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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.410;2026-07 最近の新刊・近刊/松浦晋也の“読書ノート” ほか)

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.410                2026/7/31   裳華房メールマガジン 2026年7月号   https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ★目次★ ─────────────────────────────────── 【1】6月の新刊   『応援ブック 手を動かしてまなぶ 群論     −「行間を埋める」ために+詳細解答−』   『物理のとびら −力学入門−』 【2】秋の近刊   『動画でサポート 生命の科学』   『物理を微分形式で語り直す −座標系によらない美しい表現を求めて−』   『応用数学コース 微分方程式』   『応用数学コース 複素解析』   『圏論入門 −基礎概念からテンソル圏まで−』 【3】連載コラム 松浦晋也の“読書ノート”(71):   『NHKの電子音楽』(川崎弘二 著、フィルムアート社) 【4】裳華房の売上げランキング(2026年4〜6月) 【5】[YouTube]新規公開中! 【6】お知らせ&編集後記 ─────────────────────────────────── ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】6月の新刊 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■『応援ブック 手を動かしてまなぶ 群論    −「行間を埋める」ために+詳細解答−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1613-6.htm 原  隆 著/A5判/202頁/定価1320円(税込み)/2026年5月30日発行/ ISBN 978-4-7853-1613-6 C3041/裳華房  現在、好評発売中の『手を動かしてまなぶ 群論』(以下「親本」)のサポ ート情報(PDFファイル)として無料公開している補助教材「『行間を埋める』 ために」および「(節末問題の)詳細解答」を小冊子としてまとめた。   これらのウェブ教材は相当の分量に及び、学習の際に手元で参照できる形に まとめてほしいとのご要望も多かったため、本書を刊行した。親本の理解をい っそう深めるための補助教材として、あわせて活用していただきたい。 【親本】『手を動かしてまなぶ 群論』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1603-7.htm ■『物理のとびら −力学入門−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2280-9.htm 小鍋 哲 著/B5変形判/128頁/定価2420円(税込み)/ 2026年6月20日発行/ISBN 978-4-7853-2280-9 C3042/裳華房  本書は、物理学の中でも特に「力学」の入門的なことを学びながら、「シン プルな法則に基づいて論理を積み重ねることで、複雑な自然現象を理解する」 という、物理学の基本的な考え方に触れてもらうことを目指したテキストであ る。  物理学の基本姿勢・方法論は、これから物理学を専門としない方々にも、 「理系の教養」としてぜひ身に付けてもらいたい。そのため、本書は、力学の 入門的な内容を一歩ずつ学べるように構成している。高等学校で物理を学んで いない人や、苦手意識があるという人も、安心してほしい。  知識やテクニックの単なる詰め込みではなく、原理的な理解を出発点に、一 つ一つ筋道を立てて思考する──本書が、そんな姿勢を皆さんの中に育む一助 となれば幸いである。 【主要目次】 1.運動学 2.運動を支配する法則 3.力と運動1 −重力と自由落下− 4.力と運動2 −いろいろな運動− 5.仕事とエネルギー 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【裳華房 新刊一覧】   https://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【裳華房 分野別書籍一覧】https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】https://www.shokabo.co.jp/support/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】秋の近刊 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ※10〜11月には下記以外にも刊行を予定している書籍がございます。  次号(または次々号)のShokabo-Newsでご紹介する予定です。 ■『動画でサポート 生命の科学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5249-3.htm 赤坂甲治 著/B5判/224頁/3色刷/定価3520円(税込み)/ 2026年9月15日発行/ISBN 978-4-7853-5249-3 C3045/裳華房  本書では、生物学を専攻しない大学生にも、生命科学の教養を楽しく身につ けていただけるように、専門用語をなるべく使わず、日常感覚で理解できるよ うに工夫している。また、生命科学の面白さをできるだけ対面の講義に近い形 で伝えるために講義動画を作成して掲載したので、学習のサポートとして利用 して欲しい。 ■『物理を微分形式で語り直す −座標系によらない美しい表現を求めて−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2281-6.htm 前野昌弘 著/A5判/336頁/定価未定/2026年9月下旬刊行予定/ ISBN 978-4-7853-2281-6 C3042/裳華房  電磁気学や解析力学などをはじめ、「微分形式」を使うことで物理的内容の 記述がすっきりとした形に整理される例が数多く存在する。しかし、物理を学 ぶ方の中には、微分形式に対してどこか“とっつきにくさ”を感じている人も 多いのではないだろうか。  本書では、著者オリジナルの創意工夫をふんだんに凝らしつつ、微分形式に よって物理がどのように“語り直される”のか、その有用性がスムーズに理解 できるよう解説している。「座標変換」をひとつの鍵として 1-form(1次微 分形式)とベクトル場を導入し、そこから高次の微分形式への拡張、微分形式 の外微分と積分を考え、そのうえで電磁気学、解析力学、熱力学、相対論など を、微分形式を用いて記述し直していく。  かつて微分形式の修得を挫折してしまった物理学科の方、あるいは電磁気学 や解析力学などを学んだうえで、もう一歩深く勉強したいと思っている方に、 ぜひお薦めしたい書籍である。 ■『応用数学コース 微分方程式』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1620-4.htm 中村 豪 著/A5判/192頁/定価未定/2026年9月下旬刊行予定/ ISBN 978-4-7853-1620-4 C3041/裳華房  理工系学生にとって必要とされる常微分方程式の基本を十分に習得し、さら に応用について知ることを目指して書かれた一冊。  各章の初めには学びの内容をはっきりと示し、明確な目標をもって学習が進 められるようにし、一方、章末にはキーワードをまとめ、内容の振り返りに役 立つようにした。  また豊富な例題と、それにならって解ける問題を数多く収め、反復学習の効 果によって理解が定着するようにした。さらに穴埋め式の問題も取り入れ、ス ムーズに学習へ取り組めるようにした。 ■『応用数学コース 複素解析』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1619-8.htm 安達静子 著/A5判/196頁/定価未定/2026年9月下旬刊行予定/ ISBN 978-4-7853-1619-8 C3041/裳華房  理工系学生にとって必要とされる複素解析の基本的な概念や手法を十分に習 得し、さらに応用例を知ることを目指して書かれた一冊。  各章の初めには学びの内容をはっきりと示し、明確な目標をもって学習が進 められるようにし、一方、章末にはキーワードをまとめ、内容の振り返りに役 立つようにした。  また豊富な例題と、それにならって解ける問題を数多く収め、反復学習の効 果によって理解が定着するようにした。 ■『圏論入門 −基礎概念からテンソル圏まで−』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1621-1.htm 和久井道久 著/A5判/予416頁/定価未定/2026年秋刊行予定/ ISBN 978-4-7853-1621-1 C3041/裳華房  昨今重要性が高まっている圏論を、初学向けに具体例を挙げながら解説。冒 頭の準備の章において、本文中で圏と関手の例として用いられる数学の基本事 項をまとめており、独習に適した構成となっている。後半部分では、発展的内 容としてテンソル圏の話題を扱う。  圏論全般の基礎知識が身につくのみならず、その先の想像以上に豊かな圏論 の世界を垣間見ることができる、新たな入門書がここに。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【電子書籍のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html 【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第71回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんに、お薦 め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます。  ・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/ ─────────────────────────────────── ◆ NHKで70年以上も行われた芸術的実験とその最後 ◆ ●『NHKの電子音楽』(川崎弘二 著、フィルムアート社)  この連載では過去に数回、電子楽器や電子音楽に関する本やCDを取り上げ ている。  私の興味は、電子楽器や電子音楽は科学技術と芸術との接点だというところ にある。近代の光学や色彩の理論が、19世紀に印象派という一群の画家たちと その作品を生んだように、電子楽器と電子音楽によって、20世紀の音楽はそれ 以前とは決定的に変化した。  科学技術と音楽の関わりのなかで一番わかりやすいのは、音楽ビジネス面で の変化だ。録音という形で音の保存が可能になり、ラジオという不特定多数に 音楽を低コストで届けるメディアが登場し、さらには音の電気的増幅が可能に なったことで、少人数の音楽家が、従来とは比較にならないほど大規模な大衆 に向けて音楽を届けることが可能になった。  これにより、音楽は「当たれば滅茶苦茶儲かるビジネス」になった。ビジネ スになったことで音楽著作権という概念が明確になり、その周辺で、録音され たデータに対する原盤権のような付随する権利も社会制度として確立していく。 かくして世界を覆うような巨大音楽産業が立ち上がり、その結果として世界中 の人々を魅了できるようなポピュラー・ミュージックが発達した。  それとは別に、芸術音楽の分野では、科学技術は、電子楽器・電子音楽とい う形で、従来の楽器ではできない新しい表現を科学技術で可能にする新しい手 法として登場し、ポピュラー・ミュージックとは異なる形で展開した。その一 部は、シンセサイザー音楽やノイズミュージックという形でポピュラー音楽に も影響を及ぼしたし、またポピュラー音楽の側も芸術音楽へと影響した。  単純なフレーズを繰り返しつつ変化させていくことで、聞く者を陶酔の中に 巻き込むミニマル・ミュージックは、おそらくそのルーツはアフリカの音楽に ある。が、はっきりと意識してミニマル・ミュージックを始めたのはスティー ブ・ライヒ(1936〜)のような芸術音楽の側の作曲家であり、初期にはテープ レコーダーを使って短いフレーズを繰り返すという手法が使われた。この手法 は、やがてサンプラーを使って既存楽曲の一部を切り取って何度も繰り返すと いう形でディスク・ジョッキー(DJ)につながり、あるいは繰り返しが陶酔を 生むという点でサイケデリック・ロック、ドリーム・ポップ、あるいはオルタ ナティブやダンスミュージックというかたちで、シンセ、サンプラーといった テクノロジーと共にポピュラー音楽に浸透していく。  そして、実のところ、電子楽器・電子音楽のうち、作品を録音テープに定着 させて完成させる電子音楽は、ラジオ放送というメディアと不可分であり、そ の発展にはラジオ局という組織が密接に関係しているのである。  本書『NHKの電子音楽』は、日本放送協会(NHK)が設置したNHK電 子音楽スタジオで行われた様々な電子音楽の技術開発と、作曲家と技術者たち の協力で生まれた作品についてまとめた本だ。2段組にびっしりと文字が詰ま ったレイアウトで、全1432ページもある。巻末には、記述の出典を示す註記、 加えて詳細な索引、そしてNHK電子音楽スタジオで制作された電子音楽作品 の一覧が掲載されている。大変な労作だ  著者は、本コラム「電子音楽の歴史をつづる大著2冊」※1で紹介した『日 本の電子音楽 増補改訂版』(愛育社)の編著者でもある。  ※1 https://www.shokabo.co.jp/column/matsu-11.html  1925年(大正14年)の日本におけるラジオ放送開始から説き起こし、1950年 代にNHK内部に電子音楽スタジオがたち上がり、芸術家と技術者が協力して 芸術的にも技術的にも先鋭的な電子音楽作品を制作するようになる経緯を追い、 最後に2000年のNHK電子音楽スタジオの終焉まで、75年にわたる日本におけ る電子音楽の歴史を編年体で記述していく。  NHKが日本における電子音楽制作の拠点であったということもあり、この 本のかなりの部分は前著『日本の電子音楽』と重なる。NHKを中心にして、 前著よりも一層細密に日本の電子音楽の歴史を追っていったものと考えて良い。  ここまでいくと、『NHKの電子音楽』という書名は、「看板に偽りあり」 と言わねばならない。本書のタイトルは「NHKを中心として記述された、日 本の電子音楽史 決定版」というのが正確なところであろう。  私の見るところ、本書の価値は三つある。  まず、電子音楽の歴史の前史として、「ラジオ放送の発展の歴史」の重要性 を指摘し、発掘したことだ。  ラジオ放送が始まると、すぐにラジオ独自の「音だけによるドラマ」、すな わちラジオドラマというものが登場した。演劇には役者だけではなく舞台装置 が必要なように、ラジオドラマには役者による発声だけではなく効果音という ものが必要になる。すると、スタジオ内で現実の音を模擬する効果音を作り出 さねばならない。  ラジオがラジオドラマを生み、ラジオドラマが効果音に対するニーズを生み、 効果音ヘのニーズが新しい音を作り出す技術を発達させる──最新の科学技術 の粋であるラジオ放送を行うラジオ局において効果音の技術が開発されるよう になり、その結果「音を加工する・音を作り出す技術」が蓄積されるようにな ったわけだ。この技術が、「では、これらの音を加工する技術を、音楽表現の 強化に使ったらどうだろうか」という形で音楽に転用され、電子音楽へとつな がっていくのである。  第二次世界大戦後、芸術音楽の世界では、ヒトラーの好んだリヒャルト・ワ ーグナーの音楽のように、徹底した感情表現が政治に利用されて世界に惨禍を もたらした、という反省が発生する。そこから、「感情を煽るのではない、徹 底的に数理的な構造としての音楽」という発想が生まれ、その一部が科学技術 を利用した電子音楽を指向するようになっていく。その際に電子音楽の研究と 創作の拠点となったのが、主にラジオ局が設立した電子音楽スタジオだった。  西ドイツ放送は1951年にケルン音楽スタジオを設立し、1955年にはイタリア 国営放送(RAI)がミラノ電子音楽スタジオを設立した。ケルン電子音楽ス タジオでは作曲家のカールハインツ・シュトックハウゼン(1928〜2007)が、 「少年の歌」のような初期の電子音楽の傑作を制作した。ケルンの動向に影響 を受けた作曲家の黛敏郎(1929〜1997)と諸井誠(1930〜2013)がNHKに働 きかけた結果、立ち上がったのがNHK電子音楽スタジオだったのである。  なぜ黛と諸井がNHKに電子音楽スタジオ設立を働きかけたかといえば、そ こには「音を加工し、新たな効果音を作り出す」技術が蓄積されており、しか も音を加工するノウハウを持つ技術者が在籍していたからなのだった。  次に、そうやって成立したNHK電子音楽スタジオで生み出された数多い作 品の一つひとつについて、本書では、そこで使われている技術と、制作した作 曲家の芸術的意図の両面に渡って詳細に解説していることだ。  たとえば、NHK電子音楽スタジオにおける最初期の作品となった黛敏郎 「素数の比系列による正弦波の音楽」(1955)の説明では、まず黛が手本とし たシュトックハウゼンの「習作1」という電子音楽の構造を、シュトックハウ ゼン自身の文章を読み解いて解析し、その上で黛がシュトックハウゼンが使っ た手法の何を取り入れ、何を棄却したかを探っていく。その手つきは細密であ り、結果として芸術家が電子音楽という新しい分野を切り開くに当たって、ど のようにして理性を活用したかが見えてくる。  このような記述が1955年から2000年のNHK電子音楽スタジオの終焉に至る までの数多い作品について行われているのだ。  最後に──これは『NHKの電子音楽』というタイトルに反するようでもあ るのだが──NHKの中でもNHK大阪(コールサインJOBKにちなんで“BK” と通称された)や、TBSのような民放ラジオ局、さらにはNTTで実施され た技術者と作曲家の協力による電子音楽の制作に至るまでが網羅されているこ とだ。前著『日本の電子音楽』について、私はコラムの中で、NHK大阪のよ うな地方局での電子音楽に対する取り組みの記述が足りないと書いたが(上記 ※1参照)、本書はそのあたりもきちんと網羅している。  それだけではなく映画音楽、それも映画館でロードショー公開された商業映 画のみならず、科学映画やメーカーのプロモーション映画に付けられた映画音 楽についても、電子音楽の進出と浸透について記述している。  それは、2段組1400ページ超という大著になるはずだ。本書には、20世紀後 半に花開いた電子音楽という新しい芸術が、日本においてどのように展開した かという歴史が、ほぼすべて詰まっているといって間違いない。  1960年代から80年代にかけて、さまざまな問題作、傑作を生み出し続けた NHK電子音楽スタジオは、1990年代から活動が低調になり、2000年頃に実質 的な活動を終了してしまう。その後も2013年頃までは組織内の一部署として存 続したようだが、もはや新たな作品を生み出すことはなかった。  理由のひとつが技術の進歩にあったことは間違いない。かつては専門の技術 者でなければできなかった、発信機や変調器を使った音の制作、あるい録音テ ープを切断・つなぎ合わせて行った音の切り貼りは、デジタル技術の発達によ り、パソコン内のデータ加工として容易にできるようになった。また、シンセ サイザーに代表される電子楽器も急速に発達し、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)という規格が制定されたことで、音楽の演奏データを相 互に自由に交換できるようにもなった。  つまり、NHKのような大きな組織が、相応の予算を投入して電子音楽専門 のスタジオを常設する意義が薄れたのだ。「やりたければ、個人でパソコンそ の他諸々を買いそろえればいい」という時代になったのである。  しかし、それでも第一線の音響技術者と気鋭の作曲家ががっぷり四つに組ん で、新しい音楽表現としての電子音楽を制作する意義は依然としてあったはず なのだ。なのに、なぜNHK電子音楽スタジオはなくなってしまったのだろう か。  著者は本書の最後で、その理由らしきものを、関係者の証言を並べるかたち であぶりだす。  社会に余裕がなくなった──NHKで作られた電子音楽は、東京都渋谷区神 南に立地するNHKに作曲家が通い、時には泊まり込み、技術者と徹夜をする ことで制作されていた。そこにはNHKのプロデューサーも顔を出し、技術者 や作曲家らとダベって作曲家と意見を交換した。時間と気持ちに余裕がある状 態の中から次の作品のアイデアが生まれることもあった。  1990年代以降、日本社会を覆ったコンプライアンス強化の流れは、そのよう な「創造的営為に必須である人間関係の余裕」を破壊してしまった。  芸術音楽の作曲は、それだけの収入で生きていける仕事ではない。ほとんど の作曲家は、音楽大学や音楽学校の教師をしたり、あるいはテレビや映画、コ マーシャルなどの劇伴音楽を作曲することで生活を支えている。コンプライア ンス強化の結果、作曲家たちはそれぞれの仕事が忙しくなり、電子音楽のため だけにNHKに通い詰めることが難しくなってしまった。他方で、NHKの組 織内でもコンプライアンスは強化され、技術者もプロデューサーも自由な発想 で物事を進めることが難しくなる。  電子音楽スタジオにたむろしてのおしゃべりは、自由な発想を生み出す根幹 だったが、そんなことをしていると「仕事をさぼっている」とみなされるよう になった。  創作の土壌となる人間関係が失われた結果、電子音楽が作られなくなる。す るとNHK経営陣は「電子音楽スタジオのような金食い虫なんかいらないので はないか」と考えるようになった。  同じタイミングで、1950年代からの創作活動を支えた練達の技術者たちの定 年退職が重なり、NHK電子音楽スタジオは消滅してしまったのだった。  ここで1990年代から始まった衰退について、1991年のバブル経済崩壊から始 まる「失われた30年、40年」を重ねるのは容易だろう。  元禄時代、あるいは文化文政時代のように、経済が栄えるとき、同時に文化 も栄える。NHK電子音楽スタジオは、高度経済成長前夜の1950年代から始ま り、バブル経済絶頂の1980年代まで続き、バブル崩壊から始まる経済的衰退に 先駆けて衰退し、消滅したのである。  あくまで著者の興味と執念は、日本における電子音楽の歴史にある。しかし、 通読して見えてくるのは、一国の経済が成長するとき、同時に先鋭で挑戦的な 芸術も栄え、衰退局面に入ると芸術も衰退するという、身も蓋もない歴史の真 理なのである。  なお、本書の取り上げている電子音楽は、その一部をネットで聞くことがで きる。中にはサブスクリプションの音楽配信サービスで提供されているものも ある。実際に聞きながら本書を読むと、電子音楽に対する理解は一層進むであ ろう。  ただし、この大著を読み通すための時間は激しく増加することは間違いない。 挑んでみようという方はお覚悟あれ。 【今回紹介した書籍】 ●『NHKの電子音楽』 川崎弘二 著/A5判/1432頁/定価19,800円(税込み)/2025年7月発行/ フィルムアート社/ISBN 978-4-8459-2504-9 https://onlineshop.filmart.co.jp/products/978-4-8459-2504-9 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター。1962年東京都出身。日経ビジネスオンラインに て足かけ4年にわたって連載してきた「チガサキから世間を眺めて」が今年3 月に終了。近著に『ロケットサバイバル2030』(日経BP社)、『日本の宇宙開 発最前線』(扶桑社)がある。その他、『母さん、ごめん。2』『小惑星探査 機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶさ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』『わ れらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『の りもの進化論』など著書多数。 X(旧Twitter)アカウント https://x.com/ShinyaMatsuura       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2026 ※本コラムは本メール配信後、なるべく早い時期にWebサイトに掲載する予定  です。 https://www.shokabo.co.jp/column/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【4】裳華房の売上げランキング ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  2026年4〜6月(3か月間)ベスト10です。各分野別ランキングは下記サイト をご参照ください。  https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking2026-2.html  なお、いずれも新刊刊行時の書店配本分や、大学等での採用品(教科書)と しての注文分は除いております。 ───────────────────────────────────  ◆◆◆【2026年4〜6月(3か月間)ベスト10】◆◆◆ https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking-best10.html 1.『手を動かしてまなぶ 線形代数』 藤岡 敦 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1564-1.htm 2.『手を動かしてまなぶ 集合と位相』 藤岡 敦 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1587-0.htm 3.『手を動かしてまなぶ 微分積分』 藤岡 敦 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1581-8.htm 4.『物理学レクチャーコース 物理数学』 橋爪洋一郎 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2410-0.htm 5.『応援ブック 手を動かしてまなぶ 集合と位相』 藤岡 敦 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1610-5.htm 6.『数学シリーズ 集合と位相(増補新装版)』 内田伏一 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1412-5.htm 7.『物理学レクチャーコース 力学』 山本貴博 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2409-4.htm 8.『手を動かしてまなぶ 偏微分方程式』 山根英司 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1615-0.htm 9.『応援ブック 手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』   山根英司 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1611-2.htm 10.『手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』 山根英司 著 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1594-8.htm https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking-best10.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【5】[YouTube]新規公開中! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・【書籍紹介】古宇田悠哉『手を動かしてまなぶ トポロジー《基本群》』    【梅子】(2026/7/31) https://www.youtube.com/watch?v=dcYCm-nNBfY ・【書籍紹介】橋爪洋一郎『一歩進んだ物理数学』【梅子】(2026/6/23) https://www.youtube.com/watch?v=4hTL-IlMUd0 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【6】お知らせ&編集後記 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇お知らせ ─────────────────────────────────── 1.「2026-27年度 裳華房 総合図書目録」(冊子版、PDF版) https://www.shokabo.co.jp/catalogue/ 2.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」 https://www.shokabo.co.jp/support/index.html 3.書店・生協様のページ(注文書、ポップなどがご利用いただけます) https://www.shokabo.co.jp/sales/index.html 4.裳華房のマスコットキャラクター「梅子」 https://www.youtube.com/watch?v=e4jqu4HSIfE ─────────────────────────────────── ◇編集後記 ───────────────────────────────────  暑中お見舞い申し上げます。加齢と共に暑さに対する耐性が低下しているの を実感します。皆様もくれぐれもご自愛くださいませ。      (TK) ─────────────────────────────────── 次号は2026年9月の配信予定です。 どうぞお楽しみに!\\(^o^)// ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★ Shokabo-Newsの配信停止・アドレス変更は下記URLよりお願いします ★ https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html メールマガジンのご意見・ご感想は m-list@shokabo.co.jp まで. ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 自然科学書出版 (株)裳華房 〒102-0081 東京都千代田区四番町8-1 Tel:03-3262-9166 Fax:03-3262-9130 電子メール:info@shokabo.co.jp URL:https://www.shokabo.co.jp/  Twitterアカウント:@shokabo 【個人情報の取り扱い】 https://www.shokabo.co.jp/policy.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright(c) 裳華房,2026      無断転載を禁じます.



         

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