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裳華房 今月の話題

ヒトES細胞,国内初の作製承認

(2001.12.28)

 ES細胞胚性幹細胞;embryonic stem cell)は,万能細胞とも呼ばれ,胚盤胞期(受精から1週間ぐらい経って,中空の球体を形成している100細胞程度の時期,子宮に着床する前の段階)の受精卵の内部細胞塊を培養して作りだされます.
 この細胞は,まだどんな細胞にも分化していないため,いろいろな細胞に分化できる可能性(全能性)をもっています.
 ES細胞から目的とする組織・臓器を作製できるようになれば,移植用臓器の提供や,パーキンソン病など現在の医療では治療が難しい病気の細胞治療などが実現可能になるとみられ,再生医学分野の進展において特に注目を集めています.

 ヒトのES細胞は,1998年に米国でその作製の成功が伝えられましたが,その研究には生命倫理の面からざまざまな影響が危惧されてきました.
 除核した卵子に,患者本人の体細胞核を移植して(核移植技術=クローン技術)作製したクローン胚からES細胞を作れば,免疫拒絶の起こらない移植医療が可能となりますが,このクローン胚を子宮に戻した場合,通常存在しえない,本人とまったく同じ遺伝形質をもったクローン人間ができてしまう危険があるためです.
 しかしながら,ES細胞の将来的有用性はきわめて重要であるため,現在のところの世界的な情勢は,当面ヒトクローン作製は禁止するが,ES細胞研究は容認するという方向にあります.

 各国でその取り扱い・規制等の点で議論がなされるなか,米国では,2001年11月25日,アドバンスト・セル・テクノロジー社が,医療目的としてクローン人間になりうるヒトクローン胚の作製に成功したと発表しました.今後ますます特許の取得などの競争が激化することと思われます.
 こういったES細胞を日本が研究に使用する場合には使用料がかかり,また医療用として使う場合,アメリカ人と日本人とでは免疫系の違いがあるので,日本人の細胞から作製したES細胞株を樹立する必要性があると考えられています.
 ES細胞の作製には,研究のために採取された細胞ではなく,不妊治療のために作られた凍結胚を無償で使用することなどが必要とされていますが,一度樹立されたES細胞株は無限に増やせるので,これを国の承認を受けた機関で共通に無償で使用するのが好ましい状況とされます.

 日本では,2001年6月にいわゆる「ヒトクローン規制法」が施行されたのに次いで,9月25日には文部科学省から「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」が告示・施行されました.この指針に基づき,京都大学 再生医科学研究所の中辻憲夫教授は,ヒトの受精卵からES細胞を作る計画を申請し,11月には同学内の倫理委員会の承認を受けています.その後文部科学省での審議を受け,2002年4月には同研究所内に「幹細胞医学研究センター」が新設される予定です.
 このほか,移植医療で高い実績をもつ信州大学慶應大学など,いくつかの機関でも研究計画が申請されつつあります.


「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針について」文部科学省

京都大学 再生医科学研究所

 ○ 発生分化研究分野(中辻憲夫研究室)

雑 誌

 ○ 『生物の科学 遺伝裳華房

 ・ 2002年1月号(56巻1号) 特集「“ドリー”誕生から5年 −体細胞クローンの現状と展望
   記事「体細胞クローン技術と再生医学」(中辻憲夫 著)

 ・別冊13号 『発生・分化・再生 −幹細胞生物学から臓器再生まで(2001年7月刊行)

 ○ 『科学岩波書店

 ・2001年12月号(71巻12号) インタビュー「再生医学を展望したヒトES細胞研究

 ○ 『細胞工学秀潤社

 ・2001年7月号(20巻7号) 特集「ES細胞の分化制御と再生医学
   記事「多能性幹細胞と再生医学

 ○ 『蛋白質 核酸 酵素共立出版

 ・ 2000年9月号増刊(45巻13号) 「再生医学と生命科学 −生殖工学・幹細胞工学・組織工学

 ○ 『日経サイエンス日本経済新聞社

 ・ 2002年2月号(最新号)
   記事 「ヒトクローン胚作成 −再生医療に挑む



         

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