ミールの落下と国際宇宙ステーションの建設
(ver.2.0 2001.3.23更新)
新聞やTVなどで報道されたように,ロシアの宇宙ステーション「ミール」(MIR)が,3月23日,南太平洋に落下しました.
1986年2月19日に打ち上げられたミールは,ソ連の有人宇宙活動の拠点として15年にわたって活躍してきました.
その間,医師でもあるポリャコフ宇宙飛行士が,437日17時間という宇宙滞在記録を達成するほか,1990年12月には,TBS(東京放送)の記者・秋山豊寛氏が,日本人初の宇宙飛行士としてミールに1週間滞在しました.
ミールはその後,次第に老朽化が進んで故障が相次ぐようになり,維持の方策がさまざまに模索されたようですが,結局,廃棄が決定されました.ミールは大気抵抗によって少しずつ高度を下げてきましたが,高度約220kmをきった3月22日より落下のためのオペレーションが開始されました.
姿勢制御が行われた後の3月23日 日本時間の午前9時半すぎと11時すぎにエンジン噴射を行って速度制御した後,同午後2時7分頃から31分13秒まで最終となる3回目のエンジン噴射を行って大気圏(高度100km)に突入,同午後3時00分13秒に,南緯40度,西経160度の南太平洋上に落下しました(宇宙開発事業団の計算による).フィジーでは数個の破片にばらけたミールが,燃えながら飛んでいく様子が観察されています(その模様はCNNのWebサイト参照).
その後半生はさまざまなトラブルに見舞われたミールですが,いまのところ被害の報告はなく,“無事”にその使命を果たしたようです.「ロシアは,20世紀の有人宇宙滞在に不滅の業績を残した人類の文化遺産の最期を,見事なオペレーションで飾ることに成功した」(宇宙科学研究所の的川泰宣先生の談話).
一方,アメリカ・ロシア・日本・ヨーロッパ諸国・カナダ・ブラジルなどの国際協力のもと,国際宇宙ステーション(ISS)の建設が順調に進められています.
ISSは,地上から約400kmの上空に建設される有人の宇宙基地で,2006年の完成後は,1周約90分というスピードで地球のまわりを回りながら,地球や天体の観測をはじめ,微小重力や宇宙放射線など,地上とは大きく異なる特殊な宇宙環境を利用した,さまざまな新しい科学研究や技術開発が行われる予定です.また,新しい文化の創造とビジネスの展開なども考えられています.
ISSには昨年10月より3人の宇宙飛行士が滞在を開始し,この2月にはアメリカの実験モジュール「デスティニー」が取り付けられました(ISSの現在の様子はこちら).デスティニーは,ISSでの実験研究活動の中核としての役割を果たす予定で,現在行われているミッション(下記参照)で実験ラックが設置され,本格的な実験が開始されます.今月8日午後8時42分(日本時間)に打ち上げられたスペースシャトル「ディスカバリー号」によるミッション(STS-102/5A.1フライト)では,滞在している搭乗員の交代やイタリアが開発した多目的補給モジュール「レオナルド」による補給物資の搬入のほか,日本としては初めてのISS搭載実験装置である中性子モニタ装置がデスティニー内に運搬されました.
中性子は,宇宙飛行士が被曝する全宇宙放射線被曝量の5〜30%を占めると言われ,この中性子モニタ装置は,約7か月間にわたって観測を行うことで,有人宇宙活動に必要となる基礎データを提供するものです.
また4月には,ISSの船外活動に用いられるロボットアーム(SSRMS)の取り付けも予定されています.なお,日本が開発している実験モジュール「きぼう」は2004年に打ち上げられる予定です.
ISS建設のコストが当初の予定を大幅に超過しそうなため,計画全体の見直しも取りざたされていますが,まずは新旧宇宙ステーションの交代劇に注目していきたいと思います.
宇宙作家クラブのメンバーによる,宇宙開発の取材の様子が時々刻々と報告されています.ミールの落下や国際宇宙ステーションの建設の状況をはじめ,最新の宇宙開発関係のニュースを入手するのであれば,まずここへ.
ミールの破片が燃えながら落下していく様子などが見られます.
●ミール落下に関する写真集 (Yahoo! News Photos)
ミール落下やロシア・コロリョフ管制センターの様子などの写真が掲載されています.(英語).
宇宙科学研究所の的川泰宣教授が,3月8日からオペレーション終了の23日まで,ミール落下の情報にかかわる私見を日記風につづったものです.
ミール落下の観測結果など.
文部科学省 ミール情報収集分析センターによる情報サイト.
●特集:宇宙ステーション「ミール」の終焉 (オンライン書店bk1)
ノンフィクションライターの松浦晋也氏が,ミールの果たした役割と破棄に至るまでの経緯などをやさしく解説しています.また,関連書籍のリストも充実.
『星ナビ』2001年4月号の記事と連動した,ミールに関する特集サイトです.解説「ミール,15年の軌跡」ほか,ミール・フォトコンテスト,関連ニュース,リンク集などがあります.
●ミール関連サイト
・ミールの軌道離脱計画に関するQ&A (文部科学省)
・宇宙ステーション「ミール」について (NASDA宇宙情報センター)
・ミールステーションのニュース (横浜子ども科学館)
・航空宇宙技術研究所
・低軌道衛星追尾装置によるミール画像 ・東京上空を通過するミール
・ロシア航空宇宙庁 ミールサイト/飛行管制センター
・NASAのMir Space Stationサイト
・NASA“The End of Mir”
・US SPACE COMMANDのMIRサイト
・S.P.Korolev RSC EnergiaのMIRサイト
・MirReentry.com Ltd.のサイト
・ENERGIA Ltd.(American Office)のMIRサイト
・「米ソ覇権争いの遺跡」=90年にミールに搭乗した秋山さん (3/17,時事通信社)
・[ひと]ウラジーミル・ソロビヨフさん=宇宙船ミール落下作業、陣頭指揮を執る (毎日新聞)
国際宇宙ステーション(ISS)の各ミッションをはじめ,宇宙飛行士やシャトル・ISSフライト情報,また宇宙環境利用や宇宙医学などを紹介.ISSについての情報収集はまずここから.
●各国宇宙開発機関によるISSサイト
・NASA(アメリカ航空宇宙局)のISS公式サイト
・NASA GRC(グレン研究センター)のISS関連サイト
・ESA(欧州宇宙機関)のISS関連サイト
・CSA(カナダ宇宙庁)のISS関連サイト
・INPE(ブラジル国立宇宙研究所)
・RASA(ロシア航空宇宙庁)●第1回「きぼう」利用シンポジウム
「新世紀 開かれる国際宇宙ステーション 〜宇宙文化の創造から宇宙ビジネスの展開まで〜」ISSに設置される日本の実験モジュール「きぼう」について,科学研究や技術開発としての利用に加えて,新しい文化の創造とビジネスの展開など,民間を含めた多様な利用を推進するために行われる,講演とパネルディスカッション(2001年3月9日(金),東京国際フォーラムにて).
プログラムはこちら(pdfファイル).予稿集はこちら(pdfファイル).
※本シンポジウムは終了しました.●宇宙環境利用シンポジウム 「文化としての宇宙」
昨年10月に(財)宇宙環境利用推進センターの主催で行われたもので,講演者は劇作家の如月小春氏やエッセイスト・ロシア語通訳の米原万里氏,早稲田大学の長谷川眞理子氏など.
当日の講演内容をまとめたプログラムが,無料で配布されています(お申し込みはこちら).●ISS関連サイト
・YAHOO! NEWS(米国) International Space Station
・BOEING社宇宙部門のInternational Space Station
・S.P.Korolev RSC EnergiaのISSホームページ
●関連書籍
■ 『ドラゴン・フライ (上・下) −ミール宇宙ステーション 悪夢の真実−』
ブライアン・バロウ 著/上:定価2530円(本体2300円+税10%),下:定価2640円(本体2400円+税10%)/筑摩書房
ミールに乗り込んだアメリカ人宇宙飛行士たちと,NASAのロシアでの経験,そして米ロ共同ミッションの知られざる実態を,初公開資料と綿密な取材で描きだしたノンフィクション.
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(上)|amazon |bk1 |eS! |ISIZE |Jbook |Yahoo! |旭屋書店 |紀伊國屋書店 |富士山 |
(下)|amazon |bk1 |eS! |ISIZE |Jbook |Yahoo! |旭屋書店 |紀伊國屋書店 |富士山 |■ 『地球を離れた2年間 −人類の夢、火星への挑戦−』
ワレリー・V・ポリャコフ 著/定価2090円(本体1900円+税10%)/WAVE出版
医師であり宇宙飛行士である著者が,ミールを舞台に,自らの身体をもって長期宇宙飛行時の医学研究に挑んだ衝撃の記録です.
オンライン書店へのダイレクトリンク
|amazon |bk1 |eS! |ISIZE |Jbook |Yahoo! |旭屋書店 |紀伊國屋書店 |富士山 |■ 『宇宙のゴミ問題 −スペース・デブリ−』 (ポピュラー・サイエンス 166)
八坂哲雄 著/定価1540円(本体1400円+税10%)/裳華房
地球のまわりに蓄積する,使用済みや制御不能になった人工衛星・ロケット・破片など“宇宙のゴミ=スペース・デブリ”について,その基礎から望まれる環境保全・対策までを科学的にやさしく解説した,唯一の啓蒙書です.
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|amazon |bk1 |eS! |ISIZE |Jbook |Yahoo! |旭屋書店 |紀伊國屋書店 |富士山 |■ 『宇宙環境利用のサイエンス』
井口洋夫 監修/定価2200円(本体2000円+税10%)/裳華房
国際宇宙ステーションで,何をするのか? 何ができるのか? 物理,化学,生物学,物質科学など,各分野の第一線で活躍する研究者が,宇宙環境利用の基礎と将来ビジョンを紹介.また,有人宇宙飛行技術や短時間の微小重力実験手段,宇宙放射線などについても解説します.(宇宙開発事業団 宇宙環境利用研究システム テキストブック委員会 編集)
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