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Shokabo-News No.312 2015/6/10
裳華房メールマガジン 2015年6月号
https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
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★目次★
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【1】新刊案内:『数学選書1 線型代数学(新装版)』
【2】オンデマンド出版のご案内:『数学シリーズ 常微分方程式』
【3】連載コラム 鹿野司“読書ノート”:
『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤亜紗著,光文社)
【4】連載コラム 裳華房の“古書”探訪:『一般生物学』(田原正人著)
【5】連載コラム 裳華房 編集子の“私の本棚”:
『全国アホ・バカ分布考』(松本修著,新潮社)
【6】お知らせ&編集後記
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【裳華房 東京開業120周年】
https://www.shokabo.co.jp/120th_anniversary.html
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【1】新刊案内(6月刊行)
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●『数学選書1 線型代数学(新装版)』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1316-6.htm
佐武一郎 著/A5判 上製/354頁/定価(本体3400円+税)/2015年6月刊
裳華房/ISBN978-4-7853-1316-6
本書の旧版(1958年刊,1974年増補改題)は,線型代数学に関する最も基礎
的な理論および諸概念を明快に解説し,より本格的に線型代数学を学びたい読
者にとって最適な参考書として,数十年にわたって理工系の多くの読者から親
しまれ支持されてきた定評ある書.2006年には日本数学会出版賞を受賞した.
その旧版をもとに,今回の新装版では,最新の組版技術によって新たに本文
を組み直し,読者の便宜を図った.なお改版にあたって,原則本文は変更せず
に,明らかな誤植と一部の文字遣いを改めるにとどめた.
【主要目次】
1.ベクトルと行列の演算 2.行列式 3.ベクトル空間 4.行列の標準化
5.テンソル代数 付録:幾何学的説明
【佐武一郎先生「2006年度日本数学会出版賞受賞のことば」より】
本をかくということは,著者に思いがけない恩恵を与えてくれることがある.
私がT-病院に入院して手術を受けたとき,担任の医師の方から,「あなたはも
しかして“行列……”をかいたS-さんではありませんか?」ときかれ,「そう
だ」というと,「あの本にはずいぶん苦しめられましたよ」といいながらも,
ある親近感をもって接していただいた.そのお陰でこちらも安心して手術を受
けられたのであった.
著書は著者とは独立の運命をたどるものなので,著者の期待とは逆の評価を
うけることも珍しくはない.しかしこの本に関する限り,私は非常に幸運な著
者であった.
(「数学通信」11巻2号掲載)
*1 全文は下記参照.
http://mathsoc.jp/publication/tushin/1102/112satake.pdf
*2 文中「“行列……”」とあるのは本書初版刊行時の書名が『行列と行列
式』であったことによる.
「数学選書」一覧
https://www.shokabo.co.jp/series/212_suusen.html
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【裳華房 新刊一覧】 https://www.shokabo.co.jp/book_news.html
【ご購入のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/order.html
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【2】オンデマンド出版のご案内
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オンデマンド出版書籍[POD版]とは,出版物をデジタルデータ化することで,
1冊からの印刷・製本・販売を行う書籍のことです.裳華房では「万能書店」
に委託して販売しております.万能書店 → https://www.d-pub.co.jp/shop/
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長らく品切れになっておりました下記の書籍をオンデマンド出版書籍として
復刊しました.
●『数学シリーズ 常微分方程式』[POD版]
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-0627-4.htm
https://www.d-pub.co.jp/shop/products/detail.php?product_id=14242
島倉紀夫 著/A5判/266頁/定価(本体3300円+税)/1988年3月刊
ISBN978-4-7853-0627-4
理系読者を対象とした,計算技術よりも理論的基礎に重点をおいた入門書.
前半では,基礎的解法から解の存在,一意性の定理,確定特異点の近傍での
解の構成法などを述べ,後半では,2階線形方程式に対する理論を展開し,最
後の章で特殊関数の基本的性質を一通り解説した.
なおPOD版では,把握できた範囲で誤植等の修正を施した.
「数学シリーズ」一覧
https://www.shokabo.co.jp/series/210_suugakusi.html
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【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html
【電子書籍のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html
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【3】[連載コラム]鹿野司の“読書ノート” (第18回)
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ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司
さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます.
今月号のご担当は鹿野司さんです.
・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/
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◆ 差違を対等に面白がる関係 ◆
● 伊藤亜紗 著『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)
人が世界を認識するうえで、手がかりとしている情報の8〜9割は、視覚か
らきているといわれる。もし、それが失われたとしたら、おそろしく不自由な
生活を強いられることになるだろう……。
この考えに疑問の余地はない。でもそれは、事実の半分しか捉えていないと
もいえる。
「目が見えない人」は、確かに晴眼者に比べて視覚情報をあまり利用できな
い。しかし、だからといって、感受している世界の豊かさが劣るわけではない。
私事ではあるが、私は一昨年、網膜症を患い、一時は目の前にかざした自分
の手の指が見わけられないくらいまで、視力が低下したこともある。
その一連の経験でわかったのは、人間とは視覚にたよっているようで、実は
様々な感覚を重ねあわせ、マルチモーダルな情報で世界を認識しているという
ことだった。
たとえばコップに水を注ぐとき、水面は見えていなくても音の変化で、だい
たいの分量の見当がつく。また、たとえば引き出しにしまってある物の位置な
ど、想像以上に体が記憶していて、その近くまで手を持っていくことでそれが
思い出され、目的のものを探り当てられる。逆に、正常な視力があっても、目
で見ているつもりで実は見ておらず、他の感覚を用いて目的を達していること
も、どうやら少なくないらしいことにも気が付いた。
私の視力は、元通りになることはなかったが(明るくても暗くても見づらく、
以前よりコントラストや彩度の低いものは見わけられない)、視覚障害者に認
定されない程度には回復している。
一方、長年にわたって目が見えない人には、私の体験など遙かに越えた、奥
深い認識の差違があることを、本書を読んで知ることができた。
目の見えない人は、畳の目の方向を足裏に感じて、部屋の形を認識したり、
音の反響からカーテンが空いているか閉まっているかも把握できる。それはあ
る程度想像がつくのだが、もっと深く、世界を認識するイメージのレベルで、
質的な違いがある。
この本の著者、伊藤亜紗さんは、東京工業大学リベラルアーツセンター准教
授で、美学が御専門だ。
東工大のリベラルアーツセンターは、専門化によって細分化されタコ壺化し
がちな学問への反省から、広く「人間としての教養」を追求することを目指し
て設立されたという。
また、美学とは、伊藤さんによれば、感じる事はできるけれど言葉にはし難
いもの、曰く言い難いものに、言葉でもって立ち向かっていく学問、とのこと
だ。
さらに、彼女はもとはといえば、生物学を志していたのだそうだ。中学生の
ときに読んだ『ゾウの時間 ネズミの時間』(本川達雄 著、中公新書)で、動
物は大きさによって生きる時間が違うという認識に触れ、またその中にあった
「生物学者の仕事は、想像力を啓発することである」という言葉に感銘を受け
たという。
ユクスキュルの『生物から見た世界』(岩波文庫)では、あらゆる生物は、
その生活する環境に即した、独自の世界イメージ=環世界の中で生きていると
いう概念が示されている。伊藤さんの思いは、この環世界を、言葉で理解でき
る形で探求したいということだったのだろう。
しかし、結局、大学の生物学は、教育が細分化されすぎていて、生命につい
ての大きなビジョンが示されないことになじめず、文転して美学を専攻するこ
とになった。
本書は、何人かの、それぞれ質の違う目の見えなさをもった人たちにインタ
ビューして、彼らの環世界、そのいわく言い難いものを、言葉として表現した
傑作と言える。
大岡山の駅から、東工大の居室へ向かう道を、視覚障害者は、「ああ、大岡
山とは確かに山で、今は谷を下っているのですね」と言う。ところが、あの界
隈を歩いたことがある人ならわかると思うが、晴眼者でそんなイメージを持つ
人はまずいないだろう。
人は物理的空間を歩きながら、実は脳内に作り上げたイメージの中を歩いて
いる。目が見える人は、道が見えるからこそ道に沿って歩き、視覚からの膨大
な情報に惑わされて、何かを知覚できない。目が見えない人は、視覚情報がな
いぶん、道から自由であり、そこに山のイメージを関知する。同じ物理的な環
境にありながら、全く違う世界を生きている。
そしてその違いは、すばらしく面白い。
伊藤さんはまた、この差違を対等に面白がる関係は、これまでの福祉的な関
係では満たされにくかった、健常者と障害者のもう一つの関係性の手がかりに
もなるという。
健常な人が目の見えない人と接するとき、どうしてもある緊張を感じるだろ
う。福祉的な態度は、サポートしなければいけないという緊張感で、それがあ
る種の打ち解けられなさ、よそよそしさにも繋がっている。
しかし、お互いが、あなたたちの世界も面白いねえとわかりあうことから、
その疎外を乗り越えていけるのではないか。
思索の糧となる素晴らしい一冊だと思う。
【今回紹介した書籍】
● 『目の見えない人は世界をどう見ているのか』
伊藤亜紗 著/新書判/216頁/価格(本体760円+税)/2015年4月刊行
光文社(光文社新書)/ISBN 978-4-334-03854-0
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038540
【鹿野 司さんのプロフィール】
サイエンスライター.1959年愛知県出身.「SFマガジン」等でコラムを連載中.
主著に『サはサイエンスのサ』(早川書房),『巨大ロボット誕生』(秀和シ
ステム),『教養』(小松左京・高千穂遙と共著,徳間書店)などがある.
ブログ「くねくね科学探検日記」 http://blog.blwisdom.com/shikano/
「鹿野 司の“読書ノート”」 Copyright(C) 鹿野 司,2015
次号は松浦晋也さんにご執筆いただきます.どうぞお楽しみに!
※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
https://www.shokabo.co.jp/column/
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【裳華房 分野別書籍一覧】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html
【正誤表などサポート情報】 https://www.shokabo.co.jp/support/
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【4】[連載コラム]裳華房の“古書”探訪(第29回)
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弊社の起源は,江戸時代,伊達藩の御用板所であった「仙台書林 裳華房」
に遡ります.ここでは,科学書の出版に力を入れ始めた明治時代後期代から昭
和時代に刊行された書籍の中から毎回1冊ずつ取り上げて紹介いたします.
【バックナンバー】 https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/index.html
【裳華房の歴史】 https://www.shokabo.co.jp/history.html
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◆ 田原正人 著『一般生物学』[初版:昭和6年]
今回ご紹介するのは昭和6年(1931)刊行の田原正人著『一般生物学』です。
確認できる範囲で裳華房で最初に刊行された基礎生物学の教科書になります。
それまで植物学や淡水生物学など特定の生物群に関するものは発刊しており
ましたが[*1]、生物学の大要を1冊に(コンパクトに)まとめた成書は、弊
社に限らず他社においてもあまりなかったようです[*2]。
「序言」によれば、本書は(旧制)高等学校の文科の学生を念頭に執筆され
たものです。
本書を紐解いて最初に感じたのは、当時としては図版や写真の多い本という
ことです。正確ではありませんが、大ざっぱに平均すれば見開きに1図以上掲
載されています。
全体の構成(目次)は以下の通りです(旧字は新字に修正)。
第一篇 序説
細胞/細胞分裂・核分裂/生物の系統と分類
第二篇 植物界
藻類/菌類/バクテリア/蘚苔植物と羊歯植物/顕花植物/根・茎・葉
第三篇 動物界
原生動物/海綿動物・腔腸動物・蠕形動物/節足動物・軟体動物・棘皮動
物・被嚢動物/脊椎動物/動物の胚発生
第四篇 生活現象
生物体の組成分/浸透圧/栄養/同化作用/成長と運動/呼吸/再生・移
植・接木/調節作用/神経系/感覚器/生殖/寿命
第五篇 遺伝
遺伝質/メンデルの法則/両性雑種・多性雑種/連関/性/変異・細胞質
遺伝/人間に於ける遺伝
第六篇 進化
進化論と古生物学/現在の生物に見る進化の証拠/進化の説明
当たり前ですが、現在の教科書とはかなり異なっていることがわかります。
全体の約3分の1が分類(現在の教科書では「多様性」)に当てられていた
り、「遺伝子と遺伝情報」「生態系と環境」など1900年代半ば以降に大きく進
展した項目が(当然ながら)ありません。
個人的には、昭和初期のこの時代、生化学的な知見はほとんど得られていな
かったことに少し意外な感を受けました(生化学の歴史が頭に入っていないだ
けではありますが)。例えば、同化作用の章では、
炭酸瓦斯の如き簡単なものが如何なる順序を経て含水炭素の如き複雑な
ものにまで変わっていくのかということは,すこぶる興味のあることで
あるが,現今に於いてもまだ十分に判明しておらぬ.
例えば植物は根から窒素の栄養分として硝酸イオンを摂取するけれども,
これが如何なる場所に於いて,如何なる順序を経て蛋白質の如き複雑な
ものに合成されていくのかということは,今日なおよく判っておらぬ.
等と著者は述べています(ちなみに光合成のカルビン・ベンソン回路の確立
は1954年)。
一方、例えば「ゾウリムシの接合」や「ヒトの眼球と網膜の構造」など、ほ
とんど現在の教科書と変わらない(と思われる)図も多数あります。
その意味で、本書を一読することで(逆説的ですが)ここ1世紀間の生物学
の発展がおおよそ理解できるのではないかと思います。
著者の田原正人は明治17年(1884)生まれ。明治41年に東京帝国大学理科大
学植物学科を卒業した後、同大副手、第八高等学校教諭を経て、大正10年の東
北帝国大学理学部生物学教室設立に際して助教授として就任し、大正12年に同
大教授。昭和21年(1946)の定年退官後は1954年まで横浜市立大学の教授を務
めました。昭和44年(1969)逝去。
植物の染色体や胚発生の研究が専門で、とくにキク属の染色体の倍数性の発
見で知られており、裳華房からは『植物形態学汎論』(大正15年)、『一般植
物学』(昭和4年)などの著書を刊行しています。
なお本書は、国立国会図書館のデジタルコレクションで一般公開されていま
す(館内閲覧限定,一部ページの脱落あり)。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1170298
【脚注】
*1 生物学の概論的な書籍として、裳華房から本書以前に、大正8年(1919)
谷津直秀著『生物學講義』が刊行されていますが、これは小学校の校長先生
を対象とした講義をまとめたもので、著者の谷津氏が「寧ろ生物學の中で人
生に密接な關係のある一般的な事項を極めて簡易に書いたに過ぎない」と自
序で述べている通り、生物学の全般に渡って論述されたものではないため、
ここでは生物学教科書に含めていません。なお『生物學講義』も、国立国会
図書館のデジタルコレクションで全文が公開されています。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/960341
*2 本書の「序言」には次のようにあります(漢字・仮名遣い等は修正)。
高等学校に文科・理科の二つが設けられ、文科の学生には、その初年級に
於いて、自然科学の一部として生物学の大要を授けるような制度ができて
から、すでに大分の年月を経てきているが、私の知っているところでは、
まだこの方面の手頃な教科書風のものはほとんどできておらぬようである。
【今回紹介した書籍】
◆ 『一般生物学』[初版 昭和6年]
田原正人著/菊判/232頁/裳華房
※記述の誤りなど、お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで
御連絡ください。
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【5】[連載コラム]裳華房 編集子の“私の本棚”(第26回)
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編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります.
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◆ “アホ”と“バカ”が辿ったはるかなる旅路 ◆
●松本修 著『全国アホ・バカ分布考』(新潮文庫)
編集者のCです.
さて突然ですが,みなさんは人を罵倒(!)するとき,なんと言いますか?
本書は,これら一番身近に使われる(?)この言葉たちの“はるかなる言葉の
旅路”を追ったドキュメンタリーとなっています.
ことの発端は,大阪・朝日放送の『探偵!ナイトスクープ』というテレビ番
組において,“アホとバカの境界線はどこか?”という視聴者から寄せられた
素朴な疑問から始まったものでした.すると,反響がすごく追加報告が作られ
ていき,ついには“アホ・バカ分布図”の作成,そして学会発表にまで行き着
くことになるのです.
本書は,基本的に「方言周圏論」という,京の都を中心にして言葉が同心円
状に広がっていくという説に立っています.この説を提唱したのは民俗学者の
柳田國男で,『蝸牛考』(刀江書院→創元社→岩波書店)で事細かに解説され
ています.しかし,彼は晩年,その自身の説に懐疑的になっていました.
ところが,実際に番組が大規模な調査を行ったところ,“アホ”・“バカ”
方言の分布は「方言周圏論」を補強する形として得られたのです.すなわち,
地方で話されている“アホ”・“バカ”方言は,それはそれは大昔に京の都で
話されていたのではないか,ということがわかってきたのです.いいかえれば,
柳田國男が提唱した説を,関西のいちバラエティー番組が実証してしまったの
です(なお,「方言周圏論」自体は,柳田の死後6年後に国立国語研究所の調
査によって,有効な理論であることは証明されていました).
ついには日本の古典文学,中国やインドの文献を漁りつつ,“アホ”と“バ
カ”の語源を探る旅に読者をいざなうくだりは,まさにミステリー小説といわ
ずして何と言えばいいでしょうか!
何よりもすごいのは,文献の膨大さです.参考文献の多さは学術論文並みと
いってもよいでしょう.さらには,47都道府県の“アホ”・“バカ”方言の語
彙一覧は圧巻です! 本書は,エンタテインメント書でもあるし,地道な実地
調査に基づく一級の言語学の研究報告書でもあります(表紙カバー裏には,集
大成の“全国アホ・バカ分布図”が描かれています).
興味をもたれましたか? みなさんも“はるかなる言葉の旅路”へ出かけら
れてはいかがでしょうか?
【今回紹介した書籍】
●『全国アホ・バカ分布考 −はるかなる言葉の旅路−』
松本修 著/文庫判/582頁/定価(本体790円+税)/1996年11月刊行
新潮社(新潮文庫)/ISBN978-4-10-144121-4
http://www.shinchosha.co.jp/book/144121/
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【裳華房のお役立ちサイト】
◎ 自然科学系の雑誌一覧 −最新号の特集等タイトルとリンク−(6/1更新)
https://www.shokabo.co.jp/magazine/
◎ 大学・研究所・学協会の住所録とリンク
https://www.shokabo.co.jp/address.html
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【6】お知らせ&編集後記
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◇お知らせ
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1.裳華房フェアのお知らせ
https://www.shokabo.co.jp/fair/index.html
2.「大学・短大・高専用教科書のご案内」
https://www.shokabo.co.jp/text.html
3.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」.
https://www.shokabo.co.jp/support/index.html
4.2015年度版 裳華房 総合図書目録
https://www.shokabo.co.jp/catalogue/index.html
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◇編集後記
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今月から7月にかけて、裳華房東京開業120周年記念事業の一貫として、 全
国の大学生協・購買部にて裳華房フェアを開催いたします(開催期間にご注意
ください)。
◇北海道大学 生協 北部店(6/15〜7/31)
◇弘前大学 生協 シェリア(6/15〜7/31)
◇関東学院大学 購買部(6/8〜7/10)
◇首都大学東京 生協 南大沢購買書籍店(6/1〜7/31)
◇東京理科大学 生協 神楽坂店・葛飾店・野田店 書籍部(6/15〜7/31)
◇信州大学 生協 松本書籍部 (6/15〜7/31)
◇静岡大学 生協 静岡ショップ(6/15〜7/31)
◇大阪大学 生協 豊中店・吹田店(6/8〜6/30)
◇近畿大学 生協 ショップLeaf(6/15〜7/31)
◇龍谷大学 瀬田学舎 丸善購買部(5/18〜6/30)
◇愛媛大学 生協 城北ショップ(6/15〜7/31)
◇佐賀大学 生協 大学会館店(6/15〜7/31)
◇熊本大学 生協 学生会館ショップ(6/15〜7/31)
◇鹿児島大学 生協 スタディサポート(6/15〜7/31)
◇琉球大学 生協 中央店(6/15〜7/31)
秋にも、東京大学(本郷)、東北大学、新潟大学などで開催予定です。詳細
が決まりましたら下記にてご案内いたします。
「裳華房フェアのお知らせ」
https://www.shokabo.co.jp/fair/index.html
(TK)
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次号は2015年7月8日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)//
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https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
メールマガジンのご意見・ご感想は m-list@shokabo.co.jp まで.
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