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Shokabo-News No.311 2015/5/11
裳華房メールマガジン 2015年5月号
https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
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★目次★
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【1】新刊案内 『生命系のための有機化学II』
【2】近刊案内 『数学選書1 線型代数学(新装版)』
【3】オンデマンド出版のご案内
【4】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート”
【5】[連載コラム]裳華房 編集子の“私の本棚”
【6】[連載コラム]裳華房の“古書”探訪
【7】お知らせ&編集後記
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【裳華房 東京開業120周年】
https://www.shokabo.co.jp/120th_anniversary.html
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【1】新刊案内(5月刊行)
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●『生命系のための有機化学 II−有機反応の基礎−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3504-5.htm
齋藤勝裕・籔内一博 共著/B5判/164頁/二色刷/定価(本体2600円+税)
2015年5月下旬刊/裳華房/ISBN978-4-7853-3504-5
農学系・医薬系・生命工学系など,広くバイオ関係学部で学ぶ大学生を対象
とした半期用教科書.有機化学の基礎と医薬品,農薬,生体高分子などについ
てきわめて平易に解説した『生命系のための有機化学 T』に続き,この巻で
は,基本的な有機反応のしくみおよび生体高分子の構造・物性などについてわ
かりやすく解説する.
【主要目次】1.有機化学反応の種類 2.遷移状態と中間体 3.有機反応機
構の表現法 4.置換反応 5.脱離反応 6.付加反応 7.アルコール、エー
テル、アミンの反応 8.ケトン、アルデヒドの反応 9.カルボン酸の反応
10.転位反応 11.芳香族の反応 12.光化学反応 13.糖の構造と反応
14.脂質の構造と反応 15.アミノ酸・タンパク質の構造と反応
【姉妹書】
『生命系のための有機化学 I−基礎有機化学−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3503-8.htm
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【裳華房 新刊一覧】 https://www.shokabo.co.jp/book_news.html
【ご購入のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/order.html
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【2】近刊案内(6月刊行)
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●『数学選書1 線型代数学(新装版)』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1316-6.htm
佐武一郎 著/A5判 上製/354頁/定価(本体3400円+税)/2015年6月上旬刊
裳華房/ISBN978-4-7853-1316-6
本書の旧版(1958年刊,1974年増補改題)は,線型代数学に関する最も基礎
的な理論および諸概念を明快に解説し,より本格的に線型代数学を学びたい読
者にとって最適の参考書として,数十年にわたって理工系の多くの読者から親
しまれ支持されてきた定評の書.2006年には日本数学会出版賞を受賞した.
その旧版をもとに,2015年刊行の新装版では,最新の組版技術によって新た
に本文を組み直し,読者の便宜を図った.なお改版にあたっては原則,一部の
文字遣いを改めるにとどめ,本文は変更していない.
【主要目次】1.ベクトルと行列の演算 2.行列式 3.ベクトル空間 4.行
列の標準化 5.テンソル代数 付録:幾何学的説明
「数学選書」一覧
https://www.shokabo.co.jp/series/212_suusen.html
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【シリーズ一覧】 https://www.shokabo.co.jp/series/00_series.html
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【3】オンデマンド出版のご案内
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オンデマンド出版書籍[OD版]とは,出版物をデジタルデータ化することで,
1冊からの印刷・製本・販売を行う書籍のことです.裳華房では「万能書店」
に委託して販売しております.万能書店 → https://www.d-pub.co.jp/shop/
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品切れになっておりました下記の書籍をオンデマンド出版書籍として刊行
しました.
●矢野健太郎 著 『微分方程式』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-0623-6.htm
●大森英樹 著『数学シリーズ 多変数の微分積分』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-0624-3.htm
●小宮三四郎・碇屋隆雄 共著『化学新シリーズ 有機金属化学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-0622-9.htm
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【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html
【電子書籍のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html
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【4】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第17回)
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ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司
さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます.
今月号のご担当は松浦晋也さんです.
・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/
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◆ その飛行機が実用に至らなかったわけ ◆
● 浜田一穂 著『未完の計画機』(イカロス出版)
このところ航空関係の本が続いているが、調べ物をしていて面白いことに気
がついた。現在米サイエンティフィック・アメリカン誌のバックナンバーは、
1845年の創刊号以来すべて電子化され、オンラインで買うことができる[*1]。
そこで、ライト兄弟の飛行機がいつ記事になったかを調べていったところ、
1908年5月8日号[*2]が巻頭で“The Wright Aeroplane Test in North
Carolina”という記事を掲載していた。この号は表紙もライト・フライヤーで
ある。
この時期の世界的な物流の速度を考えると、遅くとも1908年8月までには世
界中の図書館にこの号が届いていたと考えて間違いはないだろう。
ところで、前々回(Shokabo-News 2015年1月号)取り上げた『嵐の生涯 航
空機設計家ハインケル』には、エルンスト・ハインケルが1908年8月5日のLZ-4
飛行船墜落事故に遭遇する以前に、空気より重い航空機について雑誌で知識を
得ていたと書いてあるのだ。ひょっとすると、ハインケルは、このサイエンテ
ィフィック・アメリカン誌1908年5月8日号を読んで、その印象も鮮明な状態
で、ツェッペリン飛行船を見に行き、「飛行船では駄目だ、飛行機でなければ」
というインスピレーションを得たのかも知れない。
さらに、その前(Shokabo-News2014年7月号)に紹介した『空気の階段を登
れ』に登場した日本民間航空のパイオニア・奈良原三次は、1909年頃から航空
機の自作を開始している。こちらも欧米の雑誌から情報を得ていたということ
なので、ひょっとすると同じサイエンティフィック・アメリカン誌1908年5月
8日号が、影響しているのかも知れない。「自分も作ろう」と考えてから、実
際の作業にとりかかるまでは数か月はかかるだろうから、夏頃にサイエンティ
フィック・アメリカン誌の記事を読んで、翌1909年初め頃から実際の作業開始
と考えると、つじつまが合う。
本当かどうかは分からない。が日独で、同じ雑誌の同じ号を読んで、同じよ
うな航空機への取り組みが始まった可能性があるというのは、大変興味深い。
ところで航空趣味には、“駄作機趣味”と呼ぶべき分野が存在するのをご存
知だろうか。ライト兄弟以降、数多くの航空機が開発されたが、失敗したもの
も多い。技術的問題から飛べなかったものから、技術的には成功したにも関わ
らず社会的な理由で商業的成功に至れなかったものまで、事情は様々だ。これ
ら失敗作を愛でるマニアがいるのである。
この分野の著作としてもっとも有名なのは、軍事評論家の岡部いさく氏の手
による「世界の駄っ作機」(大日本絵画刊行)だろう。既巻7巻に別巻2巻が
出版されている人気シリーズだ。岡部氏もこのシリーズだけは「岡部ださく」
名義を使っており、力の入れようが窺える。この“駄作機趣味”は日本に限っ
たものではないようで、英語圏でも“The World's Worst Aircraft”(Jim
Winchester著、邦訳:『図説世界の「最悪」航空機大全』原書房)という本が
出版されている。
今回取り上げる『未完の計画機』は、数多い失敗航空機の中から、著者曰く
「とりわけ特異な、あるいは技術的に興味深い機体を集めた」本だ。今年4月
に出版されたばかりの新しい本である。取り上げられた16機種すべては冷戦期
の機体。本書は航空技術の側から、冷戦という時代を概観しているのである。
著者は、浜田一穂(航空)、江藤巌(宇宙)、野木恵一(軍事)と、三つの
名前を使って、航空宇宙・軍事の幅広い分野で活動しているベテラン評論家。
航空雑誌「Jウイングス」(イカロス出版)で10年以上続いている同名の連載
に基づいて大幅に加筆したものである。
全体は三部構成で、第1章「悲運の白」では、ノースアメリカンXB-70ヴァル
キリー、BAC TSR2、アヴロ・カナダCF-105アロウという3機種が取り上げられ
る。航空マニアなら、これらがすべて純白塗装の機体であることに気がつくだ
ろう。核爆弾爆発時の熱線に耐えるための耐熱塗装だ。つまり3機種とも核戦
争において使用することを想定していたのである。以下、第2章「アメリカの
野心」では、原子力航空機やマッハ3クラス戦闘機などの冷戦期アメリカの技
術開発が、第3章「奇想の挑戦」では同時期に旧ソ連や欧州で行われた技術的
試みをまとめている。
取り上げられた各機種が、実用に至らなかった理由は多種多様だ。技術的未
成熟、政治的判断、焦点の定まらない仕様要求、そもそものコンセプトの齟齬、
軍の基本戦略方針の変更などなど。著者は、これら失敗の原因を冷静に分析し
ていく。
その結果見えてくるのは、冷戦期という時代の特異性だ。「世界の駄っ作機」
は、各時代の機体をまんべんなく取り上げて「この飛行機、こんなに駄目だっ
たんだよね」と、個々の失敗作を愛おしみつつ解説している。それに対して、
『未完の計画機』は取り上げる機種を冷戦期のものに絞ることで、個々の機体
を超えた冷戦期というひとつの時代を描き出していく。
核兵器により、人類は地球を一気に破滅させるほどの破壊力を手にした。敵
も味方も破滅的な破壊力を手にした状況で、破滅を回避して平和を維持し、同
時に相手よりも有利な立場に立つにはどうしたらいいのか。この人類史上初め
ての状況にいかに対応すべきかの試行錯誤が、航空機の技術開発に端的に表れ
ているのである。本書はアメリカとソ連だけではなく、欧州やカナダの試行錯
誤も取り上げている。冷戦という時代は米ソだけのものではなく、全世界的な
状況だったのだということを改めて実感する。
その一方で、本書はイギリスのマイルズM.52やジャンピング・ジープ、フラ
ンスのルデュック・ラムジェット実験機、ソ連のバルティーニVVA-14といった
実験的、もっと言えば奇想天外と形容すべき機体も取り上げている。冷戦とい
う時代は、少しでも軍事的な価値がありそうならば開発費用が出た、奇妙にお
おらかな時代でもあったのである。
技術史的に見ると、20世紀は様々な技術が戦争をきっかけにして長足の進歩
を遂げた時代だった。第一次世界大戦に第二次世界大戦、そして冷戦――世界
的な軍事的緊張は軍事技術への大きな投資を引き起こし、その中から生まれた
技術はどんどん民間転用されていった。すべてが軍事技術に根をもつわけでは
なく、例えばムーアの法則によって文字通り世界を一変させた半導体技術は、
ジャック・キルビー(1923〜2005)とロバート・ノイス(1927〜1990)がそれ
ぞれ独立に発明した、半導体基板上に回路を形成する技術が基本となっている。
それでも、キルビーとノイスの発明の背後には真空管を使ったエレクトロニク
ス技術があり、その進歩を促したのは間違いなく戦争だった。
冷戦終結からすでに四半世紀以上が過ぎた。では、今後の技術はなにを駆動
力として進歩していくのか。もちろん、「技術の進歩のために戦争を起こす」
というような本末転倒の状況はあってはならない。
ここからは私見となるが――私は、ムーアの法則の終焉がひとつのきっかけ
になるかも知れないと考えている。これは私のオリジナルの考えではなく、こ
の連載を分担している鹿野司さんがかなり以前から考察していたことだ。
インテル創業者のひとり、ゴードン・ムーア(1929〜)は、1960年代半ばに
「半導体集積密度は18〜24ヶ月に2倍になる」という経験則を提唱した。これ
がムーアの法則だ。その意味は、半導体の性能は指数関数的に上昇するという
ことである。事実、1960年代から、半導体の性能はその通りに向上してきた。
ムーアの法則を支えて来たのは、より細い配線を半導体上に作り込む技術だ。
この分野の技術進展は、そろそろ量子力学的な壁にぶつかりつつある。現状で
は、2020年代前半にはムーアの法則に従った半導体性能向上は終わるだろうと
予測されている。三次元に回路を集積する技術や、まったく原理の異なる量子
コンピューティングなど、ポスト・ムーアと呼ばれる一連の技術開発を行われ
ているので、その後も計算速度は向上していくだろうが、指数関数的な急速な
性能向上が続くかどうかは分からない。
鹿野さんは、指数関数的な半導体の性能向上に対して、その莫大な計算能力
を生かすアプリケーションが追いついていない、と指摘した。だから、ムーア
の法則が終焉すれば、技術開発の努力の中心は、アプリケーションに移るので
はないかというわけだ。
例えば、概念としてのユビキタス・コンピューティングは20年以上昔に提唱
された。では、すべての物体に通信可能なチップが入り、相互に通信するとし
て、どんな環境が実現できるか――ユビキタス・コンピューティングの可能性
を引き出すアプリケーションは、まだ十分に可能性が探索されているとは言え
ない。
あるいは、これまで配線の微細化に注力していた半導体製造の技術開発が、
「より放射線に強い半導体」という方向に向かったら、福島第一の事故を起こ
した原子炉内でも自由自在に行動できるロボットが可能になるかもしれない。
そうなった時に、航空技術はどのように変化するか。私は、昨今悪い方向で
話題になっているドローンは、ポスト・ムーアの時代を見据えた技術開発の一
環として理解したほうがいいのではないかと思っている。
そのような考察にあたっては、なによりも過去、それも直近の冷戦期のこと
を知る必要がある。『未完の計画機』は、その一助となることだろう。
【本文中で紹介したWebサイト】
*1 http://www.scientificamerican.com/magazine/sa/
*2 http://www.scientificamerican.com/magazine/sa/1908/05-30/
【今回紹介した書籍】
● 『未完の計画機 −命をかけて歴史をつくった影の航空機たち−』
浜田一穂 著/A5判/312頁/価格(本体1900円+税)/2015年4月刊行
イカロス出版/ISBN 9978-4-8022-0014-1
http://secure.ikaros.jp/sales/list.php?srhm=0&tidx=30&Page=1&ID=3360
◇松浦晋也さんのプロフィール◇
ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online で「人と
技術と情報の界面を探る」,日経トレンディネットで「“アレ”って何? 読
めばわかる研究所」,日経テクノロジーで「小惑星探査機はやぶさ2の挑戦」
を連載中.主著に『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶさ2の真実』
『飛べ!「はやぶさ」』『われらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの
落日』『恐るべき旅路』『のりもの進化論』などがある.
Twitterアカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura
「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2015
次号は鹿野司さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに!
※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
https://www.shokabo.co.jp/column/
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【裳華房 分野別書籍一覧】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html
【正誤表などサポート情報】 https://www.shokabo.co.jp/support/
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【5】[連載コラム]裳華房 編集子の“私の本棚”(第25回)
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編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります.
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◆ 江戸時代の「数学女子」!? ◆
●『算法少女』(遠藤寛子著,ちくま学芸文庫)
読者の皆様、こんにちは。編集子のHです。
当たり前ですが、「理系」の多い我が会社。
数少ない「文系」の私は彼等・彼女等に対し、尊敬とほんの少しの畏れを持
ちつつ、日々を過ごしています。そんな私にとって「理系女子」、中でも「数
学女子」は憧れです。
憧れの「数学女子」が江戸時代にもいた!という驚きを与えてくれる書籍を
ご紹介いたします。遠藤寛子著『算法少女』です。
この本は、安永4年(1775)に刊行された和算書『算法少女』に想を得て書
かれた書籍です。著者の「あとがき」に拠りますと、和算書『算法少女』は、
日本で明治維新前に女性の関わった唯一の書として、和算の研究者の間では知
られていた書籍だそうです。
ただ、この和算書の作者については、町医者とその娘であること以外の史実
が分かっておらず、遠藤氏が「では、どういう娘が書いたのか?」を膨らませ
て描き出したのが、現在刊行されている『算法少女』です。
町医者の父から算法の手ほどきを受けていた娘あきは、ある日、観音様に奉
納されていた算額の誤りを指摘しました。その出来事を聞いた久留米藩主が、
あきを姫君の算法指南役に抜擢しようとしますが、何とライバルが出現……。
物語の中で主人公あきが算法と真摯に向き合い、算法で自身を前に進めてい
く様はまさに私の理想の「数学女子」です。
少年少女向けとして書かれた書籍ですので読みやすく、意地悪な敵役、助け
てくれる大人たち、同じ年頃のライバル(武家の娘)、といった人々が物語を
彩ります。戦いの後の友情もあり──というと何だか「少年ジャ○プ」のよう
ですが、やはりマンガ界はこのお話を見逃さず(←さすがです)、現在、秋月
めぐる氏によってマンガにもなっています。
マンガのほうは、物語に出てくる算法の図が大きく載っており、また解法の
丁寧な解説もついていますので、実際問題を解いてみたい方は、こちらもお薦
めです。
【今回紹介した書籍】
●『算法少女』
遠藤寛子 著/文庫判/272頁/定価(本体900円+税)/2006年8月発行
筑摩書房 ちくま学芸文庫/ISBN 978-4-480-09013-3
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480090133/
●マンガ『算法少女1』
秋月めぐる 画,遠藤寛子 原作/A5判/180頁/定価(本体933円+税)
2012年9月発行/リイド社/ISBN 978-4-8458-4210-0
http://www.leed.co.jp/book/b1221.html
※いずれも電子書籍も発売されています。
※本文中で紹介されている和算書『算法少女』は,国立国会図書館のデジタル
コレクションで閲覧することができます.
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3508165
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【裳華房のお役立ちサイト】
◎ 自然科学系の雑誌一覧 −最新号の特集等タイトルとリンク−(5/11更新)
https://www.shokabo.co.jp/magazine/
◎ 大学・研究所・学協会の住所録とリンク
https://www.shokabo.co.jp/address.html
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【6】[連載コラム]裳華房の“古書”探訪(第28回)
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弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」
に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた明治時代後期代から昭
和時代に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします.
【バックナンバー】 https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html
【裳華房の歴史】 https://www.shokabo.co.jp/history.html
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◆ 原島善之助 著『産馬大鑑』[初版:明治40年]
今回ご紹介するのは、明治40年(1907年)刊行の『産馬大鑑』です。馬の由
来から種類、体の構造、厩舎の衛生状態や食べ物、繁殖、疾病、蹄鉄まで、馬
に関係するであろうほとんどの項目を、約800頁の大著にまとめたものです。
全体像を把握していただくために、長くなりますが目次(編と章の見出し)
を記します(漢字は新字、片仮名は平仮名に修正)。
第一編 馬史
動物学上に於ける地位/馬科の分類/馬史本論
第二編 馬政
馬政の釈義/馬政機関
第三編 馬種
馬種総論/馬種各論/日本馬
第四編 構造学
細胞及組織/皮膚及粘膜/運動器/神経及五官器/循環器/呼吸器/消化器
/泌尿器/生殖器
第五編 外貌学
馬体区分/体形及姿勢/品位、稟性、悍威、持久力、性質、体質、習癖/運
動及歩性/毛色及別徴/年齢の鑑定/体尺の検測/馬の検査法/役務に対す
る馬の選定
第六編 衛生学
総論:衛生の要/疾病の原因/保健原則
各論:空気/風、電気及光線/四季/気候/気候の馴化/土壌/牧場/運動
場/水/食物/厩舎/馬の取扱法/皮膚衛生/作業衛生
第七編 繁殖学
総論 繁殖原理:生殖機能/遺伝
各論 繁殖法:純粋繁殖/交叉繁殖/繁殖用馬の選択/繁殖用馬の配合/繁
殖用馬の衛生/幼駒の衛生/馬の悪癖/去勢
第八編 蹄鉄学
総説:体形及肢勢/歩様/踏着/趾軸/前後両肢の差異/蹄/蹄鉄の磨滅/
蹄鉄工場/蹄鉄器械/蹄鉄用材料/蹄鉄/蹄鉄の製造法/蹄釘/装蹄法/異
常蹄の装蹄法/歩法異常/蹄の衛生
第九編 疾病学
健康と疾病/疾病の徴候/主要の疾病/看護法
とくに馬の種類については150頁を費やし、外国産馬についてはイラスト、
日本産馬については写真を(当時としては)数多く掲載しています。
馬というと、現代では競馬もしくは(スポーツとしての)乗馬をイメージす
るのではないかと思いますが、本書が刊行された当時としては第一に“軍馬”
であったようです。
日清戦争や日露戦争(明治37〜38年)を通じて、欧米諸国と日本の軍馬の間
に歴然とした差があることがわかり、馬匹改良のため、本書刊行の前年の明治
39年には内閣総理大臣の直轄機関として馬政局が設置されました。この馬政局
には農務商省の馬事に関係する部署も移管し、日本の馬事馬産を一手に担う専
門機関が発足しました。
陸軍大学校教官であり陸軍一等獣医であった著者が、馬に関する事項を網羅
した本書を著したのは時代の必然であったようです。
著者の原島善之助氏については、生没年など詳しいことは分かりませんが、
『獣医宝典』『家畜外科学 上下』『家畜診断学 外科編』『同 内科編 上下』
など獣医畜産に関する著書を多数著されています。
またご子息には、裳華房で多数の書籍を執筆されている原島鮮先生や、保健
衛生・毒性学の分野で著名な原島進先生がいらっしゃいます。
なお本書は、国立国会図書館のデジタルライブラリで一般公開されており、
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/841783
また平成7年(1995)12月には有明書房より復刻版が刊行されています(版元
品切れ中)。
【今回紹介した書籍】
◆ 『産馬大鑑』[初版 明治40年]
原島善之助著/菊判/816頁/裳華房
※記述の誤りなど、お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで
御連絡ください。
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【7】お知らせ&編集後記
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◇お知らせ
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1.「大学・短大・高専用教科書のご案内」
https://www.shokabo.co.jp/text.html
2.【講義担当の先生方へ】講義用 教授資料のご案内
https://www.shokabo.co.jp/textbook/text-tm.html
3.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」.
https://www.shokabo.co.jp/support/index.html
4.裳華房フェアのお知らせ
https://www.shokabo.co.jp/fair/index.html
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◇編集後記
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以前にもご案内しましたが、裳華房東京開業120周年記念事業の一貫として、
6〜7月に全国の大学生協・購買部を中心に裳華房フェアを開催いたします。
開催店舗や期間などについては、下記サイトをご参照ください。
「裳華房フェアのお知らせ」
https://www.shokabo.co.jp/fair/index.html
また、「2015年度版 裳華房 総合図書目録」(冊子版)が5月下旬に出来上
がります。冊子版の総合図書目録をご希望の方は、下記サイトに記載の方法に
従ってご連絡ください。PDF版のダウンロードもできます。
「総合図書目録 (PDF版,冊子版)」
https://www.shokabo.co.jp/catalogue/index.html
(TK)
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次号は2015年6月8日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)//
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メールマガジンのご意見・ご感想は m-list@shokabo.co.jp まで.
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