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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.381;2022年11月号 11月の新刊/松浦晋也の“読書ノート”ほか

禁無断転載 ※価格表記は配信当時のままです。
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.381                2022/11/1   裳華房メールマガジン 2022年11月号   https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ★目次★ ─────────────────────────────────── 【1】11月の新刊 案内  ◆中旬刊行◆   『マクスウェル方程式で学ぶ 電磁気学入門』   『コ・メディカル化学(改訂版) −医療・看護系のための基礎化学−』   『ステップアップ 大学の総合化学(改訂版)』  ◆下旬刊行◆   『物理学レクチャーコース 電磁気学入門』   『力学(新装版)』   『手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』   『これからの 集合と位相』   『グリーン関数』 【2】10月の刊行書籍一覧 【3】連載コラム 松浦晋也の“読書ノート”(58):   『オールザットウルトラ科学』(鹿野司 著、アスキー、1990年刊)   『サはサイエンスのサ』(鹿野司 著、早川書房、2010年刊)   『教養』(小松左京・高千穂遙・鹿野司 著、徳間書店、2000年刊) 【4】裳華房フェア 2022(秋冬)のご案内 【5】お知らせ&編集後記 ─────────────────────────────────── ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】11月の新刊 案内 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ※詳細な目次や内容見本などはWebページをご参照ください。 ◆11月中旬刊行◆ ●『マクスウェル方程式で学ぶ 電磁気学入門』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2276-2.htm 竹川 敦 著/A5判/202頁/2色刷/定価2640円(税込み)/ 2022年11月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-2276-2 C3042  好評既刊『マクスウェル方程式から始める 電磁気学』よりも敷居を低くし、 “マクスウェル方程式から始める”スタイルでの電磁気学を初めて学ぶ方々に 向けて、わかりやすさを重視して、その本質となる初歩的な内容に絞って丁寧 に解説したものである。  また、予備知識がなくても読み進めることができるように、必要となる大学 レベルの数学まで含めてやさしく解説した。なお、本書で解説しきれていない 項目については、「サポート情報」コーナーに「補足事項」を用意した。  【主要目次】 Prologue −電磁気学に必要な数学−  P1 電磁気学に必要な数学(1)  P2 電磁気学に必要な数学(2) Chapter −電磁気学−  1. マクスウェル方程式  2. 一般的な導出事項  3. 静電気(1)  4. 静電気(2)  5. 静磁気(1)  6. 静磁気(2) Appendix −問題形式による本文の補足− ●『コ・メディカル化学(改訂版) −医療・看護系のための基礎化学−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3524-3.htm 齋藤勝裕・荒井貞夫・久保勘二 共著 /B5判/164頁/2色刷/ 定価2640円(税込み)/2022年11月発行/裳華房/ ISBN 978-4-7853-3524-3 C3043  医療・バイオ系技術者や看護師を目指す大学・短大・専門学校生を対象とし た半期用教科書として2013年に刊行され、定評を得た教科書の改訂版。高校化 学の内容を前提としない基礎的な化学入門から、有機反応や生体物質、および 医療現場で必須となる濃度の知識などもきわめて平易に解説している。  今回の改訂では、刊行以来読者から寄せられたご意見を参考に近年の化学の トピックスもふまえて各章の内容をアップデートし、演習問題やコラムを増量 するなど教科書としての使い勝手をよりよくした。2022年度から実施されてい る高等学校新学習指導要領に基づく用語の変更などにも対応している。  【主要目次】 第I部 基礎化学  1.原子の構造と放射能  2.原子の電子構造  3.周期表と元素  4.化学結合と分子  5.物質の量と状態  6.溶液の化学  7.酸・塩基と酸化・還元 第II部 有機化学  8.有機化合物の構造  9.異性体と立体化学  10.有機化学反応  11.高分子化合物  12.糖類と脂質  13.アミノ酸とタンパク質  14.核酸 −DNAとRNA− ●『ステップアップ 大学の総合化学(改訂版)』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3522-9.htm 齋藤勝裕 著/B5判/160頁/2色刷/定価2420円(税込み)/ 2022年11月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-3522-9 C3043  課題設定→学習→達成度確認→新たな課題設定→… というJABEE(日本技 術者教育認定制度)の認可規準に沿いながら、高校で化学を履修していない学 生や文科系の学生でも理解を深めていけるように記述された一般化学の入門的 な教科書として2008年に刊行され定評を得た教科書の改訂版。  各章冒頭にその章で学ぶことを明示し、また章末にはまとめと多数の演習問 題を配して達成度を確認できるようになっている。随所におり込まれた「発展 学習」課題に自ら取り組むことにより、化学に対する理解をさらに深めること ができる。  今回の改訂では、刊行以来読者から寄せられたご意見を参考に各章の内容を アップデートし、演習問題やコラムを増量するなど教科書としての使い勝手を よりよくした。とくに第V部(生命化学、環境化学)では近年のトピックスを ふまえ大幅に加筆・改訂し、最新の化学を学ぶにふさわしい内容となっている。  【主要目次】  序章 化学で学ぶこと 第I部 原子構造と結合  1.原子構造と電子配置  2.化学結合と分子構造  3.元素の性質と反応 第II部 物質の状態と性質  4.物質の状態  5.溶液の性質 第III部 化学反応とエネルギー  6.化学反応の速度  7.化学反応とエネルギー  8.酸化反応・還元反応 第IV部 有機分子の性質と反応  9.炭化水素の構造と性質  10.有機化合物の性質と反応  11.高分子化合物の構造と性質 第V部 生命と化学  12.生命と化学反応  13.環境と化学物質 ◆11月下旬刊行◆ ※下旬刊行の書籍について、詳しくは次号(12月上旬配信予定)にて  ご紹介いたします。 ●『物理学レクチャーコース 電磁気学入門』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2411-7.htm 加藤岳生 著/A5判/240頁/2色刷/定価2640円(税込み)/ 2022年11月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-2411-7 C3042  ★ 新シリーズ 刊行第二弾! ★  本書は、理工系学部1年生向けの半期タイプの入門的な講義に対応したもの で、わかりやすさとユーモアを交えた解説で定評のある著者によるテキスト。  本書では、「クーロンの法則から始めて、マクスウェル方程式の導出に至る」 という構成を採用する一方で、本書の最初の2つの章で「電磁気学に必要な数 学」を解説した。これにより、電磁気学と並行して、必要に応じて数学を学べ る(講義できる)ようになっている。 ●『力学(新装版)』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2275-5.htm 原島 鮮 著/A5判/416頁/定価3300円(税込み)/2022年11月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-2275-5 C3042  初版刊行の1958年以来、多くの大学で教科書として採用されるなど、読者か ら圧倒的な支持を受け続けている、超ロングセラーの教科書・参考書である。  このたびの「新装版」ではレイアウトを見直すなど、さらなる読みやすさへ の工夫をほどこし、学習を始める際に読者が感じるハードルの高さをすこしで も低くするよう意を砕いた。 ●『手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1594-8.htm 山根英司 著/A5判/274頁/定価2860円(税込み)/2022年11月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-1594-8 C3041  「難しい公式が多くて、計算が大変」。そんな声が聞こえてきそうなフーリ エ解析とラプラス変換。本書はその難所の乗り越え方や計算のコツを豊富に盛 り込み、著者独自の語り口で読者が手を動かしながらスムーズな理解へ到達で きるように導く。一方、理論的裏付けへの目配せも怠らない。ついに現れた画 期的な入門書。 ●『これからの 集合と位相』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1596-2.htm 梅原雅顕・一木俊助 共著/A5判/330頁/定価4180円(税込み)/ 2022年11月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-1596-2 C3041  単なる基本事項の羅列ではなく、議論の流れが読み取れるような形にまとめ、 自習にも利用できるテキストを目指した。前半の「集合論」の部分では、とく に、選択公理や整列集合の意味などについて、他書にはない独自の丁寧な解説 を与えている。後半の「位相空間」については、通常の授業で扱われる内容の 解説のほか、「リンデレーフ空間」「パラコンパクト性」などの、若干高度と 思われる重要事項の多くを、テーマごとに付録で採り上げた。 ●『グリーン関数』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1597-9.htm 亀高惟倫・永井 敦・山岸弘幸 共著/A5判/200頁/定価3850円(税込み) /2022年11月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-1597-9 C3041  微分方程式の境界値問題の中心をなし、応用上も重要なグリーン関数につい て、大学1、2年生の微分積分学の知識を前提に解説する。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【裳華房 新刊一覧】   https://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【裳華房 分野別書籍一覧】https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】https://www.shokabo.co.jp/support/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】10月の刊行書籍一覧 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●『物理学レクチャーコース 力 学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2409-4.htm 山本貴博 著/A5判/298頁/定価2970円(税込み)/2022年10月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-2409-4 C3042 ●『物理学レクチャーコース 物理数学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2410-0.htm 橋爪洋一郎 著/A5判/354頁/定価3630円(税込み)/2022年10月発行/ 裳華房/ISBN 978-4-7853-2410-0 C3042 ●『高校生にもわかる 物理化学 −量子化学と化学熱力学−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3525-0.htm 中田宗隆・岩井秀人 共著/A5判/224頁/定価2530円(税込み)/ 2022年10月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-3525-0 C3043 ●『発生生物学 −基礎から再生医療への応用まで−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5874-7.htm 道上達男 著/A5判/196頁/3色刷/定価3630円(税込み)/ 2022年10月発行/裳華房/ISBN 978-4-7853-5874-7 C3045 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【電子書籍のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html 【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第58回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんに、お薦 め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます。  ・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/ ─────────────────────────────────── ◆ さようなら、鹿野司さん ◆ ● 『オールザットウルトラ科学』(鹿野司 著、ビジネスアスキー、1990年刊)   『サはサイエンスのサ』(鹿野司 著、早川書房、2010年刊)   『教養』(小松左京・高千穂遙・鹿野司 著、徳間書店、2000年刊)  「歳を取ると避けられないのは友人の死である」と書いていたのは星新一 『祖父・小金井良精の記』だったか──2022年10月17日、サイエンス・ライタ ーの鹿野司さんが長年の闘病の末に亡くなられた。享年63歳。  この連載は「松浦晋也の“読書ノート”」「鹿野司の“読書ノート”」とい う対で構成されているが、その一方を担っていた鹿野司さんだ。鹿野さんの担 当分は2016年6月で休載となっていた。  鹿野さんとはじめて会ったのは1999年の秋、宇宙作家クラブ設立の準備会合 の時だ。だが、それよりもずっと前に私は鹿野司という人物を知っていた。マ ンガを通じて知っていた。とり・みき『クルクルくりん』(1983〜1984、少年 チャンピオン連載)というマンガに、「鹿野司クン」というキャラクターが出 演していたからだ。背が低く、くりくりとしたつぶらな瞳をしていて、にも関 わらずなにかというとバズーカをぶっ放す、エキセントリックなキャラクター だった。  同じ頃にアスキーが、パソコン雑誌『ログイン』を立ち上げ、そこで鹿野さ んの「オールザットウルトラ科学」という連載が始まった。これにより、私は 鹿野司が実在の人物であることを知った。とり・みきさんが、身辺の友人たち をモデルにキャラクターを造形して、自作に出演させていたのである。  私は長い間、キャラクターの鹿野司クンと実在のサイエンスライター鹿野司 は同一だと思っていた。なので、初対面では大変驚いた。本物は中肉中背、体 中にがっちりと筋肉を付けた精悍な人だったからだ。GIカットっぽく刈り上 げた髪が似合っていた。  とり・みきさんが、自身のブログにアップした鹿野さんの追悼記事※で、 「タミさんは野菊のような人だ」という自作の一コマを掲載している。伊藤左 千夫『野菊の墓』と映画『ターミネーター』を引っかけたギャグだが、このタ ーミネーターのモデルが鹿野さんだった。初対面の鹿野さんは、「くりん」の 鹿野クンよりも、ずっとターミネーターに似ていた。ただ、その瞳に宿る純真 とも天真爛漫とも受け取れる輝きは、「鹿野クン」と「鹿野さん」に共通して いた。 ※https://www.torimiki.com/l/%e9%b9%bf%e9%87%8e%e5%8f%b8%e3%81%95%e3%82%93/  気が付くと自分は、この「筋肉のがっちりとついた鹿野さん」にずいぶんと 影響されている。鹿野さんは当時最新の折り畳み自転車、ドイツ製の「BD-1」 に乗っていた。また、まだ珍しかったリカンベント(安楽椅子に座ったような 仰向けに近い姿勢で乗る自転車。通常の自転車に比べて空気抵抗が小さいとい う利点を持つ)も保有し、がんがん乗り回していた。アメリカ製のBikeE(バ イキー)という車種である。  鹿野さんにこの2つを試乗させてもらった自分は、BD-1を買い、さらにBD-1 をリカンベントにコンバートするキットを見つけ出してきて「BD-1のリカンベ ント」を作った。そこから20年以上も続く自分のリカンベント人生が始まった のである。  しかし、鹿野さんは単に「面白いものを教えてくれる面白い先輩」ではなか った。やがて自分は、鹿野さんの人格の核にある、より固く、抜き差しならぬ 理念と向き合うことになった。  鹿野さんの仕事は、科学エッセイと映像作品への科学考証・SF考証の2分 野にわたっている。一般へはむしろ映像作品での貢献で知られているかも知れ ない。『鉄腕バーディDECODE』(2008〜2009)、『宇宙戦艦ヤマト2199』(20 13)、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015〜2018)など。  科学エッセイはなによりも、8ビットから16ビット時代のパソコンキッズに 多大な影響を与えた「オールザットウルトラ科学」であり、30年以上に渡る長 期連載となった『SFマガジン』誌(早川書房)の「サはサイエンスのサ」で あろう。  鹿野科学エッセイは「難しい話を易しく書く」という科学解説の基本に忠実 であり、同時に「読者と同じ高さの視線を保ち」、さらには「誰もが想像して いなかったような、新たな視点を提示する」という希有のものだった。とり・ みきさんが追悼文に記した評価で、すべては尽きているという気がする。以下 引用。   彼は自然科学やテクノロジー方面はもちろん、社会学や政治的な判断に   おいても私のもっとも信頼する知識人だった。右にも左にも体制にも反   体制にも与せず、是々非々で論理的・科学的に物事を判断、評価、批判   した。   SNSには、一見、相対的・俯瞰的・論理的な態度をとっているように   見せながら、その実、理不尽な権力に利するような言動に堕している、   もしくは堕していることに自分で気づいていない輩が一定数いるが、彼   はそうした連中とは一線を画していた。いや対極にあったといってもい   い。   その意見表明や教示の仕方は、けして無知を馬鹿にしたり対立を煽るよ   うな攻撃的なものではなく、常に冷静で、しかし冷たくなく、やさしか   った。現在のSNSや世界を蔽う空気とは正反対のものだ。     (鹿野司君のこと、2022年10月23日より)   https://www.torimiki.com/l/%e9%b9%bf%e9%87%8e%e5%8f%b8%e3%81%95%e3%82%93/  では、なぜ鹿野さんは、そのような態度で一貫し、科学エッセイを書き続け ることができたのか。  鹿野さんとかなり激しくネット上の議論をしたことがある。2007年5月から 6月にかけてのことだ。場所はmixiに書いていた日記のコメント欄。話題は経 済成長著しい中国がこれからどうなっていくのか、だった。翌年に北京オリン ピックを控えていた時期である。  私は中国共産党の政策に強権的な雰囲気を感じ取り、かなりの危惧を抱いて いた。数多の王朝が展開した帝国としての中国の歴史は理不尽と残虐行為の連 続だ。共産党中国もまた、その伝統に従ってしまうのではないか──。  それに対して鹿野さんは、一貫して楽観的だった。そんなことはない。中国 は良い方向に向かう──その根拠としたのが、ゲーム理論のフォーク定理だっ た。無限回の繰り返しを前提とした「囚人のジレンマ」ゲームでは、プレーヤ ーが相互に協力し合うのが最適解となる、という定理だ。協力し合うことが利 益を最大にするのならば、人は協力し合うようになる。大丈夫、きっと中国も 内と外の両方で協力していくようになるよ──。  それに対して私は、フォーク定理は無限回の試行が前提であることを指摘し た。現実では同じシチュエーションが繰り返すことはない。その意味では施行 は常に一回限り、どんなに楽観的に見積もっても有限回であり、しかも人生や ら国家やらの重大事における意思決定は有限の中でもかなり小さく、例えば数 回程度でしかない。フォーク定理を楽観の根拠にはできないのではないか。  それに対して鹿野さんは「これはウィキペディアを見たのかな?」とチクリ と一言入れて(白状しよう。図星であった)、「フォーク定理の無限回とは、 数学的無限回の試行ということではなくて、いつが最終回か誰にもわからない 状態だ」と指摘した。「つまり人生そのもの」ということだ。だから最終的に はフォーク定理の示すところに落ちつくよ──。  私は納得しなかった。そのためには、ゲームの参加者が「いつが最終回か誰 も分からない」と意識している必要がある。現実はそうではない。歴史上の数 多の悲劇は、「これを最終解決とする。これですべてを終わらせる」という意 識から起きているではないか。フォーク定理のような普遍の科学から語るので なく、中国ならば中国という土地の特性や中国人が培ってきたメンタリティと いうような個別の部分から考えていくべきではないか──。  これがきっかけになって、私は自分の内側に刻み込まれている「個別の中国」 を見直すことになった。1986年に1か月ばかり中国を放浪旅行した経緯をmixi 日記に連載し、後に同人出版の風虎通信さんで『中国1986』という同人誌にま とめたのだが、それはまた別の話だ。  あぁ、この時のログを鹿野さんに提示して、「今はどう考えていますか」と 聞くことができたら、どんなによかったろう。が、それはもう叶わない望みで ある。ともかくこの時、私は鹿野さんの核にある極めて強固な信念に触れたの だ。それは「一般・普遍から考えていくなら、世界は、社会は必ず良い方向に 向かう」ということだ。一般・普遍とは、人間関係や人間社会を超えた、科学 に他ならない。  その確信があるからこそ、鹿野さんは科学を、「無知を馬鹿にしたり対立を 煽るような攻撃的なものではなく、常に冷静で、しかし冷たくなく、やさし」 く語ったのだろう。なぜなら普遍の知識たる科学が一般の人々に浸透するほど、 世界は良くなっていくからだ。  しかし、なぜそのような確信を持つことができたのか──。これについて、 SF作家の小川一水さんが、鹿野さんの訃報を聞いて興味深いエピソードを Twitterに投稿していた。   宇宙作家クラブで旅行したとき、鹿野さんは科学の良い面も悪い面も   いろいろ見ているのに、どうしてそんなに前向き(希望的、明るい等   と訊いたかな)なんですかと伺ったら、それはそうしようと決めたか   らだよ、とおっしゃっていたな。   小川一水 @ogawaissui   https://twitter.com/ogawaissui/status/1585361418597302272  「一般・普遍から考えていくなら、世界は、社会は必ず良い方向に向かう」 は「自分がそうしようと決めた」ことだったのだ。それならば、なぜそう決め たのか、決めることができたのか。  『教養』は、SFの大先達である小松左京さんに、同じくSF作家の高千穂 遙さんがインタビューし、その内容を鹿野さんが補足しながらまとめたという 本だ。前書きによると、小松さんが抱える膨大な教養を引き出して文字化する ことを目指して高千穂さんが企画し、小松さんに話を持ち込み、鹿野さんにま とめを依頼した、という本だ。  実際、小松左京という人が宿していた膨大な知識が次々に開陳される面白い 本なのだが、この本のラストで、鹿野さんは次のように語っている。   鹿野 今回の鼎談で、すごくよくわかったことがありますよ。それは小    松さんの前向きさには、根拠がないということです。これこれの理由    があるから前向きになれるなんていう根拠薄弱なものじゃなくて、そ    れが思索の原点なんですよ。人間には、どんな困難も乗り越えられる    力がある。そのことに対して、強い信頼感があって、だから、あれも    ダメこれもダメと、ぐだぐだ自己憐憫に浸るな、やる気になったらい    くらでもうまい手があるといいきれる。ようするに、『夏への扉』で    すよ。      (同書 p.206)  これは鹿野さんにも言えることではないか。鹿野さんは小松さんに言寄せて、 自分を語っているのではないか。  「一般・普遍から考えていくなら、世界は、社会は必ず良い方向に向かう」 は、それが自分の原点であるとして、自分で決めたことだった。根拠なんかな い。それを原点として、そこから歩みだそうと自分が決意したことだったのだ。  この決意を『夏への扉』だ、と譬えていることに注目しよう。ロバート・A ・ハインラインの『夏への扉』は、友人に裏切られ、冷凍睡眠で未来へと飛ば されてしまった主人公が、タイムマシンを使って過去に戻り、人生をやりなお して幸福をつかみ取る、というSF小説だ。  鹿野さんのTwitterアカウントにある自己紹介には、次のように書いてある。   サイエンスライターです。が、自分ではフィクション部分を限りなく小   さくしたSFをやっているつもり。   https://twitter.com/sikano_tu  鹿野さんは「一般・普遍から考えていくなら、世界は、社会は必ず良い方 向に向かう」と「自分でこうだと決めた」のだった。決めるにあたっては、 SFという小説ジャンルが深く影響したことは間違いない。むしろ鹿野さん は、それを「SFを現実にする」、あるいは「現実にSFを適用する」と認 識していたのかも知れない。  SFに触れたからこそ得た確信に基づき、科学を語る──確信に根拠はな い。ただ、SFを知りSFを読んで、感じるがままに自分でそう決めた。  別の言い方をするなら、自分の本然のままに、社会を良くする方向へと、 鹿野さんは科学を語り続けたのである。  その精華たる「オールザットウルトラ科学」も「サはサイエンスのサ」も、 共に長期連載だったこともあって、単行本になったのはごく一部でしかない。 鹿野さんの示した洞察力は、その一部しか受容されていないのだ。なんとか、 その全てを誰もがすぐに読めるようにしたいところなのだが……。  がっちりと筋肉の付いた体格だった鹿野さんだが、身体には慢性の病気を抱 えていた。筋肉はむしろその病気を遠ざけるための対策だった。が、体質だっ たのだろう。病気は容赦なく鹿野さんの身体を蝕んだ。「どんなにきちんと摂 生して運動しても、悪くなっちゃうんだよね」という嘆きを、何人もの友人が 聞いている。  2016年の秋、「リカンベントを引き取ってくれないか」と鹿野さんから打診 を受けた。「もうオレ、体が悪くなっちゃって乗れないから」。  そうしてやってきたBikeEが今、私の手元にある。これが形見になってしま った。  葬儀では参加者みんなで、「鉄腕アトム」を歌った。ほんの少しだけ歌詞を 変えて。  こころやさし、かがくのこ、てつわんシカノ……どうにも泣けて困ったのだ った。 【今回紹介した書籍】 ●『オールザットウルトラ科学』 鹿野司 著/四六判/206頁/定価1200円(税込み)/1990年7月刊/ ビジネスアスキー/ISBN 9784893660725 ●『サはサイエンスのサ』 鹿野司 著/四六判/270頁/定価1650円(税込み)/2010年1月刊/ 早川書房/ISBN 9784152091048 https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/113175.html ●『教養』 小松左京・高千穂遙・鹿野司 著/四六判/238頁/定価1600円(税込み)/ 2000年11月刊/徳間書店/ISBN ? 9784198612665 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター。1962年東京都出身。現在、「Modern Times」、 日経ビジネスオンライン「Viwes」「テクノトレンド」などに不定期出稿中。 近著に『母さん、ごめん。2──50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』 (日経BP社、2022年6月刊)がある。その他、『小惑星探査機「はやぶさ2」 の挑戦』『はやぶさ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』『われらの有人宇宙船』 『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『のりもの進化論』など 著書多数。 Twitterアカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2022 ※本コラムは本メール配信後、なるべく早い時期にWebサイトに掲載する予定  です。 https://www.shokabo.co.jp/column/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【4】裳華房フェア 2022(秋冬)のご案内 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ https://www.shokabo.co.jp/fair/2022fair.html  今月11月から明年1月にかけて、下記の大学生協書籍部や大学内書店にて、 裳華房フェアを開催する予定です。(フェアは予告なしに変更・中止する場合 がございます)。  お得なこの機会を是非ご利用ください>各大学関係者の皆様 【2022年秋〜冬に開催予定の裳華房フェア】  ◎弘前大学生協 大学会館SHAREA店 (11/7 〜 12/24) ◎岩手大学生協 購買中央店 (11/7 〜 12/24) ◎山形大学生協 小白川購買書籍店Porte (11/7 〜 12/27) ◎埼玉大学生協 書籍購買部(11/1 〜 12/27) ◎千葉大学生協 ブックセンター(11/7 〜 12/27) ◎東京理科大学生協 野田店 (12/1 〜 2023/1/31) ◎東京大学生協 本郷書籍部 (12/5 〜 2023/1/27) ◎お茶の水女子大学生協 購買書籍部(11/7〜12/23) ◎早稲田大学生協 理工店書籍部 (11/7 〜 12/27) ◎東京理科大学 紀伊國屋書店 神楽坂ブックセンター (12/1 〜 2023/1/31) ◎東京理科大学生協 葛飾店 (12/1 〜 2023/1/31) ◎新潟大学生協 書籍部 (2023年1月 〜 2月[予定]) ◎富山大学生協 本店購買書籍部 (11/1 〜 12/27) ◎京都大学生協 ショップルネ (11/7 〜 12/9) https://www.shokabo.co.jp/fair/2022fair.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【5】お知らせ&編集後記 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇お知らせ ─────────────────────────────────── 1.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」   https://www.shokabo.co.jp/support/index.html 2.「2022-23年度 裳華房 総合図書目録」   https://www.shokabo.co.jp/catalogue/ 3.2023年度用 テキスト・新刊パンフレット   https://www.shokabo.co.jp/text.html#flier 4.著者による「自習用の講義動画」(YouTube利用)   https://www.shokabo.co.jp/support/self-study.html  ・赤坂甲治先生 『進化生物学』 全14回(完結)  ・長谷部光泰先生『陸上植物の形態と進化』 第6回まで 5.「数学の秋 おすすめの書籍」動画(Twitter)   https://twitter.com/shokabo_editors/status/1570570385208516609   https://twitter.com/shokabo_editors/status/1572110251884945408 ─────────────────────────────────── ◇編集後記 ───────────────────────────────────  「“読書ノート”」で松浦晋也さんが書かれているとおり、“読書ノート” のもう一人の担当者でサイエンスライターの鹿野司さんが10月17日に逝去され ました。鹿野さんの簡単なご略歴は下記URLをご参照ください。 https://www.shokabo.co.jp/column/index.html#shikano  1980年代に雑誌『Login』で連載されていた「オールザットウルトラ科学」 や、1994年から亡くなる直前まで雑誌『SFマガジン』に連載された「サはサ イエンスのサ」などは、私にとって“目からウロコ”のネタが満載でした。単 に分かりやすく解説するだけでなく、我々が気が付かないような異なった視点 を提供し、そして何よりも“楽しく”“やさしく”伝える術・技に関してはピ カイチの方だったと思います。  鹿野さんと裳華房との関わりは、 ・「ポピュラー・サイエンス」の一冊として「ロボット」のテーマで原稿を  依頼 → シリーズ終了に伴い企画中止。 ・2012年の春からメールマガジン「Shokabo-News」にて、「“読書ノート”」  の隔月連載を開始(松浦晋也さんと交互担当)→ 療養専念のために転居  されたころから長期休載。 など、いずれも申し訳ない形になりましたが、昨年には「体の不具合が重なっ て、本も読めていないので、定期的に書くのは難しいけど、ときどき書けたら お送りします」旨のご連絡いただいていたので、ただただ残念です。  宇宙作家クラブの例会に毎回リカンベントに乗って颯爽と現れていた逞しい 姿とか、松浦さんと私で行った鹿野さんの出版お祝い会とか、書きたい思い出 はあれこれありますが……。  先日、少数の友人・知人で行われた葬儀に、私も参列させていただきました。 棺の中に花を添え、蓋をしたときに皆で唄った「鉄腕“しかの”」(松浦さん の原稿参照)は本当に泣けました。  「心やさしい……心ただしい 科学の子」たる鹿野司さんのご冥福を謹んで お祈り申し上げます。  最後に、鹿野さんが別れ際によく言っていた科白「じゃぁね、またね」。 またね、鹿野さん。                                (TK) ─────────────────────────────────── 次号は2022年12月上旬の配信予定です。 どうぞお楽しみに!\\(^o^)// ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★ Shokabo-Newsの配信停止・アドレス変更は下記URLよりお願いします ★ https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html メールマガジンのご意見・ご感想は m-list@shokabo.co.jp まで. ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 自然科学書出版 (株)裳華房 〒102-0081 東京都千代田区四番町8-1 Tel:03-3262-9166 Fax:03-3262-9130 電子メール:info@shokabo.co.jp URL:https://www.shokabo.co.jp/  Twitterアカウント:@shokabo 【個人情報の取り扱い】 https://www.shokabo.co.jp/policy.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright(c) 裳華房,2022      無断転載を禁じます.



         

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