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Shokabo-News No.291 2013/8/30
裳華房メールマガジン 2013年8月号
https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回のご案内 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◇ 新刊
『ベーシック量子論』『植物の生態』
◇ 近刊(9月刊行予定)
『化学の基本概念』『ヒトを理解するための 生物学』
『医薬系のための生物学』
◇ 松浦晋也の“読書ノート”(9)
正しい知識の不足を象徴する2冊
◇ 裳華房 編集子の“私の本棚”(5)
「なぜ捏造が行なわれたのか?」
◇ 裳華房の“古書”探訪 (16)
竹内端三 著『高等微分學』(初版 大正11年)
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Shokabo-News 会員の皆様 こんにちは m(_ _)m
残暑厳しい日が続きますが,皆様,いかがお過ごしでしょうか?
Shokabo-News 2013年8月号をお届けいたします.
先月号でもご案内したように,「基礎物理学選書」の演習書5点
『熱学演習−熱力学』『熱学演習−統計力学』『電磁気学演習』
『力学演習』『振動・波動演習』
https://www.shokabo.co.jp/fukkan/fukkanlist.html
を新規に復刊しました.学習の一助にしていただければ幸いです.
なお復刊書籍のため,一部のオンライン書店(ネット書店)では,「在庫切
れ」「販売中止」「ご注文いただけません」などと表示されている場合がござ
います.その際は,お手数ですが,お近くの書店・大学生協書籍部等にてお取
り寄せいただくか,直接小社までご注文をお願いいたします.
さて今回のShokabo-Newsでは,新刊2点,近刊3点のご紹介ほか,好評連載
「松浦晋也の“読書ノート”」では『原子力発電ABC』(東京電力株式会社)と
『反原発、出前します』(反原発出前のお店編)の2冊を,「裳華房の“古書”
探訪」では竹内端三著『高等微分學』(初版1922年)を,「裳華房 編集子の
“私の本棚”」では 『論文捏造』(中公新書ラクレ)を取り上げます.
ご意見・ご感想を m-list@shokabo.co.jp までお寄せいただければ幸いです.
(Twitterをお使いの方はアカウント @shokabo まで)
★ お知らせ ★
1.東京大学 生協 本郷書籍部にて裳華房フェアが開催中です(〜9/27).
http://www.utcoop.or.jp/hb/news/news_detail_492.html
2.9/6(金)より,愛知県名古屋市にある三省堂書店 名古屋高島屋店にて
「科学と医学・技術図書フェア2013」が始まります(〜10/4).
https://www.shokabo.co.jp/fair/index.html#etc
3.「大学・短大・高専用教科書のご案内」
https://www.shokabo.co.jp/text.html
★★★★★★★★★★★★★★ 新 刊 案 内 ★★★★★★★★★★★★★★★
◆ 『ベーシック量子論』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2241-0.htm
土屋賢一 著/A5判/212頁/定価2100円(税込)/裳華房/
ISBN978-4-7853-2241-0
量子論の標準的な入門書.初学者や再度学習しようとする独学者のために,
細かな計算もできるだけ省かずに解説した.導入部分(第1章)では,前期量
子論を詳解することで,なぜ量子論が必要になったかが理解できるように工夫
し,9章以降の後半では,後々興味を持たれる方のために,角運動量やスピン,
摂動論など初学者にはやや難解な内容も取り入れた.
【主要目次】1.前期量子論 2.シュレディンガー方程式 3.井戸型ポテンシ
ャル 4.1次元調和振動子 5.水素原子の電子軌道 6.1次元ポテンシャルに
よる散乱 7.不確定性原理 8.一般論 9.角運動量 10.スピン 11.摂動
論 付録
◆ 『新・生命科学シリーズ 植物の生態 −生理機能を中心に−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5855-6.htm
寺島一郎 著/A5判/280頁/2色刷/定価2940円(税込)/裳華房/
ISBN978-4-7853-5855-6
植物生理生態学の基本を丁寧に説明.物理や化学の知識を必要とする箇所で
は正面突破を試みたが,難しい題材からも逃げずに,脚注をたくさん付け,読
者がじっくりと時間をかけて学べるように配慮.なお,やや程度の高い部分等
は電子補遺(pdfファイル)として裳華房 Webサイトからダウンロードできる.
【主要目次】1.はじめに:生態学とはどういう学問なのだろうか 2.生物の
環境適応 3.陸上植物の進化 4.植物の特徴 5.植物と水 6.植物の光環
境と光吸収 7.光合成のあらまし 8.光合成の生理生態学 9.呼吸と転流
10.無機栄養の獲得 11.成長と分配 12.陸域生態系の生態学
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【裳華房 新刊一覧】 https://www.shokabo.co.jp/book_news.html
【ご購入のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/order.html
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★★★★★★★★★★ 近 刊 案 内 (9月刊行予定)★★★★★★★★★★★
◆ 『化学の基本概念 −理系基礎化学−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3092-7.htm
齋藤太郎 著/B5判/140頁/2色刷/定価2310円(税込)/裳華房/
ISBN978-4-7853-3092-7
理工系の大学生が化学について必ず身につけておくべき最も基本的な概念を,
微視的(ミクロ)・巨視的(マクロ)の双方の視点から,わかりやすく簡潔に
解説した教科書.吟味された多数の演習問題や,水,炭素,水素など基本的な
物質にまつわるコラムも学習に役立つ.
◆ 『ヒトを理解するための 生物学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5226-4.htm
八杉貞雄 著/B5判/164頁/3色刷/定価2310円(税込)/裳華房/
ISBN978-4-7853-5226-4
ヒトに関することを中心にした生物学のテキストで,化学構造式はできるだ
け用いないで説明した.全15章からなり,各章は基本的事項(1コマで教えら
れる程度)とやや発展的な内容から構成される.発展的な内容は学生が各自で
勉強するか,教員が通年で生物学を教えるときに有用な内容とした.
◆ 『医薬系のための 生物学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5224-0.htm
丸山 敬・松岡耕二 共著/B5判/232頁/3色刷/定価3150円(税込)/
裳華房/ISBN978-4-7853-5224-0
医学系,薬学系,看護系など医療系に必須な生物学の基礎知識と応用力の習
得を目的とし,具体的な薬の名称や働きを織り交ぜながら,平易に解説.学生
の意欲を喚起するために最先端の「薬学ノート」「コラム」「トピックス」な
ど適宜織り込み,さらに章の最後に演習問題と,巻末にその解答を掲載した.
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【裳華房 分野別書籍一覧】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html
【正誤表などサポート情報】 https://www.shokabo.co.jp/support/
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★★★★★ 【連載コラム】松浦晋也の“読書ノート” (第9回) ★★★★★
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ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司
さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます.
今月号のご担当は松浦晋也さんです.
・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/
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◇ 正しい知識の不足を象徴する2冊 ◇
◆『原子力発電ABC』(東京電力株式会社、1958年)
『反原発、出前します−高木仁三郎講義録−』(反原発出前のお店編、
七つ森書館、1993年)
この1年ばかり、日経BP社が運営するWebサイト“PC Online”[*1]で受け
持っている連載「人と技術と情報の界面を探る」[*2]で、「原子力発電を考
える」と題するシリーズを書いている。
2011年3月11日の東日本大震災で、 東京電力・福島第一原子力発電所の原子
炉冷却が不可能になり、大量の放射性物質が漏れ出し、拡散した。この時、自
分は何も分かっていなかった。「あれ、制御棒が挿入されたということは臨界
は止まったんだろ。なぜ冷却が必要なんだ」と思ったくらいだ。臨界停止後も
生成した放射性同位体が大量の崩壊熱を出し続けるという、当たり前のことに
気がつかなかった。あわてて、東電のホームページやら政府関係ページを漁り、
原子炉のなんたるかを調べ始めたが、なかなか原子炉という機械の理解にたど
り着かなかった。「こうなれば、こうなる」という仕組みが見えてこなかった
のである。
人間が作った機械である以上、当然設計時には「ああなったらこうなって、
こうなったらああなる」という脈絡が見えているはずだ。その見えているとこ
ろで事故になったのか、なにか設計段階では見えていないところで事故を起こ
したのか、それとも設計では見えていても製造や施工で何かを見落とした結果
事故が起きたのか、事故が起きてしまった現在の目から見返すならある程度ま
では理解できるだろう。そう考えて自分の勉強がてら、連載を開始したのだっ
た。
今回紹介するのはその過程で読んだ2冊だ。
『原子力発電ABC』は、日本に原子力発電が導入されようとしていた1958年と
いう時期に、東電の社内報に連載された記事を一冊の本にまとめたものである。
巻頭言を当時の菅礼之助会長(1883〜1971)、高井亮太郎社長(1896〜1969)、
木川田一隆副社長(1899〜1977)が順番に寄稿しており、これだけでも当時の
東電が原子力発電に多大な関心を抱いていたことが分かる。
社内報連載のまとめなので、一般向けパンフレットに毛が生えた程度の内容
を想像する方も多いだろう。が、本書の内容はそんなものではない。高度にし
て正確、かつわかりやすく、しかも多岐に渡っている。核分裂を巡る核物理学
の原理解説から始めて、各種原子炉の構造と動作原理、国内外のウラン資源の
分布、さらには当時の国内外の原子力開発体制に至るまでを、 全180ページの
小冊子にコンパクトにまとまっている。
例えば高速増殖炉だ。高速増殖炉の「高速」が何を意味するか、あなたはご
存知だろうか。答えは、核分裂の引き金となる中性子が、高い運動エネルギー
を持っているからだ。核分裂反応で飛び出した中性子はそのままでは非常に高
速だ。高速だと次のウラン原子にぶつかったときに核分裂反応を起こす確率が
低くなる。普通の原子炉は、核分裂を起きやすくするために、減速材を使って
中性子の速度を落とす。高速増殖炉は減速しない高速の中性子を使って臨界を
維持するから“高速”増殖炉なのだ。
ここで疑問が生じる。「では、核分裂を起こしにくい高速中性子をつかって、
どうやって臨界を維持するのか」と。ところが、現在市中に出回っている一般
解説書には、私が読んだ限りではこの疑問に明確に答えたものはなかった。み
ないきなり「高速増殖炉は、炉内でプルトニウム239を生産して、 炉で消費す
る以上の核燃料を生産する原子炉」というところから説明を始めてしまい、も
っと根源的な「高速中性子で臨界を維持する方法」を説明していないのだ。
しかし『原子力発電ABC』は違う。 まず中性子の速度を落とすための減速材
の説明で 「(ウラン235の核分裂反応を起こすための中性子の速度は)毎秒2
km程度であることが必要なのに、分裂によって生まれた生まれたての中性子は
非常に勢いがよくて、その速度が毎秒約20,000kmである」(同書p.48)と、中
性子の速度を具体的に記述。さらに、増殖炉と高速増殖炉が違うことをきちん
と説明し(増殖炉は核燃料が増える原子炉。減速材を使って中性子の速度を落
とす増殖炉も成立する)、その上で高速中性子をそのまま核分裂反応に使用す
る高速増殖炉の原理について次のように説明する。
「(減速材を使う増殖炉は)出て来た中性子をできるだけ経済的に連鎖反応に
参加させるという考え方だが、もうひとつの方法は、最初の中性子、すなわち
分裂によって発生する中性子の数を増してやることである」(p.81)
その上で、様々な核種が1回の核分裂反応で発生する中性子の個数を比較し、
高速中性子によるプルトニウム239の核分裂反応が、 より多くの中性子を発生
させることを指摘する。そうして、減速材を用いない分、プルトニウム核燃料
をぎゅっとまとめて配置した炉心で高密度に高速中性子を発生させて臨界を維
持。臨界に寄与せずに炉の外側に逃げ出す中性子は炉心周囲に配置したウラン
238にぶつけてプルトニウム239に変換させるという、高速増殖炉の基本アイデ
アを読者に理解させるのだ。
これほど至れり尽くせりの、原理にまで立ち戻った理解しやすい解説が、
1958年という段階で東電の社内報に連載されていた――つまり東電の社員は技
術職、事務職を問わず、基本的に全員がこれを読んでいたのである。
福島第一原子力発電所の事故後、東電社内で原子力部門があたかも“会社の
中の会社”のように他部門との関係が薄くなってしまっていたことが報道され
た。それは、多分に「原子力という良く分からないものは専門職に任せておこ
う」という、社内の雰囲気に起因するものだったらしい。特に事務職から見た
原子力部門は「良く分からない専門用語を扱い、原子炉のお守りをする人達」
という印象が強かったという。逆に原子力セクションもそれをいいことに独立
性を高めていったようである。
しかし、1958年当時の東電は違った。原子力という新しいエネルギー源の到
来を控えて、全社員がその原理と実際を根本から理解しようと努めていた。あ
るいは、社員は「面倒臭いなあ」と思っていたかも知れない。が、本書の存在
は、経営側は原子力の正確な知識を、全社員に理解させる必要があると考えて
いたことを意味する。
この姿勢が50年以上継続していたら、福島第一の事故もかなり様相は変わっ
たかも知れない。現地はもとより、本店に詰める関係者も、官邸に向かった者
も、メディア対応を担当する者も、等しく原子力に関する深く正確な知識を持
ち、的確に事態に対処できていたかも知れない。海水注入を巡る混乱で先般亡
くなられた吉田昌郎所長が一芝居打たなくとも良かったかもしれない。いや、
それ以前に原子力発電所の安全性により慎重であるべきという社内コンセンサ
スが形成され、福島第一の安全設備が強化され、東日本大震災にも耐えていた
かもしれない。
しかしそうはならなかった。事故が起きた時、東電本店はテレビ会議で「吉
田ぁっ」と叫び、所長を呼び捨てにしてなんとかしろと要求するしかできなか
ったのである。
もう一冊の『反原発、出前します』は、反原発の論客であった核物理学者の
高木仁三郎(1938〜2000)が、1991年5月〜6月に行った反原発の講義をまとめ
たものである。編者である「反原発出前のお店」は、高木が組織した原子力資
料情報室が始めた、出前のように注文があれば講師を派遣して、反原発関連の
講義を行うというプロジェクトで、現在も継続している。プロジェクト発足に
あたっては講師を養成する必要があり、同書にまとまった高木の講義は、「反
原発出前のお店」の講師養成のために行ったものである。実際のまとめ作業は、
講義を受けた者たちが行ったらしく、一部高木とは別の名前が記された囲み記
事が組み込まれている。私が読んだのは、1993年の初版だが、福島の事故後の
2011年4月には新装版で復刊している。
反原発論者の中でも高木は、専門知識に基づく実証的姿勢で際立っていた。
原発推進側も「高木さんとは議論ができる」と彼の姿勢を評価していたという。
そのことは彼の作った組織が「原子力資料情報室」という名称であることから
も明らかだろう。「反原発なんたら会議」でも「原発いらないかんたらネット
ワーク」でもない。資料と情報を集める拠点なのである。
本書でも高木の実証的姿勢は際立っており、まず原子力発電の基本的な概念
から始めて、基本原理から導き出される危険性、さらに原理としては可能でも
実装された技術としての危険性とひとつずつ解きほぐしていく。圧巻は、実際
の原発事故を分析していく第二部であり、スリーマイル事故、チェルノブイリ
事故に始まり、福島第二原子力発電所3号機で起きた再循環ポンプ破壊事故
(1989年1月)、美浜原子力発電所2号機で起きた蒸気発生器配管ギロチン破
断事故(1991年2月)を、当時集められる限りのデータを集め、その経緯を解
説していく。後半は核燃料サイクルの検証と疑問提示に割かれており、高木が
核燃料サイクルにともなう六ヶ所村再処理工場の稼働に強い危機感を持ってい
たことがうかがえる。
本書を読んでいくと、高木の反原発の姿勢の根本には「人間が作り上げた工
学という学問体系に対する不信」があることが見えてくる。工学は理学が解明
した自然現象を、人類社会に役立つ道具として組み上げるための知識体系だ。
高木は、原子力の巨大なエネルギーを前にして、人間の知恵がそれを御するこ
とができると確信できなかったのだろう。だから彼は、自らの理学と工学の知
識を駆使して原子力発電に反対し続けた。
私は、この姿勢には少々違和感を抱く。というのも、開発と生産の現場をず
っと取材して、ここ20年程のコンピューターの進歩で今までできなかったこと
がどんどんできるようになってきたのを見聞しているからだ。たとえば本書の
中で、高木は加圧水型原子炉や高速増殖炉に必須の蒸気発生器(熱交換器)が
抱える脆弱性を指摘しているのだが、本書刊行後の20年で、熱交換器の設計も
製造も長足の進歩を遂げた。製品内部の欠陥を探る技術もコンピューターによ
る可視化技術で従来とは比べものにならないほど精度が向上している。高木の
記述には、そのような技術革新による設計・製造両面での進歩が考えに入って
いない。
いま、彼が生きていたらどう考えたかは興味あるifだが、残念ながら高木は
2000年10月にガンのためにこの世を去ってしまった。そして、現在再稼働準備
に入っている原子力発電所の炉のかなりの部分は、私が指摘した技術革新以前
に設計・製造されている。高木の指摘は、今なお現役の原子炉については生き
ている。
福島第一原子力発電所の事故を調べていくと、事故拡大と原子炉の安定停止
はほんとうに紙一重であったことが見えてくる。制御棒が炉内に挿入され、臨
界が停止した後、炉内に水を循環させる電力さえ続けば、あのような事態には
ならなかった。実際、福島第一5号機と6号機は1つだけ非常用発電機が生き残
ったので、1〜3号機のようにはならなかった。
すべての電源が失われる事態に立ち至る前段には、「これぐらいなら大丈夫
だろう」という積み木崩しに似たプロセスが何十年も続いていた。「これでも
大丈夫」「これくらいなら大丈夫」――もちろん大丈夫だ、その時は。しかし
積み木を抜き続けていけば、どこかで積み木の山は崩れるのである。
積み木の山の崩壊を防ぐには、なによりも関係者全員が正確な知識を持つ必
要があった。そして高木仁三郎のような、根拠のある指摘を行う反対者との胸
襟を割った対話の継続が必要だった。高木の前に、胸を張って提出できる対策
を実施し続ける必要があった。
『原子力発電ABC』と『反原発、出前します』は共に、我々の社会全体に正し
い知識が不足していることを示しているのである。
[本文で紹介したWebサイトのURLアドレス]
*1 PC Online
http://pc.nikkeibp.co.jp/
*2 連載「人と技術と情報の界面を探る」
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080312/296077/
◆『原子力発電ABC』
東京電力株式会社 編/
A4判/180頁/非売品/1958年発行/東京電力株式会社
◆『新装版 反原発、出前します −原発・事故・影響 そして未来を考える−
[高木仁三郎講義録]』
反原発出前のお店 編、高木仁三郎 監修/
A5判/272頁/定価2100円(税込)/新装版2011年4月発行/七つ森書館/
ISBN978-4-8228-1132-7
http://pen.co.jp/index.php?id=597
【松浦晋也さんのプロフィール】
ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online に「人と
技術と情報の界面を探る」を連載中.主著に『われらの有人宇宙船』『増補
スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『コダワリ人のおもちゃ箱』『の
りもの進化論』などがある.
ブログ「松浦晋也のL/D」 http://smatsu.air-nifty.com/
「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2013
次号は鹿野 司さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに!
※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
https://www.shokabo.co.jp/column/
───【裳華房のお役立ちサイト】───────────────────
◎ 研究所等の一般公開(8/30更新)
https://www.shokabo.co.jp/keyword/openday.html
◎ 学会主催 一般講演会・公開シンポジウム(8/30更新)
https://www.shokabo.co.jp/keyword/openlecture.html
◎ 若手 春・夏・秋・冬の学校(8/23更新)
https://www.shokabo.co.jp/keyword/wakateschool.html
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★★★★【連載コラム】裳華房 編集子の“私の本棚”(第5回) ★★★★★
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編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります.
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◇ 「なぜ捏造が行なわれたのか?」
◆『論文捏造』(村松 秀著,中公新書ラクレ)
編集者のEです.今回は,私が大学院生時代に読んだ書籍を紹介します.
本書は,NHKでディレクターとして活躍されている村松秀さんのノンフィク
ションで,科学ジャーナリズム大賞2007を受賞された作品です.現在,村松さ
んはNHK Eテレで「すイエんサー」という番組の制作に携わっています.
本書の主人公は,架空の実験結果を『サイエンス』『ネイチャー』といった
有名科学雑誌に多数投稿し,「論文捏造」を行なったヤン・ヘンドリック・シ
ェーン.彼は1998年,ノーベル賞受賞者を多数輩出している名門,ベル研究所
に入りました.2000年1月頃から,わずか2年半の間に上記の雑誌に計16本の
論文を投稿し,そのほとんど全てが,現在では捏造であったことがわかってい
ます.
当初,シェーンの論文は「超伝導」という物理学の研究分野に多大なインパ
クトを与えました.誰も成し得なかった素晴らしい業績に世界中の研究者が賞
賛を送り,すぐさま世界中で追試が行なわれました.しかし,誰一人,彼の実
験結果を再現することはできなかったのです.
東北大学の谷垣勝己教授もシェーンの実験の追試をした一人です.谷垣教授
は,シェーンの「実験のサンプルは全て捨ててしまった」という,研究者とし
て信じられない行動から,この実験結果について不信感が増したことを明かし
ています.世界中で誰も追試に成功しないという異常事態から,谷垣教授のよ
うにシェーンの論文に対して疑念を持つ研究者は次第に増えていきました.こ
うして,シェーンの論文の真偽は次第に雲行きが怪しくなっていきますが,周
囲の疑念をよそに,彼は次々に画期的な研究成果を発表していくのです.
なぜ若き研究者が犯した過ちを,世界中の研究者,権威ある科学雑誌が長い
あいだ見抜けなかったのか.これは,非常に興味深い問題です.この点に関し
て,村松氏の丁寧な取材によって,問題の所在が明らかにされていきます.
2002年9月25日,シェーンの捏造に対する調査委員会は, シェーンの論文に
捏造があったことを認める調査報告書を公開し,シェーンはこの日のうちにベ
ル研究所を解雇されました.その後,シェーンがどこで何をしているのか,シ
ェーンを指導する立場にあった物理学者,バートラム・バトログを含め,誰に
もわかっていません.
本書は,「捏造」という科学倫理に反する行動を描いたもので,科学研究が
どのようにあるべきかについて,とても考えさせられる一冊です.加えて,村
松氏の読者を引き込む圧巻の筆力は,本書の魅力のひとつだと思います.ぜひ
皆様にもご一読をお薦めいたします.
◆『論文捏造』
村松 秀 著/新書判/336頁/定価903円(税込)/2006年9月発行/
中央公論新社/ISBN978-4-12-150226-1
http://www.chuko.co.jp/laclef/2006/09/150226.html
───【裳華房のお役立ちサイト】───────────────────
◎ 自然科学系の雑誌一覧 −最新号の特集等タイトルとリンク−(8/30更新)
https://www.shokabo.co.jp/magazine/
◎ 大学・研究所・学協会の住所録とリンク
https://www.shokabo.co.jp/address.html
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★★★★★★ 【連載コラム】裳華房の“古書”探訪(第16回)★★★★★★★
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弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」
に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた大正時代から昭和時代
に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします.
【バックナンバー】 https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html
【裳華房の歴史】 https://www.shokabo.co.jp/history.html
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◆ 竹内端三 著『高等微分學』(初版 大正11年)
正確なデータはありませんが,数学諸分野で,高等教育(大学や高専など)
における教科書として,点数・冊数ともに最も多く出版されているのは,た
ぶん「微分積分」ではないでしょうか.生物系学部を卒業した筆者も,微分
積分は必修科目として受講しました.
その微分積分に関して,初めて裳華房から刊行されたのが,今回紹介する
竹内端三著『高等微分學』です.
書名にある「高等」とは高等教育を意味し,当時の(旧制)高等学校(現
在の大学教養課程に相当)における教科書として著されたものです.
裳華房“初”だけでなく,国立国会図書館のデータベースによっても,本
書以前には,いわゆる微分積分または解析学という形で著された成書は,翻
訳書を含めても数えるほどしか出版されておらず[*1],日本における最初
期の微分積分教科書といえるでしょう.
翌 大正12年(1923年)には姉妹書となる『高等積分學』も刊行しました.
類書がほとんどなかったためか,『高等微分學』『高等積分學』ともに相
当の部数が売れたようで[*2],昭和2年(1927年)に刊行された増訂改版
の緒言で著者は「爾来重版又重版ツイニ紙型磨滅シテ用イ爲サザルニ至ル」
[*3]と記しています.
また奥付の記録を見ると,ほぼ半年に1回という重版の度に,細かな修正
を行っていたようです.
以下に,『高等積分學』とともに目次(新字,現代仮名使いに修正)をあ
げておきます.
『高等微分學』
1.緒論/2.微分法/3.導関数の性質および応用/4.逐次微分法/
5.無限級数/6.関数の展開/7.偏微分法/8.平面曲線/9.微分変
数の変更/10.空間曲線および曲面
『高等積分學』
1.緒論/2.不定積分/3.定積分/4.平面積および曲線の長さ/5.
重複積分およびその応用/6.微分方程式/7.最小二乗法
本書を使った当時の授業がどのように行われていたのかは判然としません
が,この2冊が(その後現在に至る)高等教育における微分積分の講義内容
の大きな定形を作ったようだということを,東京工業高等専門学校名誉教授
の芹沢正三氏が述べています.
(現在の微分積分の教科書は)微分のことは微分でせよというが,微
分の応用まで一通り終ってからでないと,積分には入らない.私が気
が付く限りでは,この方向は,いまの先生方はおそらくご存知ない大
昔の,渡辺孫一郎先生の『初等微分積分学』や,竹内端三先生の『高
等微分学』,『高等積分学』が敷いた路線をほとんど忠実に辿るもの
と思われる.」 [*4]
著者の竹内端三(たけのうちたんぞう)は明治20年(1887年)6月生まれ.
東京帝国大学理科大学数学科を卒業した後,五高(1911年〜),八高(1915
年〜),一高(1919年〜)の教授を歴任した後,大正11年(1922年)に東京
帝国大学教授に就任.
東大における竹内の講義は大変に分かりやすかったようで,話は逸れます
が,物理学者の伏見康治氏は,在学時代に受けた竹内先生の講義について,
実によく準備された講義で、ノートをとらなくてもよかった位で,む
しろノートをとらないほうがよい位です。 [*5]
竹内端三先生の関数論は,まるでお芝居を見ているような,実に見事
な講義でね.あらかじめ言葉の隅々まで考えて来られたんでしょうね.
だから,関数論は特に勉強したわけじゃないんだけど,後で使えまし
たね. [*6]
等と述べています.
昭和17年(1942年)に定年退職されて東京帝国大学名誉教授となり,3年
後の昭和20年(1945年),59歳で亡くなられました.
竹内は,名著の誉れも高い『楕円函数論』(岩波書店,昭和11年)をはじ
め,たくさんの成書を著しましたが,大正15年(1926年)に裳華房から刊行
した『函数論』[*7]は,関数論の代表的書籍として長年にわたって定評を
いただき,とくに上巻(昭和41年にご子息の竹内端夫氏が内容を変えずに新
字・新仮名遣いに修正した新版)は,約90年後のいま現在も販売を続けてい
るという,超ロングセラー書籍になっています.
なお本書は,国立国会図書館のデジタルアーカイブで公開されています.
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1134844
[脚注]
*1 明治32年発行の『積分学講義』(長沢亀之助著,数書閣),明治40年
発行の『新撰微分積分學』(松村定次郎著,博文館),大正8年発行
の『最近微分積分學精義』(河野徳助著,高岡書店)など.
*2 藤原重幸氏は「高校教科書では『高等微分学,積分学(竹内端三)』
が類書をしのぐ王座にあった.竹内端三の解析学全般への幾多の著書
は重版の記録を作った.」と述べています.
(藤原重幸(1978)「数学の活用能力を高めるための指導について」,
長野高専紀要第9号)
*3 紙型とは,活字を使った活版印刷において,原版を複製するための鋳
型として,高温に耐えられる特殊な紙に組んだ活字を加熱・加圧して
作られたもので,これに熔けた鉛を流して印刷用の鉛版を作ります.
*4 芹沢正三(2001)「巻頭言:2つの提案」,日本数学教育学会高専・
大学部会論文誌 8(1).
なお引用文中の『初等微分積分学』も裳華房発行(初版 昭和5年).
*5 伏見康治ほか(1965)「統計物理学雑談」,物性研究 4(5).
*6 伏見康治ほか(1996) 座談会「数物学会の分離と二つの科学」,
日本物理学会誌 51(1).
http://www.jps.or.jp/books/50thkinen/50th_01/011.html
*7 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1022-6.htm
◆『高等微分學』
竹内端三 著/菊判上製/368頁/裳華房/初版 大正11年[1922年]
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次号は2013年9月27日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)//
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