(2002.3.1)
ここ数年の情報処理や情報通信のための技術の進歩には目を見張るものがあります.
こうした中で,家庭環境やオフィス環境など,わたしたちの生活環境も大きな変化を余儀なくされ,日々とまどいを感じている方も多いのではないでしょうか.ところでふと考えてみると,こうしたさまざまな環境の変化のうち,自動車をめぐる交通環境だけが,意外にも十年前とほとんど変わらない状況にあることに気づきます.カーナビゲーションシステムなどの普及があるとはいえ,あいかわらず
(1)事故
(2)渋滞
(3)環境汚染
といった問題を抱えたままなのです.これら3つの問題は複雑に絡み合い,それぞれが,お互いの原因になったり結果になったりしています.そこで,これらの問題を個別に解決するのではなく,全体的に解決することが有効であるとされ,このために,近年飛躍的に高度化した情報処理技術や移動体通信技術を用いて,より安全で快適な新しい交通システムを構築しようという考え方が生まれました.これが高度道路交通システム,すなわちITS(Intelligent Transport System)なのです.
実際のアプローチとしては,(1)に対しては,ドライバーの能力が及ばない事柄をサポートするための情報通信技術を備えた高性能な自動車を開発し,事故を減少させること.(2)に対しては,渋滞や迂回ルートなどの情報提供を行うことによって混雑を緩和すること,また自動料金収受システムを導入することによって料金所での渋滞を解消すること.などが行なわれています.これらの取り組みによって事故が減少したり,渋滞が解消したりすれば排気ガスが少なくなり,無駄な燃料消費も抑えられることから(3)への貢献も同時に果たされることになるのです.
いうまでもなく,すでに自動車は現代のインフラとして定着し,日常生活になくてはならないものになっています.ITSの実現にあたっては,この点を無視することはできません.つまりITSには,現状の交通システムと共存が可能で,順々の置き換えが可能であることが求められるのです.技術的にいくら優れていても,便利で快適になることがわかっていても,そのシステムの導入のために,社会生活が一時的な停止を求められるとしたら,その損失は莫大なものになってしまいます.また,交通システムにとって安全性は絶対であり,この点がクリアされなければ実用化はありえません.
これからITSが,わたしたちの暮らしをどのように変えていくのか.リアルタイムでの体験を楽しみに過ごしていきましょう.
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