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Shokabo-News No.319 2015/12/10
裳華房メールマガジン 2015年12月号
https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
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★目次★
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特集:一般相対性理論の誕生から100年
【1】鹿野司の“読書ノート”(21):
『ブラックホール・膨張宇宙・重力波 〜一般相対性理論の100年と展開〜』
(真貝寿明 著,光文社新書)
【2】松浦晋也の“読書ノート”(20):
『銀河旅行と特殊相対論』『銀河旅行と一般相対論』
(石原藤夫 著,講談社ブルーバックス)
【3】裳華房 編集子の“私の本棚”(31):
『物理入門コース 相対性理論』(中野董夫 著,岩波書店)
【4】裳華房 編集子の“私の本棚”(32):
『基礎物理学選書 相対性理論』(江沢 洋 著,裳華房)
【5】裳華房 「相対性理論」分野書籍のご案内
【6】裳華房フェアのご案内
【7】お知らせ&編集後記
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【Web連載コラム】数学者的思考回路〜夢と妄想のはざま〜
第4回 素数定理を紐解く〜前編〜(大野泰生・谷口 隆 共著)
https://www.shokabo.co.jp/column-math/column-math0004.html
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【1】[連載コラム]鹿野司の“読書ノート” (第21回)
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ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司
さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます.
今月号は,鹿野司さんと松浦晋也さんのお二人に,相対性理論に関する書籍を
ご紹介いただきます.
・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/
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◆ 時代を振り返り、相対論のこれからに思いを馳せる ◆
● 真貝寿明 著『ブラックホール・膨張宇宙・重力波』(光文社新書)
特殊相対性理論と一般相対性理論、そしてアインシュタインの数々の業績と
いうのは、子どもの頃からの科学ファンにとっては、ある種の特別な位置づけ
にあると思う。
それは、まず間違いなく、思春期の頃に填りまくった経験があるに違いない
ってことだ。
相対性理論は、大人になりかけて、世の中が解りはじめた時期に、本当に心
引かれる単語なのだ。
まず、アインシュタインという人物の天才性に魅了される。すでに伝説の人
物として、こども向けの本などで読んで知っていたとしても、大人向けの詳し
い伝記を改めて読んでみると、多方面にわたる発想の豊かさに舌を巻くことに
なる。読書好きなら、そこから相対論や量子論が作られていった、驚異的な発
見が次々行われたあの時代の物語を、夢中になって読みあさるに違いない。
そしてまた、適当な解説書などを読みながら、特殊相対性理論の理解に挑戦
する。
特殊相対性理論は、高校程度の学力で理解できる。エネルギーの保存と運動
量の保存の式から等価原理を導くのも簡単だ。
ただ、何よりも面白いのは、世界の見方ががらりと変わる感覚だ。それまで、
当たり前だと思っていた素朴な世界観から離れて、時空が伸び縮みする奇妙な
宇宙こそが、この世界の真の姿だったとわかるようになる。
新しい認識にたどり着くのは簡単ではない。でも、難しすぎもしない。観測
者が、本当に観測できるのは何なのかをしっかり考えると、確かにそうなると
理解できる。
まあ、そういう感動の数々は、後から振り返ると、一種の“中二病的”な感
じなわけで、そんな熱もいつか冷めていく。そして、そのあとは、相対論に関
係する本をあまり本気で読もうという感じにはなかなかならない。話題の本が
あれば斜め読みするくらい……。
そんなわけで、『ブラックホール・膨張宇宙・重力波 〜一般相対性理論の
100年と展開〜』は久しぶりに読んでみた相対論本だったのだが、これが非常
に面白かった。
書名の三つは、相対論から派生して現代も活発に研究されている最先端の話
題だ。この本では、これら最先端に至るまでの道筋を、非常に見通しよく辿っ
ていく。重要な概念一つにつき数ページ程度の、短く要領を得た解説で、非常
に読みやすく理解しやすい。
ブラックホールの研究でいえば、表面積と熱力学との対比から、ホログラフ
ィック原理が考えられるようになり、4つの基本力のうち重力が極端に弱い秘
密が余剰次元にあり、さらにブレーン宇宙の検証も手が届きそうなこと……。
また、ところどころで語られる歴史的なエピソードもおもしろい。
アインシュタインのノーベル賞は光電効果について贈られた。これを不思議
に思う人は多いだろう。ノーベル財団は受賞後50年で選考過程を公開したが、
それによると12年間に10回もノーベル賞の候補にあがっていたのに、ノーベル
賞の選定委員に一般相対性理論の価値を評価できる人がおらず、たまたま光電
効果を評価する人が出たことで、受賞が決まったという経緯が紹介されている。
あるいは、キップソーンが監修した、映画『インターステラー』で表現され
たブラックホールの映像について、なぜああいう姿に見えるかの解説などもあ
る。
今年(2015年)のノーベル賞を受賞した梶田隆章東大宇宙線研究所長が進め
ている「かぐら」プロジェクトでは2017年度から、世界最高水準の重力波望遠
鏡が稼働して、アインシュタインの残した最後の宿題、重力波の観測に挑もう
としている。一般相対性理論100周年を迎えた今、時代を振り返りこれからに
思いを馳せる、最高の材料を提供してくれる一冊だと思う。
【今回紹介した書籍】
● 『ブラックホール・膨張宇宙・重力波 〜一般相対性理論の100年と展開〜』
真貝寿明著/新書判/340頁/価格(本体900円+税)/
2015年9月刊行/光文社新書/ISBN 978-4-334-03877-9
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038779
【鹿野 司さんのプロフィール】
サイエンスライター.1959年愛知県出身.「SFマガジン」等でコラムを連載中.
主著に『サはサイエンスのサ』(早川書房),『巨大ロボット誕生』(秀和シ
ステム),『教養』(小松左京・高千穂遙と共著,徳間書店)などがある.
ブログ「くねくね科学探検日記」 http://blog.blwisdom.com/shikano/
「鹿野 司の“読書ノート”」 Copyright(C) 鹿野 司,2015
※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
https://www.shokabo.co.jp/column/
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【ご購入のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/order.html
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【2】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第20回)
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◆ 相対論を視覚化すると ◆
● 石原藤夫 著『銀河旅行と特殊相対論』『銀河旅行と一般相対論』
(いずれも講談社ブルーバックス)
相対性理論によると、光速に近づくと、双子の年齢がずれる「双子のパラド
ックス」のように色々と日常の感覚では考えられないおかしなことが起きる。
このことは、一般解説書などによって割と良く知られている。
そんな中の一つに、見え方の問題がある。光速に近づくほど、移動する物体
は進行方向に短縮して見える──ローレンツ短縮だ。では本当にローレンツ短
縮を見ることはできるのか。物理学者ジョージ・ガモフ(1904〜1968)が著し
た一般解説書『不思議の国のトムキンス』(白揚社)では、光速が極端に遅い
街で、トムキンス氏はローレンツ短縮を目撃していたが、本当にそうなのか。
というわけで、今回取り上げる『銀河旅行と特殊相対論』と『銀河旅行と一
般相対論』は、“相対論的現象が実際にどう見えるのか”を分析したユニーク
な一般向け解説書だ。出版から30年が経過したが、類似の本はいまだ存在しな
い。
著者の石原藤夫氏(1933〜)は、電電公社(現NTT)の研究者から大学教
授というキャリアを積む一方で、日本SF草創期からハードSF(科学的整合
性を重視するSFのサブジャンル)の書き手として作家活動を展開してきた。
タイトルに「銀河旅行」と入っていることからも分かるように、ハードSF
を執筆する中で「相対論的現象は実際にどう見えるか」「分からなければ小説
が書けない」ということで、実際に計算してしまったわけだ。この他にも「太
陽系近傍の恒星はどんな分布をしているのか」「分からなければ小説が書けな
い」と、太陽系近傍100光年の恒星のカタログ「光世紀の世界」も編纂してい
る。
80歳を過ぎた今も、SFファン団体「ハードSF研究所」を主宰し、会報
(つまりは同人誌だ)を年4回発行するなどアクティブに活動中だ。
『銀河旅行と特殊相対論』は、宇宙工学の先達であるオイゲン・ゼンガー
(1905〜1964)がその存在を予言した「スターボウ(星虹)」から話を始める。
光速に近い速度で宇宙を航行する宇宙船から進行方向を見ると、向かってくる
光はドップラーシフトで波長が短くなる。見る角度によって相対論的な光行差
が発生して視線方向の速度は異なるから、進行方向を中心に同心円状に同じだ
け波長が変位した光が見えることになり、つまりは進行方向を中心に同心円状
に虹が見えるはずだ――これがスターボウである。しかし、本当にスターボウ
は見えるのか。著者は、まずゼンガーの原論文にあたって、彼が仮定した条件
(すべての恒星が590nmの黄色光で光っている)をひっぱりだし、ついで相対
論的効果を考慮した光行差の式を導出し、具体的に光速に近い速度で飛行する
宇宙船からどんな風景が見えるかを検討していく。
結果は驚くべきものだ。まず相対論的光行差により、宇宙船周囲に見える宇
宙は、進行方向へとぎゅっと集まっていく。速度が光速に近づくほどに、後ろ
は拡大して暗くなり、逆に前方は圧縮されて集まっていって明るくなるのだ。
速度を上げていくと出発地は拡大して暗く見えるようになり、あたかも出発地
が黒い闇となって拡がり、後方から宇宙船を飲み込んでしまうかのような風景
が見えるというわけだ。
その上でドップラーシフトを適用すると、確かにゼンガーがおいた仮定のも
とではスターボウが見えることが分かる。が、すべての恒星が黄色光で輝いて
いるわけではない。それぞれの星は特有のスペクトルで様々な波長の光を出し
ている。では、恒星のスペクトルを考慮しても、なおかつスターボウは見える
のか――と著者は突っ込んでいく。
この調子で、次の章では、ローレンツ変換は1次元だが、3次元の実在物体
はローレンツ変換ではどのように見えるのかという問題を解いていく。後半は
応用編だ。超光速のようなガジェットを仮定せずに、恒星間飛行を実現するた
めの方法として、出発地から強力なレーザー光を発射して光の圧力で宇宙船を
加速するビーム推進と、恒星間空間に薄く分布する星間ガスをかき集めて推進
剤とする恒星間ラムジェットを紹介し、具体的に恒星間輸送システムとして成
立するかどうかを定量的に解析していく。
続編となる『銀河旅行と一般相対論』は、一転して話題はブラックホールに
集中する。
ブラックホールというが、具体的にブラックホールはどのように見えるのか。
“ブラックホール”というとおり真っ黒な穴に見えるはずだが、周囲では光が
重力場で曲がるので、ブラックホール周囲の物体はゆがんで見えるはずだ――
ということで、著者はまずブラックホール周辺で物体が一般相対論に従ってど
のような運動をするかを分析し、ついでブラックホール周辺で光がどのような
軌跡を描くかを調べ、最終的にブラックホールの横にぬいぐるみ(!!)を置い
たと仮定して、それがどのように見えるかを図示する。
こちらも後半は応用編で、恒星間飛行における様々な一般相対論的な現象を
解説していく。
なにをどう分析していっても、最終的に恒星間飛行に行き着くあたり、著者
の筋金入りの“SF魂”を読み取ることができる。それもそのはずで、本書の
内容の基本的な部分は1980年代に雑誌「SFマガジン」に連載されていたもの
だ。
SFと、完全な空想で異世界を構築するファンタジーは、親和性が高く境界
も曖昧で、一般には区別が付きにくいかも知れない。だが、SF、ことにハー
ドSFはこのように、現実の科学と密接な関係を持っている。ぎりぎりまで現
実の科学に寄り添いつつ、ひとつかふたつ、ぽんと飛躍した発想を持ち込んで
驚きの物語を構築するというところに、ハードSFの面白さがある。そのため
に、相対論を駆使した定量的解析もやってしまうところが、今回取り上げた2
冊のきわめて面白いところだ。
【今回紹介した書籍】
● 『銀河旅行と特殊相対論 〜スターボウの世界を探る〜』
石原藤夫 著/新書判/270頁/価格(本体640円+税)/1984年12月刊行
講談社ブルーバックス/ISBN 978-4-06-118190-8 ※版元品切れ中※
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784061181908
● 『銀河旅行と一般相対論 〜ブラックホールで何が見えるか〜』
石原藤夫 著/新書判/290頁/価格(本体660円+税)/1986年12月刊行
講談社ブルーバックス/ISBN 978-4-06-132672-9 ※版元品切れ中※
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784061326729
【松浦晋也さんのプロフィール】
ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online で「情報
を読み解けば未来が見える」,日経テクノロジーで「松浦晋也の航空・宇宙ミ
ニ解説」等を連載中.主著に『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶ
さ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』『われらの有人宇宙船』『増補 スペー
スシャトルの落日』『恐るべき旅路』『のりもの進化論』などがある.
Twitterアカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura
「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2015
次回(2016年1月号)の「読書ノート」も松浦晋也さんにご担当いただきます.
どうぞお楽しみに!
※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します.
https://www.shokabo.co.jp/column/
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【3】[連載コラム]裳華房 編集子の“私の本棚”(第31回)
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編集部の有志が月替わりで,思い出の一冊やお薦めの書籍などを語ります.
今月号は相対論の特集として,弊社の物理学担当者2名が相対性理論の入門書
を紹介します.
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◆ 「わかったつもりと,わかること」その違いを教えてくれた一冊 ◆
●中野董夫著『物理入門コース 相対性理論』(岩波書店)
編集者のAです.今年はアインシュタインが一般相対性理論を発表してから
ちょうど100年目ということで,それを記念するイベントが各地で行われてい
ます.皆様の中にも,こうしたイベントに参加された方がいるのではないかと
思います.
あらためて考えてみると,物理学の中で相対性理論ほど,一般の方から専門
家まで幅広い層に親しまれ,多くの人たちを魅了している分野はないのではな
いでしょうか.それを示すかのように,高校生くらいからでも読める啓蒙書か
ら大学院生レベルの専門書まで,さまざまな読者を対象として本が出版されて
います.かく言う私も,高校生のときに学校の図書室で相対性理論についての
縦書きの啓蒙書を読み,その魅力に引き込まれた一人です.
なぜ相対性理論は,これほどまでに多くの人たちを魅了するのでしょうか.
それはたぶん,相対性理論が語る世界が“非”日常的なこともあるかもしれま
せんが,他の物理学の分野とは異なり,力学や電磁気学など,いわゆる物理学
の基礎知識をあまり知っていなくても,想像力を豊かにすれば,何となく,そ
の内容が理解できるということがあるのではないでしょうか.そして,何と言
っても,アインシュタインという人物そのものが,不思議な魅力を持っている
からだと思います.
私自身は,物理学科の3年生の前期に「相対性理論」の講義を受けました.
この科目のときだけは,教室の前列付近に陣取って,真剣に講義を聴きながら
板書をノートに書きとっていたことをよく覚えています.そして,そのときに
先生から指定された教科書が,中野‐西島‐ゲルマンの法則を提唱した中野董
夫先生が執筆された『物理入門コース 相対性理論』でした.
この本は,「物理入門コース」の一冊ということで,啓蒙書の次のステップ
の本として,当時の私も何とか最後まで読み終えることはできたようです.
“できたようです”というのは,20数年ぶりに自宅の本棚から本を引っ張り出
して開いてみたところ,最終章の一般相対性理論の最後のページに至るまで,
鉛筆で検算をしたような書き込みがしてありましたので.若かりし頃の自分の
手書きの文字を見て,「相対性理論は結構真面目に勉強していたんだな」と,
我ながら感心しました.
ロングセラーとして今でも多くの学生に読まれていると思うのですが,特殊
相対性理論の解説に重きを置いた構成で,一般相対性理論については,最後の
第9章でその概要が解説されています.このような構成(章立て)の本が多い
理由は,学部生レベルの講義では特殊相対性理論の理解を重視して,重力場の
中での運動まで扱える一般相対性理論は,素粒子や原子核,宇宙物理学など,
さらに専門の分野を学ぼうとする学部4年生や大学院生ぐらいを対象とした講
義で扱うことが多いからではないかと思います.
今考えると全くお恥ずかしい話なのですが,高校生の頃から相対性理論に関
する数多くの啓蒙書を読んできたこともあって,相対性理論をすっかりわかっ
た気になっていた私は,講義を受講する前から,「相対性理論というのは,こ
れこれこういうものだよ」と,周囲の友人たちに得意げに話をしていました.
ところが,いざ講義や演習が始まり,自分で手を動かして式を導き出し,ま
た具体的な問題を解こうとすると,啓蒙書で得ていた知識は相対性理論の全体
像の中のほんのわずかな部分であることに気づかされ,大きなショックを受け
たことを覚えています.
また,本は最後まで読み終えたようですが,ローレンツ変換の4次元定式化
で上付き・下付きの数字が出てきたあたりから戸惑い始め,テンソルや4元ベ
クトルが登場してくるとかなり怪しくなり,最後の一般相対性理論の章ではリ
ーマン計量や曲率が登場し,数式をフォローするだけで精一杯の状態になって
しまったような.だから,一般相対性理論の章だけ,やたらと式の計算の書き
込みが多かったのか…….
当たり前でしょうと言われそうですが,「相対性理論って,真面目に勉強す
ると難しいんだな」と思った私は,「わかったつもりと,わかること.この両
者の間には雲泥の差がある」ということを,講義と本書での学びを通して実感
した次第です.
なお,実は中野先生は小社ともご縁があり,上記の本を執筆されるずっと以
前に,山内恭彦先生・内山龍雄先生との3名の共著で,
『物理学選書10 一般相対性および重力の理論』(裳華房、1967年刊)
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2310-3.htm
をご執筆いただきました(残念ながら現在は品切れ中です).
【今回紹介した書籍】
●『物理入門コース9 相対性理論』
中野董夫著/A5判/234頁/定価(本体2900円+税)/1984年10月刊行
岩波書店/ISBN 978-00-007649-4
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/3/0076490.html
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【4】[連載コラム]裳華房 編集子の“私の本棚”(第32回)
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◆ 江沢先生流“相対論講義” ◆
●江沢 洋著『基礎物理学選書 相対性理論』(裳華房)
編集者のCです.
本年が一般相対性理論誕生100年であることを記念しての,このコラム.私
は,手前味噌ですが,小社で2008年に刊行した江沢洋著『相対性理論』を紹介
させていただきます.
江沢先生は,この本のほかにも『量子力学(I)(II)』(裳華房),『力
学』(日本評論社),『現代物理学』(朝倉書店),『だれが原子をみたか』
(岩波書店)など多くの教科書・参考書をご執筆されていて,どの本も味わい
深く,読者からも執筆者として高い評価を得ている方のお一人ではないでしょ
うか.
本書には,編集者として駆け出しの頃に(書籍の編集という形で)出会いま
した.先生からいただいた原稿,特に図の原稿は手描きのもので,方眼紙いっ
ぱいに描かれていました.まだ駆け出しでしたので,どの程度まで図を小さく
すれば良いのか,その感覚が皆目わからず,四苦八苦した覚えがあります.
また本書は「基礎物理学選書」の最終巻となっています.脈々と続いてきた
小社の看板シリーズの締めとして,はてさて,江沢先生は相対性理論をどう料
理されるのだろう,という思いで校正刷を読んでいった記憶があります.
実際読んでみますと唸ったのがその構成で,先生曰く“最初は簡単に,2回
目は深く!”,すなわち,本書は相対性理論を2回くり返して学ぶ構成となっ
ているのです.特に2回目の解説では“テンソル”を用いて再構成されていま
す.多分,学習効果を狙っての江沢先生流の解説なのでしょう.
もう一つの特徴として,先生ご自身“愚直な計算方法とした”と書かれてい
らっしゃるように,丁寧な式展開が試みられています.成分ごとに丁寧に導出
されています.
骨は折れるかもしれません.しかし,全てをやりきった後には,確かな力が
ついているのではないでしょうか.
本書は特殊相対性理論までしか解説されていませんが,さすが江沢先生流の
相対論の講義だなと頷かれる方も多いのではないかと思います.(最終章に,
一般相対性理論の触りが載っていますが,全体としてみたら,特殊相対性理論
の入門書と見たほうが良いでしょう.)
(特殊)相対性理論の入門書をお探しの方は,手に取っていただければ幸い
です.
【今回紹介した書籍】
●『基礎物理学選書27 相対性理論』
江沢 洋著/A5判/332頁/定価(本体3600円+税)/2008年9月刊行
裳華房/ISBN 978-4-7853-2139-0
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2139-0.htm
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【5】裳華房 「相対性理論」分野書籍のご案内
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●『アインシュタインとボーア −相対論・量子論のフロンティア−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2814-6.htm
日本物理学会 編/A5判/322頁/定価(本体4500円+税)/1999年10月刊行
裳華房/ISBN 978-4-7853-2814-6
●『相対論の世界』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2245-8.htm
橋本正章・荒井賢三 共著/A5判/240頁/定価(本体2600円+税)/
2014年10月刊行/裳華房/ISBN 978-4-7853-2245-8
●『裳華房テキストシリーズ‐物理学 相対性理論』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2097-3.htm
窪田高弘・佐々木 隆 共著/A5判/198頁/定価(本体2600円+税)/
2001年1月刊行/裳華房/ISBN 978-4-7853-2097-3
●『基礎物理学選書27 相対性理論』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2139-0.htm
江沢 洋 著/A5判/332頁/定価(本体3600円+税)/2008年9月刊行
裳華房/ISBN 978-4-7853-2139-0
●『物理学選書15 一般相対性理論』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2315-8.htm
内山龍雄 著/A5判/428頁/定価(本体7200円+税)/1978年7月刊行
裳華房/ISBN 978-4-7853-2315-8
●『特殊相対性理論の数学的基礎』 ※品切れ中※
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2913-6.htm
河合俊治 著/A5判/320頁/定価(本体4800円+税)/2005年11月刊行
裳華房/ISBN 978-4-7853-2913-6
●『物理学選書19 一般相対論的宇宙論』 ※品切れ中※
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2320-2.htm
成相秀一・冨田憲二 共著/A5判/286頁/定価(本体4700円+税)/
1988年11月刊行/裳華房/ISBN 978-4-7853-2320-2
●『物理学選書10 一般相対性および重力の理論(増補版)』 ※品切れ中※
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2310-3.htm
山内恭彦・内山龍雄・中野董夫 共著/A5判/348頁/定価(本体2500円+税)
/1967年12月刊行/裳華房/ISBN 978-4-7853-2310-3
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【6】裳華房フェアのご案内
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現在,下記の大学生協書籍部・購買部等にて裳華房フェアを開催中です.
お得なこの機会をぜひご利用ください>関係する大学の皆様
【開催一覧】
◇東北大学 生協 理薬店(11/4〜12/31)
◇慶應義塾大学 生協 矢上店(11/9〜12/25)
◇明治大学 生田キャンパス内 丸善 売店(11/4〜12/22)
◇東海大学 平塚キャンパス内 紀伊國屋書店(11/16〜12/12)
◇東京工業大学 生協 大岡山店(11/2〜12/25)
◇早稲田大学 生協 理工店(11/4〜12/31)
◇中央大学 生協 理工店(12/1〜2016/1/29)
◇新潟大学 生協(11/9〜12/18)
◇名古屋工業大学 生協 Campla店(11/16 〜 12/18)
◇京都大学 生協 各店舗(11/2〜12/11)
「裳華房フェアのお知らせ」
https://www.shokabo.co.jp/fair/index.html
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【7】お知らせ&編集後記
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◇お知らせ
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1.教科書をお探しの方へ
https://www.shokabo.co.jp/text.html
2.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」.
https://www.shokabo.co.jp/support/index.html
3.2015年度版 裳華房 総合図書目録
https://www.shokabo.co.jp/catalogue/index.html
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◇編集後記
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◎早くも師走となりました.年末を控え慌ただしい日々をお過ごしのことかと
思います.本年最後となりますShokabo-News 2015年12月号をお届けします.
◎今回は特別企画として「一般相対論100年」特集としました.いかがでした
でしょうか? 今後も機会があれば,このようなミニ特集を企画していきたい
と思います.
◎今年1年間,ご購読いただき誠にありがとうございました.明年もどうぞ
宜しくお願いいたします.
(TK)
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次号は2016年1月13日の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)//
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