「反水素原子」の大量生成に成功!
(2002.10.1)
欧州合同原子核研究機関(CERN)と早野龍五(東京大学教授)らの国際研究グループが,「反物質」 の反水素原子を大量に作り出すことに世界で初めて成功しました.
ふつう水素原子は,プラスの電荷をもった 「陽子」 1個とマイナスの電荷をもった 「電子」 1個の組み合わせでできています.しかし,物理学者ディラックがその存在を予言していたように,陽子や電子にはそれと反対の電荷をもった反陽子,陽電子(反電子のことをこう呼びます)が存在していて,この 「反陽子」 1個と 「陽電子」 1個の組み合わせでできているのが反水素原子です.
今回,東大の早野龍五教授らの国際研究グループは,反陽子減速器を使って反陽子を極低温状態で反応容器内に閉じ込め,これにナトリウムから取り出した陽電子を加えることで,大量の反水素原子を作ることに成功しました.
1996年にCERNの研究グループが,反水素原子を世界で初めて合成することに成功していましたが,そのときは数も10個程度で原子の寿命も短かいものでした.
今回は大量に,かつ寿命がその10000倍もあるということで,今後の反物質の研究に弾みをつけたと言えるでしょう.反物質の安定した製造方法が開発されたことで,これまで夢物語であった反物質の世界の研究(宇宙誕生時にはたくさんの反物質があったとされるにもかかわらず,現在 その姿が見られないのはなぜか.物質とその反物質が衝突すると消滅して莫大なエネルギーが生み出されますが,そのエネルギーを利用することができるかどうか,などなど)に大きな進展が期待できることでしょう.
そして,反物質研究のための高度な技術が,今後の物質研究に役立つことも期待されます.
● 関連Webサイト
・早野龍五 教授のホームページ(東京大学大学院理学系研究科物理教室)
● 関連書籍
・『反物質はいかに発見されたか? ディラックの業績と生涯』 (藤井 昭彦 訳,丸善)
※注 ここに取り上げたものは関連書籍のごく一部です.
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