| 原島善之助 著『産馬大鑑』[初版:明治40年]
 今回ご紹介するのは、明治40年(1907年)刊行の『産馬大鑑』です。馬の由来から種類、体の構造、厩舎の衛生状態や食べ物、繁殖、疾病、蹄鉄まで、馬に関係するであろうほとんどの項目を、約800頁の大著にまとめたものです。 全体像を把握していただくために、長くなりますが目次(編と章の見出し)を記します(漢字は新字、片仮名は平仮名に修正)。
 
第一編 馬史動物学上に於ける地位/馬科の分類/馬史本論
 第二編 馬政
 馬政の釈義/馬政機関
 第三編 馬種
 馬種総論/馬種各論/日本馬
 第四編 構造学
 細胞及組織/皮膚及粘膜/運動器/神経及五官器/循環器/呼吸器/消化器/泌尿器/生殖器
 第五編 外貌学
 馬体区分/体形及姿勢/品位、稟性、悍威、持久力、性質、体質、習癖/運動及歩性/毛色及別徴/年齢の鑑定/体尺の検測/馬の検査法/役務に対する馬の選定
 第六編 衛生学
 総論:衛生の要/疾病の原因/保健原則
 各論:空気/風、電気及光線/四季/気候/気候の馴化/土壌/牧場/運動場/水/食物/厩舎/馬の取扱法/皮膚衛生/作業衛生
 第七編 繁殖学
 総論 繁殖原理:生殖機能/遺伝
 各論 繁殖法:純粋繁殖/交叉繁殖/繁殖用馬の選択/繁殖用馬の配合/繁殖用馬の衛生/幼駒の衛生/馬の悪癖/去勢
 第八編 蹄鉄学
 総説:体形及肢勢/歩様/踏着/趾軸/前後両肢の差異/蹄/蹄鉄の磨滅/蹄鉄工場/蹄鉄器械/蹄鉄用材料/蹄鉄/蹄鉄の製造法/蹄釘/装蹄法/異常蹄の装蹄法/歩法異常/蹄の衛生
 第九編 疾病学
 健康と疾病/疾病の徴候/主要の疾病/看護法
 
 
 とくに馬の種類については150頁を費やし、外国産馬についてはイラスト、日本産馬については写真を(当時としては)数多く掲載しています。 
 馬というと、現代では競馬もしくは(スポーツとしての)乗馬をイメージするのではないかと思いますが、本書が刊行された当時としては第一に“軍馬”であったようです。日清戦争や日露戦争(明治37〜38年)を通じて、欧米諸国と日本の軍馬の間に歴然とした差があることがわかり、馬匹改良のため、本書刊行の前年の明治39年には内閣総理大臣の直轄機関として馬政局が設置されました。この馬政局には農務商省の馬事に関係する部署も移管し、日本の馬事馬産を一手に担う専門機関が発足しました。
 陸軍大学校教官であり陸軍一等獣医であった著者が、馬に関する事項を網羅した本書を著したのは時代の必然であったようです。
 
 著者の原島善之助氏については、生没年など詳しいことは分かりませんが、『獣医宝典』『家畜外科学 上下』『家畜診断学 外科編』『同 内科編 上下』など獣医畜産に関する著書を多数著されています。またご子息には、裳華房で多数の書籍を執筆されている原島鮮先生や、保健衛生・毒性学の分野で著名な原島進先生がいらっしゃいます。
 
 なお本書は、国立国会図書館のデジタルライブラリで一般公開されており、http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/841783
 また平成7年(1995)12月には有明書房より復刻版が刊行されています(版元品切れ中)。
 
 【今回紹介した書籍】 ◆ 『産馬大鑑』[初版 明治40年]
 原島善之助著/菊判/816頁/裳華房
 
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