日下部四郎太 著『物理學汎論(上)(下)』(初版 大正7年)
本書は,長岡半太郎先生の弟子で,当時,東北帝国大学理科大学物理学科の教授であった日下部(くさかべ)四郎太先生が執筆した,今で言うところの,大学1年生で学ぶ『基礎物理学』あるいは『一般物理学』に当たる書です.
扉・奥付
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1918kusakabe-physics/tobira.pdf
序文(上巻)
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1918kusakabe-physics/intro.pdf
上巻・下巻を合わせると1000頁を超える本書は,その目次を見るとわかるように,まさに当時の物理学の基礎とも言える項目について,図を豊富に入れながら,懇切丁寧に解説しています.なかには,わずか数枚ではありますが,カラーの図も含まれており,「ここはどうしても色が必要なところだ」と,きっと日下部先生はお考えになったのでしょう.また,1000頁を超える書をたった一人で書き上げたところに,本書に対する日下部先生の熱き思いを感じます.
また,上巻・下巻のどちらにも言えることなのですが,まるで写真で撮ったかのような精緻な実験器具の図が数多く入っており,とても大正時代に出版された本とは思えません.
『物理學汎論』の上巻・下巻の目次と内容見本については,
上巻 目次
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1918kusakabe-physics/mokuji1.pdf
上巻 内容見本(1章,7章)
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1918kusakabe-physics/sample1.pdf
下巻 目次
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1918kusakabe-physics/mokuji2.pdf
下巻 内容見本(28章,42章)
https://www.shokabo.co.jp/oldbooks/1918kusakabe-physics/sample2.pdf
をご覧いただきたいと思います.
上巻は,量の測定,単位,誤差,最小二乗法や時間について,およそ120頁も使って丁寧に解説するところから始まっており,この点は,すぐに力学(運動)から始まっていることが多い昨今の書とは大きな違いを感じます.しかしよく考えてみれば,こうしたことは物理学(だけでなく科学の他の分野)を学ぶための基礎の基礎であり,最初にきちんと解説をしておくことは当たり前なのかもしれません.またその大切さを,日下部先生は言いたかったのだと思います.
一方の下巻では,光学(特に幾何光学)の解説に同じく120頁近くを使っているのが特徴と言えるかもしれません.私も学生時代に光学の講義を受講しましたが,講義を受けなくても,独学で十分に理解できるほど懇切丁寧に解説がされていることに驚かされます.きっと,これに続く電磁気学や(当時の)現代物理の章との関連性を意識して,下巻の最初に光学の章を持ってきたのではないかと思います.
また,今では相対性原理・光速度不変の原理とよばれているものが,相対性の仮定・光速度不変の仮定となっており,まだこの当時,この2つが原理ではなく仮定の域にあったことがわかるなど,現代の私たちが読むと,物理学の歴史を感じることができるという面白さもあります.
本書で学んだ(本書と格闘した)当時の学生たちが,この内容をきちんと自分のものにできたのであれば,相当に基礎力が身に付いたことと思います.
なお,東北大学史料館のサイト(http://www2.archives.tohoku.ac.jp/)にある東北大学関係写真データベースにおいて日下部先生のお名前で検索すると,先生の貴重なお写真を見ることができます.
◆『物理學汎論(上)(下)』
日下部四郎太 著/菊判/(上)560頁(下)494頁/
初版 大正7年(1918年)7月(上巻),11月(下巻)発行/裳華房
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