が行われました.
○ VERAの観測局
● VSOP計画
宇宙科学研究所と国立天文台が共同で主導している,国際的な電波天文学のミッションです.VSOPとは,“VLBI Space Observatory Programme(VLBI技術による人工衛星天文台計画)”の略称で,1997年2月12日に打ち上げられた電波天文衛星「はるか」を使ったスペースVLBI観測計画のことです.「はるか」と世界中の電波望遠鏡が協力して天体の電波観測を行うことで,地球の直径より3倍も大きな望遠鏡に匹敵する,高い解像度のデータが得られ,天体の電波源を詳細に研究することができます.
○ VSOPによる天体画像
○ 用語解説通信総合研究所は,明治29年に逓信省電気試験所で開始された電波研究をルーツとし,郵政省電波研究所,同通信総合研究所などを経て,この4月より独立行政法人となりました.通信に関するさまざまな研究のほか,電波による天体観測や太陽モニター観測なども行っています.
○ 鹿島宇宙通信研究センター 宇宙電波応用グループ
茨城県鹿嶋市にある34m電波望遠鏡は,水沢や野辺山の電波望遠鏡とVLBIを構成しています.パルサーの観測・研究をはじめ,小惑星のレーダー観測や木星の電波観測なども行っています.日本天文学会による「天文用語集」のなかで,「電波天文学」についてのページです.解説文中の天文用語が相互リンクされていますので,「電波天文学」についての基礎知識を知るのに大変に便利です.
● 『宇宙が奏でるハーモニー』 (宇宙スペクトル博物館<電波編>)
粟野・尾林・田島・半田・福江 著/CD-ROM+ガイドブック/定価(本体4500円+税)/裳華房
さまざまな光を使って眺めた宇宙の姿を,多数の写真やCG,動画を使って紹介する,マルチメディアCD-ROM博物館の第2巻.
身のまわりにある電波の話題から,電波の送受信の基礎としくみ,日本や世界の電波望遠鏡,太陽系から宇宙背景放射まで電波が捉えたさまざまな天体像を紹介します.また,「スペクトル用語集」は簡易な天体辞典としてもご利用いただけます.
学習レベルに応じた階層構造になっていますので,初学者から専門家まで,どなたでもお楽しみいただけることと思います.○ 体験版 ※回線の具合などによって表示に時間のかかる場合があります.
○ <X線編>『見えない星空への招待』○ 『宇宙が奏でるハーモニー』 オンライン書店へのダイレクトリンク
|amazon|bk1|eS!BOOKS|ISIZE|Jbook|Yahoo!Books|旭屋書店|紀伊國屋書店|富士山|●そのほかの「電波天文学」関連サイト
○ 名古屋大学 4m電波望遠鏡(なんてん)
名古屋大学とチリ共和国ラスカンパナスの2か所に設置された,同型の電波望遠鏡.南北両半球に設置されていることで,全天の天体をすべて観測することができ,天の川全体やマゼラン銀河,星間ガス雲などを詳しく観測しています.○ 東京大学 天文学教育研究センター
電波のなかでも波長の短いミリ波・サブミリ波での観測を中心として,銀河系や銀河の構造と進化,星形成,クェーサーや銀河中心活動,電波観測による宇宙論的研究などを行っています.○ 早稲田大学 電波宇宙物理観測所
64基のアンテナを正方形状に配置し,それぞれのアンテナで受信した電波の情報を総合することで,1つの電波望遠鏡として画像を得るという,ほかに例のない方式で観測する世界的にユニークな望遠鏡です.波長3cm付近の電波で試験観測を続けています.○ 鹿児島大学理学部物理科学科 宇宙コース
国内の電波望遠鏡を結んだ国内ネットワークによる観測(VLBI)や,新しいVERA計画(上記参照)の推進に重要な役割を果たしています.また,新しい観測技術の開発研究も積極的に進めています.○ 茨城大学理学部自然機能科学 電波天文学研究室
国内・国外の電波望遠鏡を利用して,銀河系中心,銀河・星間空間の磁場,遠方銀河の観測的研究などを行っています.○ 大阪府立大学総合科学部 宇宙物理学研究室
電波天文学,星形成,オゾンミリ波計測などの研究を行っています.○ アレシボ電波望遠鏡(Arecibo Observatory) (英語)
プエルトリコにある世界最大の電波望遠鏡です.アメリカ国立電離層センターが運用しています.窪地を利用して作られたアンテナは,直径が305mもあり,向きは変えられません.おもに波長が21cmより長い電波を観測しています.○ SETI@home 日本語版サイト
インターネットにつながっているコンピュータを使って,地球外知的生命体の探査(SETI)を行なう科学実験.SETIの運営には,電波望遠鏡の提供する膨大な量のデータを処理するスーパーコンピュータが必要ですが,これを参加者各自が所有するパソコンの余剰計算能力を利用して行おうとするものです.公式スタートしてから,5月17日で2周年.300万人以上が参加する,一大プロジェクトとなっています.
入門的な解説書としてSF作家・野尻抱介氏による『SETI@homeファンブック』(角川書店,定価(本体1900円+税))があります.
※本ページの作成にあたっては,『宇宙が奏でるハーモニー』をはじめ,文中で紹介した各サイトの記事等を参考にさせていただきました.
自然科学書出版 裳華房 SHOKABO Co., Ltd.