バーディーンの誕生日
(2002.5.1)
物理学者 バーディーン(John Bardeen)は,1908年 5月23日にアメリカに生まれました.1947年,アメリカのベル研究所の研究員であったバーディーン,ショックレー,ブラッテンの3人は,ゲルマニウムに少量の不純物を入れて作った半導体の結晶上に1本の金属の針を立てた半導体検波器の表面電位の分布をもう1本の金属針で探っていたところ,半導体結晶が増幅作用を示すことを発見しました.電流を運ぶ抵抗(transfer resistor )から名付けられたトランジスター(transistor),現代のマルチメディア社会の種 「半導体デバイス」 が誕生したのです.
3人が作ったトランジスターは点接触型トランジスターと呼ばれるもので,実用には至りませんでしたが,後に,改良が加えられた合金接合型トランジスターが開発されてからは,実用化が急速に進みました.そして3人は,トランジスターの発明によって,1956年にノーベル物理学賞を受賞しました.
トランジスターの発明によってノーベル物理学賞を受賞した翌年の1957年に,バーディーン,クーパー,シュリーファーの3人は,超伝導の重要な特徴をうまく説明できる理論,BCS理論を提唱しました.
「電気抵抗がゼロ」,「超伝導体内には磁場が入れない(マイスナー効果)」の2点が,超伝導の特徴です.この現象を量子力学を使って説明しようとする試みが数多くの研究者によってなされ,その決定版となったのが,BCS理論でした. 電子はフェルミ粒子ですが,これが奇数個集まるとフェルミ統計に,偶数個集まるとボース統計に従います.ボース統計によれば,転移温度以下でボース凝縮を起こし,超流動(液体の粘性抵抗が消失した状態)が起こります.超伝導は,電子が一種の超流動状態になったと考えられます.でも電子はフェルミ粒子のため,単体でボース凝縮を起こすことはできません.もし対ができれば(偶数個になるので),ボース統計に従うようになります.しかし,電子と電子同士ではクーロン力による反発(電荷が共にマイナスなので)があり,普通に考えると,電子同士がペアを組むことは考えにくいですよね.しかし,対になる仕組みがあったのです.それが,電子と格子の相互作用です.
イメージとしてはこんな感じでしょうか.金属内を電子1,2,3,・・・が走っているとしましょう.電子1が,並んでいる格子(正電荷)の近くを通ると,付近の格子はクーロン力により電子1に少し引き寄せられ,ほんの瞬間ではありますが,他の箇所よりも正電荷の多い場所ができます.その結果,その近くを電子2が通ると引き寄せられ,あたかも電子1が電子2を引き寄せたかのようになります.このように,電子と格子の相互作用によって,間接的ではありますが,電子と電子がペアを組んだ運動をするようになり,ボース統計に従うようになるわけです.そして,ボース凝縮ならぬ,クーパー対凝縮(発見者のクーパーによる)を起こし,超伝導が起こります.
そして3人は,このBCS理論によって,1972年にノーベル物理学賞を受賞しました.生涯に2度のノーベル物理学賞を受賞した唯一の物理学者 バーディーンは,1991年1月30日,偉大なその足跡を残し,82才の生涯を閉じました.
● バーディーン関連サイト
・ John Bardeen (イリノイ大学物理学科による)
・ ベル電話研究所
● 小社の関連書籍
・ 『電子はめぐる ― 先端エレクトロニクスとその開拓者たち ―』 (ポピュラー・サイエンス 193)
岸野正剛 著/定価1650円(本体1500円+税10%)・ 『半導体の科学とその応用』
豊田太郎 著/定価2640円(本体2400円+税10%)・ 『固体物理 ― 磁性・超伝導 ―(修訂版)』
作道恒太郎 著/定価2860円(本体2600円+税10%)・ 『高温超伝導の科学』
立木 昌・藤田敏三 共編/定価8250円(本体7500円+税10%)・ 『遍歴電子系の磁性と超伝導』
川畑有郷・安岡弘志 編/定価4730円(本体4300円+税10%)・ 『重い電子系の物理』 (物理学選書23)
上田和夫・大貫惇睦 共著/定価5720円(本体5200円+税10%)・ 『低次元導体 ― 有機導体の多彩な物理と密度波 ―(改訂改題)』 (物性科学選書)
鹿児島誠一 編著/定価5940円(本体5400円+税10%)・ 『電気伝導性酸化物(改訂版)』 (物性科学選書)
津田・那須・藤森・白鳥 共著/定価8250円(本体7500円+税10%)・ 『強誘電性と高温超電導 ― ペロブスカイト型材料 ―』 (先端材料シリーズ)
日本材料科学会 編/定価5390円(本体4900円+税10%)
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