裳華房 今月の話題
高等植物におけるゲノム解析
2000年12月14日発行の英国科学雑誌『 Nature 』にて,高等植物では初めて,シロイヌナズナのゲノムの全塩基配列が発表されました
(論文の全文はこちら).
シロイヌナズナ( Arabidopsis thaliana
)は,一世代に要する時間の短い小型の顕花植物(アブラナ科)で,1970年代から遺伝学実験のモデル植物として盛んに使われるようになりました.
ゲノムサイズが既知の高等植物のなかでもっとも小さく
( 1.3 × 108 塩基対),染色体数も少ない
( n=5 )
ことから,全ゲノム解析のターゲットとしても注目されました.
シロイヌナズナのゲノムの全塩基配列解読の国際プロジェクトは1996年に再編され,日本(かずさDNA研究所),イギリス,フランス,米国により2004年終了を目標にスタートしました.その後,技術の進歩により解析が大幅にペースアップした結果,2000年秋に解析が終了したのです.
今後明らかになっていくであろうゲノム構造の詳細な情報は,農業作物の品種改良など,応用研究の分野への大きな寄与をもたらすことでしょう.
また,食糧作物として重要なイネのゲノム解析は,日本のSTAFF(農林水産技術研究所)を中心とした国際的なプロジェクトが進められていますが,今年1月26日(米国時間),アメリカのシンジェンタ社(SYT)とミリアッド・ジェネティクス社(MYGN)は,イネのゲノムを完全に解読したと発表しました(Wirednews,2001/1/30,SYTの報道発表はこちら,MYGNの報道発表はこちら).
まだ企業側の発表のみなので,正確なところは不明ですが,イネは世界中で最も消費されている穀物であるだけに,与える影響は非常に大きいと思われます.
なお,イネのゲノムサイズはシロイヌナズナの約3倍( 4.3 × 108 塩基対)
で,染色体数は約2.5倍 ( n=12 )です .
すでに報告されている原核生物ラン藻(シアノバクテリア)や,同じく多細胞真核生物である節足動物ショウジョウバエをはじめ,多くの生物の塩基配列情報との詳細な比較から,生物の進化についての新たな見解が次々と生まれてくることが期待されます.
●かずさDNA研究所による記念講演会
2000年12月14日『 Nature 』発表のシロイヌナズナと,『 DNA
Research 』12月号発表の根粒菌( Mesorhizobium
loti )の全ゲノム解読を記念して,研究者がわかりやすく成果を講演するものです.
「世界初の植物(シロイヌナズナ)と窒素固定生物(根粒菌)の全ゲノム完全解読」
1.DNA研究の重要性 (所長 大石道夫)
2.シロイヌナズナ及び根粒菌のゲノム解読とその意義 (研究部長 田畑哲之)
3.ゲノム解読と植物バイオテクノロジ−(植物遺伝子第二研究室長 柴田大輔)
日 時:2001年2月25日(日)PM1:30〜4:00
場 所:幕張メッセ国際会議場 201会議室 ・交通案内
申込み:電話0438-52-3900 かずさDNA研究所事務局 (2月23日まで)
入場無料,定員160名
(なお,2001年1月14日開催の講演会は終了しました)
1991年千葉県により設置され,運営を支援されている研究所.DNA情報の大量解析を順次遂行し,遺伝子の構造や機能についての基礎情報を蓄積,公開しています.
シロイヌナズナのほか,ラン藻(1996年3月解析終了),根粒菌,ヒトなどの解析を行う一方,遺伝機能の解析や技術開発にも力を注いでいます.
日本DNAデータバンクは,欧州の EBI/EMBL および米国の NCBI/GenBank
との密接な連携のもと,『DDBJ/EMBL/GenBank
国際塩基配列データベース』を構築している三大国際DNAデータバンクのひとつで,
静岡県三島市にある国立遺伝学研究所・生命情報研究センター内に設置されています.
上述の「国際DNAデータベース」の共同構築と運営や,DNAデータベースのオンライン利用のほか,さまざまな生命情報データベースの運営などを行っています.
●そのほか,公開されている主なDNA配列解析情報データベース(国内)
(下記以外や海外のデータベースについては,DDBJによるリンク集をご参照ください)
・ ラン藻,シロイヌナズナ,ミヤコグサ根粒菌
クラミドモナスEST,ミヤコグサEST,スサビノリEST,ヒト
(かずさDNA研究所)
・ イネ(RGP)
(STAFF,農林水産先端技術研究所)
・ 家畜ゲノム
データベース
(畜産試験場)
・ ヒト・ゲノム関連:
理化学研究所 ヒトゲノム解析研究センター
東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センタ−
科学技術振興事業団 高機能基盤生体データベース
大阪大学・東京大学 ボディ・マップ
●シロイヌナズナ遺伝資源
●雑誌『生物の科学 遺伝』の主なゲノム解析関連記事
○53巻8号(1999年8月号)
【特集】 『ゲノム情報からみた新しい生物学』
○52巻10号(1998年10月号)
【連載】 研究室・研究所めぐり(8) 「財団法人
かずさDNA研究所」
▼イネ関連
○別冊8号 生物科学の現状と展望
【記事】 「イネのゲノム解析:新たな遺伝学の礎」
▼ヒト関連
○54巻10号(2000年10月号)
【特集記事】 「ヒトゲノム解析」(『特集:現代社会と遺伝学』所載)
○54巻4号(2000年4月号)
【特集】 『ヒトの遺伝子 −ゲノム計画と21世紀の遺伝子研究−』
【トピックス】 「ヒト遺伝子解析とDNAチップ」
○別冊8号 生物科学の現状と展望
【記事】 「ヒトゲノム解析プロジェクト」
▼その他の生物
○53巻10号(1999年10月号)
【トピックス】 「ラットの遺伝子地図 −ヒトとの比較が可能に−」
○52巻12号(1998年12月号)
【連載】 研究室・研究所めぐり(10) 「STAFF
農林水産先端技術研究所」
【トピックス】 「AFLPによるオオムギMlo遺伝子の解析」
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