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大工原銀太郎 著『土壌學講義 上巻・中巻』[初版 大正5年・大正8年]今回は農学関係の書籍──大工原銀太郎著『土壌學講義』をご紹介します。
土壌学は農業生産を考える上で最も重要となる分野の一つです。
当時、土壌が酸性化するのは有機物由来の腐植酸によると考えられていましたが、大工原は、それ以外に、土壌に保持されたアルミニウムイオンによっても酸性化することを世界で初めて発見・報告しました。
その大工原が、土壌学の基礎から当時の様々な研究成果をまとめたテキストとして発表したのが本書『土壌學講義』です。大正5年(1916年)に上巻が、大正8年(1919)に中巻が発刊されました。
下巻は残念ながら未完です。
大工原は、中巻刊行後の大正10年2月に九州帝国大学教授として赴任し、同大学総長、同志社大学総長を歴任して多忙であったことが原因だったと思われます。 本書が当時の土壌学界にどのような評判をもって迎えられたのか、専門外の筆者の手に余りますが、日本土壌肥料学会の大工原への追悼文に「又著さるる所の土壌學講義は眞に不朽の名著なり」とあり、また宮沢賢治も本書を所蔵していて著作の参考にされていたようです。 大工原は、明治元年(1868)1月3日、長野県南向村に生まれました。明治27年、帝国大学農科大学(現在の東京大学農学部)を卒業、農商務省農事試験場に入り、その後27年間にわたり在職。明治41年、東京帝国大学農科大学講師などの兼任を経て、大正10年(1921)に九州帝国大学教授、大正15年(1926)に同大学総長、昭和5年に同志社大学総長を歴任。昭和9年(1934)3月9日に盲腸炎で逝去。享年、67歳でした。
なお本書(上巻、中巻)は国立国会図書館のデジタルアーカイブにて全文が公開されています(館内閲覧のみ)。 ※執筆に際しては、熊沢喜久雄「大工原銀太郎博士と酸性土壌の研究」(肥料 化学,5号[1982],p.9-46)、「酸性土壌改良の恩人、国際的な定量法確 立 大工原銀太郎」(農業共済新聞、2008年3月2週号)などを参考にさせて いただきました。誠にありがとうございました。
◆大工原銀太郎 著『土壌學講義 上巻・中巻』 ☆記述の誤りなど,お気づきの点がありましたら m-list@shokabo.co.jp まで御連絡ください. ※「裳華房の“古書”探訪」は,裳華房のメールマガジン「Shokabo-News」にて連載しています.Webサイトにはメールマガジン配信の約1か月後に掲載します.是非メールマガジンにご登録ください. |
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