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Shokabo-News No.292 2013/9/30
裳華房メールマガジン 2013年9月号
https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今回のご案内 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◇ 新刊
『化学の基本概念』『ヒトを理解するための 生物学』
『医薬系のための 生物学』
◇ 近刊(10月刊行予定ほか)
『無機化学』『遺伝子操作の基本原理』
◇ 鹿野 司の“読書ノート”(9)
人間とコンピュータをめぐるもう一つの歴史
◇ 裳華房 編集子の“私の本棚”(6)
数学という物語
◇ 裳華房の“古書”探訪 (17)
鮫島實三郎 著『物理化學實驗法』[初版 昭和2年]
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Shokabo-News 会員の皆様 こんにちは m(_ _)m
東京都内はめっきり秋らしくなりましたが,いかがお過ごしでしょうか?
Shokabo-News 2013年9月号をお届けいたします.
Twitter で,弊社の公式アカウント(@shokabo)とは別に,編集部のアカウン
ト(@shokabo_editors)を新たに立ち上げました.編集者自身による新刊・近刊
紹介に加え,本や書店に関する情報などを幅広くつぶやいてまいります.
ちなみに アイコンは裳華房の非公認マスコットキャラクター(?)の梅子です.
公式アカウントとともに,フォローしていただければ幸いです.
裳華房 編集部 Twitter
https://twitter.com/shokabo_editors
さて来年度に向けて,この秋は教科書の新刊を続々と刊行する予定ですが,今
回のShokabo-Newsでは,そのうち9月に刊行した3点と10月刊行予定の2点をご
紹介します.また,好評連載「鹿野司の“読書ノート”」では『コンピュータvs
プロ棋士』(岡嶋裕史著)を,「裳華房の“古書”探訪」では鮫島實三郎著『物
理化學實驗法』[初版 昭和2年]を,「裳華房 編集子の“私の本棚”」では
『素数の音楽』(新潮社)を取り上げます.
ご意見・ご感想を m-list@shokabo.co.jp までお寄せいただければ幸いです.
(Twitterをお使いの方はアカウント @shokabo まで)
★ お知らせ ★
1.「大学・短大・高専用教科書のご案内」
https://www.shokabo.co.jp/text.html
2.第21回出版社共同企画「謝恩価格本フェア」(10/16〜12/16)に出品します.
今回の特集は「読書週間」「クリスマス」(インターネットでの取り扱いのみ).
http://www.bargainbook.jp/
3.毎年恒例「神保町ブックフェスティバル 本の得々市ワゴンセール」に今年
も出店します.是非お立ち寄りください(雨天中止).
開催期日:2013年11月2日(土) 〜 4日(月)
実施場所:すずらん通り商店街出店コーナー (東京都千代田区神田神保町)
★★★★★★★★★★★★★★ 新 刊 案 内 ★★★★★★★★★★★★★★★
◆ 『化学の基本概念 −理系基礎化学−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3092-7.htm
齋藤太郎 著/B5判/140頁/2色刷/定価2310円(税込)/裳華房/
ISBN978-4-7853-3092-7
理工系の大学生が化学について必ず身につけておくべき最も基本的な概念を,
微視的(ミクロ)・巨視的(マクロ)の双方の視点から,わかりやすく簡潔に
解説した教科書.吟味された多数の演習問題や,水,炭素,水素など基本的な
物質にまつわるコラムも学習に役立つ.
【主要目次】序章:物理量と単位 I.微視的化学−量子論から見た化学− 1.
元素 2.物質量 3.原子の構造 4.電子のエネルギー 5.波動関数と原子
軌道 6.原子の電子構造 7.分子軌道法 8.化学結合 9.固体の結合と構
造 II.巨視的化学−熱力学から見た化学− 10.熱力学第一法則 11.熱
力学第二法則 12.酸化と還元 13.酸と塩基 14.反応速度と触媒
◆ 『ヒトを理解するための 生物学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5226-4.htm
八杉貞雄 著/B5判/164頁/3色刷/定価2310円(税込)/裳華房/
ISBN978-4-7853-5226-4
ヒトに関することを中心にした生物学のテキストで,化学構造式はできるだ
け用いないで説明した.全15章からなり,各章は基本的事項(1コマで教えら
れる程度)とやや発展的な内容から構成される.発展的な内容は学生が各自で
勉強するか,教員が通年で生物学を教えるときに有用な内容とした.
【主要目次】1.生物学とはどのような学問か 2.生命とはなにか,生物とは
どのようなものか 3.細胞とはどのようなものか 4.体をつくる分子にはど
のようなものがあるか 5.体の中で物質はどのように変化するか 6.遺伝子と
遺伝はどのように関係しているか 7.ヒトの体はどのようにできているか 8.
エネルギーはどのように獲得されるか 9.ヒトはどのように運動するか 10.
体の恒常性はどのように維持されるか 11.ヒトは病原体とどのようにたたか
うか 12.ヒトはどのように次の世代を残すか 13.ヒトはどのように進化し
てきたか 14.ヒトをとりまく環境はどのようになっているか 15.ヒトはど
のような生き物か
◆ 『医薬系のための 生物学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5224-0.htm
丸山 敬・松岡耕二 共著/B5判/232頁/3色刷/定価3150円(税込)/
裳華房/ISBN978-4-7853-5224-0
医学系,薬学系,看護系など医療系に必須な生物学の基礎知識と応用力の習
得を目的とし,具体的な薬の名称や働きを織り交ぜながら,平易に解説.学生
の意欲を喚起するために最先端の「薬学ノート」「コラム」「トピックス」な
ど適宜織り込み,さらに章の最後に演習問題と,巻末にその解答を掲載した.
【主要目次】1.生命とタンパク質 2.酵素と酵素阻害薬 3.DNAと放射線障
害 4.RNAと細胞の構造 5.生体膜と細胞小器官 6.シグナル伝達 7.ホル
モン 8.糖質代謝と糖尿病 9.脂質 10.ウイルス・細菌・植物 11.細胞
運動・細胞分裂・幹細胞 12.免疫 13.癌 14.脳と神経 15.薬物と臓器
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【ご購入のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/order.html
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★★★★★★★★★★ 近 刊 案 内 (10月刊行予定)★★★★★★★★★★★
◆ 『無機化学 −基礎から学ぶ元素の世界−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3093-4.htm
長尾宏隆・大山 大 共著/B5判/208頁/2色刷/定価2940円(税込)/
裳華房/ISBN978-4-7853-3093-4
基本概念に基づいて,無機化合物の構造および反応から,元素各論までを簡
潔に解説した入門教科書. 全部で190問に及ぶよく吟味された各章末問題には
丁寧な解答が付いており,初めて無機化学を学ぶ大学生(1,2年生)の自習書
としてもたいへん役立つ.各章のコラムや側注の解説・こぼれ話も理解を助け
るであろう.
◆ 『新・生命科学シリーズ 遺伝子操作の基本原理』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5856-3.htm
赤坂甲治・大山義彦 共著/A5判/244頁/2色刷/定価2730円(税込)/
裳華房/ISBN978-4-7853-5856-3
日進月歩の遺伝子操作技術の進歩とともに,自ら技術を開拓し,研究を発展
させてきた著者たちの実体験をもとに,遺伝子操作技術の基本原理をその初歩
から解説.遺伝子操作の歴史的,基本的技術の原理を学ぶことを通じて,最新
の生命科学の論理を理解できるように務めた.
★★★ 11〜12月刊行予定の書籍 ★★★
◇『大学生のための 力学入門』(小宮山 進・竹川 敦 共著)
◇『工学の基礎 電気磁気学』(松本 聡 著)
◇『基礎からの 量子力学』(上村 洸・山本貴博 共著)
◇『化学はこんなに役に立つ −やさしい化学入門−』(山崎 昶 著)
◇『理工系のための 化学入門』(井上正之 著)
◇『コ・メディカル化学 −医療・看護系のための基礎化学−』
(齋藤勝裕・荒井貞夫・久保勘二 共著)
◇『新・元素と周期律』(井口洋夫・井口 眞 共著)
◇『環境分析化学』(中村栄子・酒井忠雄・本水昌二・手嶋紀雄 共著)
◇『ベーシック生物学』(武村政春 著)
◇『しくみからわかる 生命工学』(田村隆明 著)
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【正誤表などサポート情報】 https://www.shokabo.co.jp/support/
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★★★★★ 【連載コラム】鹿野 司の“読書ノート” (第9回) ★★★★★
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ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司
さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます.
今月号のご担当は鹿野 司さんです.
・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/
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◇ 人間とコンピュータをめぐるもう一つの歴史 ◇
◆『コンピュータvsプロ棋士−名人に勝つ日はいつか』(PHP新書、2011年)
知能とは何か?という問題に対する認識がまだ浅かった時代、チェスのよう
なゲームは、人間の知能を解き明かす、重要な手がかりになると考えられてい
た。そこで、1950年代の電子計算機黎明期には、チェスのプログラムは人
工知能のほとんど最初のテーマとして盛んに研究されていた。
それがゲームの理論を生み、αβ法など、100万にも枝分かれする可能性
を3000ほどにまで減らせる、高率の良い情報探索技術の開発につながった。
一方、研究が進むにつれて、チェスプログラムをそれ以上追求しても、人間の
知能の本質には到達できないだろうという認識が広がり、チェスというゲーム
そのものを如何に強くしていくかが、追求されるようになっていった。
チェスプログラムのエポックは、1997年、チェスのグランド・マスター、
カスパロフとIBMのディープ・ブルーの対決だろう。
ディープブルーはカスパロフの打ち方を徹底的に研究した専用スーパーコン
ピュータで、勝った後はすぐに解体して勝ち逃げしたので、ちょっとずるい感
じはあったものの、現在ではパソコンで動くソフトでもグランドマスターを超
える能力に到達している。
一方、コンピュータ将棋は、1970年代にはじまり、当時は大学に1台し
かないような大型コンピュータで一日に数手程度計算しては、昔の郵便将棋の
ように、電話で次の手を伝え合って対戦し、一局が終わるのに数ヶ月かかって
いたそうだ。
将棋とチェスの違いは、将棋は取った相手の駒を使えるため、最後まで利用
できる駒数が減らないことだ。このため、チェスよりプログラムはかなり難し
いとされている。チェスの場合、終盤では駒数が減るので、それを全てデータ
ベースにして検索をかけている。一方、将棋はこの方法が使えないため、詰め
探索という、詰将棋を解くプログラムを利用するようになっている。
将棋プログラムは80年代のパソコンやファミコンの登場で裾野が広がり、
昨年の第1回電王戦では、将棋連盟会長の米長邦雄永世棋聖を破り、今年の第
2回電脳戦では、5対5の対局で、プログラム側が3勝1負1引き分けという
レベルに達した。また、レーティングによる棋力比較では、プログラムは今ま
さにプロ棋士最高レベルに到達していて、数年で凌駕するとも予測されている。
その意味では、「名人に勝つ日はいつか」という本書の副題にある瞬間は、対
局さえ行われればここ数年以内にやってくるだろう。
将棋のプログラムで画期的だったのは、2005年のBONANZAの登場
だった。
当時の将棋プログラムの棋力は、プロと角落ちで互角程度だったが、当時カ
ナダ在住の化学者で、将棋にはほとんど素人だった保木邦仁さんが、日本国内
の事情をあまり知らずに、チェスプログラムを参考に作り上げたプログラムが、
一段階レベルを上げる強さを見せつけた。
BONANZAの強さの秘密は、盤面の状況が有利か不利かを判断する評価
関数に、過去の棋譜を機械学習させて取り込んだことにあった。それ以前のプ
ログラムでは、評価関数はプログラマが独自に考えて決めたり、同じプログラ
ムを対戦させて、より有利になった差し手を高評価にするというやり方だった
ため、これは大きな発想の転換になった。
また、以前のプログラムは最初に読むたくさんの手筋にランクをつけて、上
位7割だけ読むというようなやり方をしていた。検索の負荷が大きいので、こ
ういう切り捨てが常識となっていたのだが、これだと数手先に有利になる手が
発見できなかった。これをBONANZAは初めのうちは全部読むというやり
方を採用して、これも棋力の上昇に繋がった。
さらに、保木さんはBONANZAのプログラムをオープンソースとして公
開し、今では上位のプログラムの全てが、このBONANZA方式を採用する
ようになっている。
BONANZAが採用した機械学習は、今、ビッグデータ界隈でホットな話
題でもある。アマゾンのお奨め広告も、iPhoneの音声認識siriも、
膨大なデータの機械学習によって、かつては考えられなかった高精度の情報サ
ービスを可能にしている。もちろん、肝心なのは、どういうデータを、そんな
方法で機械学習させるかだが、このやりかたは将棋プログラムを強くするとい
う点でも有効だったわけだ。
一方、将棋プログラムと人間は、やはり全く違う思考方法を採用しているよ
うで、プログラムの特性を深く理解すれば、勝つことも不可能ではないという。
プログラムは高速にたくさんの手を読む事ができるが、盤面の可能性は指数関
数的に増えるので、あまり深くまで読めず「地平線」が近い。そのため、後に
なって有利になるような手、最善手がいくつもあるぼんやりした手には対応で
きない。また、入玉するような珍しい手は、棋譜データが少なく良い評価関数
が作れないらしい。
一方人間は、直感的に可能性を数手に絞って、そのラインで非常に深くまで
読んでいける。地平線が遠いわけだ。
私見だが、この人間の特性は視覚イメージと似ているのではないかと思う。
人間の視覚イメージは、わずかに違う角度から見た二枚の二次元画像をもと
に、脳が作りだしたイリュージョンだ。様々な現実の物体を見る事で学習され、
物理的にはあり得る立体のほとんどを、想像することことすらできないよう神
経回路が構成されている。その逆手を取ったのが、不可能立体だろう。
それと同様に、棋士はあり得ない手を不可能立体的に見る事ができず、それ
がかえって深読みを可能にしているのではないだろうか。
将棋やチェスのプログラムは、いったんは人間の知能の問題から離れたもの
になってはいるが、意外なところで接点が見つかり、今後もゲームを強くする
という面白さのみならず、知能の謎についても、つかず離れず興味深いもので
あり続けるだろう。
◆『コンピュータvsプロ棋士 −名人に勝つ日はいつか』
岡嶋裕史 著/新書判/198頁/PHP研究所(PHP新書)
ISBN 978-4-569-79435-8(版元品切れ中)
http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-79435-8
【鹿野 司さんのプロフィール】
サイエンスライター.1959年愛知県出身.「SFマガジン」等でコラムを連載中.
主著に『サはサイエンスのサ』(早川書房),『巨大ロボット誕生』(秀和シ
ステム),『教養』(小松左京・高千穂遙と共著,徳間書店)などがある.
ブログ「くねくね科学探検日記」 http://blog.blwisdom.com/shikano/
「鹿野 司の“読書ノート”」 Copyright(c) 鹿野 司,2013
次号は松浦晋也さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに!
※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
https://www.shokabo.co.jp/column/
───【裳華房のお役立ちサイト】───────────────────
◎ 研究所等の一般公開(9/26更新)
https://www.shokabo.co.jp/keyword/openday.html
◎ 学会主催 一般講演会・公開シンポジウム(9/26更新)
https://www.shokabo.co.jp/keyword/openlecture.html
◎ 若手 春・夏・秋・冬の学校(9/26更新)
https://www.shokabo.co.jp/keyword/wakateschool.html
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★★★★【連載コラム】裳華房 編集子の“私の本棚”(第6回) ★★★★★
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編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります.
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◇ 数学という物語
◆『素数の音楽』(ソートイ著,新潮クレストブックス)
新米編集者のπです.
私は「物語」が好きです.私の人生の岐路で,「物語」は中心的な役割を果
たしてきました.今回ご紹介する『素数の音楽』もそのような物語の1つです.
この本はリーマン予想を題材としていますが,私は数学者たちの物語として
読みました.本書を読むと「数学者って実はこんな生き生きとした人々だった
んだ…!」と,夢中になって引き込まれること間違いなしです.
本書を手に取ったころ,私は工学部の大学院修士課程で実験三昧の日々を送
っていて,進路に悩んでいました.数学は決して得意ではなかったけれど,数
学書を紐解くのが好きで,「数学科で本格的に数学を勉強したい」という心の
声と「数学なんて就職の役に立たないし,むしろ就職できなくて路頭に迷うよ」
という友人たちの心配する声.眠れぬ夜が続きました.
結果的に私は工学部の修士課程を修了後,数学科に編入学したわけですが,
そんな私を後押ししてくれたことの1つが本書との出会いでした.
数学科に進学するか悩んでいたあの頃,数学書を作る仕事に就いている今の
自分の姿は想像すらできませんでした.就職のときに役に立たないと言われた
数学ですが,数学科で学んだ授業や講義ノート,ゼミでの経験が今の仕事をす
る上でなににもまして役に立っているのはいうまでもありません.数学者や数
学科の友人との出会いもまた.
数学の神様,これから編集者として良い数学書を生み出せるお手伝いができ
るよう,どこかで見守っていてください.
◆『素数の音楽』
マーカス・デュ・ソートイ 著/冨永 星 訳/
四六判変型/478頁/定価2520円(税込み)/2005年8月発行/
新潮社(新潮クレストブックス)/ISBN 978-4-10-590049-6
http://www.shinchosha.co.jp/book/590049/
#本書は2013年9月下旬に新潮文庫で再刊されました(書誌情報は下記参照).
http://www.shinchosha.co.jp/book/218421/
───【裳華房のお役立ちサイト】───────────────────
◎ 自然科学系の雑誌一覧 −最新号の特集等タイトルとリンク−(9/27更新)
https://www.shokabo.co.jp/magazine/
◎ 大学・研究所・学協会の住所録とリンク
https://www.shokabo.co.jp/address.html
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★★★★★★ 【連載コラム】裳華房の“古書”探訪(第17回)★★★★★★★
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弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」
に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた大正時代から昭和時代
に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします.
【バックナンバー】 https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html
【裳華房の歴史】 https://www.shokabo.co.jp/history.html
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◆ 鮫島實三郎 著『物理化學實驗法』[初版 昭和2年]
今回紹介するのは,1927年(昭和2年)にたぶん日本で初めて刊行された物
理化学の実験本,鮫島實三郎による『物理化學實驗法』です.
1977年に刊行された本書の「増補版」は,2013年の現在も,いくつかの大学
で教科書として採用されているという,裳華房の超ロングセラー書籍です.
実験に基づいた物理化学の入門書としてきわめて高い評価を得てきた本書で
すが,その特徴の一つに,学習者(学生),教育者(教師),そして研究者の,
三者それぞれが各自の立場で本書を読みこなせるよう,各節毎に,学生向けの
「練習実験」(主として定量的な実験),教師向けの「講義実験」(主として
定性的な実験)の項が(複数)記載されていることがあります.
以下に,目次(章タイトル)を記しておきます.
1.数値の取扱方/2.質量の測定/3.温度の測定/4.圧の測定/5.容
量の測定/6.物質精製法と実験上の諸注意/7.密度の測定/8.物質の
体積とその変化/9.多相物質の平衡/10.希薄溶液の性質/11.粘度,
拡散および界面現象/12.熱化学/13.電気伝導度とイオンの移動/14.
電動力/15.水素イオンの濃度/16.光学および光化学的実験/17.膠
質/18.反応速度と化学平衡/19.原子量測定/20.液化気体の実験
(いずれも新字,現代仮名使いに修正)
現在刊行されている「増補版」の目次は,下記URLをご参照ください.
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3008-8.htm
初版刊行以来,およそ2年に1回ずつ版を重ね,昭和14年には版を少し組み変
えた「改訂版」が,昭和30年には字体や仮名遣い,文体などに大きく手を入れ
た「新訂版」が刊行されています.
そして昭和43年(1968年)には,記述や構成を時代に合ったように改めるべ
く,赤松秀雄博士(東京大学における鮫島の後任)を中心に7名の執筆陣[*1]
が加わり,各章を分担して新しく書き直した「新版」が刊行されました.
その後,初版刊行からちょうど50年目の昭和52年(1977年)に,特に単位に
ついて増補した「増補版」が刊行され,これが現在も流通している版です.
物理化学の進歩を考えると,85年以上にわたって読み継がれているのは,非
常に驚くべきことと言えるでしょう.「新版」編纂の中心者であった赤松博士
は,「第50版の刊行にあたって」(「増補版」に所載)の中で,次のように述
べておられます.
本書は物理化学の最も基本的な事項を実験者が直接自己の体験として理解
することができるように書かれている.最近の実験機器の進歩と情報技術
の発達は化学研究の方法さえ変えるほどである.しかし一方において,こ
のことから,ややもすると実験者が現象の本質を見失うおそれさえ生ずる
ようになった.現象の真の理解も,また独創の芽も「手づくりの実験研究」
によってもたらされることを忘れてはならない.いわば,クルマで走る代
りに足で歩くことに相当する.このことは,教育過程にある学生には特に
大切である.本書が永く世に行われている理由もここにあると思う.
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1927Sameshima-exp/50th-intro.pdf
その意味では,いまなお物理化学の教育・研究に関わる人に必携の書ではな
いかと思います.
著者の鮫島實三郎(さめしまじつさぶろう)は,明治23年(1890年)7月3日
生まれ.大正3年に東京帝国大学理科大学化学科を卒業し,アメリカ,イギリ
ス,フランス等の各国に留学した後,東北帝国大学の助教授,教授を経て,大
正12年(1923年)に東京帝国大学化学第一講座(現在の物性化学研究室)の教
授に就任しました.混合液体の蒸気圧,木炭や鉱物類などによる気体の収着,
油滑性などの研究を行い,昭和26年に東京大学名誉教授になられています.
また大正15年(1926年)には日本化学会の欧文誌を創刊し,また同会の会長
を2回(昭和10年と昭和30年)務めるなど化学界の発展に貢献.昭和27年には
「膠質学に関する研究」で日本学士院賞を受賞しています.昭和48年(1973年)
4月30日死去,享年82歳でした.
裳華房からは『物理化學實驗法』のほかに, 『膠質学 上巻・下巻』『物理
化学教本』などの著書を刊行しています.
なお本書は,国立国会図書館のデジタルアーカイブで公開(館内閲覧限定)
されています.
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1146220
[脚注]
*1 「増補版」の協力者;赤松秀雄,井口洋夫,佐々木恒孝,立花太郎,
田丸謙二,中垣正幸,吉岡甲子郎の七名.
◆『物理化學實驗法』
鮫島實三郎 著/菊判上製/508頁/裳華房/初版 昭和2年[1927年]
※記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで
御連絡ください.
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次号は2013年10月29日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)//
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